11日の「山の日」の夕方に日本を出て、香港を経由し、20時間後にパリに降り立ったのは、現地時間で朝の7時。パリ、シャルルドゴール空港から、鉄道に乗り換えてマルセイユに向かいます。シャルルドゴール空港は、TGVの駅につながっているので便利です。成田や関空から直接新幹線に乗れるようなものですね。
TGV(フランスの高速鉄道)は、日本からの予約も可能ですが、飛行機は遅れる可能性もあるので予約はしませんでした。到着後、フランス国鉄のチケット売り場で、フランス語での購入に挑戦。私のフランス語を聞いて、なぜか英語で答えてくれました。たぶん私のフランス語が下手過ぎたのでしょう。
運よく、マルセイユまで直行するTGVが1時間以内にあるというので、予約しました。
「1等席にしますか、2等席にしますか?」
「どれぐらい違うんですか?」
聞いてみると、大した差ではないので、1等に乗ってみることにしました。
一等車は、中央通路をはさんで片側に2座席、もう片側に1座席で、座席の幅は日本の新幹線のグリーン車よりも大きく、座席の上で十分あぐらがかけるほどの大きさです。そのくせ、足元は狭く、おまけに幅が一定していない。私たちが座ったいちばん後ろの席は、その他の席に比べ明らかに狭かったのは設計ミスなのか、そういうことをたいして気にしないのか。
各車両にはトイレがあり、トランクを置き場もあるのですが、スペースが十分ではない。そのかわり、座席上の棚が頑丈な作りで奥行きもあるので、大型トランクも載せられます(重いトランクを頭上に持ち上げる力があればの話ですが)。
座席のリクライニングは電動式で、各席に読書灯がついている。席の向きは固定で、車両の中央に向かっているので、車両の真ん中だけは向かい合った4席になっていて、間にテーブルがついています。
韓国のKTXは、フランスのTGVを導入したので、車両は同じ作りですが、韓国では「進行方向と反対向きの座席が同じ値段なのはおかしい」という声が上がり、反対向きの指定席料金を下げたというような報道がありましたが、今はどうなってるんでしょうか。
「1等の価値、あまりないね」
「次に乗るときは2等にしよう」
パリを出てすぐ、車窓には広大な田園風景が広がります。当たり前ですが、水田はなく、小麦畑(たぶん)。南に行くに連れ、ブドウ畑、オリーブ畑の比率が増えます。ときどき放牧用の草地では牛が草を食んでいます。
トンネルはほとんどありません。韓国で、日本の新幹線ではなくTGVを導入したとき、トンネル内で上下の列車がすれ違って窓ガラスが割れたため、フランス国鉄に文句を言ったら、「トンネルなんて想定してない」という返事。それで日本のJRに改善の相談をしてきた、なんてこともあったようです。もともと、韓国の高速鉄道の入札には日本のJRも参加し、日本の新幹線を売り込んでいた。ところが、折悪しく、従軍慰安婦問題が持ち上がったため、韓国は日本を入札に参加させないという嫌がらせをしました。そんな日本に泣きついてくるとは、とあきれた記憶があります。
ところで、海外の鉄道旅行というのもなかなかいいですね。車窓からの風景は、日本とはぜんぜん違い、それだけで異国情緒が味わえます。植物に詳しい人は、植生の違いなども楽しめるはず(私はよくわかりません)。
マルセイユに着いたのは午後2時頃。タクシーはベンツで、運転手は女性というのが珍しい。
10分ほどで着いたホテルは三ツ星で、建物はかなり古めかしいですが、マルセイユの港に面していて、地下鉄の駅の目の前というロケーションが素晴らしい。エレベーターは振動が激しく、不安を感じさせる嫌な音がしましたが、そこは目をつぶりましょう。4階の部屋の窓からは、マルセイユの旧港が一望できます。
香港でWiFiが使えた時に受信した娘からのLINEによると、金曜日の午後は授業がなく、また月曜日は祝日で学校が休みなので、マルセイユに3泊したいとのこと。
娘の乗る列車が到着する4時ごろに、地下鉄でマルセイユ駅に行き、ホームの出口で娘を待ちました。ところが予定の列車からは降りてこない。駅のWiFiは、登録などが難しくてうまくつながらないため、連絡も取れません。
1時間ほど待っても来ないので、ホテルに戻ることに。ホテルの名前と住所は伝えてあるので、行き違ったとしても、自力でホテルにたどり着けるでしょう。
ホテルに帰り、部屋でWiFiをつなげてみると、娘から連絡が入っていました。
「ごめん、電車乗り間違えた。7時半ごろになる」
(!!!)
3時間半遅れてやってきた娘に事情を聞くと……。
ディジョンからマルセイユ行きのTGVに乗ろうとしたとき、フランス人のおばあさんが大きなトランクをもって乗ろうとしていたので、手伝ってあげた。そのあと自分も列車に乗ったが、チケットの改札を済ませていないことに気づき、列車をおりてホーム入口の自動打刻機で打刻印。直後、発車のベルがなったのであわてて列車に飛び乗った。
※ フランスの国鉄では、日本の改札口のようなものはなく、乗車前に、駅の入り口付近にある打刻機(?)で、購入したチケットに自分で打刻するシステム。それをしないと罰金をとられることがある。
(あれ、定刻より早いな)
チケットを確認すると、10分ほど早く出発している。おかしいと思って確認すると、向かいのホームに止まっていた別の列車に乗ってしまったのです。電車内なので僕たちに連絡する方法もなく、最初に止まった駅で降りて、来た道を戻ったが、マルセイユ行きは本数があまり多くないのでこんな時間になってしまった、とのこと。
こんなハプニングもいい経験でしょう。ともかく無事で何よりでした。
夕食のためにホテルを出たのは夜の9時近く。しかし、南仏の夜は長く、まだ日が差していました。ホテルのすぐそばのレストランで、ブイヤベースと焼き魚、ロゼワインを注文。ブイヤベースはマルセイユの名物料理で魚のシチューのようなもの。焼き魚は、イサキのような魚です。世に名高いブイヤベースですが、要は寄せ鍋。出汁は魚からとり、オリーブや各種のハーブが入っていますが、海鮮鍋が発達している日本の目からすると、大した料理ではない。焼き魚のほうは、文字通り焼いただけの代物で、自分で塩やオリーブオイルを振って味をつける。ほとんど料理ともいえないものでした。でも、港に面したレストランはいかにもリゾート的は雰囲気で、料理の味は二の次。ロゼワインを一本空け、ほろよい気分でホテルに戻ると、フロントで呼び止められました。
「ムッシュー、予約は二人でしたよね」
「はい、でも、急に一人増えました。三人で同じベッドで寝るから大丈夫です」
「いえ、お客さんの部屋は2人用なので、法律で3人は泊まれません」
日本以外の国で、ホテルは1人いくらではなく、1部屋いくらなので、何人泊まってもかまわないと思っていたのですが、人数制限があったのでした。
結局、もう一部屋とる羽目になり、想定外の出費になってしまいました。
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