クリンの広場

たまっこくりんのおもいのたけ

蝉の鳴く小説・12(『あぶら蟬』金鶴泳・感想)

2021-10-26 | 本と雑誌

あぶらゼミ・つながりで

もうひとつ

 金鶴泳の、『あぶら蟬』

という・小説が ここにあります


<作者紹介>

金鶴泳(きんかくえい・キム=ハギョン)とは、

1938年生まれの、在日朝鮮人。

「東大の大学院にすすんだ理系そこから作家に転じて、70年代に何度か「芥川賞候補」になった、

という、

文理に秀でた

あたま良すぎ男性です。


カギカッコの中の肩書きだけで 身がまえてしまった

クリンは、

さいしょのほうの文章が、

「啓子は、自分の合成したポリマーの化学構造式を推定する際に、元素分析や核磁器共鳴などのほかに、特に赤外線吸収スペクトルの解析図を大きな拠りどころにしたのだが、、」


と・・

おそれたとおり

ちんぷんかんぷん だったので、

「読み切れるかな!?」

と 

ビビりました

でも・・

よく読むと

それは ポリエステルの研究で

しかも、本文には関係がない。

とわかりホッと しました🐻

 ストーリーは といえば・・

繊維の研究をしている24さいの日本人女性が、

学会で知り合った・金雅実という東大の院生

たまたま文通をするうちに

その頭の良さと、

人物のつかめなさに ひかれ、

しだいに、彼という存在で あたまがいっぱいになる、、

在日朝鮮人のことを 知りたくなった彼女は

古本屋で手にとった「金朔」という在日朝鮮人の小説を読み

それが ひどく心にのこるが

その金朔とは、

意中の金雅実の、実はペンネームであった。

小説のタイトルは『油蝉』、、


というもの。



 作中に出てくる「金朔」の小説にも、それを記している

「金鶴泳」の小説にも、

当時の

在日ちょうせん(朝鮮)人の、アイデンティティーをめぐる苦悩が

つづられています

 と、いってしまうと・・ 日本人読者は、それだけで、

何とも言えない・ふくざつ(複雑)なかんじょう(感情)

に 

包まれ、

ぐちゃぐちゃ考えているうちに

お手上げになってしまい

気がつけば・・

近寄る前から

もう引けごし(腰)に なるのですが、、

引かないでください



この作者、そういうことが・どうでもよくなるほどの、巧者です!!

 うちのチットなんて、一気にズルッと引き込まれ

「表題作」以外のも、全部・読みだおしていました

1ページが 上下二段に分かれてて、

700ページもある、作品集を

です

 たしかに・・ なかみは「在日」の人たちが直面した

重苦しい問題で しめられており

戦後の昭和に、東大の院まで進んだ・ずのう(頭脳)を

もちながら、

自分では どうすることもできない・もんだい(問題)に

ふりまわされていた

若者の苦つうなど、、

こちらが すいそく(推測)するのも

はばかられるのですが・・


 その、核の部分はもとより とにかくこの「金鶴泳」さん、

日本語がたしかで 読ませるのです


私小説ばかり

書いてたためか、

内面への食い入り方が ハンパじゃなく

 加えて「『暗夜行路』に感銘を受けた、夏目漱石の『こころ』好き

という

王道路線のため

文章がしんせつ(親切)で 明快。




久々に「純文学を読んだ」って 気がしました。


【おすすめ度:


(次回は、本多孝好の『蟬の証』をレビューします

コメント (10)
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