<特訓>
「ねえ、チットー。」 「なあに?クリン~。」
クリンはチットが帰ってくると、事件のことを話して、犯人について聞いてみた。
「ポンポコタヌキの霊じゃないかしら?」チットは、真剣な顔で答えた。
納得できないクリンであったが、チットは
「お兄ちゃんに聞いてみましょう。きっと分かるかも。」と言って、食事の準備を始めた。
クリンは待ちきれず、玄関の前であっちへ行ったりこっちへ行ったりしていた。
そのうち、お兄ちゃんが帰ってきた。
「おにいちゃん!」
帰ってくるなり抱きついて、いつものようにキスをするが早いか話し始めた、クリンである。
「クリンのお友達が、アゲハちゃんが死んじゃったの。森に食べられちゃったの。」
「どういう事?クリン!」
クリンは、今までの一部始終をお兄ちゃんとチットに話して聞かせた。
お兄ちゃんが言った。
「それは・・、得体の知れない動物が潜んでいる可能性が高いね。クリン。お化けや森のせいじゃない。
チット、ちょっと調べてくれないかな。」
「ねえチット、お願いします。」クリンは、お手てとお手てを合わせて懇願した。
「おやすいご用よ。」
チットは、パソコンの前で椅子の上に正座した。「えェーと、なんて検索するんだっけ?」
「見えない動物でどうかな?」
チットは、疾風のごとくキーボードを叩いた。
「あー出た出た。
自分の糞で身体を隠すカバ。これじゃないな。写真のこれは、・・・カメレオンかな?」
「それだ!!」お兄ちゃんが、指をパチンと鳴らした。
「でも、生息地は、マダガスカルだよ。」
「ペットが逃げ出したって事も考えられるんじゃない?」
「そうね、あります。ありますわ。」チットは、大きく頷いた。
「カーメロン?」クリンには、はじめての名前だった。
「カメレオンだよ。自分の身体の色を自由自在に変えて、見えないように出来る動物なんだよ。」
「・・・そんな見えない敵と、どうやったら戦えるの?やっつけられる?」
クリンは、心配そうに聞いてきた。
「よ~し、お兄ちゃんに考えがある。今から特訓だよ、クリン!アゲハちゃんの仇うちだ。」
お兄ちゃんはそう言って、そこら辺の布をとるとクリンに目隠しをした。
「今から、お兄ちゃんが笑い声をかけるから、聞こえる方を指差してごらん。」
クリンは、なにがなんだか分からないながらも言われたとおりにやってみることにした。
「ワハハハハ!」
「フフフフフ!」
お兄ちゃんが、色々な方向から声をかけた。
最初は、まったく見当違いの方向に向かったりと、相当の誤差があったクリンの動きも、徹夜で頑張っていくうち、どんどん精度が上がってきた。
やがて朝日がさしてくる頃には、クリンの指の方向にお兄ちゃんの口があるまでになった。
「よ~し、クリン。完璧にマスターしたぞ! 良くやったね。」
「おにいちゃん!」
クリンは、フラフラになって、お兄ちゃんの腕の中にもたれ込んだ。
お兄ちゃんは、
「クリン!これを使うんだ。」と、赤色缶スプレーを出してきた。
一晩中特訓を続けたクリンは、そのスプレーを手に取ると、全てを理解し、うなづいた。
「みんなの所へ行ってくる。そして、こったの森でカーメロンをやっつける!」
「クリン、これを着て!」
チットは、クリンが特訓している間に、夜なべをして白装束を作っていた。
そろいのハチマキには、墨痕あざやかに「日本一」としたためてあった。
「チットありがとー!」クリンは、目をウルウルさせてチットを見つめ、衣装をまとって、こったの森に向かった。
「クリン頑張れ」チットは、火打ち石を切った。
(つづく)