「ツラ貸せよ」とフトシ君にスゴまれ、フトシ君のあとに着いてゆく。
まぁ2~3発は殴られんだろう、とは覚悟はしていた。
あまり人の多いとこで公開処刑はヤメてもらいたいが、
とにかくツベコベ言う資格は僕には無い。
いくつかの広場を通り過ぎ、駅が見えてくる。
駅の便所は汚いからヤメて欲しいなぁ。
そう思いつつ改札を入り、ホームに立つ。
やがて電車が来る。
電車に乗る。
電車に揺られる2人。
ツラ貸せよ→ちょっとそこまで
という感覚だとそれまで僕は思っていた。
行動範囲は概ね20メートルくらい。
教室→トイレ
教室→屋上
教室→校舎裏 と言った感じ。
ツラ貸せと言われてから電車に乗って移動するとは思わなんだ。
そしてようやく4つ目の駅で降りる。
嫌な予感がする。
まさか地元の仲間集めんじゃないだろうな…。
暴飲暴食の連中に、暴飲暴食されるのではあるまいな・・・。
いやいやフトシ君に殴られんのは仕方ないけど、
etcの連中に殴られんのは理不尽だ。
逃げるにしても、くねくね曲がりながら、けっこう歩いて来てしまった。
見知らぬ土地でこの極・方向音痴が逃げ延びることは無理だ。
運よく駅に着いたとしても、30分に1本しかない電車なんかノンビリ待っていたら、
完全にアウトだろ。
そんな風に悶々と考え事をしていると、
フトシ君の歩みが止まった。
ハッとして見てみると、一軒家の前であった。
名札にはフトシ君の苗字が書いてあった。
家の扉を開けて中に入るフトシ君。
「おう、入れよ」
ええっ・・なぜ家に・・・。
やはりヤバイんじゃないだろうか。
まぁここまで来たんだ。
ジタバタしても仕方ない。
僕は言われるままに家に入った。
「2階の突き当たりの部屋が俺の部屋だから入っててくれよ」
フトシくんはそう言うと1階の奥の部屋に姿を消した。
僕は2階に上がり、奥の部屋の扉を開けた。
タバコの匂いが染み付いた部屋。
窓にはフトシ君が吸ってると思われるマルボロの空箱が芸術的に並んでいた。
床にはマンガと雑誌が散らかっていた。
テレビの脇が押入れになっていて、そこに真っ黒な特攻服が掛けれていて、
金色の刺繍で「暴飲暴食」と縫ってあった。
本当に暴飲暴食って名前なのか。
当て字にするのは良く見かけるけど。
てっきり暴音暴蝕とかそんなアレかと思ってたら、
そのまま暴飲暴食なのか。
正月のオッサンか。
フツフツと笑いがこみ上げて来たところで、
扉がガチャッと開いた。
ハッ!!
「かっこいいだろ、その特攻服」
と得意げにフトシ君は言った。
「うん」と僕は言った。特攻服は。
フトシ君は手にお盆を持っていて、
そこにはジュースとお菓子が載っていた。
「ろくなもんないけど」とフトシ君は言ってお盆を床に置いた。
「いやいや、おかまいなく・・・」と僕。
「まぁ、座ってくれよ」とフトシ君。
僕は座ってから改めて詫びを入れた。
「ほんと申し訳なかった。言い訳する気はないけど、そんなつもりなかったんだ」
「そのことなんだけどよ」とフトシ君は言った。
「その話は忘れてくれよ」
え?
「俺がお前に負けたみたいに思われるからよ。いや、あそこ砂利道だったろ?あんとき投げられたトコに大きいゴツゴツの石があって、その角にぶつけたみたいでよ。それであれだけダメージ負ったんだよ。みっともないったらねぇよ、ほんと。だからあんまり触れないでくれよ。」
「あぁそっか。よかった」
心底ホッとした。
「停学になっちまったみたいで、悪かったな。俺も恥ずかしいから、すぐにあの生活指導に大丈夫だって言ったんだよ。でもダメだったみたいだな。あいつお前のこと目つけてるぜ、気をつけろよ」
「あ、ああ。ありがとう」と僕は言った。実はイイ奴なんだな、フトシ君。
「じゃあ、俺帰るから」と言って立とうとした瞬間、
フトシ君が言った。
「なぁ、お前うちのチームに入らねぇ?」
はい?
チームとおっしゃいますと?
「え?暴走族に?」と僕。
「そう」とフトシ君。
無理無理無理無理。
ただでさえ暴走族嫌いなのに、
暴飲暴食なんて恥ずかしい、いや個性的な名前のチームなんて無理。
「い、いや、俺は暴走族なんて向かないからさ。根っからのマジメでビビリだし、そんな暴走族なんて向いてないったら向いてない」
「本当にマジメな奴は自分で根っからのマジメなんて言わねぇ」とフトシ君。
あ、あら、するどい。
「まぁ飲めよ」と言ってコップにサイダー注ぐフトシ君。
そして散らかってる雑誌を僕に見せた。
「ほら、これ!俺らのチームが雑誌に載ったんだぜ、スゲーだろ」
チャンプロードというバイクの雑誌の一番後ろに様々な暴走族の投稿写真が掲載されていて、その中の1枚に暴飲暴食が写っていた。
7人のコワモテの男たちが腕を組んでこっちを睨んでいる。
投稿者の部分を見てみると、(○○県・暴飲暴食フトシさん)
ふざけたペンネームみたいになってる。
プフーッと噴き出しそうになったが、死の予感を感じたので耐えた。
「す、すごいね!」と笑いを誤魔化す為に言ってみた。
「そうだろ!なかなか載らないんだぜ、これ」とフトシ君。
たぶん名前が面白かったからだと思う。
「そこに写ってる7人が3年の先輩たちで、その写真を撮ってる俺を含めて8人しかいないんだ。卒業したら先輩たちも族やめるみたいでよ。俺1人しかいなくなっちまうんだ。だからお前に入って欲しいんだ」
いや、だから、なぜ僕なんだ!?
どう切り替えしたら良いか、僕は考えた。
沈黙が重たかったのか、フトシ君はテレビを点けた。
テレビではドラゴンボールの再放送がやっていた。
ちょうど悟空がピッコロ代魔王を倒す回だった。
「なんにしても俺はちょっと無理だよ。家も遠いし。2時間近くかかるんだ。急に呼ばれてもすぐに来れないし。やっぱそういうのは地元で集めた方が」
「じゃあ、ここに住めよ。部屋も空いてるし」とフトシ君。
ムチャ言うな。
なんで住み込みで暴走族やらなきゃいけないんだ。
「い、いや、そんなの無理だよ。俺にだって地元の友達がいるんだ」と僕は言った。
「そうだよな、やっぱ地元が一番だよな」とフトシ君は少し寂しそうに呟いた。
そうして僕はフトシ君から解放された。
僕は暴走族が嫌いなのだ。
群れてないとツッパることもできないのか、と思う。
やけに組織的だし、戒律みたいなのも厳しいし。
上下関係も厳しいし。
そういうバカげた価値観に腹を立てて、
反抗しているうちに不良と呼ばれ、
いつしか不良として生きていた、
というような人間が、いわゆるこの学校にワンサカいるような不良たちであり、
そういう人間が何故わざわざよりバカげた組織に入ってゆくのか、
僕には理解できないのであった。
暴走族できちんとチームのルール守って、
先輩に従順して素直にやっていけるなら、
学校でもマジメにやっていけるだろうよ、と。
つづく
次回 「留年決定!?」