始めたものの、あまりネタの無い我がブログですが、気がつけばもう夏ですね。
夏といえば「お化け屋敷」でしょう。
日本の夏、お化け屋敷の夏。夏はお化け屋敷の為に、お化け屋敷は夏の為に、そのくらい強い関係。
で、なぜこんな強引な展開になってるのかと言えば、18歳の夏にお化け屋敷でバイトしたことがあり、その話をしたいからです。
もう10年以上も前の話になりますが、とある遊園地のお化け屋敷がリニューアルされたということで、オープニングスタッフを募集しておりました。
その当時、僕はフリーターとプータローを激しく行き来しながら生きておったわけですが、このオープニングスタッフという甘美な響きにアコガレていました。
なんかキラキラしてる。
お化け屋敷という文字が気にならないワケではありませんでしたが、オープニングスタッフであればこの際なんでもいい。金もない。
そうしてとりあえず面接を受けてみたら意外とアッサリ採用されました。
バイトの当日。
スタッフの顔合わせが終わり、研修が始まりました。全部で15人くらいいたでしょうか。
どんな仕事をするのか社員が現地で実際に説明するというのです。そうして我らオープニングスタッフは実際にお化け屋敷の中に入って、これからする仕事を1から説明してもらいました。
説明が終わる頃には、僕が抱いていたキラキラした何かはお化け屋敷の暗がりに引きずりこまれていました。
なぜか滅多にない片頭痛に襲われていたワケですが、ここで説明された事を簡単にできる限り好意的に説明させて頂きます。
まず配置ポストが10あり、1は受付です。入場者から入場券をもらったり、混雑している時は入場制限などの管理をします。
社員命令でときには大声で宣伝するハメになったりもします。
2~5は監視です。センサーで人が来たことを感知して動く仕掛けは、たいがいその後ろや前方の壁の裏に監視者が付きます。
僕も最初はそんな事になっているなど思いも寄らずビックリしましたが、お化け屋敷はだいたい監視されてるのが当たり前みたいです。
なので、みなさんも恋人と入場してイチャつく時は気をつけて下さい。
完全に見られていますよ。凝視されてます。
壁がドーン!とかなったら、それは成仏できない魂の叫びではなく、悲しくリアルな監視員の声にならない叫びです。地縛霊の類。
決して、お化け屋敷では、いちゃついては、いけない(太宰治風)。
まぁもちろん監視係にカップルがイチャつくのを監視させるという拷問が目的ではなく、不審者やイタズラする人への警戒、前に進めなくなってしまった人や急病になってしまった人の救済、立ち止まって人の流れを滞らせてしまう人への注意、などなど、そういう地味な役目があるのです。
そして6。きました。このバイトにおける花形ポスト。
お化け役です。
実際にお化け役になって、来る人を驚かし続けるというハードなポストでもあります。
7~9がまた監視。10が少し地味なお化け役。
監視ばっかじゃねーか。
1に監視、2に監視、3,4がお化けで、5に監視。
もう少し舞台作成に関わったり、オープニングスタッフならではの華やかな場面を想像してたのだが、暗闇で息を潜めて存在を表に出してはいけない簡単なお仕事です。
やっぱりヤメときゃ良かったかな。
実際にオープンするまではそうした葛藤がありましたが、オープンしてみるとさらに葛藤する事態に。
監視役なんて研修の時はただ座っているだけの退屈なポジションかと思っていたが、真っ暗でシーンとした中で一人で座って動かない仕掛けをジッと見てると、かなり不気味。
嫌な汗をかく。人形の目とか動いたりしないだろうな、とついつい仕掛けの類を凝視してしまう。やだなーこわいなー。
なんとか恐怖を取り除こうと心を無にしていると、お客さんが接近した事に気づかないで、いきなり目の前の仕掛けが動いて「うぉぉおぉぉ!!」と絶叫しつつ飛び出してしまい、お客さんもギャーってなって、少々社員から嫌な顔をされたこともありました。
そしてこのお化け屋敷バイトの花形!夢芝居。最も華やかなポスト!それがお化け役ポストなのです!
お化け役が最も華やかって、そこはかとなく悲哀が漂う職場ですが、放っておいてください。
その名の通り、お化け役は実際にお化けになって客を驚かせるワケですが、このときにただのバイトが出てきても、どれだけの顔面ポテンシャルを秘めていようとあまり怖くないので、当然お化けに変装しなければならない。
そんな僕たちに用意されていた変装用の覆面が、狼男、フランケン、ドラキュラの3種類。
危険があぶない。魔界のプリンスがお供に引き連れていそうなメンツ。
楳図かずおさんプロデュースという事もあり、日本の怪奇を前面に押し出していると思っていたけど。ジャンル的に合ってるんですかね、大丈夫ですかね。
楳図かずおさんと水木しげるさんを間違えてませんかね。あと藤子不二雄も少し混ざってる。
そしてその覆面に合わせる衣装がナゼか柔道着。
生まれてこの方、柔道着を着たドラキュラを見た事ないのですが、わりと好んで着ていらっしゃるんですかね。僕にはよく分からない。
予算が無いのか、社員がちょっとアレなのか。
不安はいろいろありましたが、とりあえず僕のお化けデビューは狼男の覆面をチョイス。そして柔道着を装着!!
くっせぇー!
柔道着と間違えてタイカレー着ちゃったのかと思うほどのカホリが柔道着から漂っている。
どこの柔道部からくすねて来たんだよ・・・。
疑念は確信に変わった。
予算が無いのか、社員がアレなのか、ではなく、予算が無く、社員がアレなのだ。
刺激臭が目にくる。もはや取扱い注意。
そうなってくるとマスクも非常にアヤシイが、生活する為に時にはデンジャラス臭のする柔道着を着て、オオカミ男のマスクをかぶるような時だってあるさ。
無しでお願いします・・・
カフカ的な不条理を感じつつ、オオカミ男へと変貌を遂げた。
完全に見た目はただの剛毛な変態でしかないけど、とにかくこれで準備完了です。
そして何故か井戸の中で待機。
お客さんが来たら、この柔道着を着た狼男が何故か井戸の中からドベーッと飛び出るのだ。
もうツッコむ気力もないのだが、おかしくない?
廃墟の日本家屋の中を進み、処刑される和装の女性をやり過ごし、夥しい数の日本人形の前をなんとか通り過ぎて、その先に待ち構えるように現れる不気味な井戸。
何かが出てくるのは間違いない。怖すぎる。でも進まねばならない。でも絶対なんか出てくるよ!
そうして勇気を出して踏み出したその眼前に、やはり何かが襲いかかってくる。
やっぱ出たぁぁぁ!と恐怖におののき、しかと凝視した物体がオオカミ男でいいの?
いや、そこはフランケンの方が良くない?とかそういうことじゃなくて。根本的な問題としてね。
え?なんで!?ってならない?大丈夫?
入ってくる客よりも不安なお化け役。どうしてこうなった。
もうここまで来たら、なるようになれ、だ。
暗い井戸の中で座って客の接近を待つ。仕掛けの音で客がどこにいるのかは分かる。
自分の心臓の動きが早くなってゆく。そしてついに僕が待機してるポストの前の仕掛けが動いてる。
井戸の中の覗き穴から確認すると女の子が2人近づいてきます。とにかく女の子は恐怖心でイッパイな様子だし、さっさと済ませれば井戸から出てきたのがフランケンでもオオカミ男でも気づかないハズ。
そして僕は女の子がいちばん近づいた瞬間に井戸から飛び出し、
おおいかぶさるように身を乗り出しました。
ぎゃあああああ!!
という悲鳴と共に女の子たちは猛ダッシュ。再び井戸の中に座った僕の目の前には何か新しい世界が広がっていました。
というのは冗談で、でも人を驚かすのってけっこう楽しい。
つづく