きょうは、ある古い童話の本のこと。
『うたうポロンくん』(藤田圭雄/作 和田誠/絵 小峰書店)
初版は1962年…ご存じの方いらっしゃるでしょうか。
わたしが初めて買ってもらった「絵本じゃない字の本」の1冊でした。
吟遊詩人の音夢鈴さんあたりには、
ぜひご感想をうかがってみたいような本…
オペレッタふうに挿入歌(手書きの楽譜つき)があったりするし、
なにしろ、主人公の「ポロンくん」って「全音符」なんです。
すでに手元になく、内容もうろ覚えですが、
男の子が野原でみつけた、すきとおる玉のような生物。
それがポロンくん。
歌の好きなポロンくんに案内されて、
男の子は不思議な音楽の世界をおとずれます。
記憶にあるシーンのひとつは、
ポロンくんが楽譜の「病気」を治す場面。
患者さんは、「♪やっとこやっとこ くりだした」と始まる
有名な童謡「おもちゃのマーチ」です。
(わたしは、この「やっとこ」がわかってなくて、
折り紙の「やっこさん」を先頭に行進してくる
なにやら珍妙な行列を思い描いていたようなのですが、
まあそれは置いといて…)
「♪おもちゃのマーチが らったった」というくだりが、
さっそく問題ありと診断されました。
「マーチが(ミファミレ)」だと「町が」に聞こえるよ、って。
音符の並びが、その場で「マーチが(ソファミレ)」に修正されます。
さらに、「人形の(ドッソソ)兵隊」はまるで「人魚の」じゃないか、って。
ここは、音符ではなく歌詞のほうを、どう直したのだったかな…。
いま思うと、けっこう専門的だし、大胆ですね。
当時、作詞家も作曲家も、すでに故人になっていたとはいえ、
誰でも知っている老舗の童謡への批判を、真正面から、
しかも、子どもの読者相手に、堂々と書いちゃってる(笑)。
わたしは6歳くらいで、理解しきれない部分もあったでしょうが、
「そうなんだ」ってことは、しっかり頭の基礎部分にしみこみました。
童話として、良いのかどうか、ということは別にして、
「歌」と「ことば」にこういう強いこだわりを持つオトナに、
たまたまコドモの時期に出会えた、というのは、
貴重なことだったのではないか、と思います。
もうひとつ、記憶に残っているシーンがあります。
車とぶつかりそうになった男の子を助けようと
ポロンくんが飛び出していく場面。
まあるいひとつの全音符が、一瞬のうちにこまかい16分音符にわかれ、
2本ずつのしっぽをしっかり組んで、車と子どもの間に柵を作る!
これほど力強く頼もしい「柵」というものを
わたしは他に見たことがありません。
不可能を可能にする想像力。言葉の魔法。
そして和田誠さんのイラストがあったからこそ実現した
最高級のイリュージョンでした。
残念ながらとっくの昔に絶版になってしまいましたが、
できることなら、もう一度、手にとってみたい本です。
『うたうポロンくん』(藤田圭雄/作 和田誠/絵 小峰書店)
初版は1962年…ご存じの方いらっしゃるでしょうか。
わたしが初めて買ってもらった「絵本じゃない字の本」の1冊でした。
吟遊詩人の音夢鈴さんあたりには、
ぜひご感想をうかがってみたいような本…
オペレッタふうに挿入歌(手書きの楽譜つき)があったりするし、
なにしろ、主人公の「ポロンくん」って「全音符」なんです。
すでに手元になく、内容もうろ覚えですが、
男の子が野原でみつけた、すきとおる玉のような生物。
それがポロンくん。
歌の好きなポロンくんに案内されて、
男の子は不思議な音楽の世界をおとずれます。
記憶にあるシーンのひとつは、
ポロンくんが楽譜の「病気」を治す場面。
患者さんは、「♪やっとこやっとこ くりだした」と始まる
有名な童謡「おもちゃのマーチ」です。
(わたしは、この「やっとこ」がわかってなくて、
折り紙の「やっこさん」を先頭に行進してくる
なにやら珍妙な行列を思い描いていたようなのですが、
まあそれは置いといて…)
「♪おもちゃのマーチが らったった」というくだりが、
さっそく問題ありと診断されました。
「マーチが(ミファミレ)」だと「町が」に聞こえるよ、って。
音符の並びが、その場で「マーチが(ソファミレ)」に修正されます。
さらに、「人形の(ドッソソ)兵隊」はまるで「人魚の」じゃないか、って。
ここは、音符ではなく歌詞のほうを、どう直したのだったかな…。
いま思うと、けっこう専門的だし、大胆ですね。
当時、作詞家も作曲家も、すでに故人になっていたとはいえ、
誰でも知っている老舗の童謡への批判を、真正面から、
しかも、子どもの読者相手に、堂々と書いちゃってる(笑)。
わたしは6歳くらいで、理解しきれない部分もあったでしょうが、
「そうなんだ」ってことは、しっかり頭の基礎部分にしみこみました。
童話として、良いのかどうか、ということは別にして、
「歌」と「ことば」にこういう強いこだわりを持つオトナに、
たまたまコドモの時期に出会えた、というのは、
貴重なことだったのではないか、と思います。
もうひとつ、記憶に残っているシーンがあります。
車とぶつかりそうになった男の子を助けようと
ポロンくんが飛び出していく場面。
まあるいひとつの全音符が、一瞬のうちにこまかい16分音符にわかれ、
2本ずつのしっぽをしっかり組んで、車と子どもの間に柵を作る!
これほど力強く頼もしい「柵」というものを
わたしは他に見たことがありません。
不可能を可能にする想像力。言葉の魔法。
そして和田誠さんのイラストがあったからこそ実現した
最高級のイリュージョンでした。
残念ながらとっくの昔に絶版になってしまいましたが、
できることなら、もう一度、手にとってみたい本です。