遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

面白古文書『吾妻美屋稀』15.「しんはん 生類せり合問答見立て 初編」

2024年03月28日 | 面白古文書

面白古文書『吾妻美屋稀』も15回目となりました。今回は、「しんはん 生類せり合問答見立て 初編」です。「しんはん 生類せり合問答見立て」は、この後、二編、三編と続きます。

生き物をネタにした競り合い問答が続きます。これまでの問答とは異なり、横に対となっていますので、ブログではそのまま横書きで表します。

四つに分けて載せます。

しんはん 生類せり合問答見立て 初編

・いなにうすあれども粉をバ引もせず(イナに臼あれども粉をば引きもせず) ・・・イナ(ボラ)の胃は、臼、そろばん玉などと呼ばれ、食される。
・すきくわがあれども鯛ハ土ほれず(鋤鍬があれども鯛は土掘れず) 【鋤鍬】鯛の頭骨

 

・目八ッのうなぎハ見るも四人前・・・八ツ目ウナギ
・あるく事五十人前むかでなり(歩く事五十人前ムカデなり)

 

・まな板にのせる鯉ハさむらいよ(まな板にのせる鯉は士よ)・・・まな板にのった鯉は暴れず、武士のように最期が潔いとされた。
・白鷺ハ五位のくらゐのおくげさま(白鷺は五位の位のお公家様)・・・官位の五位とゴイサギをかけた。

 

・井の内の鮒ハ世間をみずにすむ(井の内の鮒は世間を見ずにすむ) 【井の鮒】世間知らず
・井の元のかハづ大海しらずなり(井の元の蛙は大海知らずなり)

 

・蜂の巣ハはいたの妙とこヽろえよ(蜂の巣は歯痛の妙と心得よ) ・・歯痛には、蜂の巣を粉状にしてごま油にひたし、それを噛み締めた。
・赤がいるかんのくすりの極最上(赤蛙癇の薬の極最上)・・・   赤蛙を焼いて、子供の癇の薬とした。

 

・四ッ脚をもみぢ鳥とハなぜいふぞ(四つ脚を、紅葉鳥とはなぜ言ふぞ) 【紅葉鳥】鹿
・知らざるや猿のかへ名ハよぶこどり(知らざるや猿の替名は呼子鳥)  【呼子鳥】猿。鳴き声が人を呼ぶように聞こえる。

 

・ほね斗くらふている犬のかひしよなし(骨ばかり喰らうている犬の甲斐性無し)
・鰹かけめしくふ猫ハおごりもの(鰹掛け飯食う猫は奢り者)

 

・雁がさと人がいやがる名をつけし(雁傘と人が厭がる名を付けし) 【雁傘】湿疹、痒疹。
・なまづとハからだきたなきかこだらけ(なまずとは体汚き鹿子だらけ)
【なまず】 癜風(デンプウ)のこと。癜風菌により、米粒から豆ほどの斑点が多く出る皮膚病。    【鹿子】鹿の子模様

 

・くものすハ灸のふたにはりてよい(蜘蛛の巣は灸の蓋に貼りて良い)・・・灸のあとには膏薬などを塗った紙を貼った。
・ほうそうに柳の虫のきヽめしれ(疱瘡に柳の虫の効目知れ)  ・・・柳の虫は、痘の毒を肌の外へ出すとされていた。

 

・龍車でもあとへ引した蟷螂よ
【龍車】天子の車  【蟷螂の斧】 カマキリが前脚をあげて龍車にたちむかうが如く、 弱者が、自分の力をかえりみないで、強者に立ち向かうこと。無謀な事のたとえ、その逆に、大敵に立ち向かう気概をたたえる場合も。     
・鳳凰ハとりの中でも王さまよ(鳳凰は鳥の中でも王様よ)

 

・手伝ハせねどつばめハ土はこぶ(手伝いはせねどツバメは土運ぶ)
・山雀ハ人とおなじう芸をする(山雀は人と同じう芸をする)・・山雀(ヤマガラ)を飼い慣らし、いろんな芸を仕込み見世物とした。

 

・いしかけの亀ハつんぼがあわれ也(石垣の亀はツンボが哀れなり)
・鳥目とてくれたら盲どうぜんよ(鳥目とて暮れたら盲同然よ)

 

・ものごとにおどろく馬のおく病もの(物事に驚く馬の臆病者)
・大きうて牛ハいつでもよだれくり(大きうて牛はいつでも涎繰)【涎繰】涎をたらすこと

 

・一命のおハるもしらぬ火とりむし(一命の終わるも知らぬ火取虫)【火取虫】夏の夜、灯火に集まってくる蛾などの虫。
・生きながらぢごくへおつるあれ鼠(生きながら地獄へ落つる荒れ鼠)・・・「比叡の山 経を喰ひ裂く 荒れ鼠 地獄落しも 恐れざりけり」(狂歌)

 

・はぢをしれあほう烏と人がよぶ(恥を知れ阿呆烏と人が呼ぶ)【阿呆烏】カラスを卑しめていう語。 愚か者。
・ぶさいくな魚とへハふぐの横とびよ(不細工な魚問へば河豚の横飛びよ)  【河豚の横飛び】ふくれた顔、腹の出ばった姿などをあざけていう語。

 

・鶯のうたハさだめて梅の題
・蛙がよむ歌ハやなぎの題ならん(蛙が詠む歌は柳の題ならん)

 

・千疋の馬のくるうも一疋から(千疋の馬の狂うも一疋から)・・ 「一匹の馬が狂えば千匹の馬も狂う」、群集心理を表す諺。
・千丈のつヽミくだけるありの穴(千丈の堤砕ける蟻の穴)

 

・花見すて帰る雁がね北をさし(花見捨て帰る雁金北をさし)
・磁石にもあらねど河豚の北をむく・・・  キタマクラとは死亡した人を北向きに寝かせることから、猛毒のフグの別名。

 

・すくな世を横にゆくのハすかぬ蟹(直くな世を横に行くのは好かぬ蟹)
・不孝ものおやをくらふたふくろ鳥(不孝者、親を喰らうたフクロ鳥)・・ フクロウは成長した雛が母鳥を食べるという言い伝えがあり、転じて「親不孝者」の象徴とされている。

 

・公治長すゞめの聲をききわける
【公冶長】孔子の門人で、女婿。鳥の語を理解したという。
・晴明ハからすのこへをさとるなり(晴明は、烏の声を悟るなり)・・ 安部晴明は、烏(八咫烏)の鳴き声で物事を占なったと言う。

 

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

面白古文書『吾妻美屋稀』14.「なんでも・かでも喰競見立角力」

2024年03月22日 | 面白古文書

面白古文書『吾妻美屋稀』の14回目、「なんでも・かでも喰競見立角力」です。

「いろんな喰う」を競って、番付けをしています。

上欄と下欄が対になっているので、横書き表記でブログアップします。

「なんでも・かでも喰競見立角力」

右半分と左半分に分けて載せます。

(上)勧進元 しかくらひ 観音  ・・・・
古くから観音は鹿の化身と考えられていた。『古本説話集』には、飢えた修行者が、倒れていた鹿の肉を食べて命びろいをしたが、聖観世音菩薩の両足の肉が削がれているのに気がついた、という話が載っている。

(下)差添人 すかくらひ まぬけ(スカくらい 間抜け)


大関
(上)大船かぶる 西瓜ずき
【大船】船の形に切った西瓜 【かぶる】齧(かじ)る
(下)ふとんをかぶる 寒の内


関脇
(上)ねこのふんくふ 菓子ずき(猫の糞喰ふ 菓子好き)【猫の糞】青大豆を使ったねじり菓子(州浜)
(下)こねこをくふ たんごずき(捏粉を喰ふ 団子好き)


小結
(上)うしおにをくふ 鯛の汁(潮煮を喰ふ鯛の汁)
【潮煮】鯛・かつおなどの魚介類を材料とした塩味の煮物。汁は通常の煮物より多めで、汁も味わう。
(下)おにころしのむ 在所酒
【鬼ころし】酒呑童子を酔わすほどの強い酒の意。江戸時代から、日本各地でつくられた。      【在所】地方、田舎。
 

前頭
(上)うしのしたをくふ 肴ずき(牛の舌を喰ふ肴好き)【牛の舌】カレイ、ヒラメの近縁種の扁平魚
(下)いたちをくふ  胡瓜ずき
【いたちキュウリ】大きくなりすぎて皮が黄色くなってしまったキュウリ


(上)つめよつてくふ 昆布ずき(爪選って喰ふ昆布好き)【爪昆布】昆布を削って残った端っこの部分の昆布。
(下)たかのつめくふ 唐がらしずき
 【鷹の爪】トウガラシの一種。


(上)はなくそをくふ ねはんノ日(鼻糞を喰ふ涅槃の日)・・・二月十五日、釈迦涅槃の日に、子供たちが寺で、煎り豆やあられをお釈迦様の鼻糞(花供曽)と言って食べた風習。
(下)ミつちやをくふ 竹の子ずき
【みつちゃ】筍の異称。痘痕、あばたの意味もある。 


(上)たいとふをくふ 安米かひ(大唐を喰ふ安米買い)【大唐】大唐米。安いが味は落ちる。
(下)たふをくふ 三月な(薹を食う三月菜)
【薹】花茎【三月菜】小松菜

 

(上)しうとめをくふ 吸物ずき(姑を喰う吸物好き)
【姑】蕗の塔
(下)かミなりをくふ 豆腐ずき
【雷豆腐】熱した油に崩した豆腐を入れて作る料理。油が撥ねて雷のような音がする。


(上)けんざきをくふ するめずき(剣先を喰うスルメ好き)【剣先】するめいか。スルメの最上級品。
(下)あたご山くふ かきずき
【愛宕柿】:愛媛県原産の渋柿


(上)こけらをくふ すしずき(鱗を喰う寿司好き)
【こけら】鱗(うろこ)
(下)いし/\をくふ 月見の夜
【いしいし】だんご。


(上)やりをくふ 下手上るり(槍を食ふ下手浄瑠璃)【槍を食う】客にやじられること。​
(下)てつぽうくふ ふぐ汁ずき
【てっぽう】ふぐの別名。当たれば死ぬ。


(上)行司  
人をのみこむ 男達
【飲み込む】見くびる。 【男達】男の面目を立て通したり、意地や見えを張ること。

三味せんかぢる 引ならひ(三味線齧る引習ひ) 【齧る】三味線をひく 【引き習ひ】(三味線を)引く練習

炭やいてくふ 土佐日向(炭焼いて喰ふ土佐日向)・・・備長炭は、古くから、粉にして食されていた。


(下)頭取  
船つくつてくふ 江の子嶋・・・江之子島(現、大阪西区)には、多くの船大工がいて、造船で生計をたてていた。

物くひのよい 女ずき
【ものくい】女性と情交を結ぶこと。
あてミをくわす 剣術者
【当身(あてみ)】代金を他人に払わせること。
        


世話人
(上)たこずきハ めしをくふ(蛸好きは飯を食う)・・・タコの卵は米粒に似た形状から「たこまんま」とも呼ばれている。
生貝ずきハ わたをくふ(生貝好きはわたを喰う)
鯛ずきハ  目玉をくふ(鯛好きは目玉を喰う)
豆腐ずきハ やつこをくふ(豆腐好きはヤッコを喰う)
(下)へたな職人 しりをくふ
【尻を食う】物事の後始末を押しつけられる。また、とばっちりを受ける。

ゑびずき わたをくふ
薬ぐひに しヽをくふ(薬喰に猪を食う)
【薬喰】江戸時代、滋養をつけたい冬期に「薬」と称し、猪や鹿、兎などの肉を密かに食べていた。 
あほうに へをかます
【へをかます】約束をやぶる


名乗上 
さるやとらや大手もかぶるまんぢうくひ(猿や虎や大手も噛る饅頭好き)
【猿屋饅頭】松屋町筋(現、大阪中央区)にあった安価な菓子。
【虎屋饅頭】古くからある酒饅頭
【大手饅頭】岡山の名物饅頭

古歌
うし馬に塩付てくふ馬士よりも 
                てら子をとつて食ぞおそろし  
【馬士】馬方  【寺子取】寺子屋から弟子を取って裁縫などを教えること。辛い目に合ったり、行方不明にもなった子供も多かった。

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

面白古文書『吾妻美屋稀』13.「なが・みじか ちんばの番附」

2024年03月20日 | 面白古文書

面白古文書『吾妻美屋稀』の13回目、「なが・みじか ちんばの番附」」です。

長い方(上欄)と短い方(下欄)を競わせています。

今回の面白対決は、これまで紹介してきた対決よりも、上欄、下欄の対応がはっきりしているので、上欄(長)と下欄(短)を対で示します。

「なが・みじか ちんばの番附」

右半分と左半分に分けて載せます。

勧進元 京 山鉾の真木
差出人 大阪 だんじり引人気

 長いかた(長) 
 みじかい方(短)

大関
(長)ごくらくのミちのり(極楽の道のり) 
(短)しやかによらいのかミのけ(釈迦如来の髪の毛) 

関脇
(長)ゑどまでとゞくお市のけ(江戸まで届くお市の毛)
(短)びつくりしたきんだま(ビックリした金玉)

小結
(長)いぬのしり津ぎ(犬の尻つぎ)
 【犬の尻つぎ】犬の交尾結合、4、50分続く 
(短)とりのいろごと(鳥の色事)・・・天敵に襲われるのを避けるため、一般に短い(スズメで1,2秒) 

前頭 
(長)せんごくぶねのほばしら(千石船の帆柱) 
(短)三十こくのかしふとん(三十石の貸布団)
【三十石船】淀川を往来して、大阪ー京都間で多くの人を運んだ船。船内で、火鉢や布団を貸し出した。 

(長)よまいぼしのふんどし(四枚干しのふんどし) 
(短)ゑつちうふんどし(越中フンドシ) 

(長)よたんぽのとこ入り(よたんぽの床入り)
【よたんぽ】酔っぱらい 
(短)いろざともんびのせんかう(色里紋日の線香)
【色里紋日】遊郭で花代が倍になる特別の日。【線香】色事。 

(長)江戸仕立大つうはおり(江戸仕立大つう羽織)
【大つう】遊里の事情や遊興の道によく通じている人。【江戸仕立て】江戸人の好む着物の仕立て方。 
(短)ちんづきつきのづきん(賃搗つきの頭巾)
 【賃搗つき】賃搗屋。杵、臼、蒸し器などの道具を持参し客の家に出向き、台所を借りてもち米を蒸し、家の前で餅を搗く商売。 

(長)かねもちのわげ(金持ちの髷)
【髷】まげ 
(短)やつこのつぶわげ(奴のつぶわげ)
【つぶわげ】無造作にねじって巻き上げた髪。 

(長)太夫道中のかさのゑ(太夫道中の傘の柄) 
(短)まハしおとこの丁ちん(回男の丁ちん)
【回男】遊郭で、遊女や芸妓の送り迎えや雑事をする男。 

 

(長)でがらしたものヽはな(出涸した者の鼻)
【出涸した者】面白みのない人 
(短)おたふくのはな(お多福の鼻) 


(長)女郎のむしんしやう(女郎の無身上) 
(短)かねつかふ手代(金使う手代) 

(長)でつちのじやうだん(丁稚の冗談)
(短)せつきのぜに(節季の銭)
【節季】盆と暮れの年二回の決算期、借金もこのとき精算された。 

(長)こヽろなしのひるね(心無しの昼寝) 
【心無し】思慮分別のない人 
(短)あさがほのさかり(朝顔の盛り) 


(長)へたのながだんぎ(下手の長談義)
(短)上手(じょうず)のおとしばなし(上手の落し噺)

(長)とこずれのできたびやう人(床ずれのできた病人) (短)やふゐしやのわきざし(ヤブ医者の脇差) 

(長)むまのおちん(馬のおちん) 
(短)そうかのとこ入り(総家の床入り)
【総家】上方で、路上で客を引いた最下級の売春婦。夜鷹。 

(長)かめ井の水のしやくのゑ(亀井の水の杓の柄)
【亀井の水】大阪、四天王寺亀井堂にある湧き水。汲むのに長い柄杓を使う。 
(短)ほうのうの手ぬぐひ(奉納の手拭) 

(長)ミやのまへの大こん(宮の前の大根)
【宮の前大根】大坂天満の天満宮鳥居前で栽培されていた長大根 
(短)てんわうじのかぶら(天王寺の蕪) 

(長)いなかものヽくわんざし(田舎者の簪) 
(短)せちめんたび乃つヽ(せちめん足袋の筒)
【せちめん】ケチくさい 


行司
(長)唐うちわのひも(唐団扇の紐) 
(短)とびつきのたち合
【飛び付き】前相撲で仕切りをせずにいきなり立ち合って取り組むこと。前相撲や前相撲力士のことも「飛び付き」と呼ぶ。 

 

頭取
(長)とうぼうさくのいのち(東方朔の命)・・・ 
中国、前漢の文人、東方朔は、西王母の桃を盗んで食べ長寿を得たという伝説
(短)につぽんじんき〇(日本人き〇) 

(長)三十三間堂のむな木(三十三間堂の棟木)・・・長さ117mの巨木が使われたという
(短)りきしのせい(力士の背)

(長)くすのきのらうじやう(楠木の籠城)・・・
楠木正成は千早城で3ヶ月の籠城戦を戦い抜き、20万の幕府軍に対し千人の兵で勝利した
(短)たいかうの城ぶしん(太閤の城普請)・・・豊臣秀吉による短期間での築城 

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

面白古文書『吾妻美屋稀』12.「芝居好旅ず記 へんくつ論」

2024年03月18日 | 面白古文書

芝居好き(上欄)と旅好き(下欄)が、自分たちを褒め、相手をやっつける、かけ合い口論です。

横書きブログでは、上欄、下欄の配置をこのまま書くのは難しいので、先回と同じく、上欄、下欄を4分割して載せます。

読者各位で、上下を突き合わせてみてください。最後の欄などは、上下の内容が対になっていて面白いです。

「芝居好旅ず記 へんくつ論」

 

○芝居ずきのいふにハ

・芝居をミれバ物知りになつて 一生のうちに徳多し

・よし野高雄の花も紅葉も しんどなしにミる道具立

・二の替りハかんばんの花やかさ これより芸めく物が有らふか   【二の替り】江戸時代、京坂地方の歌舞伎で、顔見世興行(十一月)の次の興行。十二月下旬より始まった。

・女子の旅やつれ日にやけた 顔にハ三年の恋もさめる

・野道のにハか雨にあふとき 雨具のないは見ぐるしいもの

・山坂のなん所をこうりめし一トツ たよりとは心ぼそいもの(山坂の難所を行李飯一つ頼りとは心細いもの) 【行李飯】携帯に便利なように、竹で編んだ容器に入れた飯。

・幾日も/\川どめやふね乃 風まちたいくつにあらふ(幾日も/\川止めや舟の風待ち、退屈にあろふ)

・芝居へつれて行といへば 子どもがやいとをすへる

・こんにも叶はぬ遠道にうまれも つかぬのにちんばひく人(今にも叶はぬ遠道に生れもつかぬ野にちんば引く人)
  【今(こん)】本日 、【生れもつかぬ】事故・病気などで障害をもった

・なぐさミの旅へ出て馬駕籠ニ よふたもくるしいものじや(慰みの旅へ出て、馬駕籠に酔ふたも苦しいものじゃ)

・船に乗るから小便をめんじる 女子の心づかひは気のどく(船に乗るから小便を免じる女子の気遣ひは気の毒)

 

〇旅ずきのこたへにハ

・可愛子には旅をさせいといふ たとへありてたびハ身の為なり

・ぶら/\した銀箔の置いた月で 須磨あかしのけしきかなふか(ブラブラした銀箔の置いた月で、須磨明石の景色叶ふか)

・長閑なそらに伊勢まいり はるのたのしミハ是が第一(長閑な空に伊勢参り、春の楽しみは是が第一)

・湯治西國大和めぐりの留主見舞もあき内のかね(湯治西國大和巡りの留守見舞も商いの金)

・本あめ水ぶねのきやうぶんに むしろかづくも見ぐるしい(本雨水船の凶聞に、莚かづくも見苦しい)

・芝居でハ弁当くふ間もをしミ まヽより好とはなげいた事(芝居では、弁当喰ふ間も惜しみ、飯より好とは嘆いた事)

・モウ初まるか /\とまつて居る 初日の幕もはてしないもの

・國ゞのめずらしい名物名産 ミやげにすれバ人の賞観

・芝居ゆきの女子ハちょこ/\ はしりする風俗のわるさ(芝居行の女子は、ちょこちょこ走りする風俗の悪さ)

・気ばらしにミる芝居の中で 気をつかして難義するもの

・長い場のまくのしまるまで 小べんこらへる人も気のどく(長い場の幕の閉まるまで、小便こらへる人も気の毒)   

 

コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

面白古文書『吾妻美屋稀』11.「のみ升よひ升 酒問答升づくし」

2024年03月16日 | 面白古文書

久しぶりの面白古文書です。

以前にブログに紹介していた『吾妻美屋稀 五編全』の後半を順次アップしていきます。

『吾妻美屋稀 五編全』24丁、嘉永四年。12.1㎝x」17.8㎝。

今回は、「のみ升よひ升 酒問答升づくし」

酒呑みと酒嫌いが、それぞれ、一升から九升まで、狂歌を読みます。

上下で対になっている所もありますが、そのまま4分割してのせます。

酒のみ狂歌

・世の中に楽ミにのむ酒なれバ のんでくらすが壱升のとく(世の中に、楽しみに呑む酒なれば、呑んで暮らすが一生の得)

・極楽ハしま黄金と聞なれど さけなき國ハアヽなに二升(極楽は、紫磨黄金と聞くなれど、酒なき國はアヽ何にしょう)
   【紫磨黄金】紫色を帯びた純粋の黄金。

・雨風のよはをも何のいとひなく さけと聞たらいそぎ三升(雨風の、夜半をも何の厭ひなく、酒と聞いたら急ぎ参上)

・ならハねば諸芸する事かなふまじ 酒ばかりにハゐらぬお四升(習はねば、諸芸する事も叶ふまじ、酒ばかりには要らぬ御師匠)


・あひ押へ手元ミよふとむり酒を ひとつすけるも五升なりけり(相押へ、手元見ようと無理酒を、一つ助けるも後生なりけり)
  【助る(すける)】手助けする

・花のあした月のゆふべや雪のくれ のんでくらすでおもし六升(花の明日、月の夕べや雪の暮れ、呑んで暮らすで面白くしよう)
 
・身のほどを弁へてのむさけならバ 七升までのかんどうもなし(身の程を、弁(わきま)へて呑む酒ならば、七生までの勘当も無し)
【七生までの勘当】人はこの世で七回まで生まれ変われるという、その七回の生の極限までの勘当。未来永遠にわたっての勘当。
 
・陶淵明李白がやうに酒のんで すゑの世までも名をバ八升(陶淵明、李白が様に酒呑んで、末の世までも名をば発祥)
 
・酒のんでいからずなかずきげんやう わらひ上戸をふ九升といふ(酒呑んで、怒らず、泣かず、機嫌よう、笑ひ上戸を福祥と言ふ)
  

・長命の薬ともなるさけなれバ 楽しミてのめせけん壱斗(長命の、薬ともなる酒なれば、楽しみて呑め、世間一統)  【世間一統】世間いたるところ

 

酒ぎらひ狂歌


・長命の薬になるか知らねども のまずにくらす人も壱升(長命の、薬になるか知らねども、呑まずに暮らす人も一生)


・呑ときハ口に辛く酔つぶれ 苦しきものをアヽなに二升(呑む時は、辛く酔いつぶれ、苦しきものをアヽ何にしよう)

・酒のんでめうと喧嘩の挨拶に おたのミならバ急ぎ三升(酒呑んで、夫婦喧嘩の挨拶に、御頼みならば急ぎ参上)

・若い衆の酒をものまずその身をバ つヽしむ人ぞ四升なりけり(若い衆の、酒を呑まずその身をば、慎む人ぞ殊勝なりけり)

 

・酒ゆへに身を持くづす人あらば ゐけんしてやれ是も五升ぞ(酒故に、身を持ち崩す人あらば、意見してやれ是も後生ぞ)

・すけませふお合いたそとのミ過し 後ハまなこをしろく六升(助ませふ、お合いたそと呑み過し、後は眼を白黒くしよう)

・我(われ)人も色と酒とにくすおれバ これ七升のかんどうのたね(我人も、色と酒とに頽おれば、これ七生の勘当の種)【七生の勘当】前述

・呑過し喧嘩口ろんなげうちを すれバ悪名世にも八升(呑過し、喧嘩口論投打を、すれば悪名世にも発祥)
  【投打】物を投げつけて相手を打つ

・上戸にも笑ふもあれバおこるあり しかしいやなる物はな九升(上戸にも、笑ふもあれば怒るあり、しかし厭なる物は泣く性)

・酒のミといへども多くそのさけに のまるヽ人ぞ世間壱斗(酒呑と、言へども多くその酒に、呑まるヽ人ぞ世間一統) 【世間一統】前述 

 

コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする