小鼓紋金蒔絵が施された重箱です。
23.5㎝x22.0㎝、高 26.4㎝。江戸時代後期。
非常に豪華な金蒔絵が施されています。特注品かも知れません。
三段になっています(本来は四段の可能性が高い)。外が黒漆金蒔絵なのに対して、内側は朱塗りです。縁は、金泥。
以前紹介した段重の中に、下段の箱が他の箱より高い品がありました。今回の重箱も、下から、9.0㎝、7.9㎝、7.8㎝となっています。全体のバランスをとるために、下が厚くなっているのですね。また、縦横方向も長さに少し差があります。幅広い側が正面なのでしょう。
四側面の蒔絵を、反時計回りに見ていきます。
90度回すと。
裏正面。
さらに90度。
四面の模様が、横方向にぐるっと繋がっていることがわかります。もちろん、各面、三段の蒔絵も縦方向に繋がっています。つまり、この小鼓紋金蒔絵重箱は、箱側面全部をキャンバスにして、金蒔絵で小鼓を描いているのです。
各面を拡大して見ます。
かなり本格的な蒔絵です。
蓋にも豪華な蒔絵が施されています。上手の重箱で時々見られるように、この重箱にも同じ模様の蓋がもう一枚付いています。
.
写真では見ずらいですが、皮の部分には細かな装飾が施され、胴の内側や皮の中央は梨地になっています。四側面よりも力が入った蒔絵です。
しかし、蓋の図柄は完結していません。また、側面上部の模様も途中までです。本来なら、両者は繋がっているはずです。ところが、蓋の向きを変えても模様は繋がりません。元々は、もう一つ、四段目の箱(あるいは、さらにもう一段)があったのですね。それが失われて三段になっているのです。
こういう豪華蒔絵はかなりのお値段となり、私などの手の届かないところにあります。が、この品は手元に来ました。その理由は、四段目が欠けていることと、損傷がひどかったことによります。端々には、多くの捲れや欠けがあって、白い木地が露出し、みすぼらしい(要するに、ボロボロ)状態でした。木物の骨董では、白は汚れでしかありません。逆に黒は汚れを隠し、全体を引き締めます。ちょっとした傷は、黒色に塗ればなんとかなります。幸いにも、この品は黒漆を基調としています。凹部を埋め、黒漆を塗り、研きをかけました。金蒔絵の擦れ、剥がれは金粉を撒いてなんとか補修しました。かかった期間は3か月です。
手持の小鼓胴と並べてみました。左から、蓮蒔絵鼓胴(明治時代)、琵琶蒔絵鼓胴(江戸後期)、貝蒔絵鼓胴(江戸中期)。
蒔絵重箱も、なかなか良い線をいっています。
ここで初めて気がつきました。重箱に描かれた鼓は、本物よりかなりスマートです。特に、お椀型の受けの部分がほっそりとしています。良く知られているように、富士山は、実際よりもとんがった山に描かれることが多いです。人間の視覚心理のなせるわざでしょうか(^.^)