今回も、絵画ではなく布です。
袱紗『温公甕割り図』52.8㎝x56.5㎝、刺繍布。大正時代。
濃紺の絹地に、刺繍が施されています。
これは、有名な中国の故事「温公甕割りの図」ですね。
北宋の政治家・学者、温公(司馬光)は、子供の頃、遊んでいるうちにあやまって大きな水甕に落ちた友達を救うため、石を投げて甕を割りました。とっさに気転をきかして友を助けた冷静な判断と生命の尊さを説くために、古くから多く描かれてきた画題です。
温公。
大甕。
救われた友(水が流れている)。
拡大してみると、針の運びがわかります。
人物もすべて刺繍です。
顔は撚りの多い糸をぎっしり詰めて、ふっくらとした質感を出しています。鼻や耳はその上にもう一度糸を重ねて立体感を出しています。
なるほど、眼はこのように糸を配置するのですね。
指先の爪なども黒糸で表現。
実はこの品、亡くなった母の持ち物を整理している時に見つけました。母の箪笥の奥にひっそりとありました。袱紗の反対側はかなりボロボロです。おそらく少女の頃に作ったのでしょう。明治晩年生れですから、大正時代頃の作だと思います。もう100年ほど経っています。我々子供にとって初めて目にする物で、なぜ、ずっとしまっていたのか、今は知る由もありません。