産婦人科医の1人でもいる病院での院内助産院ならばまだ話もわかる気がしますが、もしも、産婦人科医が1人もいない病院で、『助産師が多数いるのに分娩を取り扱えないのでは病院経営上もったいないから、院内助産院でも始めてみるか』というような病院管理者の発想であれば、(法律的に違法行為にはならないのかもしれませんが)病院のリスクマネージメント上はきわめて危険だと思われます。
産婦人科医がいない病院内で分娩を取り扱い、分娩経過中に何か異常が発生した場合には、医学的な緊急対応が院内で全く実施できないので、病院内であっても、実質上、自宅分娩と何ら変わりがありません。母体死亡、周産期死亡のリスクが何十倍にも増大するのは確実です。いざという時の緊急帝王切開は誰が実施するのか?帝王切開の実施時期が遅れて、母体死亡、死産、脳性麻痺となった場合の法的な責任は誰がとるのか?というような多くの問題があると思われます。
産婦人科医がちゃんと管理していて全く過失がないような場合でも、結果が悪ければ訴訟となるケースがあり、最近は担当医が不当に逮捕される事例まであって問題となっている御時世だというのに、助産師だけで分娩を取り扱って適切な医療介入ができず結果が悪かった場合に、担当助産師が逮捕されずに済むという補償は全くありません。場合によっては、病院管理者が管理責任を問われて逮捕される可能性だって十分にあり得ると思います。
病院から産婦人科医が1人もいなくなってしまった場合に、残された助産師達は現在の職場に残っている限り助産業務ができなくなってしまいます。地域の貴重な人的医療資源である助産師達が活躍の場を失ってしまうことは非常に問題だと思います。病院に取り残されてしまった助産師達が、今までの豊富な経験を生かして今後も地域で助産師として活躍できるように、(地域内の産婦人科医、助産師、小児科医、麻酔科医などが集約される)地域中核病院に助産師達を円満に再就職させるよう全面的に支援することをまずは考えるべきだと思われます。
地方では、この問題を一つの病院、一つの自治体だけで解決しようとしても絶対に無理だと思います。時代は急速に移り変わっています。広域医療圏が一体となって、地域として今後いかにこの時代の変化に対応してゆくか?をみんなで真剣に考えなければならないと思います。広域医療圏内で、行政、医療関係者、地域住民などが集まって、今後の地域の周産期医療体制のあり方について、よくよく話し合ってみる必要があるのではないでしょうか?
****** 信濃毎日新聞、2006年4月17日
安曇野で母親グループ意見交換会 助産師・産婦人科医も参加
県内の病院で産婦人科医の不足から産科休止が相次ぐ中、安曇野市と上田市でこの問題に取り組んでいる母親グループが16日、「信州で産みたい!育てたい!」と題する意見交換会を、安曇野市堀金保健センターで開いた。母親、助産師、産婦人科医ら約30人が参加し、各グループ代表者の意見発表と、出席者全員によるディスカッションを行った。
安曇野赤十字病院(安曇野市)では7月から、常勤の産婦人科医がいなくなる。「安曇野のいいお産を作る母の会」の亀井智泉代表(39)=安曇野市=は、「赤十字病院に新しい医師が来ない場合は、別の方法を考えなければならない」と問題提起。市内の母親に対するアンケート結果を基に、「妊産婦は気軽に相談できる場所を近くに求めている」とし、助産師をはじめ看護師、薬剤師、栄養士らが妊産婦と家族を支える「母子健康センター」が必要と提言した。
(中略)
ディスカッションに参加した安曇野赤十字病院の荻原院長は、「常勤産科医確保のめどは立たないが、『近くの医療機関で産みたい』というのが妊産婦の率直な思い」とし、「安曇野赤十字でも院内助産院を設けられるか、検討したい」と述べた。