********* 感想
愛知県は医学部を有する大学が4つもあって、医学生の出身地も地元の占める割合が非常に多いという印象があるのですが、その愛知県でさえも、このような深刻な産婦人科などの勤務医不足の状況に陥っている所があるのを知って、非常に驚きました。
****** 東京新聞、4月27日
診療機能の低下招く
地方の勤務医不足
人口の少ない地方都市で、中核病院の勤務医不足が深刻化。産婦人科が閉鎖されたり、手術を伴う時間外の救急(二次救急)ができなくなる病院も出ている。若い研修医たちの「都会志向」や、地方病院の診療体制、労働条件の悪化も、流れに拍車をかけているようだ。地域医療の根幹が揺らいでいる。 (佐橋 大)
「産婦人科につきましては、四月からの医師確保ができないため、休診とします…ご迷惑をおかけします」
愛知県新城市の中心部にある新城市民病院の総合受付には、産婦人科休診の告知が立て掛けられていた。産婦人科の窓口にはシャッターが下り、薄暗いロビーに無人の長いすが並ぶ。
静岡県境と接する人口五万人の町。同病院を中核とする奥三河の医療圏は、面積で愛知県の二割を占める。しかし、産婦人科の休診により、この地域でお産ができる所は、八床の産婦人科医院一軒だけになった。
同市の妊娠三カ月の女性(35)は、車で三十分ほど南の同県豊川市の病院で産むことにした。「上の子がまだ小さいので心配。自宅の近くで出産したかった」と残念がる。
同病院の小児科も、五月から入院の受け入れをやめる。派遣元の岐阜大(岐阜市)が常勤医二人のうち一人を引き揚げ、残った一人では夜間の入院患者に対応しきれないためだ。孫二人を連れて来院した同市内の女性(65)は「安心して子どもが育てられない」と病院の機能縮小を嘆いた。
内科も、大学からの医師引き揚げや開業で、この数年で医師が十三人から四人に激減。四月から新規の外来患者を受け付けなくなった。
外科は、派遣元の名古屋大学が三月で三人全員を引き揚げ、浜松医大(静岡県浜松市)から急きょ四人の派遣を受けた。
昨年一年間で病院全体の常勤医の25%が減少する異常事態。同病院は四月から時間外の二次救急患者の受け入れを断念。夜間などに手術が必要な急患は、隣の豊川市へ運ばれる。
背景にある問題の一つは、地方病院に医師を供給してきた大学病院本体の医師不足だ。
昨年度まで産婦人科医二人を同病院に供給してきた藤田保健衛生大(愛知県豊明市)では、産婦人科医局の医師が十二人にとどまる。「講義や高度な手術、診察、当直勤務などをこなすため、本来は十五人から二十人の医師が必要」という。
二〇〇四年に新しい臨床研修制度が導入されて以降、研修医が大学病院ではなく、都会の有名病院を目指す傾向が出ている。藤田保健衛生大もそれまでは毎年二、三人が入局していたが、〇四、〇五年はゼロ。本年度も一人だけ。その間に、開業などでスタッフが四人減った。産婦人科以外も事情は同様とみられる。
「大学の医師不足だけが、引き揚げの理由ではない。他の科が縮小されると、産婦人科が単独で残っても責任ある医療を提供できない」と、同大学産婦人科の宇田川康博教授は説明する。
内臓に持病のある妊婦の出産には、内科との連携が欠かせない。生まれてきた子どもの健康状態が不安定なら、昼夜の別なく小児科医と協力しなければならないが、一人勤務ではそれも困難。
総合病院の機能低下が、医師不足をさらに加速させているようだ。
勤務医不足の問題は各地で起きている。勤務が過酷な産婦人科、小児科が目立つ。
指摘されるのは次のような「悪循環」だ。
<1>新臨床研修制度の導入で都会の大学病院や有名病院に研修段階から医師が流出。
<2>地方の大学病院からの医師派遣が減った地方病院での勤務環境が悪化し、それに嫌気がさして開業する勤務医が増加。
<3>人が減った地方病院で働く可能性のある地方の大学病院を目指す研修医がさらに減る。
新臨床研修制度は、一般的な病気を幅広く診療できる医師の養成を目指す。医師資格取得後二年間の臨床研修を「努力義務」から「義務」に格上げし、内科や外科、麻酔科など各診療科の経験を必修に。大学病院と大規模な一般病院が研修プログラムを公開し、研修医が研修先を自由に選べるようにした。
それまでは、研修医の多くが大学に残り、専門的なトレーニングを受けながら、雑用もこなす労働力になっていた。厚労省によると、その割合は、新制度前の二〇〇三年では72・6%にのぼる。
ところが、自由に研修先を選べるようになると、大学に残る研修医は半数程度になった。専門的な医療が中心の大学病院より、一般的な症例に多く接する一般病院の人気が高く、都心の病院の方が、給料がいいためだ。
臨床研修を終えた医師の地方大学へのUターンは、思うように進んでいない。福井大病院(福井県永平寺町)に今春進んだ医師は十九人と、研修制度導入前に比べ半減。信州大病院(長野県松本市)は四割程度。地方病院への人材供給源は先細りするばかり。産婦人科医全体では研修導入前の六割、小児科医では半数しか大学病院に入局していないという。
研修医の大学離れは、大学病院の魅力不足に加え、関連する地方病院の厳しい勤務環境も一因とされている。静岡県内のある病院の医師は「本来は病院全体で医師が二十三人は欲しいのに、医師派遣の減少などで、今では十三人まで減った。ぎりぎりの人数で、風邪をひくこともできず、講習や学会にも思うように行けない。地方に行くメリットが見えてこなければ、地方の勤務医のなり手は減るばかりだ」と危機感を募らせる。周囲では、開業する勤務医も最近多いという。
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名古屋市で開かれた勤務医不足問題を考えるシンポジウムでは「今の地方病院の環境で、やりがいの創出は無理」「地方の求める厳しい勤務条件に最近の若い医師は、ついて来られない」などの指摘が病院勤務の医師から相次いだ。
厚生労働省は、地域の中核病院に医師を集約し、少人数で過酷な勤務をこなす医師を減らす方針。当直の頻度など勤務環境が改善すれば、医師の地方病院離れは食い止められるという考えだ。研修医の九割が、休暇や給与など条件次第で「医師不足地域で働いてもよい」と答えた調査が根拠。
同省医政局指導課の山下護課長補佐は「各科一人や二人の勤務は、医師の労働環境として厳しく、難しい手術に対応できない。病院までの距離が遠くなる患者も出るが、より安全な医療が受けられることを理解してほしい」と訴える。
これを具体化したのが、国会で審議中の医療制度改革関連法案。都道府県が医師の適正配置についての協議会を設け、協議会の決定に公立医療機関は従わなければならないと規定した。
四月の診療報酬の改定では、産婦人科医と小児科医の待遇改善のため、乳幼児診察の深夜などの加算額を増額し、ハイリスク出産の入院基本料加算を新設。診療科による医師の偏在を是正したいという。