コメント(私見):
脳性麻痺の発生率は、新生児1000人あたり2~4人と言われています。
近年の著しい産科的技術の向上にもかかわらず、脳性麻痺の発生率は減っていません。 脳性麻痺の発生頻度は、将来も決して減らないと思います。
たいていの場合、脳性麻痺の原因は特定できません。胎児の発達中に低酸素症に対し弱くなる何らかの要因があると考えられています。未熟児では脳性麻痺の発生率が高くなります。胎児期・幼児期早期における脳炎、髄膜炎、単純ヘルペス感染症、硬膜下血腫を来たす頭部外傷、血管の障害、その他多くの原因による脳損傷の結果として、脳性麻痺が発生すると考えられています。
脳性麻痺は、どの産科施設の分娩であっても、一定の頻度で必ず発生します。ハイリスク妊娠や未熟児の分娩を多く扱っている2次・3次病院であれば、1次病院と比べて、脳性麻痺の発生率は高くなります。
【脳性麻痺と新生児脳症】
頻度は1/500~1,000出生。産科医療の進歩にかかわらず、その頻度は減少していない。脳性麻痺の内、分娩が原因である頻度は15%前後と考えられており、米国産婦人科学会と米国小児科学会は2003年「脳性麻痺の原因としての分娩中の急性低酸素症の診断基準」を示した。一方、我が国の脳性麻痺訴訟においては分娩が原因であり医師の過失を指摘する判決が約80%であるといわれ、その高額損害賠償額と共に重大な問題である。
脳性麻痺の原因としての分娩中の急性低酸素症の診断基準【米国産婦人科学会、米国小児科学会、2003】
1.1:基本的診断基準(4 項目すべて必要)
1.臍帯動脈血中に代謝性アシドーシスの所見が認められること(pH<7 かつ不足塩基量≧12mmol/l)
2.34週以降の出生早期にみられる中等ないし重症の新生児脳症
3.痙性四肢麻痺型およびジスキネジア型脳症
4.外傷,凝固系異常,感染,遺伝的疾患などの病因が除外されること
1.2:分娩中に脳性麻痺が発生したことを総合的にうかがわせる診断基準
1.分娩直前または分娩中に急性低酸素状態を示す事象が起こっていること
2.胎児心拍モニター上,特に異常のなかった症例で,通常,前兆となるような低酸素状況に引き続き,突発性で持続性の胎児徐脈または心拍細変動の消失が頻発する遅発性または変動制徐脈を伴っている場合
3.5分以降のApgar スコアが0~3点
4.複数の臓器機能障害の徴候が出生後72時間以内に観察されること
5.出生後早期の画像診断にて,急性で非限局性の脳の異常を認めること
(以上、日本産科婦人科学会誌57巻4号より)
****** 読売新聞、2007年2月28日
帝王切開賠償訴訟、市に1億4300万円支払い命令
神奈川県大和市立病院で1997年、帝王切開が遅れたため重い後遺症が残ったとして、東京都内の養護学校4年の男子児童(10)と両親が、市に介護費用や慰謝料など約1億9200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、横浜地裁であった。
三木勇次裁判長は「(帝王切開は)遅きに失し、後遺症との因果関係が認められる」と述べ、市に約1億4300万円の支払いを命じた。
判決によると、男児の母親(35)は97年2月24日、陣痛が起きて入院した。胎児に心拍数の低下などの異常があったことから、病院は帝王切開を決めたが、手術決定から出産まで約1時間20分かかり、男児は仮死状態で生まれて低酸素脳症となり、四肢がマヒする重度の障害が残った。
三木裁判長は「心拍数が低下した時点で、病院は帝王切開の準備をする義務があったが、怠った。夜間、麻酔科医らが常駐しておらず、医師を呼び出すなど出産まで1時間以上かかった」と指摘した。
大宮東生・院長は記者会見で、「可能な限り適切な処置を行っており、過失はない。後遺症との因果関係もない」と話し、市として控訴する方針を明らかにした。
(読売新聞、2007年2月28日)
****** 毎日新聞、2007年3月1日
大和市立病院損賠訴訟:出産後に障害、市に1億4250万円命令--地裁 /神奈川
◇担当医の過失認める
大和市立病院(大和市深見西)で97年に仮死状態で生まれた男児(10)=東京都町田市=が手足のまひなど重い障害を負ったのは、同病院の担当医師が適切な時期に帝王切開しなかったためとして、男児と両親が大和市を相手取り損害賠償を求めていた訴訟で、横浜地裁は28日、同市に計約1億4250万円の支払いを命じる判決を言い渡した。三木勇次裁判長は「担当医は速やかに帝王切開の準備を始めなかった」と過失を認めた。
判決によると、母親は97年2月24日午後9時ごろ、胎児の心拍数が一時的に低下する症状が表れ始め、同40分にも再発したため担当医師が帝王切開を決定。午後11時ごろ、帝王切開で男児が生まれたが、手足のまひや発達遅滞の後遺症が出た。
三木裁判長は「午後9時ごろには既に胎児の心拍数が一時的に低下する症状がみられ、帝王切開の準備を始めるべきだった」と指摘。さらに「帝王切開決定から実施まで約1時間16分要し、遅きに失した」と述べた。【伊藤直孝】
◇大宮院長が控訴の意向
大和市立病院の大宮東生院長は記者会見して「障害を負っていることは誠に残念だが、可能な限り適切な処置を行った。過失は無く、脳性まひとの因果関係もない」と述べ、控訴する意向を示した。【長真一】
(毎日新聞、2007年3月1日)
****** 朝日新聞、2007年3月1日
大和市に賠償命令 地裁判決
大和市立病院で97年2月、仮死状態で生まれた男児(10)が重い障害を負ったのは、医師の判断ミスで帝王切開が遅れたためだとして、東京都に住む男児と両親が大和市に約1億9200万円の賠償を求めた訴訟で、横浜地裁は28日、市に約1億4200万円の支払いを命じた。三木勇次裁判長は「早期に帝王切開をしていれば、障害を発生させなかった」と述べた。市は控訴する方針。【岩波精、渡辺丘】
判決は、男児の心拍数が低下した時点で、医師は帝王切開の準備に着手すべき義務があったのに怠ったと認定した。その後も、速やかに帝王切開をして男児を娩出(べんしゅつ)させなかった過失があるとした。
判決によると、当時は夜間だったため、病院に麻酔科医や手術室看護師は常駐していなかった。医師が帝王切開を決めてから麻酔科医らを呼び出すなどの準備作業に取りかかったため、娩出までに時間がかかったと三木裁判長は指摘した。
市は「娩出までの所要時間は夜間としては平均的で、他の一般病院でも同様だ」と主張していたが、三木裁判長は「遅きに失した。危険な状態と判断される際には、速やかに帝王切開に着手できるよう準備しておくべきだった」と述べ、市の主張を退けた。
また、男児の状態についても「緊急の帝王切開をすべき所見が現れており、緊急性がなかったとは言えない」と指摘した。
その上で三木裁判長は、男児は母体内で低酸素状態になっていたのに、医師が速やかに娩出しなかったため低酸素脳症が引き起こされ、手足のまひやてんかん、発達遅滞などの重い障害が残ったと結論づけた。
判決を受けて、市立病院の大宮東生院長は記者会見し、「胎児の心拍数に緊急性を示す異常は見られなかった。分娩(ぶんべん)管理に問題はなかったと考える」と述べ、近く東京高裁に控訴する方針を示した。
(朝日新聞、2007年3月1日)