コメント(私見):
3月18日の全国紙の朝刊に、日本医師会の全面広告が掲載されていて、
地域の産科が、次々と閉鎖に追い込まれています。それにより、将来50万人の「お産難民」が発生する可能性があります
という非常にショッキングなメッセージがありました。
現状をこのまま放置すれば、現在、何とか持ちこたえている地域の産科も、今後、次々に閉鎖に追い込まれていく可能性があります。
いったん現場から散り散りに去ってしまった医師達を再び一堂に集めるのは不可能に近く、すでに閉鎖されてしまった産科を復活させるのは非常に困難です。
今、現場で奮闘している医師達を燃え尽きさせてはなりません。手遅れになってしまう前に、今やらねばならないことを断固として実行してゆかねばなりません。
参考:
医療クライシス:忍び寄る崩壊の足音 現場の危機、待ったなし (毎日新聞)
****** 日本医師会、2007年3月18日
【新聞の意見広告】
今、日本の産婦人科・産科の半分は、
お産を受け入れられない、という事実があります。
地域の産科が、次々と閉鎖に追い込まれています。
それにより、将来50万人の「お産難民」が発生する可能性があります。
「休日・夜間急患センター」を訪れる救急患者の50%以上は、
赤ちゃんや子どもたちです。
しかし、夜間に子どもを連れていっても小児科医がいない、
という事態が今、全国各地で起きています。
こうした問題の要因として考えられるのは、
まず、地方と都市部において、
医師数に格差が生じていること。
さらに、日本は人口1,000人当たりの医師数が、
先進国中、最も少ない国であること、
などがあげられます。
国は、5年後の平成24年3月末までに、
全国に現在38万床ある「長期療養者のためのベッド」を、
半分以下の15万床まで削減する方針を打ち出しています。
それにより、退院を余儀なくされる「医療難民」が、2万人。
在宅や施設での受け入れすら困難な「介護難民」が、4万人。
計6万人の「難民」が発生するおそれがあります。
WHOから「健康達成度世界一」と評価されてきた日本の医療は、
今や、崩壊に向かっています。
この国の医療が抱える危機を、乗り越えるためのタイムリミットは、
刻々と近づいています。
あなたとともに私たち日本医師会は、医療の崩壊を食い止めたい。
医療の未来を守っていきたいのです。
あなたの声を、ぜひ、私たちにください。
私たちは、みなさんのご意見を、国に訴えかけてまいります。
日本医師会
〒113-8621 東京都文京区本駒込2-28-16
www.med.or.jp FAX:03-3942-7036
メールアドレス:jmaiken@po.med.or.jp
(日本医師会、2007年3月18日)
****** 中国新聞、2007年3月18日
福山市民病院 産科の危機まず知って
すべて医師不足から始まっている。各地で起きる産科の問題だ。長期的には医師の養成、当面は仕事をしやすい環境づくりと、産科の集約化しか手はない。
福山市民病院の産婦人科が四月から休診する。岡山大病院が派遣医師を引き揚げるからだ。出産はほかの施設で対応できるが、大量出血など緊急時の拠点だっただけに開業医に不安が広がっている。
岡山大も医師が足りないのだ。ほかへ振り分ける人員がいない。庄原、大竹市や山陰など分娩(ぶんべん)ができない地域が増えているのと原因は同じである。広島市など都市部でも人ごとではない。
医師の産科離れは十年以上前から。当直や呼び出しが日常の過酷な勤務。待遇は他科と横並び。訴訟になるかもしれない重圧。全国の大学病院や関連病院の常勤医師は二年余りで8%減った。
二〇〇四年の臨床研修制度導入も拍車を掛けた。都会の民間病院での研修、勤務に希望が偏り、大学病院は各地の病院に派遣する余裕がない。産科も地方も「負け組」。そうみる専門家は多い。
限られた数の医師で、安心して出産できる態勢を整える現実策が集約化である。現場で奮闘する医師をこのまま燃え尽きさせてはいけない。
まずは待遇改善に知恵を絞りたい。自治体は財政難で人件費を一律に抑えている。一方で福山市民病院のように自治体病院が拠点となる例は多い。地域医療の最後のとりでと位置づけるなら、「特別扱い」を検討してはどうか。福山市は医師の手当を増やす方針だ。
産科は女性医師が多い。育児などで現場を離れても、戻ってきやすい勤務シフトを整えたい。
集約化は自治体、医師会、関係病院と大学が利害を超えて協議しなければ進まない。福山の場合も意思疎通が十分だったとはいえない。岡山大の医師不足を地域がどこまで実感していたか、市民病院に代わる救急の受け皿は十分か―など話すことはまだある。
臨床研修制度に踏み切った国はほころびを繕う責任がある。医師を助けるスタッフの充実や、裁判で争わずに患者を救済する無過失補償制度新設など、少子化対策の観点からも取り組んでほしい。
「無事に生まれて、ありがとうとも言われない。使命感がぷつりと切れそうになる」。ある産科勤務医の嘆きだ。出産のリスク、医師の窮状を理解しよう。医療が崩壊して困るのは私たちである。
(中国新聞、2007年3月18日)
****** 毎日新聞、2007年3月18日
広大医療供給プロジェクト 条件付きで医師を優先配置 /広島
◇「お産」巡り7ブロックの病院長と協議--地域事情考慮し小児科も
医師不足や都市部への偏在といった医療を巡る課題について、広島大と県内の主要な総合病院が、適正化に向けた協議を始めた。同大側は1月に、状況が深刻な産科婦人科について優先的に医師を配置する条件を提示。小児科などについても、地域事情などを考慮しながら、医師の集約化や効果的な配置を調整していくという。【宇城昇】
同大は04年11月、学外の専門家との意見交換などを目的に「ひろしま地域医療協議会」を創設。06年7月、「広島県域における医療供給体制の構築プロジェクト」を同協議会に設置した。県内を7ブロックに分け、各地域で中心となる総合病院=別項=の院長が、ブロック委員長を担当。広島大病院(南区)の中心ポストを担う医師らと、医師の適正配置などについて話し合う。
政令指定都市から山間部、島しょ部まで抱える県内は、医師の偏在が顕著。分娩できる医療機関がない自治体は庄原市や大竹市など9市町。15歳未満人口10万人当たりの小児科数を県内14市で比較すると、最少の竹原市と最多の広島市中区では約13倍の差がある。
同プロジェクトが最初に取り組むのは「お産」の問題。1月24日に広島大病院であった会合で、同大は産科婦人科について▽1チーム6人の医師を確保▽年間分娩数800件▽小児科と麻酔科のバックアップがある--の3条件を満たした病院には、医師を重点配置したい考えを示した。分娩の拠点となる基幹病院を各ブロックに設ける構想の一環だ。
同プロジェクトでは今後、産科婦人科と並んで状況が深刻な小児科についても具体的な協議に入る方針。一部地域では開業医などが連携し、輪番制で夜間の小児救急に対応しており、こうした事情などを勘案し調整に当たるという。
プロジェクト責任者の弓削孟文・副学長(医療担当)は「県内で唯一、医療人を養成している機関として、広島大は県内の医療事情に責任がある。医療機関との協議を通じて、適正な医師の配置に向けて積極的に支援したい」と話している。
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同プロジェクトを構成する7ブロックの病院は次の通り。
JA広島厚生連広島総合病院(廿日市市)▽県立広島病院(南区)▽広島市立安佐市民病院(安佐北区)▽国立病院機構呉医療センター(呉市)▽同機構東広島医療センター(東広島市)▽JA広島厚生連尾道総合病院(尾道市)▽市立三次中央病院(三次市)
(毎日新聞、2007年3月18日)
****** 北海道新聞、2007年3月16日
産婦人科、6病院に医師集約 過疎地派遣を支援 道が計画案
産婦人科の医師不足が深刻化している問題で、道は十五日までに、釧路赤十字病院や帯広厚生病院など六病院を「連携強化病院」として六人以上の産婦人科医を配置し、近隣の医療過疎地に派遣することなどを柱とした集約化計画の骨子案をまとめた。今夏までに計画を策定する。
六病院はほかに市立札幌病院、函館中央病院、旭川厚生病院、北見赤十字病院で、いずれも高度医療を行う「総合周産期母子医療センター」に指定、認定されている。このうち、昨年十二月現在で六人以上の産婦人科医が在籍しているのは三病院で、残る三病院は旭川や帯広など都市部の病院から勤務医を集め、六人以上を確保する考えだ。
これまで医療過疎地の医療機関には、医大から直接医師が長期間派遣されるケースが多かった。しかし、医師不足に伴う激務や、民間病院での研修が可能となった臨床研修制度の導入で、医大が抱える医師が減少したため、派遣の引き揚げが相次いでおり、産婦人科医についても同様の事態となっている。
そのため、骨子案は連携強化病院に産婦人科医を集め、交代での医師派遣を目指す。この方式では医師の負担が緩和されるため勤務医が確保しやすく、医療過疎地への派遣も容易になるという。
また、骨子案では六病院に、MFICU(母体・胎児集中治療管理室)、NICU(新生児集中治療管理室)を備え、新生児治療のための小児科医も置く。六病院のうち、四病院が国の基準を満たしたMFICUとNICUの双方を備えていないため、整備を依頼する。
道は医大や関係病院などと協議し、計画策定を進めており、「(計画が実現すれば)根室など出産ができなくなった地域での出産医療の再開が期待できる」(子ども未来推進局)としている。
道内の産婦人科医は二○○二年に四百六人だったが、○四年には三百六十二人に減少。出産可能な施設がある道内市町村は昨年十二月現在で、全体の二割の三十六市町となっている。
また、小児科については、基本的には道内を二十一に分けた医療圏ごとに、入院、救急医療が可能な連携強化病院と、外来診療のみを行う病院に分け、集約化を進めることを柱にした計画の策定を進めている。
(北海道新聞、2007年3月16日)
****** 東奥日報、2007年3月3日
国が前面に出て対策急げ/産科医不足
東奥日報社が読者に選んでいただいた昨年の県内十大ニュースの第三位は「医師不足の深刻化」だった。特に産科医の不足は、弘前大学医学部産婦人科学教室の水沼英樹教授が「危機というレベルを超えている」と言うほど憂慮される事態だ。
国の調査によると、人口十万人当たりの県内の産科医の数は六・四七人(二〇〇四年)。全国ワースト四位だった。
県が昨年調べたら、県内四十市町村のうち産科医がいない地域が三十、産科医も助産師もいない地域が二十五もあった。そこで暮らす妊婦が胎児の定期健診を受けたり、出産する施設が近くにない。不安だろう。
地元以外の施設に通うには時間、お金がかかる。子どもは欲しいのだが、ためらう。少子化になる。安心して産めないからと若い人がよそに引っ越す。地域が弱る。産科医不足は社会的な影響も大きい問題だ。
だが、県内の病院に産科医を派遣してきた大学が、産科医が足りないため、郡部にある公的病院などから医師を引き揚げる動きがここ数年強まった。その波が市部にも及んできた。
弘大は今回、弘前市立病院と八戸市にある青森労災病院から引き揚げると決めた。両病院に産科医は一人しかいない。激務になっている。両病院は四月から産科休診になるが、産科医の分散でなく集中によって医療の質を保つ必要があると考えた。
産科医を地域の中核的な病院に集めるよう促す国、県の考えも受けたものだろう。人数が限られている産科医を集約化し、安心して出産できる体制を整える。やむを得ない措置だ。
ただ、それも一時しのぎに終わるかもしれない。県内の公的病院や民間の診療所にいる産科医の四割弱は六十代以上だ。高齢化が進んでいる。
弘大産婦人科学教室に入る産科医志望は、この三年間は一人もいないという。産科医不足がますますひどくなり、産科休診が一層広がりかねない。
同じような事情を本県以外の地方も抱えている。全国的な問題であり、少子化や地域衰退にもつながる問題なのだから、国が前面に出て産科医を増やす対策を早く打ち出すべきだ。
産科医は、お産などに備えて休みの日も気を抜けない。母親と赤ちゃんの命にかかわる重い仕事でもある。お産には危険が伴う。医療訴訟を起こされるリスクも多い。国は、産科医が敬遠されるそんな要因を一つ一つ取り除いてもらいたい。
国は、弘大など産科医不足の県にある大学医学部の入学定員を増やせるようにした。訴訟リスクを軽くするため、出産時の事故で障害を負った患者を救う制度の創設も検討している。
それだけでなく、産科医を増やすために診療報酬を上げる、産科医不足で悩む自治体が産科医を招けるように地方交付税を増額して支援するといった対策も講じるべきではないか。
本県でも、弘大だけでなく県や各病院などが産科医確保に苦闘している。そんな個々の努力や関係機関の連携強化は今後も必要だが、限界もある。産科医を含む医師不足の主因の一つとされる「医師臨床研修制度」の見直しなども国の仕事である。
(東奥日報、2007年3月3日)