コメント(私見):
OECD(経済協力開発機構)がまとめた加盟国の人口10万人当たりの医師数のデータを見ると、全体平均は290名ですが日本は200名で、日本の医師数は加盟国の中では最低クラスです。従って、長期的な医師不足対策としては、医師数そのものを増やす(医師養成数を増やす)必要があると思われます。
しかし、今、医学部の入学定員を増やしたとしても、実際にその効果が現れるまでには最低でも10年はかかりますから、現実に目の前で進行している医療崩壊現象に対する即効薬にはなり得ません。
当面の短期的対策としては、現状の少ない医師を何とかうまくやりくりし、地域医療を維持していくようにいろいろ工夫していく必要があります。例えば、医師の拠点病院への集約化、病診連携システムの構築など、さまざまな対策を推進していく必要があります。
個々の病院の対策としては、なるべく多くの後期研修医に来てもらえるように、研修態勢を整備し、新人の勧誘に力を入れていく必要があります。
ただ、この後期研修医獲得競争では、自分の部署だけが独り勝ちすればいいというものではなく、各部署にバランスよく新人が参入してくれないと困ります。例えば、ある病院の産婦人科医が倍増したとしも、その病院の小児科、麻酔科が医師不足で消滅してしまえば、周産期医療を維持することはできません。
****** 中國新聞、2007年5月21日
http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh200705210084.html
医師不足 制度再構築は国の責任
深刻な医師不足にどう対処するのか。先週末に開かれた政府、与党の「医師確保対策に関する協議会」で、総合対策を六月上旬までにまとめ、政府の骨太の方針に盛り込むことになった。
(1)国公立大学の医学部定員に、へき地勤務を条件に入学を認める「地域枠」を新設する(2)国立病院など中核的な拠点病院から、不足地域の病院、診療所へ医師を一年程度の期限付きで派遣する―などが対策の柱。地域枠は四十七都道府県にほぼ五人ずつ、全国で二百五十人程度定員を増やす。
これまで厚生労働省は「医師の総数は足りており、将来は過剰になる」としてきただけに、定員増を認める方向は一歩前進だが、それにしても遅すぎる。地域で診療できる医師を養成するには、最低でも十年以上はかかるからだ。
一方で、日本病院会の調査では、宿直をしている全国の病院勤務医のうち、約九割が翌日も通常に仕事をせざるを得ない状況がある。長時間の過酷な労働実態を放置したままでは、不足地域への医師派遣もそう簡単とは思えない。
そこで、開業医を幅広い疾患に対応できる「総合医」として養成し、救急や往診などもこなしてもらい、病院勤務医の負担を軽減するプランも浮上している。だが、日本医師会は「医師不足は国の責任」と反発しており、難航しそうだ。二〇〇四年からの国の研修制度改革で都市部に若手医師が集中し、過疎地などの不足を招いた背景があるからである。
リスクが大きいため敬遠され、病院の診療科閉鎖などが起きている小児科や産科には、特に「即効薬」が必要だ。出産・育児などでいったん退いた女性医師の復職を促進する対策や、診療報酬の加算などが検討されている。
問題は、誰が責任を持って制度の再構築を進めていくかである。診療報酬の見直しや療養病床の削減など、国は自らの医療費負担の削減ばかりに目を向けてきた。これまでの手法を改めるのでなければ説得力に乏しい。思い切って国費を投入し、企業にも負担を求める覚悟がなければ、抜本的な仕組みの実現は難しいだろう。
医師確保のための法案を、参院選後の臨時国会に提出することも考えられている。国の責任の取り方によっては、地方自治体の財政を一層圧迫することにもなりかねない。本当に実効性のある対策にするには、医療現場や患者らの声も聞き、論議を深めるべきだ。
(中國新聞、2007年5月21日)