ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

福島県立大野病院事件・第五回公判

2007年05月26日 | 大野病院事件

コメント(私見):

昨日の福島県立大野病院事件・第5回公判で、摘出子宮を鑑定した病理鑑定医(検察側の証人)が、争点の一つである子宮と胎盤の癒着の部位や程度について証言を行いました。

【検察側の見解】 全前置胎盤で、胎盤は子宮の前壁から後壁にかけて付着し、前回帝王切開の創痕にかかっていた。 胎盤が子宮筋層の1/2程度に侵入していた。

【弁護側の見解】 全前置胎盤ではあるが、胎盤は主に子宮の後壁に付着し、前回帝王切開の創痕にはかかっていなかった。胎盤が子宮筋層の1/5程度に侵入していた。

       ◇   ◇   ◇

同じ病理標本の病理診断なのに、病理医によって診断が一致しないのはそれほど珍しいことでもありません。特に、特殊な希少症例の場合は、その道の権威と言われている病理医達の病理診断でも、それぞれの診断が3者3様に分かれてしまい、なかなか最終結論が出せない場合もまれではありません。

『癒着胎盤』は、産科医が生涯で1回経験するかしないかというような非常にまれな特殊な疾患です。一般の(胎盤病理を専門としていない)病理医だと、癒着胎盤症例を経験する機会はほとんどありません。

従って、癒着胎盤の鑑定には、複数の胎盤病理を専門とする病理医達が、十分に議論を重ねて、慎重に結論を出す必要があると思います。

****** 福島中央テレビ、2007年5月25日

県立大野病院の裁判 鑑定医も証言が揺れる

 大熊町の県立大野病院で帝王切開の手術を受けた女性が死亡した事件の公判がきょう開かれ、女性の子宮を鑑定した病理鑑定医が証言に立ちました。

 業務上過失致死などの罪に問われている、県立大野病院の産婦人科医、K被告は、2004年の12月、当時29歳の女性の帝王切開の手術をした際、癒着した胎盤を無理に引き剥がして死亡させたなどとされています。

 きょう福島地裁で開かれた5回目の公判では、死亡した女性の子宮を鑑定した病理鑑定医の証人尋問が行われました。

 この鑑定医は、まず検察官の尋問に「胎盤の癒着を予測できた可能性がある」とする検察側の主張に沿った証言をしました。

 しかし、鑑定医は、弁護側の反対尋問には「手術の前に行う超音波検査では、癒着を予測するのは難しい」と違った見解も示し、争点の一つとなっている癒着の予測に関して、その判断の難しさが浮き彫りになった形です。

(福島中央テレビ、2007年5月25日)

****** 河北新報、2007年5月26日

福島・大野病院訴訟「剥離すれば止血は困難」鑑定医証言

 福島県立大野病院(大熊町)で2004年、帝王切開中に子宮に癒着した胎盤を剥離(はくり)した判断の誤りから女性患者=当時(29)=を失血死させたとして、業務上過失致死罪などに問われた産婦人科医K被告(39)の第5回公判が25日、福島地裁であり、患者の子宮を鑑定した医師が検察側証人として出廷した。

 争点になっている子宮と胎盤の癒着の程度について、医師は「三段階のうち中程度の癒着。胎盤が子宮表面の子宮筋層の2分の1に入り込んでいる状態で、剥離すれば止血は困難」と証言。弁護側の「胎盤は子宮筋層の5分の1しか入っておらず、限りなく軽度に近い中程度の癒着」とする主張を否定した。

 癒着の範囲についても「子宮の前壁から後壁にかけて全面的に癒着していた」と、検察側立証に沿う証言をした。

 起訴状によると、K被告は04年12月17日、女性の帝王切開手術で胎盤と子宮の癒着を確認し剥離を開始。継続すれば大量出血で死亡することが予見できる状況になっても子宮摘出などに回避せず、剥離を続けて女性を失血死させた。

(河北新報、2007年5月26日)

****** 読売新聞、2007年5月26日

子宮鑑定医師証人に 検察側主張に沿う証言

大野病院事件公判

 大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術で女性(当時29歳)を失血死させたなどとして、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われている産婦人科医、K被告(39)の第5回公判が25日、福島地裁であり、摘出された女性の子宮を鑑定した医師の証人尋問が行われた。

 公判では、争点の一つである子宮と胎盤の癒着の部位や程度について検察側と弁護側の立証が対立。医師は「子宮口をまたいで子宮の後ろから前にかけて癒着していたと推定される」と検察側の主張に沿う内容の証言をした。弁護側は、切り分けた子宮の一部に癒着が認められた場合、全体に胎盤の癒着があると推定した鑑定手法に疑問を呈した。

(読売新聞、2007年5月26日)

****** 朝日新聞、2007年5月26日

胎盤癒着「前壁から後壁に」

 県立大野病院で04年に女性(当時29)が帝王切開手術中に死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われた、産科医K被告(39)の第5回公判が25日、福島地裁であった。摘出した子宮を鑑定した病理医が「子宮の前壁から後壁にかけて胎盤が癒着していたと推定される」と証言した。

 この日、検察側の証人として出廷した県立医大病理学第二講座の杉野隆医師は、胎盤の癒着について「子宮頸部をはさんで後壁から前壁に癒着があった」と証言。「胎盤は前回の帝王切開の傷跡に癒着していたと推定される」と述べた。

 胎盤の癒着部分を巡っては、前壁から後壁にかけて癒着があったとする検察側と、後壁だけだったとする弁護側で、争点の一つとなっている。

 また、杉野医師は癒着の程度について「胎盤は子宮筋層の2分の1程度まで侵入していた」と述べ、「胎盤の侵入は5分の1程度」とする弁護側よりも、癒着が強かったとする認識を示した。

 証人尋問によると、杉野医師は、大野病院からの依頼を受けて04年12月に提出した病理診断では「癒着は後壁のみ」としていたが、05年6月に県警からの依頼で作成した鑑定書では「前壁から後壁にかけて癒着」と認識を改めていた。

 さらに07年2月、福島地検からの依頼を受けて回答した「鑑定書に関する追加説明書」では、より広範な範囲で癒着がみられるとした。

(朝日新聞、2007年5月26日)

****** 福島民報、2007年5月26日

癒着胎盤、広範囲に 大野病院医療過誤公判

 福島県大熊町の県立大野病院医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医K被告(39)の第5回公判は25日、福島地裁で開かれた。

 検察側の依頼で子宮を鑑定した男性医師への証人尋問を行った。男性医師は争点の一つである癒着胎盤の範囲と程度について「子宮口を挟んで子宮後壁から前壁に癒着していた。深さは子宮筋層の2分の1程度」と述べ、「後壁だけの癒着」とする弁護側の主張を認めなかった。さらに、「前壁にある前回帝王切開創部に癒着していた」と証言した。「癒着胎盤が前回帝王切開創部に及ぶほど広範囲だった」とする検察側主張に医学的な裏付けが付いた形で、最大の争点である「手術中に胎盤の癒着が分かったとき、胎盤はく離を中止すべきだったか」の判断に影響するとみられる。

 被害者は二度目の帝王切開手術で亡くなった。前回帝王切開した創部は胎盤が癒着しやすいといわれる。加藤被告は超音波検査などで調べた上で、前回帝王切開創部について「癒着なし」と判断した。

 弁護側は閉廷後、男性医師の鑑定について「真に科学的であるか疑問だ」と批判。弁護側も別の医師に子宮鑑定を依頼して「癒着は子宮後壁のみ」との結果を得ており「弁護側鑑定医の証人尋問で真実を明らかにしたい」とした。

(福島民報、2007年5月26日)

****** 毎日新聞、2007年5月26日

大野病院医療事故:鑑定医を証人尋問 癒着範囲めぐり攻防--公判 /福島

 県立大野病院で04年、帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、K被告(39)の第5回公判が25日、福島地裁であり、死亡女性の子宮を病理鑑定した医師への証人尋問が行われた。当時の女性の胎盤の状況について、鑑定医は「胎盤が子宮の前壁部分にまで癒着していた」と、胎盤の癒着が広い範囲に及んでいたと証言した。

 鑑定医は、子宮の一部を採取したプレパラートを顕微鏡で観察し、子宮の前壁部分にも癒着の跡が認められたと証言。また「子宮筋層の2分の1程度まで胎盤が癒着していた」とし、弁護側が主張する「5分の1程度」を否定する見解を示した。

 一方、弁護側は鑑定書の補足説明の中で「プレパラートの一部で癒着が認められたら、その標本の採取部位全体に癒着胎盤があるとみなして範囲を推定した」という記述があることを指摘し、鑑定の信用性に疑問を投げかけた。鑑定医はこの日、「同じ標本の中でも癒着胎盤がある部分とない部分がある」とも証言した。【松本惇】

(毎日新聞、2007年5月26日)