新型インフルエンザが秋以降に急速に感染拡大することは避けられないとの判断から、厚生労働省は新型インフルエンザ対策の運用指針を大幅に改定しました。今後は、対策の重点が重症者に対する医療体制の維持にシフトされます。この厚生労働省の発表を受けて、当院でも緊急の感染症対策委員会が召集され、強制的に入院措置がとられていた新型インフルエンザの患者さんは直ちに退院となり、発熱外来も廃止されました。また、軽症者に対しては原則としてPCR検査を実施しないことになったので、季節性インフルエンザと新型インフルエンザとを区別することができなくなり、今後は両者を同様に取り扱っていくことになります。
秋以降の新型インフルエンザの第2派で、感染者数が大幅に増えることが専門家の間でも確実視されています。それに加えて、秋以降には例年通り、通常の季節性インフルエンザの感染者数も急増します。新型インフルエンザと季節性インフルエンザとを症状から区別することはできませんから、軽症者に関しては同じ扱いとせざるを得ません。毎年の季節性インフルエンザでも多いときには1万人以上の死亡者数となっていますから、新型インフルエンザの感染者が急増する秋以降には例年以上の死亡者数となる可能性も否定できません。従って、今後の新型インフルエンザ対策としては、重症化した患者さんにいかに適切に対応していくのか?が最も重要となります。運用指針は、今後も状況に合わせて随時見直していく必要があります。
****** 読売新聞、2009年6月19日
新型インフル、全医療機関で診療
…厚労省が運用指針改定
新型インフルエンザの今後の流行に備え、厚生労働省は19日、医療や検疫、休校などに関する運用指針を改定した。
舛添厚労相が閣議後の記者会見で発表した。
患者がほとんどいない地域と、増加している地域との二つに分けていた対策を一本化し、原則として、すべての医療機関で患者を診療するとしている。
指針では、感染の拡大状況から「患者をゼロにするのは困難」と指摘。主な対策として〈1〉患者の自宅療養〈2〉患者発生時の休校〈3〉集団感染を重視した監視・検疫体制――などを掲げた。
現在多くの地域で入院させている軽症患者は原則、自宅療養に変更。持病がある患者は悪化しやすいため、軽症でも入院が必要かどうか医師が判断する。重症化しやすい妊婦や幼児、高齢者も同様の対応とした。
季節性インフルエンザと同様、原則として全医療機関で診療する。ただし、発熱者の待機場所や診療時間を、他の受診者と分けるほか、都道府県は、透析病院や産院など発熱者を診療しない病院を指定できることとした。
患者全数を把握していた従来の厳重な監視体制は廃止。その代わり、流行の端緒を早期につかむため、学校などの集団感染に着目した新たな監視体制を敷く。
旅行者に対する検疫体制は、症状がある場合も隔離せず帰宅させ、同一グループ内で複数の感染があった場合のみ検査するなど大幅に緩和する。
(読売新聞、2009年6月19日)
****** 読売新聞、長野、2009年6月20日
軽症患者は自宅療養
新型インフル感染確認、9人に
厚生労働省が、新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)対応の運用指針を大幅に変更したことを受け、県は19日、軽症患者は自宅療養とすることなどを決めた。一方、18日深夜から19日にかけて、新たに5人の感染が確認され、県内での患者確認は計9人となった。
厚労省の改定指針では、新型インフルエンザの患者も全医療機関で診療することになった。しかし、医療機関への周知に時間がかかるため、県は当面、電話での相談受け付けと、医療機関の紹介を継続する。
新型インフルエンザの遺伝子検査については、〈1〉集団感染が疑われる〈2〉重篤な症状の患者――以外の場合は、原則として行わないことにした。
一方、長野市保健所は、すでに感染が確認された女性と、米ハワイへの旅行で同行していた同市内の25歳の女性2人の感染を確認。県は、下高井郡内の実家に帰省していた東京都内に住む男子大学生(18)と、一緒に帰ってきた千曲市の男性(19)の感染を確認。13日にハワイから帰国した飯田市の女性(26)の感染も確認した。
また、飯田市は19日、休園・休校措置について、予定通り、保育園と幼稚園は20日まで、三穂小は21日までで解除すると発表した。
(読売新聞、長野、2009年6月20日)
****** 産経新聞、2009年6月19日
新型インフル「季節性」並みに対応策緩和
厚労省が新指針
新型インフルエンザ対策の見直しを進めていた厚生労働省は19日、医療体制や空港の検疫体制を大幅に弾力化させ、通常の季節性対策に近づける新たな運用指針を発表した。ウイルスが「弱毒性」であることや、秋冬での感染の拡大が避けられないとの判断から、病床の確保など重症患者の救命を優先させる。同日から段階的に切り替えていく。
運用指針は秋から冬にかけて、患者の大幅な増加が起こりうるとの立場から、患者数の急激な増加をできるだけ抑制し、感染の拡大時期を遅らせることを基本方針とした。急激な患者数の増加を抑えることで、医療機関の負担を軽減させ、重症者に対する医療体制の維持を図る。
具体的には、患者発生が少ない「少数地域」と患者の急増が見られる「急増地域」に分けて実施している現在の対策区分を廃止。すべての地域で急増地域に近い対応がとられることになる。
医療体制では、感染症指定医療機関での入院措置を原則としてやめ、自宅療養とする。入院が必要なケースでは、一般医療機関でも入院を可能とした。
診察も感染者と一般患者を分ける発熱外来に限定せず、すべての医療機関で可能とした。その際、各医療機関は発熱患者と一般患者の待合室を分けるなどの対策をとる。感染者の把握も全数にこだわらず、集団感染など大規模な感染が発生している地域を優先して調べる。
空港の検疫所での遺伝子診断「PCR」も原則中止。濃厚接触者の把握のため、空港の検疫で実施してきた「健康状態質問票」の配布もやめる。
厚労省は今回の運用指針について、「秋の大流行も見据えた中長期的な指針」と説明。ただし、ウイルスの病原性が増した場合には、再度運用指針を見直すとしている。
一方、新型インフルエンザのワクチンについても、7月中旬から製造を開始すると発表。約2500万人分が製造可能となる見通し。接種の優先順位は今後の検討課題だが、10月にも供給が可能となる。
(産経新聞、2009年6月19日)
****** 毎日新聞、2009年6月19日
新型インフル: 厚労相が新指針
全医療機関で診察
舛添要一厚生労働相は19日、新型インフルエンザの秋以降の流行「第2波」に備えた対策の新たな運用指針を公表した。今後、軽症者は自宅療養とし、原則的に全医療機関が新型患者を診察するなど、態勢は大きく切り替わる。また、季節性インフルエンザ用のワクチン製造を7月中旬で中断し、新型用の製造を始める方針を明らかにした。
舛添厚労相は、現状を「国内で患者の大幅な増加が起こりうる秋冬に向けての準備期間」と説明。国内の感染の広がりの見通しについては「予想がつかない。今後は原則として遺伝子検査はやらないので、正確に1人まで数えるのは不可能」と述べ、「警戒を怠ることなく、正しい情報に基づいて冷静な対応をお願いしたい」と呼び掛けた。
一方、厚労省によると、季節性用のワクチンは7月中旬の製造中断までに、国内メーカー4社で昨年の約8割にあたる約4000万人分を確保できる見通し。新型用は年内いっぱい作り続ければ約2500万人分を確保でき、10月から順次、接種が可能になるという。接種対象者は、厚労省が専門家の意見を聴いたうえで考え方を示す。【清水健二、奥山智己】
◇運用指針の要旨
厚生労働省が19日発表した新型インフルエンザ対策の運用指針の要旨は次の通り。
■地域における対応
(1)患者と濃厚接触者への対応
患者は原則として自宅で療養する。基礎疾患がある患者は軽症でも抗インフルエンザ薬を投与し入院を考慮。濃厚接触者には外出自粛などを求め、発熱などがあった場合は保健所への連絡を求める。基礎疾患がある濃厚接触者で感染が強く疑われる場合は、医師の判断で抗インフルエンザ薬を予防投与する。
(2)医療体制
発熱外来だけでなく原則として全医療機関で患者を診察する。発熱患者と他の患者の待機場所や診療時間を分けるなど注意を払う。重症者の入院は、感染症指定医療機関以外でも受け入れる。都道府県は地域の実情に応じ病床を確保する。
(3)学校・保育施設など
患者が発生した場合、都道府県などは必要に応じ臨時休業を要請。感染拡大防止に必要と判断した場合は、患者が発生していない施設を含め広域での臨時休業を要請できる。
■サーベイランスの着実な実施
(1)感染拡大の早期探知
保健所は全患者(疑い例含む)を把握するのではなく、大規模な流行となる可能性のある学校などの集団について重点的に把握。地方衛生研究所は、これらの疑い患者の一部の検体の検査を実施し、新型と確定すれば医師が保健所に届け出る。
(2)重症化やウイルスの変化の監視
入院した重症患者の数を把握。病原体定点医療機関から患者の検体の提出を受け、地方衛生研究所と国立感染症研究所で病原性や薬剤耐性などウイルスの変化を監視する。結果は対応に反映させる。
■検疫
全入国者に健康カード配布などで注意を呼びかけ、発症した場合の医療機関受診を求める。検疫で判明した有症者は原則、遺伝子検査をせず、マスクを着用し可能な限り公共交通機関を使わず帰宅(自宅療養)させる。
(毎日新聞、2009年6月19日)