ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

臨床研修6年目 競争激化、質も向上

2009年06月22日 | 医療全般

以前は医学部を卒業した新人医師のほとんどが直ちにどこかの大学の医局に入局しました。また、地域の基幹病院のほとんどが、どこかの大学の関連病院となってました。伝統的な大学医局制度においては、医学部教授は医局という大企業の社長で、関連病院は医局の支店にあたり、多数の支店社員の人事は教授や医局長が決定する仕組みです。各関連病院ごとに責任者(院長、理事長、市長、県知事など)は存在しますが、それらの責任者の意志とは無関係に、医局員の人事は医局で決められます。兎にも角にも、どこかの大学医局に所属しないことには、ちゃんとした研修が開始できませんでしたし、有力病院への就職もほとんど不可能でした。

ところが、2004年の新臨床研修制度導入などの厚生労働省の政策により、以前ならば大学の医局に入局した卒後医師の多くが、都市部の大病院などでの研修を希望した結果、特に地方大学医学部では医局に入局する医師の数が激減しました。そのため、大学病院自体の人手が不足し、関連病院に派遣される医師の数が激減して、大学医局による医師派遣に依存してきた地域医療の崩壊が全国各地で大問題となっています。

以前であれば、研修の質とは関係なく、黙っていても医局人事で研修医が自動的に回されて来ることが期待できました。しかし今は、新臨床研修制度の導入により、研修医自身の自由意思で研修病院を決められるようになって、ちゃんとした研修ができない病院にはなかなか研修の志願者が集まりません。先輩研修医の口コミで後輩研修医の集まり具合が決まります。以前と比べて、どこの病院も研修の質向上には力を入れるようになってきたと思います。現行の新臨床研修制度もメリットは十分あったと私は感じてます。

大学病院にとっても、関連病院にとっても、人手不足では何もできません。毎年新たに多くの若者達が志願して集まって来るような、魅力のある柔軟な組織であり続ける必要があります。初期研修や後期研修の質を向上させ、職場の環境や待遇を改善させて、多くの学生や研修医が集まって来るように、大学医学部と関連病院とが一致協力していく必要があると思います。

****** 朝日新聞、長野、2009年6月18日

臨床研修6年目 競争激化、質も向上

 大学医学部を卒業し、医師国家試験合格後に受ける臨床研修が必修化されて、6年目に入った。この医師臨床研修制度について、国は医師不足を加速させたなどとして、来年度から制度を大幅に変えることを決めた。しかし、医療関係者からは「新しい制度のメリットはあった」「見直しは時期尚早」との声も上がる。新制度で何がどう変わったのか。【長谷川美怜】

 県主導による初めての臨床研修病院の合同説明会が、5月中旬に長野市で開かれた。医師不足が続く中、少しでも多くの医学部生を獲得しようと、病院間だけでなく都道府県同士の競争が激しくなっているのが背景だ。研修内容だけでなく、地元の野菜を配ったり、スキーやカヌーなどのレジャーの充実度を宣伝したり、どの病院も必死だ。

 参加したのは、県内に28あるすべての臨床研修指定病院。臨床研修が必修化される前の03年度までは、研修は卒業した大学病院で受けるのが一般的だった。研修を実施する病院も県内では90年代まで数病院に限られていたが、新制度に伴って急増した。

 実際、必修化前までは信州大医学部卒業生の約7割が信大付属病院で研修を受けていたが、今では3割ほどにとどまる。ただ、採用実績が何年間もゼロの病院があるなど、一部の「勝ち組」を除いて多くの病院が学生獲得に苦労しているのが実態だ。

 説明会では、県内外から訪れた学生ら約70人が、各病院のブースをくまなく回っているようだった。群馬大6年の男子学生は「研修先はプログラムの内容で決める。現段階では大学病院に行きたい」と話した。信大6年の女子学生は「大学以外の病院で救急を重点的に学びたい」。母校の病院であっても、他の病院と同じ「選択肢の一つ」に過ぎないようだ。

 病院間による競争は、大学も含めて研修の質を上げた、と好意的に受け止める医療関係者は多い。

(以下略)

(朝日新聞、長野、2009年6月18日)