産婦人科診療ガイドライン産科編2011
CQ314 妊娠糖尿病、妊娠時に診断された明らかな糖尿病、 ならびに糖尿病合併妊婦の管理・分娩は?
Answer
1. 早朝空腹時血糖値≦95mg/dL、食前血糖値≦100mg/dL、食後2時間血糖値≦120mg/dLを目標に血糖を調節する。(C)
2. 耐糖能異常妊婦ではまず食事療法を行い、血糖管理できない場合はインスリン療法を行う。(B)
3. 妊娠32週以降は胎児well-beingを適宜NST、BPS(biophysical profile score)などで評価し、問題がある場合は入院管理を行う。(C)
4. 血糖コントロール良好かつ胎児発育や胎児well-beingに問題ない場合、以下のいずれかを行う。(B)
1)40週6日まで自然陣痛発来待機(待機的管理)と41週0日以降の分娩誘発
2)頸管熟化を考慮した37週0日以降の分娩誘発(積極的管理)
5. 遷延分娩時、陣痛促進時、あるいは吸引分娩時には肩甲難産に注意する。(C)
6. 血糖コントロール不良例、糖尿病合併症悪化例や巨大児疑い合併例では分娩時期、分娩法を個別に検討する。(B)
7. 39週未満の選択的帝王切開例、血糖コントロール不良例、あるいは予定日不詳例の帝王切開時には新生児呼吸窮迫症候群に注意する。(B)
8. 糖尿病合併妊婦分娩中においては連続的胎児心拍数モニタリングを行う。(B)
9. 分娩時は母体血糖値70~120mg/dLの正常範囲にコントロールする。(C)
10. 分娩後はインスリン需要量が著明に減少する。インスリン使用例では低血糖に注意し、血糖値をモニターしながらインスリンを減量もしくは中止する。(B)
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妊娠糖尿病、妊娠時に診断された明らかな糖尿病、ならびに糖尿病合併妊娠の診断については、
を参照されたい。
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妊娠中の管理
妊娠糖尿病、妊娠時に診断された明らかな糖尿病、ならびに糖尿病合併妊娠のいずれにおいても、食前血糖値≦100mg/dL、食後2時間血糖値≦120mg/dLを目標として、食事療法、運動療法(妊娠中は制限される)を行い、コントロール不良の場合はインスリン療法を行う。妊娠32週までの良好な血糖コントロールを目標とする。
妊娠時に診断された明らかな糖尿病や糖尿病合併妊娠では、SMBG(self-monitoring of blood glucose: 食前、食後2時間、入眠前の1日7回血糖自己測定)を行う。妊娠糖尿病には糖尿病に準した食事療法を行う。
一日の平均血糖値が105mg/dL以上の場合はlarge for gestational age infant(LGA)が増加し、87mg/dL未満であるとsmall for gestational age infant(SGA)が増す。
HbA1c は過去1ヵ月間の血糖調節状態を反映したものであり、HbA1c も管理指標として使用される場合がある。HbA1c を血糖調節指標として加える場合にはHbA1c ≦6.2%(HbA1C(JDS)≦5.8%)が目安となる。
耐糖能異常妊婦に塩酸リトドリンを用いる場合、血糖上昇が起こることがあるので注して使用する。代替薬として硫酸マグネシウムの使用も考慮される。
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妊娠時の食事療法
普通の体格の妊婦(非妊時BMI<25): 標準体重 x 30 + 200 kcal
肥満妊婦(非妊時BMI≧25): 標準体重 x 30 kcal
標準体重=身長(m) x 身長(m) x 22
高血糖を予防し、血糖の変動を少なくするために4~6分食にする。
食事・運動療法だけで血糖管理が困難な場合は、インスリンを使用する。
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インスリン療法
妊娠中は特に厳格な血糖コントロールが必要であり、通常のインスリン療法でうまく血糖がコントロールできない場合は、インスリンの基礎量と追加量を補充する強化インスリン療法、すなわちインスリンの頻回注射療法(multiple insulin injection therapy: MIT)やインスリン持続皮下注入療法(continuous subcutaneus insulin infusion therapy: CSII)などが推奨されている。また、食後血糖が高い場合は、分割食にせず超速効型インスリンを用い食後高血糖を是正する方法が普及しつつある。
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インスリン使用妊婦の分娩時の血糖管理
糖尿病合併妊娠では分娩時に胎児機能不全を示しやすいため、原則として連続胎児モニタリングを行う。
5%ブドウ糖液100mL/時間の輸液を行い、1~3時間おきに血糖値を測定し、血糖を70~120mg/dLに維持する。必要に応じ速効性インスリンを使用する。
インスリン需要量は分娩後急速に低下するので、分娩後は低血糖に十分注意し、適宜インスリンの減量・投与中止を行う。通常、出産直前の1/2~2/3のインスリン量あるいは妊娠前の使用量に戻すことが多い。
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産褥期の管理
GDM妊婦では、分娩後6~12週で75gOGTTを実施する。また“妊娠時に診断された明らかな糖尿病”妊婦でも分娩後に耐糖能を再評価する。
授乳期間中は、授乳のための付加カロリーとして、妊娠前摂取カロリーに450kcl(肥満者は200kcl)程度加える。
運動については、医師から特に制限指示がなければ、従前どおりとする。
経口糖尿病薬は児に低血糖を引き起こす場合があるので、授乳中は服用しない。
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糖尿病による母体および児の合併症
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糖尿病母体児
infant of diabetic mother; IDM
・ 血糖は胎盤を通過するが、インスリンは胎盤を通過しない。
・ 胎児への糖の過剰供給
→胎児膵のβ細胞からのインスリン過剰分泌
→胎児高インスリン血症
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器官形成期の高インスリン血症 による胎児への影響
・ 心奇形
・ Caudal regression syndrome
・ 無脳症、髄膜瘤
・ 肺低形成
・ 呼吸窮迫症候群(RDS)
・ 口唇裂、口蓋裂
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妊娠後期の高インスリン血症による影響
・ Fetal macrosomia(巨大児) 心臓、肝臓、筋肉組織への脂肪の過剰蓄積
・ 母体の血管損傷が著しい場合、胎盤血流も障害され、逆に胎児発育不全(FGR)を呈する。
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出生直前の高インスリン血症 による児への影響
・ 出生後の低血糖症
・ 新生児仮死
・ 出生後の低Ca血症
・ 多血症(高粘稠度症候群、血栓症、 高ビリルビン血症)
****** 問題
糖尿病合併妊娠で正しいのはどれか。2つ選べ。
a. 治療にはインスリンを用いる。
b. 新生児は高血糖をきたしやすい。
c. 妊娠高血圧症候群を合併しやすい。
d. 血糖値の管理は妊娠中期以降に開始する。
e. 食後2時間の血糖値を150mg/dL以下に保つ。
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正解:a. c.
a. インスリンは胎盤を通過しないため、胎児に影響を及ぼさないことからインスリンを用いる。経口の血糖降下薬は胎盤を通過するため、胎児の低血糖を引き起こす可能性があり使用しない。
b.妊娠中は高血糖に曝されるため、胎児もインスリン分泌が亢進し、分娩後、低血糖をきたしやすい。
c. 母体高血糖により血管障害が生じ、PIHを合併しやすい。
d. 胎児奇形や流産を予防するためには妊娠前からの血糖コントロールが必要である。
e. 妊娠中の合併症を予防するために非妊娠時よりも厳しい血糖コントロールを必要とし、目標血糖値は食前を100mg/dL以下、食後2時間を120mg/dL以下とする。
****** 問題
糖尿病合併妊娠について誤っているのはどれか。
a 2型糖尿病が多い。
b 糖質摂取量は維持する。
c 経口糖尿病薬を用いる。
d 血糖管理で新生児合併症は減少する。
e 早朝空腹時血糖は95mg/dL以下を目標とする。
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正解:c
a 1型糖尿病(インスリン依存型):5%
2型糖尿病(インスリン非依存型):95%
b 妊娠中は適正な栄養、糖質摂取が必要。
c 妊娠中、経口糖尿薬は禁忌。
d 妊娠中の血糖管理が重要。
e 早朝空腹時血糖値≦95mg/dL、食前血糖値100mg/dL以下、食後2時間の血糖値120mg/dL以下を目標とする。
****** 問題
糖尿病合併妊娠について誤っているのはどれか。
a 妊娠初期は経口血糖降下薬で管理する。
b 妊娠初期の血糖コントロールが不良の場合は先天奇形の頻度が高い。
c 羊水過多症の合併頻度が増える。
d 分娩後はインスリン必要量が減少する。
e 新生児低血糖に注意する。
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正解:a
経口血糖降下薬は胎盤通過性があり、妊娠初期では催奇形性、妊娠中期以降は胎児低血糖の危険があり、原則禁忌である。血糖のコントロールには胎盤を通過しないインスリンを用いる。
****** 問題
塩酸リトドリンによる有害事象で誤っているのはどれか。1つ選べ。
a 高インスリン血症
b 低カリウム血症
c 高カルシウム血症
d 高アミラーゼ血症
e 血中CPK値の上昇
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正解:c
塩酸リトドリン
・ 選択的β2刺激薬であるが、いくらかのβ1刺激作用も出現するため、ほとんどの症例で頻脈の訴えがある。
・ 経口:1日15~20mg(1錠5mg)
点滴静注:5%ブドウ糖注射液に溶解し50~200μg/分で投与する。(1A50mg)
・ 副作用
①生理的変化: 不安感、頭痛、嘔気、頻脈、不整脈、嘔吐、発熱、神経過敏、幻覚
②代謝性変化: 高インスリン血症、高血糖、乳酸アシドーシス、低カリウム血症、低カルシウム血症、トランスアミナーゼ上昇、抗利尿作用
③心血管系: 頻脈、肺水腫、低血圧、不整脈、心不全、心筋虚血
④胎児: 頻脈、不整脈、心筋の肥厚、心筋虚血、高血糖
⑤新生児: 高ビリルビン血症、心筋虚血、心筋収縮能低下、低血圧、脳室内出血
⑥その他:
Ⅰ 高アミラーゼ血症 耳下腺腫脹を生じることがある。
Ⅱ 顆粒球減少 顆粒球が1500/μL以下になることがある。投与中は白血球とくに顆粒球を検査する。
Ⅲ 横紋筋融解症 筋肉痛、脱力感、CPK上昇、血中および尿中ミオグロビン上昇を特徴とする。筋緊張性(強直性)ジストロフィー等の筋疾患またはその既往歴のある患者では慎重投与。
インフルエンザ(流行性感冒)とは?
インフルエンザウイルスによる急性感染症で、発病すると、高熱、筋肉痛などを伴う風邪のような症状があらわれ、急性脳症や二次感染により死亡することもある。
インフルエンザウイルスとは?
インフルエンザの病原体(RNAウイルス)。本来はカモなどの水鳥を自然宿主として、その腸内に感染する弱毒性のウイルスであったものが、突然変異によってヒトの呼吸器への感染性を獲得したと考えられている。
インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルスは、患者の気道分泌物から飛沫感染により伝搬する。B型は宿主域が狭いために世界的大流行(パンデミック)が発生しないが、A型はヒト、鳥類、ウマ、ブタなどに感染し、時に種を超えて感染し、パンデミックをきたすことが懸念されている。
インフルエンザ・パンデミック(世界的大流行)の歴史:
・1918~19年: スペインかぜ、H1N1亜型のA型インフルエンザ、感染者6億人、死者4000~5000万人。
・1957年: アジアかぜ、H2N2亜型のA型インフルエンザ、死者100万人以上。
・1968~69年: 香港かぜ、H3N2亜型のA型インフルエンザ、死者50万人以上。
・1977~78年: ソ連かぜ、H1N1亜型のA型インフルエンザ、パンデミックと言われることもあるが、主に青年のみに感染したため厳密にはパンデミックではなく、エピデミック(局地流行)である。
・2009~10年: 2009年新型インフルエンザ、H1N1亜型のA型インフルエンザ、死者約10万人程度。本インフルエンザに対するワクチンはすでに完成しており、2010年後半から接種可能なインフルエンザワクチンは、通常の季節性インフルエンザワクチン2種に加えて新型インフルエンザワクチンにも対応した3価ワクチンとなっているものがほとんどである。
・今後も新型インフルエンザウイルスが出現することが予測されており、世界的規模で警戒し続けられている。
症状:
・ 気道感染症状、発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感など。
・ 健康人に感染して合併症がない場合は、対症的対応で感染により1週間以内で軽快することが多い。
・ 65歳以上の高齢者、妊娠28週以降の妊婦、慢性肺疾患(肺気腫、気管支喘息、肺線維症、肺結核など)、心疾患(僧帽弁膜症・鬱血性心不全など)、腎疾患(慢性賢不全・血液透析患者・腎移植患者など)、代謝異常(糖尿病・アジソン病など)、免疫不全状態の患者などの場合には、ハイリスクとしての対応が必要である。
診断:
・ 迅速診断キット: 鼻の奥の咽頭に近い部分を採取すると検出率が高い。15~20分で結果が分かる。A型とB型の鑑別も可能である。
オセルタミビル(タミフル®)は発症後48時間以内でないと効果が期待できないため、迅速診断キットは非常に重要な検査方法となっているが、発症直後ではウイルス量が少ないため陽性と判定されないことがある。検査で陰性と判定されても症状などから医師の判断で抗ウイルス薬を処方する場合もある。
インフルエンザウイルスの胎児への直接的影響:
妊婦が妊娠初期にインフルエンザに罹患した場合、直接的な胎児への催奇形性はないと考えられる。
妊婦に対する治療:
妊婦は心肺機能や免疫機能に変化を起こすため、インフルエンザに罹患すると重篤な合併症を起こしやすい。
米国疾病予防管理センター(CDC)ガイドラインでは、インフルエンザ流行期間に妊娠予定の女性へのインフルエンザワクチン接種を推奨している。妊娠全期間においてワクチン接種希望の妊婦には接種可能としている。これまでのところ、妊婦にインフルエンザワクチンを接種した場合に生じる特別な副反応の報告はなく、胎児に異常の出る確率が高くなったとするデータもない。
妊婦がインフルエンザに罹患した場合、一般的な対症療法のほか、抗インフルエンザ薬(リレンザ®、タミフル®)が有効であり、児への有害事象もないとされる。
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産科診療ガイドライン・産科編2011
CQ102 妊婦・授乳婦へのインフルエンザワクチン、抗インフルエンザウイルス薬投与は?
Answer
1. インフルエンザワクチンの母体および胎児への危険性は妊娠全期間を通じて極めて低いと説明し、ワクチン接種を希望する妊婦には接種する。(B)
2. 感染妊婦・授乳婦人への抗インフルエンザウイルス薬(リレンザ®とタミフル®)投与は利益が不利益を上回ると認識する。(C)
3. インフルエンザ患者と濃厚接触後妊婦・授乳婦人への抗インフルエンザ薬(リレンザ®とタミフル®)予防投与は利益が不利益を上回る可能性があると認識する。(C)
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解説
インフルエンザは主に冬期に流行するインフルエンザウイルスによる感染症で、急激な38度以上の発熱・頭痛・関節痛・筋肉痛などの症状を認める。その症状には特徴的な臨床症状や所見はなく、確定診断にはウイルス学的検査が必要である。最近では迅速診断キットによるウイルス抗原の検出が普及している。
インフルエンザに罹患した大多数は特に治療を行わなくても1~2週間で自然治癒するが、乳幼児・高齢者・基礎疾患のある人の場合には、気管支炎・肺炎などを併発し、死に至ることもある。
妊婦も心肺機能や免疫機能に変化を起こすため、インフルエンザに罹患すると重篤な合併症を起こしやすい。妊婦がインフルエンザ流行中に心肺機能が悪化し入院する相対リスクは産後と比較して妊娠14~20週で1.4倍、妊娠27~31週で2.6倍、妊娠37~42週で4.7倍であり、妊娠週数とともに増加するとの報告もある。
現在使用されているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、理論的に妊婦、胎児に対して問題はなく、約2000例のインフルエンザワクチン接種後妊婦において児に異常を認めていない。そのため、米国におけるCDCガイドラインではインフルエンザ流行期間に妊娠予定の女性へのインフルエンザワクチン接種を推奨している。ACOGもCDCの勧告を支持している。本邦の国立感染症研究所は妊婦にワクチンを接種した場合に生ずる特別な副反応はなく、また妊娠初期にインフルエンザワクチンを接種しても胎児に異常の出る確率が高くなったというデータもないと報告している。妊娠初期の接種は避けた方がいいという慎重な意見もあるが、流産・奇形児の危険が高くなるという研究報告はないため、妊娠全期間においてワクチン接種希望の妊婦には摂取可能とした。
不活化インフルエンザワクチンを妊娠第3三半期に接種した妊婦からの児は、非接種妊婦からの児に比して、生後6ヵ月までのインフルエンザ罹患率は63%に減少する。通常、6ヵ月未満の乳児に対するインフルエンザワクチン接種は認められていないため、妊婦へのインフルエンザワクチン接種は妊婦と乳児の双方に利益をもたらす可能性がある。
インフルエンザワクチン接種後、効果出現には約2~3週間を要し、その後約3~4ヵ月の防御免疫能を有するため、ワクチン接種時期は流行シーズンが始まる10~11月を理想とする。また授乳婦にインフルエンザワクチンを投与しても乳児への悪影響はないため、希望する褥婦にはインフルエンザワクチンを接種する。
本邦では抗インフルエンザ薬としてザナミビル(リレンザ®:吸入薬)とオセルタミビル(タミフル®:内服薬)などが使用できる。これらの薬剤は、感染した細胞からウイルス粒子を遊離させるために働くノイラミニダーゼの活性を阻害し、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する。このため、抗インフルエンザウイルス薬を適切な時期(発症から48時間以内)から服用開始することにより、発熱期間は1~2日間短縮され、ウイルス排出量も減少する。
Pandemic(H1N1)2009(本邦では2009年5月~2010年4月)時、本邦では妊婦死亡例は報告されなかった。この理由の1つとして、本邦妊婦は患者との濃厚接触後、高率に抗インフルエンザウイルス薬の予防的投与を受けたこと、また感染後は速やかに抗インフルエンザウイルス薬の治療的投与を受けたことが挙げられている。
****** 日本産科婦人科学会、お知らせ
妊娠している婦人もしくは授乳中の婦人に対してのインフルエンザに対する対応Q&A
平成22年12月22日
社団法人 日本産科婦人科学会
分娩前後に母親が感染した場合の対応については昨シーズンと大きく異なっていますのでご注意下さい
Q1: 妊婦は非妊婦に比して、インフルエンザに罹患した場合、重症化しやすいのでしょうか?
A1: 妊婦は重症化しやすいことが知られています。幸い、昨シーズンの新型インフルエンザでは本邦妊婦死亡者はありませんでしたが、諸外国では妊婦死亡が多数例報告されています。昨シーズン、新型インフルエンザのため入院を要した妊婦では早産率が高かったことが報告されています。また、タミフル等の抗インフルエンザ薬服用が遅れた妊婦(発症後48時間以降の服用開始)では重症化率が高かったことも報告されています。
Q2: 妊婦へのインフルエンザワクチン投与の際、どのような点に注意したらいいでしょうか?
A2: 妊婦へのインフルエンザワクチンに関しては安全性と有効性が証明されています。昨シーズンの新型インフルエンザワクチンに関しても、妊婦における重篤な副作用報告はありませんでした。チメロサール等の保存剤が含まれていても安全性に問題はないことが証明されています。
インフルエンザワクチンでは重篤なアナフィラキシーショックが100万人当たり2~3人に起こることが報告されており、卵アレルギーのある方(鶏卵、鶏卵が原材料に含まれている食品類をアレルギーのために日常的に避けている方)ではその危険が高い可能性があります。したがって、卵アレルギーのある妊婦(鶏卵、鶏卵が原材料に含まれている食品類をアレルギーのために日常的に避けている方)にはワクチン接種を勧めず、以下が推奨されます。
1) 発症(発熱)したら、ただちに抗インフルエンザ薬(タミフル)を服用(1日2錠を5日間)するよう指導します。
2) 罹患者と濃厚接触した場合には、ただちに抗インフルエンザ薬(タミフル、あるいはリレンザ)を予防的服用(10日間)するよう指導します。
Q3: インフルエンザ様症状が出現した場合の対応については?
A3: 発熱があり、周囲の状況からインフルエンザが疑われる場合には、「できるだけ早い(可能であれば、症状出現後48時間以内)タミフル服用開始が重症化防止に有効である」ことを伝えます。妊婦から妊婦への感染防止という観点から「接触が避けられる環境」下での診療をお勧めします。妊婦には事前の電話やマスク着用での受診を勧めます。一般病院への受診でもかまいませんが、原則としてかかりつけ産婦人科医が対応します。
インフルエンザ感染が確認されたら、ただちにタミフル投与を考慮します。妊婦には、「発症後48時間以内のタミフル服用開始(確認検査結果を待たず)が重症化防止に重要」と伝えます。
Q4: 妊婦がインフルエンザ患者と濃厚接触した場合の対応はどうしたらいいでしょうか?
A4:抗インフルエンザ薬(タミフル、あるいはリレンザ)の予防的投与(10日間)を行います。予防投与は感染危険を減少させますが、完全に予防するとはかぎりません。また、予防される期間は服用している期間に限られます。予防的服用をしている妊婦であっても発熱があった場合には受診するよう勧めます。
Q5: 抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)は胎児に大きな異常を引き起こすことはないのでしょうか?
A5:?昨シーズン、多数の妊婦(推定で4万人程度)が抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)を服用しましたが、胎児に問題があったとの報告はあがってきていません。
Q6: 抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)の予防投与(インフルエンザ発症前)と治療投与(インフルエンザ発症後)で投与量や投与期間に違いがあるのでしょうか?
A6:以下の投与方法が推奨されます。
1) タミフルの場合?
予防投与:75mg錠 1日1錠(計75mg)10日間、
治療のための投与:75mg錠 1日2回(計150mg)5日間。
2) リレンザの場合 ?
予防投与:10mgを1日1回吸入(計10mg)10日間、
治療のための投与:10mgを1日2回吸入(計20mg)5日間。
Q7: 予防投与した場合、健康保険は適応されるのでしょうか?
A7: 予防投与は原則として自己負担となりますが、自治体の判断で自己負担分が公費負担となる場合があります。
Q8:分娩前後に発症した場合は?
A8:タミフル(75mg錠を1日2回、5日間)による治療をただちに開始します。新生児への対応は以下のように行ないます。
1) 母親が妊娠~分娩 8 日以前までにインフルエンザを発症し治癒後に出生した場合
・通常の新生児管理を行います。
2) 母親が分娩前 7 日から分娩までの間にインフルエンザを発症した場合
・分娩後より、母子で個室隔離。分娩後より、飛沫・接触感染予防策を講じて母子同室とします。
・個室がない場合は母子を他の母子と離して管理します。その際、飛沫・接触感染予防策を十分講じます。
・児への抗インフルエンザ薬の予防投与はせず、児の症状の観察とバイタルサインのモニタリングを行います。
3)母親が分娩後~産院退院までにインフルエンザを発症した場合(カンガルーケアや直接授乳などすでに濃厚接触している場合)
・個室にて、直ちに飛沫・接触感染予防策を講じて母子同室を継続します。その際、児を保育器に収容等の予防策を講じ、母子間の飛沫・接触感染の可能性につき十分注意を払います。
・母親の発症状況や児への曝露の程度を総合的に判断して、必要な場合、厳重な症状の観察とバイタルサインのモニタリングをできる環境に児を移送し、発症の有無を確認します。移送後の児は、保育器管理を行います。保育器がない場合は他児と十分な距離をとります(1.5m 以上,可能ならば,他児との間をカーテン等で分離する)。
・児への抗インフルエンザ薬の予防投与は原則、行なわないことにします。
4)新生児に発熱、咳嗽・鼻汁・鼻閉などの上気道症状、活気不良、哺乳不良、多呼吸・酸素飽和度の低下などの呼吸障害、無呼吸発作,易刺激性 などが認められた場合
・直ちにインフルエンザの検査診断(簡易迅速診断キットによる抗原検査と可能ならば RT-PCR 検査の施行が望ましい)を行います。治療を行う事も考慮します。また,新生児の場合、インフルエンザ以外の疾患で上記の症状を認める場合があるので、鑑別診断に努め適切な治療を行う必要があります。
・早産児へのインフルエンザの影響は不明なことが多いので、疑い例であってもウイルス検査を行うように努めます。
Q9: 感染している(感染した)母親が授乳することは可能でしょうか?
A9: 原則,母乳栄養を行います. 以下が勧められます。
・母親がインフルエンザを発症し重症でケアが不能な場合には、搾母乳を健康な第 3 者に与えてもらう。
・母親が児をケア可能な状況であれば、マスク着用・清潔ガウン着用としっかりした手洗いを厳守すれば(飛沫・接触感染予防策)、直接母乳を与えても良い。
・母親がオセルタミビル・ザナミビルなどの投与を受けている期間でも母乳を与えても良いが、搾母乳とするか、直接母乳とするかは、飛沫感染の可能性を考慮し発症している母親の状態により判断する。
・母親の症状が強く児をケアできない場合には、出生後、児を直ちに預かり室への入室が望ましい。その際、他児と十分な距離をとる(1.5m 以上)。
・哺乳瓶・乳首は通常どおりの洗浄でよい。
・原則、飛沫・接触感染予防策の解除は、母親のインフルエンザ発症後 7 日以降に行う。
本件Q&A改定経緯:
初版 平成21年5月19日
2版 平成21年6月19日
3版 平成21年8月4日
4版 平成21年8月25日
5版 平成21年9月7日
6版 平成21年9月28日
7版 平成21年10月22日
8版 平成21年11月9日
9版 平成22年12月22日