ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

C型肝炎

2011年10月29日 | 周産期医学

Hepatitis C

C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV:hepatitis C virus)の感染により起こる。HCVは一本鎖RNAウイルスで、血液を介して感染する。C型肝炎は肝炎の中で肝硬変、肝癌への移行率が最も高いとされ、内科医による長期間のフォローアップが予後改善のために必要である。HCVの輸血感染がほぼ防止できた現在、感染の主な経路は母子感染(分娩時の母体から児への血液移行が原因とされている)となり、その対策が強く望まれる。しかし、HCVの母子感染予防対策は未だ十分とは言いがたい。

C型肝炎ウイルス(HCV)キャリア妊婦とその出生児の管理指導指針

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ607 妊娠中にHCV抗体陽性が判明した場合は?

Answer

1. HCV-RNA定量検査と肝機能検査を行う。(A)

2. HCV-RNA定量検査が「検出せず」であれば母子感染の心配はないと説明する。(B)

3. HCV-RNA定量検査が「検出」の場合には母子感染のリスクを説明するとともに内科受診を勧める。(B)

4. HCV-RNA定量検査が「検出」されても母子感染予防目的のために授乳を制限する必要はないと説明する。(C)

5. HCV-RNA量高値群の妊婦の分娩様式を決定する際には、本邦における分娩様式による母子感染率を提示し、患者・家族に選択させる。(C)

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(表1)HCV-RNA陽性妊婦の分娩様式別にみた母子感染率

Hcvrna

HCV-RNA量高値群:2.5x106コピー/mL(リアルタイムPCR法で約6.4LogIU/mL)以上

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【疫学と病態生理】

・ HCVに感染すると60~80%程度に持続感染(キャリア化)が成立し、多くは20~30年の経過で肝硬変・肝癌へと移行する。HCVに感染してもキャリア化せずに一過性感染で終わることもある。

・ HCV抗体陽性にはHCV持続感染者(キャリア)HCV感染既往者が含まれ、それらを鑑別するにはHCV-RNA定量検査を行う。HCV持続感染者(キャリア)はHCV-RNA定量検査が「検出」である。一方、HCV感染既往者はHCV-RNA定量検査が「検出せず」である。

・ 現在の測定方法であるHCV-RNA定量検査(リアルタイムPCR法)は、以前の測定方法に比べ高感度であり、低コピーから高コピーまで高範囲量のウイルスRNAが検出できる。なお、リアルタイムPCR法の測定結果はHCV増幅反応シグナルが「検出せず」または「検出」で示され、「検出」された場合は測定範囲が15~6.9 x 107 IU/mL と広範囲のため、実数値ではなく対数値(1.2~7.8LogIU/mL)で示される。

・ 一般妊婦のHCV抗体陽性率は0.3~0.8%であり、その70%でHCV-RNAが「検出」される。

すなわち、HCV抗体検査陽性妊婦のうち約70%がキャリア(HCV-RNA「検出」)であり、残りの30%はHCV感染既往者(HCV-RNA「検出せず」)で体内にHCVは存在しない。

【胎児・新生児への影響】

・ HCVキャリア(HCV-RNA「検出」)妊婦では、主に分娩時の経産道感染により母子感染が起こる。(経胎盤感染、母乳感染、唾液からの感染なども考えられてきたが、分娩時産道感染が母子感染の主体である。)

・ HCVキャリア(HCV-RNA「検出」)の母子感染率は4~10%であり、HCV感染既往者(HCV-RNA「検出せず」)の場合、母子感染は成立しない。

・ 母子感染した児のうち、30%程度は3歳までにHCVが身体から排除されるが、残りの70%はキャリア化すると想定されている。

【検査・診断】

妊婦全員に対して妊娠初診時にHCV抗体検査が行われる。HCV抗体陽性の場合には、HCV-RNA定量検査(リアルタイムPCR法)と肝機能検査を行う。

【HCV抗体陽性妊婦の管理】

・ AST、ALTなどの肝機能検査とHCV-RNA定量検査を行い、肝臓専門医を紹介し受診を勧める。

・ HCVキャリア(HCV-RNA「検出」)の母子感染率は4~10%であり、HCV感染既往者(HCV-RNA「検出せず」)の場合、母子感染は成立しない。

・ 母子感染危険因子として明らかになっていることは、HIV重複感染と血中HCV-RNA量高値である。(注: 106コピー/mL(リアルタイムPCR法では6.0LogIU/mL)以上とする報告例が多い。ただし高値でも非感染例が少なくない。)

・ 血中HCV-RNA量高値例において、予定帝王切開は経腟分娩・緊急帝王切開に比して母子感染率を明らかに低くする可能性がある。ただし、HCV-RNA量高値妊婦に対して予定帝王切開を採用すべきか否かについては結論が出ていない。以下に示すようなHCV母子感染ならびに帝王切開分娩に関する情報を提供し、分娩様式に関しては患者家族の意思を尊重すべきとの意見がある。

1)HCV-RNA「検出」でしかもRNA量高値の妊婦では、予定帝王切開により母子感染を減少させる可能性がある。
2)もし母子感染したとしても、母子感染児の3割は3歳ごろまでに陰転化し、陽性児にはインターフェロン療法で半数はHCVを排除できる。
3)HCVが臨床で問題となるのは数十年後であるので、母子感染したとしても今後治療法が開発されている可能性がある。
4)帝王切開分娩、経腟分娩にはおのおの長所と短所があり、いずれが優れているとは言い難い面が多々あるが、本邦分娩の約20%弱は帝王切開術で安全に行われている。

【HCV-RNA「検出」妊婦からの出生児の管理】

・ 母乳哺育と母子感染率とは関連がないので、母乳は原則として禁止しない。

・ 出生後3~4ヵ月にAST、ALT、HCV-RNA定量を検査する。HCV-RNA「検出」の場合は生後6ヵ月以降半年ごとにAST、ALT、HCV-RNA定量、HCV抗体を検査し、感染持続の有無を確認する。母子感染例の30%は3歳頃までに血中HCV-RNAが自然消失するので、原則として3歳までは治療を行わない。ウイルスが排除されない場合には3歳以降にインターフェロン療法が考慮される。

【HCV抗体陽性かつHCV-RNA「検出せず」の妊婦からの出生児の管理】

HCV-RNA「検出」妊婦からの出生児に準ずるが、出生~生後1年までの検査は省略し、生後18ヵ月以降にHCV抗体を検査し、これが陰性であることを確認する。