ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

腸回転異常症

2011年10月19日 | 周産期医学

Intestinal malrotaion

【概念】 胎生期に胎児の臍帯内で発達した中腸は、上腸間膜動脈を軸に反時計方向に回転し腹腔内に復帰する。中腸はさらに腹腔内で回転を続け、正常の位置で後腹膜に固定される。この過程のいずれかに障害が起こると、腸の位置異常を生じる。これを腸回転異常症という。

Malrotation
      正常        腸回転異常症

【発生頻度】 出生5000~10000に1人。

【臨床症状】 半数以上が生後2日以内に繰り返す胆汁性嘔吐で発症(十二指腸閉塞)、哺乳不良。中腸軸稔転を起こした場合は、広範な腸管の壊死をきたし敗血症・ショックとなるため、早期の診断と緊急手術を要する。60%の症例は新生児期に発症するが、1歳過ぎに発症する場合もある。

【診断】 超音波検査、注腸造影、上部消化管造影で診断可能である。
・ 腹部単純X線: double bubble sign

・上部消化管造影: cork-screw sign  

Malrotationcorkscrew

・ 注腸造影: 回盲部が上腹部正中付近にある(確定診断)

・ 腹部CT: whirl sign

Whirlsign  

【治療】 中腸軸捻転を合併しなければ緊急手術の必要はないが、中腸軸捻転が疑われる場合には、腸管の壊死が急速に進行するため緊急手術を要する。

Ladd手術: 手術で捻転を解除し、Ladd靱帯を切離、盲腸・上行結腸から十二指腸・上部空腸を剥離して腸間膜根部を十分に伸展することで、捻転を予防する。回盲部を左下腹部にもっていき、虫垂切除を付加する。

Mal21

中腸軸捻転で広範囲の腸壊死に陥った場合は、切除する腸管の範囲をできるだけ少なくすることを最優先にして壊死腸管を切除し、端々吻合を行う。

【予後】 腸管壊死を免れLadd手術が行われた例の予後は良好である。広範囲腸切除により短腸症候群をきたした症例の生存率は25~80%と言われる。短腸症候群によって小腸不全に陥った場合は小腸移植の候補となり得る。


血液型不適合妊娠

2011年10月19日 | 周産期医学

blood type incompatibility

血液型不適合妊娠とは、母体に存在しない血液型抗原が胎児に存在する場合をいう。

血液型不適合妊娠では、 「胎児血が母体に移行して作られる感作抗体」 または「母体血漿中の自然抗体」が胎児血中に入り、抗原抗体反応を起して、胎児・新生児に溶血が起こる可能性がある。

胎児の溶血性貧血、免疫性胎児水腫、新生児溶血性疾患( HDN; hemolytic disease of the newborn )をきたす。

臨床的な重症度の観点から最も重要な血液型不適合妊娠は、Rh式血液型不適合妊娠、特にD型不適合妊娠である。

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ABO式血液型とは?

・ 赤血球の表面にA抗原があるとA型、B抗原があるとB型、AとB両方の抗原があるとAB型、両抗原がないとO型とする。

・ 血漿中には各抗原に反応する抗体(IgM)があり、A型の血漿中には抗B抗体、B型の血漿中には抗A抗体があり、AB型の血漿中には抗A抗体・抗B抗体のどちらもなく、O型の血漿には抗A抗体と抗B抗体の両方が存在する。

・ 表面抗原に、それぞれ対応する抗体が反応すると赤血球は凝集してしまう。

Abo_2

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ABO式血液型不適合妊娠

・ 母体がO型で、胎児がA型またはB型の場合の0.7~2%に発生する。これはO型の血漿中に抗A抗体と抗B抗体が存在するためで、自然抗体で起こるので、初回妊娠でも起こり得る。

・ O型の母体の抗A抗体、抗B抗体のうち、IgGサブクラスの抗体(ごく少量)が胎盤を通過して胎児に移行する。(A型やB型の母体においてはIgG分画に属する抗体がほとんどないので、抗B抗体や抗A抗体の胎児への移行はほとんど起こらない。)

・ ABO式血液型不適合妊娠での胎児の貧血の程度は軽くほとんどは無症状である。胎児水腫や子宮内胎児死亡をおこすほどの重症例はないが、新生児早発黄疸を起こすことがある。

・ ABO式血液型不適合妊娠での新生児溶血性疾患(HDN)の程度は軽いことが多く、光線療法で対処できる場合がほとんどであるが、核黄疸を発症して脳性麻痺に発展するものもあり、交換輸血の基準を満たした場合は、時期を失することなく交換輸血を施行する。

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不規則抗体

・ 不規則抗体とは、赤血球に対する抗体のうちABO式抗体(抗A抗体、抗B抗体)以外の抗体をいう。 つまり、ABO式血液型抗原以外の赤血球抗原型に対する抗体を意味する。

・ 不規則抗体は、輸血や妊娠で免疫されて作られる抗体(IgG型)のことが多いが、抗原に感作されてない個体で既に存在する自然抗体(IgM型)もありうる。

・ 日本における不規則抗体をもっている妊婦は2~3%と言われている。よくみられる不規則抗体には、抗D抗体、抗E抗体、抗Duffy、抗Lewis抗体などがある。

※ Lewis抗体は、37℃では反応しない冷式抗体(IgM抗体)なので胎児・新生児溶血性疾患に関与しない。臨床的意義は少ない。

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不規則抗体による不適合妊娠

・ 母体血漿中にIgG型の不規則抗体が存在し、胎児が対応する赤血球抗原を有している場合、抗体は胎盤を通過して胎児の赤血球を破壊し、新生児溶血性疾患を引き起こすことがある。

・ 臨床的に問題となるのはRh式不適合妊娠であり、なかでも児の溶血性疾患の原因として重要なものはD(Rh0)因子である。D因子以外のRh因子は抗原性が低く抗体産生も弱い。

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Rh式血液型とは?

・ 赤血球上に存在する抗原C、c、D、E、eの5つの因子によって識別される血液型をいう。

・ 最も抗原性が高いのはD抗原である。そのため、一般にRh式血液型でいう陽性・陰性はD抗原の有無のことを指し、それぞれRh(+)、Rh(-)で表す。

・ 日本人ではRh(-)は0.5%程度であるが、白人では15%程度である。

・ ABO式血液型と違い、Rh(-)型の人はD抗原の自然抗体を持たない。そのため、Rh型不適合妊娠による胎児への影響は、第2児以降の出産かD抗原に何らかの形で感作した場合にしか起こらない。

・ ABO式血液型不適合で起こりにくい胎児への悪影響がRh型で起こるのは、抗A抗体や抗B抗体がIgMで胎盤通過性を持たないのに対し、抗D抗体がIgGで胎盤通過性を持つからである。

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Rh式血液型不適合妊娠(D型不適合妊娠)

・ 本症は、Rh(-)の妊婦がRh(+)の胎児を妊娠した場合に生じる。

・ 多くは1回目の妊娠において母体が胎児のD抗原に感作され、2回目以降の妊娠時に母体でつくられた抗D抗体が胎盤を通じて胎児に移行し、胎児貧血や新生児溶血性疾患をひき起こす。

・ 胎児から母体への血液流入は妊娠初期から起こっており、胎児血が母体に移行する量は妊娠の経過とともに増加する。また、分娩時の胎盤剥離によってほぼ全例で胎児血は母体血に移行する。そのため、妊娠回数を重ねるごとに母体のD抗原への感作率は高くなる。

・ D抗原に対して産生される抗D抗体はIgGであるため、抗D抗体が胎児に移行して溶血をひき起こす。

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ABO式血液型とRh式血液型との相違点

・ Rh(-)型の人はD抗原に対する自然抗体を持たない。そのため、Rh式血液型不適合妊娠による胎児への影響は、第2児以降の出産かD抗原に何らかの形で感作した場合にしか起こらない。

・ ABO式血液型不適合で起こりにくい胎児への悪影響がRh式血液型不適合で起こるのは、 抗A抗体、抗B抗体がIgMで胎盤通過性を持たないのに対し、抗D抗体がIgGで胎盤通過性を持つからである。

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[検査]
Coombs試験: 血中の抗赤血球抗体(不規則抗体)の存在を調べる検査であり、間接法と直接法がある。

間接Coombs試験: 血清中の抗D抗体の存在を調べる(母体)。抗D抗体の場合には、抗体価が16倍以上であれば、羊水検査または臍帯血検査をして管理方針を決定する。

直接Coombs試験: 血球に付着した抗D抗体の存在を調べる(胎児・新生児)。

・ 抗D抗体が存在すれば赤血球が凝集し(陽性)、児に溶血性疾患が起こりうる。

羊水吸光度分析(⊿OD450検査):
・ 超音波ガイド下に羊水を採取し、羊水中のビリルビン様物質の量を測定し、胎児の貧血の程度を推測する。

・ 羊水ビリルビン様物質は450nmの波長において吸光度のピークがみられることを利用して測定する。

・ 超音波ドプラ法を用いた胎児の中大脳動脈の血流速度を測定する方法が普及し、現在、臨床ではほとんど用いられていない。

Od4501

Od4502

Od4503

胎児中大脳動脈(MCA)ドプラ血流計測:  
・ 貧血になると心拍出量の増加,血液粘稠度の減少が起こることから、Mari et al. は胎児貧血症例において中大脳動脈の最高血流速度(middle cerebral artery peak systolic velocity:MCA-PSV )が上昇していることを報告した。

・ MCA-PSV 計測により中等度以上の胎児貧血が感度100%、偽陽性率12%で検出可能とされる。

・ MCA-PSV計測は非侵襲的で比較的正確な胎児貧血評価法として従来法に優るとする報告が相次ぎ、次第に臨床応用されつつある。

Mca

胎児採血: 
臍帯穿刺により、臍帯血を採取し、血液型、Hb値、Ht値、網状赤血球数を測定する。

④分娩時に臍帯血検査を行う。
血液型、直接Coombs試験、Hb値、ビリルビン値、網状赤血球数

[症状]
①溶血性貧血が高度であれば、免疫性胎児水腫、子宮内胎児死亡となる。

②溶血性貧血が中等度であれば、出生後に新生児早発黄疸や核黄疸となる。

※ 溶血によって生じる間接ビリルビンは胎盤を通過して母体側に排泄されるので、胎内では黄疸は発症しない。

③溶血性貧血が軽度であれば、出生後に新生児溶血性貧血となる。

[治療] 胎児輸血
・超音波検査( MCA-PSV 計測)で胎児貧血が疑われ、胎児採血で貧血が認められた場合、貧血を是正するために胎児輸血が行われる。

・胎児輸血は超音波ガイド下に行われ、方法としては臍帯静脈内輸血が第一選択である。臍帯静脈内への輸血が難しい場合、腹腔内輸血を行う。

・輸血する血液はO型Rh(-)の白血球除去濃縮赤血球を用いる。移植片対宿主病の発症を予防するため、白血球除去濃縮赤血球は放射線照射を行う。

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未感作妊婦の管理

・ 未感作妊婦は、初回妊娠・分娩の際に胎児のD抗原に感作される可能性があるため、その予防に抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。これにより、次回妊娠時の抗D抗体産生を妨げることができる。

・ 少なくとも妊娠28週前後かつ分娩時に抗D抗体陰性を確認する。

・ 抗Dヒト免疫グロブリン投与スケジュール:
①新生児がRh(+)かつ直接Coombs試験陰性であることを確認し、分娩72時間以内に感作予防のため母体に抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。
②インフォームドコンセント後、妊娠28週前後に母体感作予防目的で抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。
③自然および人工流産後、子宮外妊娠後、羊水穿刺(絨毛生検、胎児血採取)後には感作予防のため抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ302 Rh(D)陰性妊婦の取り扱いは?

Answer

1. 抗Rh(D)抗体陰性の場合、以下の検査・処置を行う。
 1)児がRh(D)陽性であることを確認し、分娩後72時間以内に感作予防のため母体に抗D免疫グロブリンを投与する。(A)
 2)少なくとも妊娠28週前後かつ分娩時に抗Rh(D)抗体陰性を確認する。(B)
 3)インフォームドコンセント後、妊娠28週前後に母体感作予防目的で抗D免疫グロブリンを投与する。(B)
 4)妊娠7週以降まで児生存が確認できた自然流産後、妊娠7週以降の人工流産・異所性妊娠後、妊娠中の検査・処置後(羊水穿刺、胎位外回転術等)、腹部打撲後には感作予防のため抗D免疫グロブリンを投与する。(B)

2. 抗Rh(D)抗体陽性の場合、妊娠後半期は2週ごとに抗Rh(D)抗体価を測定する。(B)

3. 抗Rh(D)抗体価上昇が明らかな場合、胎児貧血や胎児水腫徴候について評価する。(A)

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産婦人科診療ガイドライン・産科編 2011

CQ008 (抗D抗体以外の)不規則抗体が発見された場合は?

Answer

1. 間接クームス試験を含む不規則抗体スクリーニング検査が陽性となった場合、不規則抗体の種類(特異性)の検索を行う。(B) 

2. 不規則抗体が溶血性疾患の原因となりうるIgG抗体(表1参照)の場合には、抗体価を測定する。(B)

3. 溶血性疾患の原因となるIgG抗体価が上昇する場合には、胎児貧血・胎児水腫に注意した周産期管理を行う。(B)

4. 不規則抗体陽性者に予期せぬ大量出血が起こり、輸血が必要となった場合、ABO同型赤血球を用いてもよい。(B)

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(表1)

胎児・新生児溶血性疾患の原因となる抗D抗体以外の不規則抗体

重要:c, K, Ku, k, Jsb, Jka, Fya, Dib U PP1Pk(p), anti-nonD(-D-)

可能性あり、高い:E, Kpa, Kpb, Jsa, Dia, M

可能性あり、低い:C, Cw, e, Jkb, Fyb, S, s, LW, Jra

関与しない:Lea, Leb, Lua, Lub, P1, Xga

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抗D抗体では、間接クームス試験で抗体価が1:8以下の場合には月一度程度の抗体価測定を行い、抗体価の上昇がないことを確認する。また、1:16以上の場合には、胎児溶血のハイリスクと考え、胎児貧血、胎児水腫の出現に注意が必要となる。

検査の結果、胎児貧血が強く疑われる場合は超音波ガイド下に臍帯穿刺を行っての胎児貧血の直接評価を考慮する。胎児採血は最も正確であるが、侵襲的であり、施行時に胎児の状態が急激に悪化する可能性もあるため、他の胎児貧血の評価法で異常が見られた場合に行われるべきである。

胎児採血の結果、ヘマトクリット値が20~30%で胎児水腫がある場合や20%未満の場合には、胎児輸血が考慮される。

****** 問題

Rh(D)不適合妊娠について正しいのはどれか。2つ選べ。

a. 母体血中の抗Rh(D)抗体は直接Coombsテストで検査する。
b. 抗Rh(D)抗体の出現頻度は経産回数と関係がない。
c. 胎児の溶血の状態は羊水分析によって検査する。
d. 交換輸血は新生児のビリルビンと抗体および感作赤血球とを除去するために行う。
e. 抗Rh(D)ヒト免疫ガンマグロブリンは妊娠末期に投与する。

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正解:c. d.

a. 母体血液検査の時は間接Coombsテストを行う。直接Coombsテストは臍帯血検査の時である。

b. 分娩時の胎盤剥離によって、胎児血は母体血に移行しやすくなるため、抗Rh(D)抗体の頻度は経産回数を重ねるごとに高くなる。

c. 溶血判定には羊水中のビリルビン様物質の測定をする。(羊水吸光度分析は、現在、臨床ではほとんど用いられない。)

d. 交換輸血により核黄疸を防止できる。

e. 分娩後72時間以内に抗Rh(D)ヒト免疫ガンマグロブリンを注射することにより、母体における抗体産生の予防を図る。インフォームドコンセント後、妊娠28週前後に母体感作予防目的で抗D免疫グロブリンを投与する。

****** 問題

母A型、Rh(-)、父B型、Rh(+)の間に生まれた新生児AB型、Rh(+)の黄疸治療のための交換輸血に用いる血液型はどれか。

a. A、Rh(-)
b. B、Rh(+)
c. AB、Rh(-)
d. AB、Rh(+)
e. O、Rh(+)

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正解:c.

患児はAB型であり、AB型の血液を輸血する。母体にある血清抗Rh抗体が児に移行しているので、患児と同じRh(+)の血液を輸血すると溶血する。

****** 問題

未感作Rh(D)陰性妊婦に分娩後抗Rh(D)ヒトガンマグロブリン投与を考慮しなくてもよいのはどれか。

a. 全胞状奇胎
b. 自然流産
c. 早産
d. 前置胎盤
e. 常位胎盤早期剥離

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正解:a.

a, 全胞状奇胎では、胎芽(胎児)を欠くため、感作の可能性がない。このため、抗Rh(D)ヒトガンマグロブリンの投与は必要でない。

b.~e. 胎児血がある以上、いずれも感作の可能性があり、抗Rh(D)ヒトガンマグロブリンの投与が必要である。

****** 問題

血液型不適合妊娠感作例の胎児の管理上最も問題となるのはどれか。

a. 高ビリルビン血症
b. 高度貧血
c. 水頭症
d. 肝腫脹
e. 羊水過多

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正解:b.

血液型不適合妊娠では、胎児血の溶血が起こり、高度貧血による胎児水腫が最も問題となる。溶血にって生じる間接ビリルビンは胎盤を通過して母体側に排泄されるので、胎内では黄疸は発症しない。新生児の管理では高ビリルビン血症が問題となる。

****** 問題

Rh(D)陰性妊婦の取り扱いで誤っているのはどれか。1つ選べ。

a. 配偶者がRh(D)陽性の場合は、血液型不適合妊娠として管理する。
b. 間接Coombs試験で抗体価が1:64の場合は、そのまま妊娠経過をみる。
c. 羊水中ビリルビン様物質の吸光度測定で使用されるのはLileyの予想図である。
d. 分娩後72時間以内に児のRh(D)陽性かつ直接Coombs試験陰性を確認して抗Dグロブリンを母体に投与する。
e. 羊水穿刺後、抗Dヒト免疫グロブリンを投与すべきである。

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正解:b.

間接Coombs試験では母体血清中の不規則抗体の存在を調べる。抗D抗体の場合には、抗体価が16倍以上であれば羊水検査または臍帯血検査をして管理方針を決定する。

****** 問題

母体血中不規則抗体のうち、胎児に対する影響が最も少ないのはどれか。1つ選べ。

a. Rh(D)
b. Rh(C)
c. Rh(E)
d. Lewis
e. Diego

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正解:d.

Lewis抗体は、37℃では反応しない冷式抗体(IgM抗体)なので胎児・新生児溶血性疾患に関与しない。臨床的意義は少ない。

****** 問題

Rh(D)陰性妊婦で正しいのはどれか。1つ選べ。

a. 異所性妊娠後、抗D抗体陰性の場合は抗D免疫グロブリンを投与する。
b. 妊娠20週前後、抗D抗体陰性の場合はインフォームドコンセント後に抗D免疫グロブリンを投与する。 
c. 分娩後、抗D免疫グロブリンを投与する前に母体の直接クームス試験陰性を確認する。
d. 分娩後、母体に抗D免疫グロブリンを投与する場合は96時間以内に行う。
e. 妊娠経過中に抗体価4倍となれば、羊水中ビリルビン様物質を測定する。

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正解:a.

a. 妊娠7週以降まで児生存が確認できた自然流産後、妊娠7週以降の人工流産・異所性妊娠後、妊娠中の検査・処置後(羊水穿刺、胎位外回転術等)、腹部打撲後には感作予防のため抗D免疫グロブリンを投与する。

b. インフォームドコンセント後、妊娠28週前後に母体感作予防目的で抗D免疫グロブリンを投与する。

c. 直接Coombs試験は、児の血球に付着した抗D抗体の存在を調べる(胎児・新生児)。

d. 児がRh(D)陽性であることを確認し、分娩後72時間以内に感作予防のため母体に抗D免疫グロブリンを投与する。

e. 抗D抗体の場合には、抗体価が16倍以上であれば、羊水検査または臍帯血検査をして管理方針を決定する。


両大血管右室起始症(DORV)

2011年10月19日 | 周産期医学

double-outlet right ventricle

【概念】 大動脈と肺動脈の両大血管の半分以上が右室から出ている先天性心奇形で、心室中隔欠損を伴っている。

最も多いタイプ(約50%)は大血管がside by side(同じ断面積で真横に同じ高さ)に並び、心室中隔欠損が大動脈弁下(subaortic VSD)にあるタイプである。

Dorv

① overriding aorta
② ventricular septal defect
De-oxygenated blood enters the aorta from the right ventricle and is returned to the body.

【分類】
左右心室間の短絡のため肺血流が増加し心不全と肺高血圧症を呈する場合と、肺動脈狭窄を合併しチアノーゼを呈する場合の2つに大別される。

心室中隔欠損の位置による分類:
大動脈弁下型
心室中隔欠損が大動脈弁の下に位置する。

肺動脈狭窄を伴わない場合は心室中隔欠損症と同様の、肺動脈狭窄を伴った場合にはファロー四徴症と同様の臨床症状を示す。

肺動脈弁下型(Taussig-Bing奇形)  
心室中隔欠損が肺動脈弁の下に位置する。

大血管位置関係により、正常大血管型のoriginal Taussig-Bing奇形と、大血管転位型のfalse Taussig-Bing奇形に分類されている。

両大血管下型  
心室中隔欠損が大動脈弁及び肺動脈弁両弁の下に位置する。

遠位型
心室中隔欠損の上縁が正常大動脈径以上離れている。

【心エコー、心カテーテル、心血管造影】

① 両血管が右室より起始すること
② 僧房弁がいずれの半月弁とも線維性連続性を欠くこと
③ 左室からの流出路がVSD以外にないこと

を確認する。

【治療・予後】

本症の自然予後は病型ごとに異なる。肺動脈弁下型が最も予後不良で、大動脈弁下型がこれに続き、肺動脈狭窄合併例が最も良い。(※ 自然予後と治療後の予後とは全く異なりますので、それぞれの患者さんの治療後の予後については、担当の心臓血管外科専門医の先生とご相談ください。)

通常、乳児期は、肺血流量が減少するタイプではプロスタグランジンの使用やシャント術を、肺血流量が増加する病型では心不全の治療や肺動脈絞扼術を考える。

根治手術の方法はそれぞれの病型によって異なる。