ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

朝日新聞:医師逮捕事件 富岡署を表彰

2006年04月17日 | 報道記事

****** 私見

福島県警は、これだけ世間から批判されながらも、今回の加藤医師・不当逮捕事件について全く反省してないどころか、『富岡署が県立大野病院の医師を逮捕した事件で、県警本部長賞を受賞した』!という報道記事です。

福島県では、理由は何であっても、とにかく医師を逮捕しさえすれば、大手柄として表彰されるということなんだろうか? 

これは、福島県警が医師の逮捕を奨励しているということの世間への意思表示なんだろうか?

福島県警は、日本医師会や日本産科婦人科学会をはじめとした、非常に多くの日本全国の医療関係の団体からの抗議声明を、一体何だと思っているのだろうか?

**** 朝日新聞、福島、2006年4月16日

医師逮捕事件  富岡署を表彰 
警察署長会議に80人


 県警は14日、今春の人事異動後初の警察署長会議を開いた。県内全28署の署長や県警本部の幹部ら80人が参加。重大事件を解決した警察署などへの表彰があり、 富岡署が県立大野病院の医師を逮捕した事件で、県警本部長賞を受賞した。

 綿貫茂本部長は冒頭の訓示で、当面の重点課題として①職員の意識改革を基礎とした合理的・ 効率的な業務の運営②重点を指向した犯罪抑制対策の推進③犯罪の徹底検挙による、 県民の安全・安心の確保 ④効果的な交通事故防止対策の推進⑤国際テロ対策の強化―などを挙げた。

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長野県立こども病院の一般診療化 県医師会会長が反対

2006年04月16日 | 地域周産期医療

最近は県内各医療圏の周産期1次医療が崩壊しつつあり、2次病院(地域中核病院)が1次医療も2次医療も掛け持ちで実施せざるを得なくなってきている。従って、2次病院では従来よりも患者数が増えているので、濃厚な治療を要する重症の患者さんの治療は3次病院(県立こども病院、信大病院)に頼らざるを得ない。

県立こども病院は県全体の大切な財産であり、我々が対応できない重症の患者さんをいつでも受け入れてくれる『最後のとりで』である。万一、病院の周辺に住む地域住民の一般診療だけで県立こども病院の先生方が手一杯になってしまっては、県民全体が非常に不利益をこうむることになってしまう。

県内で重症患者が発生した時には、いつでも受け入れ可能で、ただちに高度な医療を開始することが可能な、現在の県立こども病院の体制を、今後も堅持していただきたいと願っている。

****** 信濃毎日新聞、2006年4月16日

こども病院専門医療「維持できぬ」県方針に医師会反論

 県医師会の大西雄太郎会長らは15日、長野市内で会見し、県が、県立こども病院(安曇野市)で、小児科と産科の一般診療を開始するとの方針を示したことに反対する考えを表明した。大西会長は「一般診療を始めれば、こども病院の高度専門医療の水準は維持できず、県民や国民のためにならない」と述べた。

 田中知事は7日の会見で、同病院について「いつでも、誰をも拒まない小児の開かれた医療機関にしていく。救急診療中心の診療から始める」と発言。救急搬送でなくても、子どもが重症だと家族が感じた場合は同病院で受け入れ、軽症の場合はその後、患者のかかりつけ医師らに診療を委ねる考えを示した。

 知事の方針に対し、大西会長は「こども病院は設備、医療とも全国トップクラスで、県外からも難病の子どもたちがたくさん来る。一般診療を始めれば、医師の負担は増える」とした。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2006年4月16日)


読売新聞: 深刻な産科医不足 集約化加速

2006年04月15日 | 地域周産期医療

****** 読売新聞、長野、2006年4月15日
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/nagano/news001.htm

【ニュース追跡】深刻な産科医不足 集約化加速

「分娩」受け入れ施設 5年で14減

 産科医不足を背景に、県内で「お産」のできる病院が減っている。下伊那赤十字病院(松川町)と安曇野赤十字病院(安曇野市)が、4月から出産の受け付けを休止した。辰野町の町立辰野総合病院、池田町の県厚生連安曇総合病院でも昨年、受け付けをやめている。この5年間で県内14施設が分娩(ぶんべん)受け入れを休止または停止した。住民の働きかけで受け入れが継続された例もあるが、出産可能な施設の減少は全国的な傾向だ。「少子化対策」が叫ばれる今、減っていく産科施設の問題を追ってみた。

(服部牧夫、浅子崇)

■  ■受け入れ休止■

 松川町にある下伊那赤十字病院(134床)の2階。ナースステーション隣にカーテンで仕切られた一室がある。ピンクの内装で統一された10畳ほどの中に、白い布で覆われたままの分娩(ぶんべん)台が2つ。3月までは3日に2人のペースで新生児が取り上げられていた。今月から同院はお産の受け付けを休止、赤ちゃんの産声は3月21日を最後に聞かれなくなった。

 同院では3月末、2人いた産科医の1人が退職した。これまで産科医を派遣していた愛知県の藤田保健衛生大は医師不足を理由に後任を送らなかった。

 多数の妊婦を抱える医療機関がお産を受け入れるには、急な分娩、万が一の事態に備えて24時間体制を採る必要がある。それには最低でも2人以上の産科医がいることが望ましい。

 同院は、信州大や県にも医師の補充を要請したが、回答はなく、今月から出産受け付けを休止した。

 桜井道郎院長は「医師を確保し、一刻も早く再開したいが……」と話すが、めどは立っていない。

■  ■分業体制導入■

 同院は同町のほか、下伊那郡北部の大鹿村や豊丘村、上伊那郡南部の中川村や飯島町の住民も利用する。さらに周辺15市町村を見渡すと、飯田市の産科医院1か所も出産の受け付け休止を決めるなど、これまで5か所だった産科施設が今春は3か所に。こうした事態に対応するため、15市町村の「南信州広域連合」と県飯田保健所、地元産科医らで「産科問題懇談会」を結成し、お産は中核病院の飯田市立病院(403床)が引き受け、出産前の検診は開業医で――との「分業体制」導入を決めた。

 医療機関が連携しやすいように共通カルテも導入。信州大医学部の協力で、同市立病院に医師1人が派遣され、産科医は3人体制は4人に増強された。

■   ■根強い不満■

 これに対し、女性たちの間で不満が渦巻いている。下伊那赤十字病院で出産を経験した母親たちは、同院でのお産受け入れ継続を求め、約4万7千人分の署名を集めた。先月20日の飯田市役所での意見交換会では、市立病院への集約化に批判が相次いだ。お産にあたって多様な選択肢を求める母親たちと、「産科医が不足する以上は集約化が避けられない」とする行政の主張は平行線のままだ。

 下伊那赤十字病院での出産受け付け再開を要望する「心あるお産を求める会」の会長、松村道子さん(34)は、「検診とお産を1か所でしたいという私たちの思いが後回しにされた」と訴える。しかし、飯田市立病院の分業体制は4月、本格的にスタートした。

■ ■苦しい医局事情■

 県内ではこの1年で産科医不足の問題が急浮上。これまで、県内の病院は信州大をはじめ県内外の大学の医局から産科医が交代制で派遣され、不足はなかった。しかし今、どの大学でも要員確保に苦労し、余裕がない状態。信州大医学部産科婦人科教室も「『空白地区』が出ないよう県全体のバランスを考えているが、産科医が増える見込みはなく、すべての要望に応じられないのが実情」としている。

(2006年4月15日  読売新聞)

****** 読売新聞、長野、2006年4月15日

医師不足 過酷な勤務実態背景

 厚労省によると、2004年時点の全国の医師は約25万7000人、10年前と比べて約16%増えた。ところが、産科または産婦人科に勤務する「産科医」は逆に7%減少し、約1万6000人。県内では、産科医は過去10年間、180人前後で横ばい状態が続いてきたが、県によると、産科施設のうち出産を取り扱う病院や診療所は、2001年の68か所から、05年には54か所に減った。

 県産科婦人科医会によれば、県外の大学から県内の病院に派遣される医師の引き揚げや退職がここ数年増え、産科医の派遣数は2年前よりも30人ほど少なくなったという。

 産科医不足は全国的な傾向だ。産科医の仕事は過酷で、病院では出産に備えて24時間体制で待機する必要もあり、当直勤務や休日出勤が多い。医療訴訟全体の3割以上が出産がらみということも、なり手が少ない要因になっている。

(2006年4月15日  読売新聞、長野)

****** 読売新聞、長野、2006年4月15日
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/nagano/news002.htm

閉院危機から存続へ 上田市産院

署名短期間で8万人、市側 派遣元の信大に配慮も

 県内で、お産が出来ない産科施設が続出する中、上田市産院の場合は、閉鎖の危機から一転、存続が決まった珍しい例だ。

 発端は2005年8月、信州大学医学部が2人の常勤医師の派遣を06年6月末でやめる方針を市側に伝えたことだった。産科医不足を受け、県内全体の派遣体制を見直し、危険の伴うお産に対応するために小児科や麻酔科を備えた病院に産科医を集めたい、というのが理由だった。

 同産院は、1952年に開設された。東御市と長和、坂城両町、青木村を含めた「上田地域」の住民が主に利用し、同地域の新生児の約4人に1人にあたる、年間約450人がここで産声を上げている。

 同産院では、〈1〉妊婦の希望に添った出産姿勢の採用〈2〉へその緒がつながったまま新生児を母親が抱く「カンガルーケア」導入〈3〉母乳指導重視――などの方針を掲げ、県内では唯一、国連児童基金などが認定する「赤ちゃんにやさしい病院」にも選ばれた。

 医師派遣停止による閉院の危機に、同産院で出産した母親らが存続のための署名活動を開始。20日足らずで約8万人分が集まった。

 母親らは「私たちの意思を生かした形でのお産ができるのはここだけです」「産んですぐ『もう1人産みたい』と思えました」などと、市長に直接訴えた。

 同市は、こうした声を受けて、信州大学に医師派遣中止の再考を求め、閉院は回避された。

 だが、これが他の施設のモデルケースになるかどうかは疑問だ。

 派遣継続の見返りとして、同市が信州大に危険な出産に対応する体制の整備を約束したり、派遣中止になった場合に同市が行おうとした産科医公募に、同産院の広瀬健副院長(56)が応じる考えを表明するなど、恵まれた事例が重なった。

 お産受け入れを休止している南信地方の病院関係者は「上田市産院は特別だ。住民運動で存続できるわけではない。やむなく我慢しなければならないこともある」と話している。

(2006年4月15日  読売新聞)

****** 読売新聞、長野、2006年4月15日

激務、訴訟・・・ 国は処遇改善を

信州大医学部産科婦人科学教室・小西郁生教授

「ここ数年、産科医を目指す医師の卵が減った。原因は、厳しい仕事と訴訟の多さだ。国は処遇改善に努める必要がある。万が一の時に、医師に過失がなくても患者に一定額を補償する『無過失補償制度』導入も検討してほしい。産科は生命の誕生に携わり、非常にやりがいがある仕事だ。長い目で見れば、産科医は増えるはずだが、今は緊急の対策として、医師の集約化を図るしかない」

(2006年4月15日  読売新聞、長野)

****** 読売新聞、長野、2006年4月15日
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/nagano/news003.htm

【記者から】「望むお産」思い切実

 「私たちの望むお産ができる産院を残してほしい」――。上田市産院が閉鎖の危機に陥った時、乳児を抱いた母親たちが、涙ながらに訴える姿を目の当たりにした。お産に対する女性の切実な思いを感じた。

 全国的な産科医不足は、県、市町村レベルだけでは解決できない。国は対策を急ぐべきだ。だが、現実には、医師が少なくてもお産ができるよう、工夫が必要だろう。病院と開業医が連携して「分業」するのも一つの手かもしれない。

 安心で、満足のいくお産が出来るにはどうするべきか、男性も含めてよく考え、実現しなければならない。

(服部牧夫)

(2006年4月15日  読売新聞)

****** 参考

周産期医療の危機的状況

当医療圏の産科問題に対する取り組み

産科問題について地域住民との意見交換

長野県の分娩施設 5年間で20施設減少

「小児科産科若手医師の確保・育成に関する研究」(厚生労働省・報道発表資料)
「hokokusho.pdf」をダウンロード


読売新聞: 多い訴訟…減る産科医と医院

2006年04月15日 | 地域周産期医療

****** 読売新聞、2006年4月14日
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20060414ik02.htm

多い訴訟…減る産科医と医院

安全なお産へ体制作り

 産科医が不足し産科や産院の閉鎖が全国で相次いでいる。このため大学病院などが安全なお産を確保するための対策に乗り出した。母親、産科医、助産師で作る民間団体も、この問題を考えようと5月から各地で討論会を開く。

 神奈川県小田原市で3月中旬、産科医不足を考えるシンポジウムが開かれ、県内の医師ら約100人が出席した。

 同市とその周辺地域では、県立足柄上病院(同県松田町)が4月以降の分娩(ぶんべん)中止を打ち出したため、行き場を失った妊婦が近隣の病院に殺到して問題になった。大学病院から産科医派遣を受けられなくなることが理由だった。同病院は医師4人で年間600件の分娩を取り扱っていた。

 シンポジウムに出席した同病院院長は「常勤1人、非常勤2人の医師を確保したので5月15日から分娩を再開する。月10件から始めて徐々に増やす」と説明した。しかし会場の医師たちからは「3人態勢では医師の負担が大きすぎて、医療事故が起きかねない」「抜本的な解決策が必要」などの意見が相次いだ。

 これは同地域に限った問題ではない。日本産科婦人科学会の調べによると、2003年4月から05年7月までの間に、大学病院が産科医を派遣している関連病院のうち、約1割に当たる111病院が分娩の扱いをやめている。

 背景には、産科医は医療事故で訴えられるケースが他科より多いなどの理由で、産科医のなり手が減っていることがある。個人の開業医も後継者不足などで、分娩をやめる医院が増えている。

 こうした状況を受けて産科医を集約する新たな取り組みが登場している。北海道大は04年9月、北海道滝川市、美唄市の各市立病院への医師派遣(各1人)を取りやめ、その中間にある砂川市立病院への派遣を2人から4人に増やした。医師1人にかかる負担を減らし、安全なお産を確保するのが目的という。

 国も、昨夏に策定した「医師確保総合対策」で、医師の集約化を打ち出している。

 また、日本産婦人科医会は、「産科オープンシステム」の推進を打ち出している。地域の診療所では健診のみを行い、分娩は診療所の医師が大病院の施設を借りて行う。これも安全なお産を確保することが目的で、既に一部の病院で取り入れられている。

 ■民間団体も討論会

 一方、母親、産科医、助産師ら10人で構成する実行委員会「『どうする? 日本のお産』プロジェクト」(ホームページhttp://do-osan.socoda.net/)は、産科、産院の閉鎖が相次ぐ現状について広く考える討論会を開く。5月14日に横浜市で開催するのを手始めに、仙台市(6月4日)、埼玉県新座市(同25日)などで予定している。

 同委員会代表の熊手麻紀子さんは「いいお産を広めたくても、このままでは、その受け皿がなくなってしまう。妊婦は不安だし、産科医は疲れ、助産師は働く場を失っている。どうしたらいいのか、共に考えたい」と参加を呼びかけている。

(2006年4月14日  読売新聞)

神戸市中央区医師会の声明

2006年04月14日 | 大野病院事件

http://www.kobe-med.or.jp/chuou/index.htm

福島県立大野病院産婦人科医師逮捕起訴に対する声明文

神戸市中央区医師会 会長 置塩 隆
神戸市中央区医師会    理事一同

 先ずは、ご逝去された患者様とご家族ご親族の皆様に対し哀悼の意をささげたいと思います。
 さて、平成18年2月18日、福島県立大野病院産婦人科医師、加藤克彦医師が業務上過失致死および医師法違反の被疑により逮捕拘留、3月10日福島地裁に起訴された件に関し、神戸市中央区医師会は、誤った医学的判断および医師法解釈による不当な行為と考え、遺憾の意を表明すると共に強く抗議します。

1.逮捕起訴理由となる医学的過失の有無に関して

 子宮全摘出が必要な癒着胎盤は全分娩の0.01%であり、今回の症例において、特別な危険因子が存在していたわけではありません。超音波検査やMRIを用いて癒着胎盤を診断する試みはありますが、日常診療の中で標準的な取り扱いになる程、信頼性は高くありません。従って、今回の症例では、子宮全摘出となる程の癒着した前置胎盤を予知することは困難であり、逮捕の理由となるような明白な医学的過失は存在しないと考えます。

2.逮捕起訴理由とされた「異状死」の届出義務について

 医師法21条の「異状死」の概念や定義には曖昧な点が多く、外科関連学会協議会は、「何らかの重大な医療過誤の存在が強く疑われ、また何らかの医療過誤の存在が明らかであり、それらが患者の死亡の原因になった場合、所轄警察に届出を要する」としています。今回の件は、結果的には医学的に合併症として合理的に説明できる死亡であり、異状死とは認めにくく、しかもこの届出義務は逮捕された主治医ではなく、病院の開設者が責任を負うべきであり、これを逮捕理由とするのは不可解です。

3.逮捕起訴の契機・手段について

 逮捕のきっかけとなったとされている医療事故調査委員会報告とは、鉄道事故・航空機事故と同様に、単に個人の責に収束するのではなく、事故の再発予防のために原因背景を調査するために作られた委員会報告書です。その報告を元に、個人の刑事責任を追及することは本末転倒と思われます。また、通常逮捕監禁する場合は、よほどの重大事件か、逃亡証拠隠滅の恐れがある場合に限られます。あの、耐震疑惑でさえ誰も逮捕されていません。

 今回の場合、1年以上前に、すでに家宅捜索もされ、証拠隠滅の恐れがなく、病院の産科一人医長で継続診療中であった加藤医師に逃亡の恐れなど全く考えられません。もっと任意で事情聴取できたはずなのに、突然の逮捕には合理的説明が不可能です。

4. 逮捕起訴による地域医療への影響について

 国民医療費、医師数がG7国家で最低であるにもかかわらず、世界有数の周産期死亡率の低値を維持できていたのは、産科医が医師不足を補ってありあまるほどの、重労働をして支えてきたからです。労働基準法違反の勤務体系である日本の多くの産科医にとり、気概となっていたのは、地域を背負っているという自負と、赤ちゃんに対する愛情です。今回も、加藤医師は、県立大野病院の一人医長として、昼夜の区別なく全ての分娩を一人で対応してきていました。しかし、個人の逮捕という出来事により、一瞬で地域の産科医が消失する事態に陥りました。したがって、今回の事件は、医師個人の問題ではなく、現在の地方僻地医療が抱えている医師不足や、輸血血液の確保難を背景とした医療政策、医療マネージメントの問題と考えられ、刑事事件として個人の責任に帰することは筋違いと考えます。

 以上のように、神戸市中央区医師会は、純粋に医学的見地から検討した結果、今回の検察当局による加藤医師の逮捕は、誤った医学的判断および医師法解釈による不当な行為と考え、強く抗議するとともに、加藤医師への全面的な支援を表明します。
   
福島県立大野病院産婦人科医師逮捕起訴に対する抗議文

神戸市中央区医師会 会長 置塩 隆
神戸市中央区医師会 理事 一同

 先ずは、ご逝去された患者様とご家族ご親族の皆様に対し哀悼の意をささげたいと思います。
 さて、平成18年2月18日、福島県立大野病院産婦人科医師、加藤克彦医師が業務上過失致死および医師法違反の被疑により逮捕、富岡警察署に拘留、3月10日福島地裁に起訴された件に関し、神戸市中央区医師会は、誤った医学的判断および医師法解釈による不当な行為と考え、遺憾の意を表明すると共に強く抗議します。

1.逮捕起訴理由となる医学的過失の有無に関して

 前置胎盤症例は全分娩の0.5%に見られ、多くは帝王切開となります。この場合留意すべきものは癒着胎盤ですが、癒着胎盤を伴う前置胎盤の頻度は0.1%未満です。また、子宮全摘出が必要な癒着胎盤は全分娩の0.01%と考えらています。一般にこの頻度は経産回数、高年齢、帝王切開術等手術既往と相関するとされています。本症例においては、前回帝王切開がなされていますが、その創部と胎盤付着部位は離れており、前置胎盤症例の中で特別な危険因子が存在していたわけではありません。また、超音波検査やMRIを用いて癒着胎盤を診断する試みはありますが、日常診療の中で標準的な取り扱いになる程、診断の信頼性は高くありません。従って、本症例では、子宮全摘出となる程の癒着した前置胎盤を予知することは困難であり、ここには明白な医学的過失は存在しないと考えます。

2.逮捕起訴理由とされた「異状死」の届出義務について

 医師法21条では「医師は、死体又は妊娠4ヶ月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」と規定されていますが、「異状死」の概念や定義には曖昧な点が多く、外科関連学会協議会は、「何らかの重大な医療過誤の存在が強く疑われ、また何らかの医療過誤の存在が明らかであり、それらが患者の死亡の原因になった場合、所轄警察に届出を要する」としています。本件は、結果的には医学的に合併症として合理的に説明できる死亡であり、異状死とは認めがたいと思われます。もし、万一、本例のようなケースを「異状死」として届ける義務があるとするならば、疾病加療中であっても非常に希な合併症での全ての死亡に関して警察に届けなければならないし、しかもこの義務は逮捕された主治医ではなく、病院の開設者が責任を負うべきであり、これを逮捕理由とするのは不可解です。

3. 逮捕起訴の契機・手法について

 当初の新聞報道によれば、県の医療事故調査委員会報告が、逮捕のきっかけとなったとされています。本来医療事故調査委員会とは、鉄道事故・航空機事故と同様に、単に個人の責に収束するのではなく、事故の再発予防のために原因背景を調査するために設けられた委員会です。その報告を下に、個人の刑事責任を追及する事は、委員会報告に正確な申告が行われなくなる可能性があるばかりでなく、防衛医療(責任逃れの為の不必要な検査)や、委縮診療(逆に必要であってもリスクがある医療行為が行われなること)といった、医療費上昇、患者のためにならない医療の横行につながります。そのため、欧米では、医療事故に関して、事故調査委員会とともに無過失保障制度という制度が導入されています。無過失補償制度とは、「無過失あるいは過失の証明が困難な事例を含め、医療に伴い患者が受けたすべての障害に対して、迅速・公平な補償が可能になる公的な制度」で、スウェーデンやフィンランドではすでに制度として確立しており、日本医師会も、この制度の創設を訴えています。本ケースのように、医学的過失が明白ではない場合にも、事故調査委員会報告から個人の逮捕に至るのであれば、事故再発どころか発生の素因すらつかめず、日本の医療の荒廃を招きかねないと危惧し、今回の検察の行動には理不尽さをぬぐえません。

 また、検察が手段として用いた逮捕という行為についても、大きな疑問点が残ります。通常逮捕監禁する場合は、よほどの重大事件か、逃亡証拠隠滅の恐れがある場合に限られます。あの、耐震疑惑でさえ誰も逮捕されていません。今回の場合、1年以上前に、すでに家宅捜索もされ、証拠隠滅の恐れがなく、病院の産科一人医長で継続診療中であった加藤医師に逃亡の恐れなど全く考えられません。もっ と任意で事情聴取できたはずであるのに、いきなりの逮捕という手法は疑念が生じます。

4. 逮捕起訴による地域医療への影響について

 対GDP比の国民医療費、医師数がG7国家で最低であるにもかかわらず、世界有数の周産期死亡率の低値を維持できていたのは、産科医が医師不足を補ってありあまるほどの、重労働をして支えてきたからです。労働基準法違反の勤務体系である、日本の多くの産科医にとって、気概となっていたのは、地域を背負っているという自負と、赤ちゃんに対する愛情でした。今回の場合でも、加藤医師は、県立大野病院の一人医長として、昼夜の区別なく全ての分娩を一人で対応してきていました。その責務は非常に重く、実際逮捕後には県立大野病院は代替産科医を用意できず、地域の産科医が消失する事態に陥いりました。今回の場合、帝王切開中に癒着胎盤による大出血で、子宮動脈血流遮断、 子宮全摘などの止血措置を施したにも関わらず、母体は不幸な転帰をたどられておりますが、赤ちゃんは帝王切開で無事に救えています。相当な名医だったとしても、この措置を1人で行うことは極めて困難と思われます。したがって、今回の事件は、医師個人の問題ではなく、現在の地方僻地医療が抱えている医師不足や、輸血血液の確保難を背景とした医療政策、医療マネージメントの問題と考えられ、刑事事件として個人の責任に帰することは本末転倒と思われます。

 以上のように、今回の件における検察当局による医師逮捕は、誤った医学的判断および医師法解釈による不当な行為と考え、強く抗議します。今後もこのようなケースが出てくるようならば医療側は過剰診療・防衛医療、消極的医療(リスクが高い医療を拒否)にならざるを得ず、アメリカのように産科医療からの撤退、産科医の減少、分娩機関は減少し、周産期医療は崩壊、国民は分娩する場所を失い、少子化に拍車をかけるようになることが危惧されます。患者にとっては安全・安心な医療が受けられるよう、また医師にとっても安全・安心な医療が提供できるよう速やかな善処をお願いします。

 神戸市中央区医師会は、ここに加藤医師の逮捕起訴に対し強く抗議するとともに、加藤医師への全面的な支援を表明します。また、診療行為に関連した患者死亡事故の真相解明、再発防止について協議する無過失補償制度が早急に創設されることを切に望みます。


日産婦学会群馬地方部会・日産婦医会群馬県支部の声明

2006年04月14日 | 大野病院事件

http://med.wind.ne.jp/gunmasaog/index.html

平成18年4月10日

日産婦日産医群馬県支部 会員各位

             日産婦学会群馬地方部会長  峯 岸   敬
             日産婦医会群馬県支部長   佐 藤   仁


         産婦人科医の不当逮捕に抗議する
         -異状死のあいまいな定義こそ問題-


謹啓
 時下、先生にはご健勝のこととご拝察申し上げます。日頃より支部の業務にご協力賜り厚く御礼申し上げます。
 さて、今年2月に産婦人科医が業務上過失致死と医師法第21条(異状死等の届出義務)違反の容疑で逮捕されました。前置胎盤で帝王切開を受けた妊婦さんが出血性ショックで死亡した事例で、異状死として警察へ届け出なかったことが逮捕の理由になっています。
 医師法第21条とは「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」という条文です。明治時代の医師法をそのまま踏襲しており、犯罪の発見と公安の維持が当初の目的でした。実は現在第21条について、「手術や分娩に関連した偶発的な死を異状死と捉えるか否か」、日本法医学会と日本外科学会で大きな解釈の違いがあります。
 日本法医学会は「過失の有無にかかわらず」届け出るとガイドラインに定めています。これに対して外科学会は「重大な医療過誤があったか、強く疑われるとき」と届け出に条件を設定しています。二つの見解が異なっている現状では、届け出れば業務上過失致死罪に問われ、届け出なければ第21条違反で逮捕されることになります。結局異状死の定義があいまいなため、司法の判断で過失認定されることが問題といえるでしょう。

 3月31日の支部役員会で逮捕事件が議題になりました。その結果役員会は、不当逮捕に関する抗議の声明を各方面に出すとともに、下記のように対応することを決めました。

1.診療に関連する死亡事故や4月以上の死産の届け出
 「過失の有無にかかわらず届け出る」ことは、法医学会の解釈を支持することになり産婦人科医として到底承服できません。3月24日に日本医師会は、異状死を巡っては医療事故と過誤を厳密に分けるべきという見解を打ち出しました。支部も、異状死の基準が明確になるまで従来通りと考えて、犯罪性のない死亡事故と死産を届け出る必要はないと判断致します。ただ明らかな過誤による死亡例は所轄警察署に届け出ることになります。

2.加藤克彦医師に対する支援
 加藤医師は保釈されましたが、保釈金500万円が課せられました。過失の有無だけでなく、裁判を通じて異状死の定義を明確にするために長期の係争が予測されます。支部は支援の意味で、「加藤克彦先生を支える会」に義援金(20万円)を拠出することになりました。また支部会員にも別添の「募金趣意書」をご覧の上、ご協力をお願いする次第です。

敬具                         


朝日新聞:医療事故 揺れる検証法

2006年04月12日 | 報道記事

************ 感想

病院の医療システム上の問題(例えば、1人医長体制であるとか、輸血の対応能力とか)で事故が発生したような場合には、根本的にはそのシステムそのものを改善しない限り、事故はいつまでたっても何度でも繰り返されるだろう。たまたまその事故現場にいあわせた(何ら過失のない)医療従事者を厳罰に処したとしても、事故の防止には全くつながらない。それよりも、事故の原因を徹底的に調査して、同じような事故が今後は発生しないような医療システムに変えてゆかなければならない。日本でも、医療事故を公正に調査・検証するシステム(第3者機関)を早急に導入する必要があると思う。

(朝日新聞、2006年4月12日朝刊)

福島県立病院 医師逮捕の波紋

 帝王切開で母親が死亡した事故に関して、福島県立病院の産婦人科医師が逮捕・起訴された事件がいま、医療界の大きな関心を呼んでいる。へき地医療やリスクの高い高い診療分野の担い手が減ることへの心配も含め、さまざまな意見が飛び交う。県の調査委員会の報告書公表が捜査のきっかけになったことで、医療事故調査への悪影響を心配する声もある。事故の原因を解明し、再発防止の教訓を得るための検証システムはどうあるべきか。具体的な検討に入る時期にきている。
(編集員・出河雅彦、林敦彦)

院内調査の自発性に制約も

 福島県立大野病院の医療事故では、院外の医師3人からなる調査委がまとめたこう報告書の公表が捜査の端緒となった。
 「院内調査でも関係者には黙秘権があることを伝えなければならなくなる。それでは調査は成り立たない」
 先月18日、都内で開かれた医療安全に関するシンポジウムで虎の門病院の山口徹院長は警察捜査の影響を指摘した。
 事故調査はすべての医療機関に義務づけられているわけではないが、再発防止の取り組みとして広がりつつある。
 公表についても国立大学病院長会議が昨年3月、「医療過誤で患者が死亡または重い障害が残った事例は調査結果の概要と改善策を公表」という指針をまとめた。
 「調査結果は社会で共有する」という機運が高まりつつあるだけに、福島のケースに戸惑う医療関係者は少なくない。外部委員を含め調査協力が得られにくくなる可能性があり、結果の公表を控える医療機関が増えるかもしれない。
 産婦人科医が業務上過失致死だけでなく、医師法違反に問われたことも、院内調査に影響を及ぼしそうだ。
 医師法21条は、異状死の場合24時間以内に警察へ届け出ることを医師に義務づけている。旧厚生省が94年に出した解釈本には「死体には殺人等の犯罪の痕跡をとどめている場合があるので、司法警察上の便宜のために規定した」とある。
 ところが、何が「異状」に当たるのかの基準はなく、とりわけ医療行為に関連した死亡例をどこまで届けるかについて医療界で合意がない。
 日本法医学会は94年、「診療中または比較的直後の予期しない死亡」も異状死に含める、とする指針を公表。日本外科学会や日本内科学会は「明らかな過誤などに限るべきだ」との意見だ。
 医療事故は調査、分析して問題点がわかるものも少なくない。福島のケースでも調査に約2カ月を要している。
 発生直後の届出を怠った責任を問われるとなれば、警察への届け出は増えるかもしれない。だが、警察に証拠物を押収され、関係者の事情聴取が始まれば、医療機関が自ら調べようとしても制約を受けざるをえない。
 警察に届けられた医療事故のすべてが、刑事裁判に持ち込まれるわけではない。その場合、捜査資料は医療現場に還元されず、埋もれてしまう。

捜査との境界あいまい

 「医療関連死」は中立的な専門機関で死因を解明すべきだ」という医学関係学会の声明がきっかけとなり、昨年9月から東京、大阪など6地域で学会主体のモデル事業が始まった。厚生労働省が補助金を出し、5年計画で新たな検証システムをつくるための課題を探る。
 関係診療科の臨床医の助言を得ながら法医と病理医が協力して解剖、死因を調べるのが特徴だ。
 このやり方を全国に広げるには、不足が著しい解剖医や専任スタッフの養成、財源の確保など解決すべき問題が多い。
 死亡以外の医療事故をどうするか▽医療事故に限らず異状死の死因を調べる監察医制度をどう全国に普及させるか---も検討する必要がある。
 モデル事業ではこれまで14例が解剖された。12例は異状死として届けられ、警察の検死で「司法解剖は不要」と判断されたものだ。調査機関ができれば、警察がすべての医療事故を調査する必要がなくなることを示している。
 ただ、①明らかな医療過誤は引き続き捜査対象になるのか②調査結果に基づいて特定個人の過失責任を追及する捜査が始まることはないのか---など、事故調査と警察捜査の関係の将来像はまだはっきりしていない。
 飛行機事故では、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会の調査結果が関係者の刑事裁判の証拠とされていることに対し、「再発防止に役立たない」との批判がある。
 日本学術会議は昨年6月、事故調査に関する提言を公表した。
 「事故原因の究明には事故の背景、組織の関与を含めた事実を明らかにする必要があり、事故調査によって特定個人の責任が同定されることが期待されるものではないことが認識されるべきだ」
 提言はこうした考え方に基づき、鉄道・航空機事故、医療事故、都市災害、労働災害など、複合要因によって発生したとみられる大規模事故や特異な事故の原因を調べる独立調査機関の創設を求めた。「当事者の証言を得やすくするため、被害結果の重大性のみで短絡的に過失責任が問われることがないような配慮」が必要としている。
 「だれが悪いか」から「なぜ起きたか」に力点を置く検証の仕組みを早急に作り上げないと、外科や産科などリスクの高い診療分野の後継者が不足し、医療供給体制のバランスがさらに崩れてしまう恐れがある。

(朝日新聞、2006年4月12日朝刊)


横浜市医師会・横浜市産婦人科医会の抗議声明

2006年04月11日 | 大野病院事件

http://www.yokohama.kanagawa.med.or.jp/

福島県立大野病院産婦人科医不当逮捕に対する抗議声明文

 産婦人科医の減少に伴い、出産する場所が地域から失われつつある現状で、なおかつ医師会並びに産婦人科医会としては、地域の皆様の出産を安全に行うために努力しているところであります。しかし、地域医療に真摯に取り組む医師の関わる母体死亡の事案について、刑事事件として逮捕、起訴される事件が起きました。この事案に関し、死亡なさった方がおられることは誠に遺憾なことであり、心より哀悼の意を表します。しかし、業務上過失致死、ならびに異状死の届出義務違反という刑事事件として扱うことに対し、横浜市医師会並びに横浜市産婦人科医会として抗議いたします。

 今回の事案は福島県における産科医が不足している地域で、一人で24時間、365日中核病院の役割を支えていた医師の医療行為の過程において発生しました。医療行為を行わなかった場合はかなりの確率で母児ともに死亡したであろうと思われる、前置胎盤と、予測不可能とされる子宮後壁付着の癒着胎盤の症例に行った帝王切開において発生した死亡です。

 臨床に携わる産科医であれば、それまで妊娠、分娩の経過に異常がないにもかかわらず、数分後には命に関わる予見できない大出血がおこることを誰もが経験しています。出産時の出血の怖さは産科医が一番よく知っているため、ほとんどの医師は出産において、どのように経過がよくても一瞬たりとも気を抜くことができません。その努力にもかかわらず、予見できず、防ぐこともできない出血死はあり得ます。そのような出血に遭遇したとき、様々な努力も虚しく死亡し、その結果として刑事訴追を受けるとしたら、産科医療そのものが成り立ちません。

 また、異状死の届出義務違反についても、最高裁判例があるものの、何が異状死に当たるのかは厚労省から通達はおろか、内部でその検討すらなされていない現状では、今回の事例を、その判決文の内容のみでそれに当てはめるのは妥当でないと考えます。

 こうした結果に対して一人の人間にすべての責任があるかのような今回の刑事訴追は、恐怖心による保身のための萎縮した医療を促すことはあっても、事案を通して本来なすべき他の人たちへの医療レベルの向上に資することは無いと考えます。また、今回の刑事訴追は出産に関わる全国の産科医を恐怖のどん底に突き落とすものであります。地域での出産を守る為に孤軍奮闘している医師は今回の事案を通して、刑事事件へのおそれから逃れるために出産に関わることを辞めるかも知れません。それゆえ、刑事罰によって結果責任を追及するという今回の刑事訴追を認めることはできません。今回の刑事訴追に強く抗議いたします。

 最後に、今回お亡くなりになった方、およびご遺族の方々の悲しみを考えるとき、産科医療に携わる医師として、とてもつらい気持ちになります。無事この世に生を受けた赤ちゃんの成長を見守ることなく旅立たれた方のご冥福を心よりお祈りするとともに、ご家族の悲しみが一日も早く癒され心に平安が訪れることを、心よりお祈り申し上げます。

平成18年4月6日
 横浜市医師会会長  今井 三男
 横浜市産婦人科医会会長  東條 龍太郎

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北海道産婦人科医会・北海道産科婦人科学会の声明
「Hokkaido.pdf」をダウンロード


産婦人科継続を求める署名活動

2006年04月10日 | 飯田下伊那地域の産科問題

産婦人科医の総数は決まっていて全体として大幅に足りてないのは明らかなので、全部の病院に産婦人科医を十分に配置することはできない。要するに、現状の産婦人科医の総数に対して、病院の数は明らかに多すぎるのである。

この問題の対処は、産婦人科医をいかに適正に再配置するか?という問題につきると思う。広域医療圏ごとに事情は全く異なるので、医療圏内でうまく調整して中核病院を決定し、その中核病院に産婦人科医を集約化して産科滅亡の危機を回避する以外には有効な方策はないように思われる。その調整に失敗した医療圏は、今後、どこにも分娩するところがない産科空白地域になってしまうかもしれない。

****** 長野日報、2006年2月18日

安全なお産を 産婦人科存続訴え

 下伊那郡松川町の下伊那赤十字病院が、産婦人科の医師不足から4月からの出産受け入れが難しくなっていることから、飯島町や中川村、下伊那地方の子育て中の母親たちが、産科の存続を訴えて活動を始めた。「心あるお産を求める会」を立ち上げ、署名を集めて県などに働き掛けることにしている。

 同病院では産科の常勤医師2人のうちの1人が3月で退職を予定。さらに小児科の診療が昨年10月から非常勤医師による週3回のみとなっているため、安全なお産ができる体制が整わないなどの理由で、4月以降の分娩を原則見合わせることになった。

(中略)

 署名は7町村の人口約58000人の6割が目標。3月上旬から中旬にかけ、県知事、県衛生部、県議会に提出する。松村道子会長は、「お産の感動が育児につながると思うのに、お産する場所が選べなくなる。署名活動にとどまらず、安心してお産できる環境について考えていきたい」と話している。

(長野日報、2006年2月18日)


産科医逮捕に高まる“抗議”

2006年04月08日 | 報道記事

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既存の学会組織の活動では、全体が集まって協議する機会は年に1回開催される総会だけしかないし、一つの重大な事件に対して、すばやく組織全体の意思を統一して、時期を逸しないでインパクトのあるすばやい抗議行動を起こすことは非常に困難であったと思います。

今後は、インターネットを有効に活用することによって、多忙な医師達でも、診療科や地域の枠を越えて、すばやい全国的な統一行動を起こすことも十分に可能な時代となりつつあります。田舎に引きこもっていても、全国の多くの人たちと情報を共有して、すばやい一斉抗議行動に参加するようなことも十分に可能な時代となりつつあります。

時代の大きな変化を実感します。

以下、日経メディカル(2006年4月)からの引用

産科医逮捕に高まる“抗議”
「ネット医師会」は医療政策を動かすか

埴岡 健一

日経BP社、日経メディカル(2006年4月10日発行):39頁
nikkei.pdf」をダウンロード


産科医集約(北海道・砂川市立病院の例)

2006年04月07日 | 地域周産期医療

コメント

産婦人科医を再配置して集約する場合は、同時に、小児科医、麻酔科医、助産師なども同じ病院に集約しないと全く意味がありません。産婦人科医が全員撤退した後に、助産師の全員がもとの病院に取り残されてしまって大勢の助産師が本来の仕事ができなくなってしまうようでは地域の貴重な人的資源が無駄になります。

今後、広域医療圏ごとに周産期センターを設置して、地域の産婦人科医、小児科医、麻酔科医、助産師などを集約してゆく必要があります。その際の集約の規模ですが、産婦人科医4人体制ではまだ中途半端で不十分な規模と思われます。当直は週1回程度とし、当直の翌日は休みが取れるくらいの規模(理想的には産婦人科医10人体制、最低でも産婦人科医7~8人体制程度)が望ましいと考えます。

周産期医療の集約化のためには、地域内の多くの病院の医師達がセンター病院に移動しなければなりません。つまり、産科施設の数を大幅に減らす必要がありますが、その集約化を各自治体や各病院の個々の自発的努力のみに任せていたんでは、いつまでたっても全体の話がまとまるはずがありませんし、実行も非常に困難だと思います。国レベル、県レベルで、地域周産期医療の将来のビジョンを地域住民に明確に示し、強力に集約化を推進していく必要があると考えます。

****** 読売新聞、2006年2月1日

産科医集約 体制手厚く

(略)

 滝川市の市立病院には、北海道大から派遣された産科医が1人いた。だが、北大は一昨年9月、同病院と市立美唄病院への産科医派遣(各1人)をやめ、かわりに両市の間にある砂川市立病院への派遣を2人から4人に増強した。滝川、美唄の病院では、お産はできなくなったが、週2、3回、砂川市立病院や北大の産科医が出張して外来診療を行う。

 医師を1か所の病院に集めた背景には、産科医の過酷な就労環境がある。1~2人体制だった各病院の医師は、昼夜を問わないお産に備え、365日、当直や自宅待機で拘束され、心身とも疲れきっていた。ミスにもつながりかねない。

 多くの病院が、同様の危機に陥っている。激務に燃え尽きて辞める医師もいるし、なり手も減っている。

 日本産科婦人科学会の昨年7月の調査では、全国の大学病院と、大学が医師を派遣する関連病院の産婦人科医は4739人で、2003年春に比べ8%減り、111の関連病院がお産の扱いをやめた。地方では特に事情は深刻だ。

 調査をまとめた筑波大産婦人科教授の吉川裕之さんは「医師個人の使命感や良心に頼る体制は限界だ」と訴える。解決の手段の一つが、医師を拠点病院に集める集約化で、国も同様の方針を打ち出した。

 産科医が4人に増えた砂川市立病院では、医師が休みを確保できるうえ、治療方針を検討しあうなど、手厚い体制で事故防止の点でも前進した。

 高度な医療も実現した。北大に同調し、札幌医大小児科も、砂川市立病院への派遣医師を増やし、未熟児などを治療するNICU(新生児集中治療室)が開設されたのだ。

 同病院産婦人科部長の武田直毅さんは「以前なら札幌や旭川に搬送していた妊婦や新生児も、この地域で治療できる」と話す。

 産科医の再配置には2年かかった。産科医不在になるのを嫌う自治体を説得するため、北大産婦人科教授の水上尚典さんは「産科医を巡る厳しい状況を粘り強く説明した」と振り返る。

 ただ、砂川市立病院ではお産の件数は2倍になったのに、看護師・助産師は増えていない。募っても集まらず、市職員であるスタッフを他市から移動させることも難しいからだ。自治体の枠を超えた体制整備が求められる。

(2006年2月1日  読売新聞)


新聞記事:産科医不足問題(島根・隠岐諸島、神奈川県、長野県)

2006年04月05日 | 地域周産期医療

**** 朝日新聞 2006/04/04
http://www.asahi.com/life/update/0404/005.html

産婦人科医が不在、分娩できず 島根・隠岐諸島
2006年04月04日21時26分

 島根・隠岐諸島にある唯一の総合病院、隠岐病院(島根県隠岐の島町)で16日以降、常勤の産婦人科医がいなくなり、隠岐地域での分娩(ぶんべん)が事実上できなくなる。県による病院への医師の派遣期限が15日で切れ、後任のめどが立っていないためだ。このままでは85キロ離れた対岸の松江市内などで出産するしかなく、妊婦や島民の間に「経済的にも精神的にも負担」との不安が広がっている。

 同病院は、県と隠岐諸島の4町村でつくる隠岐広域連合が運営。約2万4000人が住む隠岐地域でただ1カ所、分娩対応ができ、年間百数十件の出産に対処している。

 病院勤務の産婦人科医は従来、島根医大(現・島根大医学部)から派遣されてきたが、派遣できる医師が不足するなどして04年に途切れた。地元に助産師はいるが、原則として医師の指導の下で活動しており、単独での分娩には携わらないという。

 このため、県は04年10月から県立中央病院(同県出雲市)の勤務医を今年3月末までの期限付きで派遣。広域連合はこの間、医師探しに奔走し、昨夏になって関西の医師から赴任の内諾を得たが、家族の病気で急きょ、着任できなくなったという。

 広域連合は医師の派遣延長について県に要請したが、「中央病院でも産婦人科医が不足しており、これ以上延ばせば県東部にも影響が出かねない」(県医師確保対策室)との理由で15日までの延長にとどまった。今後は週に1回程度、中央病院の医師が定期検診に来島するが、分娩にはあたらない方針。

 隠岐諸島と松江市を結ぶ高速船は1日1往復、フェリーが1日2往復のみの運航。出雲空港行きの飛行機も1日1便しかない。広域連合は「出産間際になって船や飛行機で島外に出るのは危険」として当面の間、出産業務を中止することを決め、4日、隠岐病院で出産を予定していた妊婦58人を対象に説明会を開いた。今後も引き続き医師の確保に努める。

 8月に出産予定の20代の女性は説明会後、「島外での滞在費など経済的な負担だけでなく、留守の間、家族に負担をかける。陣痛が始まっても駆けつけてもらえない」と不安を訴えた。

 厚生労働省医政局指導課の担当者は「今回の事態は残念でならない。医療現場を離れた医師の再就業を支援するなど、医師不足解消への施策を進めていく」と話す。

**** 山陰中央新報 2006/04/05
http://www.sanin-chuo.co.jp/news/modules/news/article.php?storyid=527018006&from=top

隠岐病院、本土出産に経費支援

**** 神奈川新聞社 2006/03/29
http://www.kanalog.jp/news/local/entry_20413.html

3分の1が10年以内に「分娩中止へ」/県内産科

 過去三年間に分娩(ぶんべん)を行った実績がある県内百八十四の産科医療機関のうち、約三分の一が今後十年以内に分娩をやめる意向であることが、県産科婦人科医会(八十島唯一会長)の実態調査で分かった。同医会は医師不足の深刻化により、年間約一万件の分娩ができなくなると推計。限られた施設に分娩予約が殺到し、医療事故のリスクや身近でお産ができない"出産難民"の増加を危惧(きぐ)している。
 実態調査は二〇〇五年七月、医会加盟の病院・診療所計四百三十一施設を対象に実施。二百四十七施設は婦人科のみの診療か既に分娩を行っていないため、〇二~〇四年に分娩を行った百八十四施設に今後の意向を尋ねた。産科医の「分娩離れ」は全国的な問題だが、こうした調査は例がないという。
 医師一人か二人の診療所を中心に、六十二施設が分娩中止の意向を示した。中止時期は五年以内が四十六施設、十年以内が十六施設となっている。調査後、既に分娩をやめたところも出ているという。
 分娩中止後は、妊娠初期の検診や不妊治療のクリニックなどに転向するか、廃業するとみられる。
 医会副会長の平原史樹・横浜市大教授は「当直や緊急呼び出しが多い過酷な勤務条件と、出産時のトラブルに対する訴訟の増加が、産科医が分娩をやめる背景にある。開業医の高齢化が進む一方で、産科医を目指す若者も減っている」と指摘。新たに産科を開業しても、初めから分娩を行わないケースも多いという。
 県内医療機関の総分娩件数はここ数年、年間七万件前後で推移しているが、医会は実態調査でつかんだ各施設の分娩実績から、一〇年には約四千八百件、一五年は約一万八百件の分娩が不可能になると推計。とりわけ横須賀や小田原・足柄地域の影響が深刻とみている。
 医会は「分娩を行う産科は既にパンク状態で、横須賀市内の妊婦が横浜南部の医療機関で分娩を行うなどの影響が出始めている」と、全国的な傾向が県内にも表れている現状を説明。「県内の分娩受け入れの減少は少子化を上回るペースで進むため、医療機関の数で上回る都内などへお産の場所を求めざるを得ない人が増える」と危機感を強めている。

**** 毎日新聞 2006/04/05
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060405-00000047-mailo-l20

佐久市立浅間総合病院:県内初の院内助産所を検討 助産師が分娩介助 /長野

◇産科医不足で
 産婦人科の医師不足に対応するため佐久市の市立浅間総合病院は、助産師が産前産後のケアや産科医に代わって分娩(ぶんべん)介助を行う「院内助産所」の設置に向け検討を始めている。設置すれば、県内初の試みとなる。04年12月に同市内の産婦人科が分娩の扱いを中止したことから、同病院での出産数が急増。産婦人科医の負担を軽減するためと、赤ちゃんを取り上げるという助産師の本来の役割を見直し、医師と有機的な連携が取れる態勢作りを目指している。
 佐久圏域での新生児は年間1900~2000人で、分娩に対応できるのは佐久総合病院4人、浅間総合病院3人、小諸厚生総合病院2人、小諸市の個人病院2人の、4病院11医師。浅間病院の出産件数は04年度の11カ月間で324件だったが、05年度同期間は496件と53%増になった。医師3人で3日に1回の当直となり、負担に拍車がかかっている。3医師とも大学医局から派遣を受けており、大学病院自体が産科医確保で苦しい状態。将来にわたって派遣の保障がないのが実情だ。
 院内助産所は、産婦人科とは別に病院内に設置。専属の助産師がチームを組んで妊娠初期段階から妊婦のケアをしながら、正常分娩の場合に限り、医師に代わって赤ちゃんの出産を担当し、分娩後も新生児の育児指導までフォローする。家庭的な環境で出産が可能で、正常分娩に不安がある場合や、万一の時は、産科医や小児科医が直ちに駆けつけ対応できる。
 県内には同様な組織を持つ病院はなく、浅間病院では「助産師外来」を設けている埼玉県の深谷赤十字病院などの先進事例を研究しながら、現在いる13人の助産師とは別に、現場から遠ざかっている助産師有資格者をリストアップ。どのような態勢が可能か検討している。医師不足、高齢化対策は、医療機関、行政、医師会など地域全体で考えていかなければならない問題だが、根本的な対策は現時点では困難。同病院の佐々木茂夫事務長は「院内助産所の考えに『リスクはどうするのか』と懸念する医師もいるが、一つの手段として考えなければならない時にきている」と話している。【藤澤正和】

4月5日朝刊 (毎日新聞) - 4月5日11時1分更新

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長野県の分娩施設 5年間で20施設減少


週間医学界新聞記事:「周産期医療の崩壊をくい止める会」が緊急会見

2006年04月04日 | 報道記事

週間医学界新聞、第2677号 2006年4月3日
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2006dir/n2677dir/n2677_03.htm

福島県の産婦人科医逮捕に抗議

「周産期医療の崩壊をくい止める会」が緊急会見

 帝王切開中の大量出血により患者が死亡した件(2004年12月17日死亡)において,福島県立大野病院に勤務していた産婦人科医が,「業務上過失致死罪」および「異状死の届出義務違反」(医師法違反)で2月18日に逮捕された(3月10日には,福島地裁に起訴)。

 この事件を巡っては当初から,疑問や今後の診療への不安の声が全国の医療者・関係団体からあがっており,日本産科婦人科学会と日本産科婦人科医会も3月10日に抗議声明を出している。

 3月17日には,「周産期医療の崩壊をくい止める会」(代表=福島県立医大産婦人科教授・佐藤章氏,日本医学会会長・高久史麿氏,日本学術会議会長・黒川清氏)が,6520人もの賛同署名とともに,陳情書を厚労大臣・川崎二郎氏に提出。同会による緊急記者会見が同日,衆議院議員会館にて行われた。

 会見では,代表の佐藤氏が陳情書の概要を説明した。今回は,前置胎盤に癒着胎盤が合併するという稀有なケース(癒着胎盤は全分娩の0.01-0.04%)であることや,産婦人科医が1人しかいない僻地病院で起きたことを指摘。一定の確率で起こり得る不可避な出来事に対し,専門医として全力を施した医師ですら刑事責任を問われる事態に対し,「ハイリスク患者の“たらい回し”が全国各地で一挙に広がることにならざるをえない」とした。

 さらに,事故を個人の責任ではなくシステムの問題として捉えることが重要であるとして,(1)分娩の安全性確保のための総合的対策,(2)周産期医療に携わる産科医・小児科医の過酷な勤務条件の改善,(3)医療事故審査のための新たな機関の設立,の3点を提案したことを明らかにした。

 なお,1週間で集まった6520人の署名のうち,医師は5560人。その中で産婦人科医は1250人と,全体の2割程度。産婦人科に限らず,多くの診療科の医師・看護師らがリスクを伴う診療を日夜続けており,“刑事事件”という異例の事態に,全国の医療者が危機感を募らせた結果と思われる。

 「周産期医療の崩壊をくい止める会」では,当該医師の無罪実現に向け,今後も署名・陳情などの活動を続ける予定だ。陳情書の内容や署名方法は,同会が作成した下記HPを参照されたい。

http://perinate.umin.jp


千葉県産科婦人科医会の声明

2006年04月03日 | 大野病院事件

http://www.chiba-og.jp/osirase.asp

千葉県産科婦人科医会のホームページより転載

福島県立病院産婦人科医師逮捕に対する千葉県産婦人科医会の対応について

すでに、会員の皆さんはご存知のことと思いますが、本年2月18日に、帝王切開術後の妊婦死亡により、手術を担当した福島県立病院の産婦人科医が逮捕される、という事件が発生しました。詳細については、不明な点も少なくありません。しかし、千葉県産婦人科医会では、現時点で司法当局から明らかにされている逮捕、起訴の理由は、明らかに不当であることを確認し、関係団体とともに抗議活動および逮捕された医師への支援募金活動を行うことを理事会において決定しました。会員の皆様の協力、支援をお願いいたします。

   声明

 千葉県産科婦人科医会会長   
 八田 賢明

 はじめに、今回亡くなられた患者様とそのご遺族に対し心より哀悼の意を表したいと存じます。

 お産や手術に際して、担当した患者様が亡くなられる事は、ご家族と同様に、周産期医療に携わるものにとっても大変残念で悲しい事であり、医療の限界を痛感させられるものです。

 平成18年2月18日、帝王切開中の大量出血により患者様が亡くなられた件で、福島県立大野病院産婦人科医師が業務上過失致死ならびに医師法違反の容疑で逮捕され、同年3月10日起訴されました。
 私たちは、医療上の不幸な転帰に関して遺族への保障制度がない我が国では、今回のような事例が民事事件として取り扱われることもやむを得ないかと考えます。
 しかし、診療にあたった医師個人の逮捕、勾留、起訴という司法当局の対応については、座視することはできず、強く抗議の意志を発せざるを得ません。 

1、業務上過失致死容疑について

 ①癒着胎盤の予見について
 現代の医療水準において癒着胎盤を事前に診断することは極めて困難であると考えます。
 ②多量出血に対する対応
 医療には100%安全で、確実であるということはありません。それゆえ最善を尽くし診療に当たったとしても、ある一定の頻度で不幸な出来事が起こることを避けることはできません。同様な事例は、産科医が1人しかいない施設のみならず、複数の産婦人科医がおり、輸血が準備できる高次周産期医療施設でも起こりうると考えます。
 以上より司法当局の判断には、医学的な見地との間に隔たりがあり、この判断に基づく逮捕・起訴は誤りであると私たちは考えます。 

2、医師法違反-「異状死」の解釈およびその届出について

   臨床の立場から、「異状死」とは診療行為の合併症としては合理的に説明できないものと考えます。本件では出血による出血性ショックという報告書の結論もでており、異状死の定義には該当しないと判断します。届出については、県立大野病院の「医療事故防止のための安全管理マニュアル」に従い、 病院長へ報告ならびに事故報告もなされおり、医師個人の届出義務違反にも該当しないと考えます。
 また、報道されるように今回の医師の逮捕・勾留・起訴の発端が「事故報告書」であったとすると、私たちが診療行為の中で起こったインシデント、アクシデントを反省し、再発防止に努めようとする自浄作用を妨害し、今後の医療の安全性の向上を妨げるものであると考えます。 

3、逮捕・勾留について

  平成17年3月に県立大野病院事故調査委員会が事故調査を行い、報告書を作成し、行政処分が行われ、同年4月には県警が提査・証拠書類の押収を行ったと報道されています。さらに当該医師は、病院での処分後も当該病院にて産婦人科医師として診療に従事していたのとことです。これらの情報が正しいとすると「証拠隠滅及び逃亡の恐れがある」として逮捕・勾留が行われことは県警・検察の強権的暴挙と言わざるを得ません。
 
 加藤医師に対する逮捕、勾留、起訴については、すでに日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会の共同声明や産婦人科医会各県支部およびさまざまな関係団体から多くの抗議声明がなされています。しかし、それ以上に産婦人科医だけでなく実際に臨床に関わる多くの医師が個人として、抗議、危惧の声をあげています。これは、このような不幸な事例に対して個人の医師の逮捕、勾留、起訴という形での対応しか取れない社会では、今後個々の医療者が、医療を必要とする人々に良心的な医療を提供できない状況が起こりうることが容易に想像できるからに他なりません。
 
 自発的な意志による加藤医師支援募金署名活動に賛意を示し、この逮捕・勾留・起訴が不当であると判断し、強く抗議します。
 
 1) 医療事象に対する第三者による調査機関の早期設立、
 2) 医師法21条の「異状死」の解釈の統一化、
 3) 医療者に対する「逮捕」・「勾留」の適応についての明確化
 4) 「事故報告書」の適応外使用の禁止、


若手医師、地方離れ 新研修制度で流出

2006年04月02日 | 地域周産期医療

都心の大学病院は以前とほぼ同数の新人医師を確保できているのに対して、地方では確保できた新人医師数が以前と比べて激減した大学病院が多く、その結果として、地方では産婦人科や小児科などが休診に追い込まれたりする病院が続出し、地方での医師不足が非常に深刻化しています。

大学病院と関連病院とでしっかりと提携して、田舎であっても、若手医師にとってそこそこ魅力のある専門研修ができる病院を目指して頑張って、新人医師確保にも微力ながらできる限り協力していきたいと考えています。

****** 読売新聞、2006年3月29日

若手医師、地方離れ 新研修制度で流出

大学病院、確保半減も

 新人医師の診療能力の向上を目的に臨床研修が義務化され、その1期生が研修を終え、来月から希望の進路に進むが、大学病院の医師確保人数は平均51人で、従来に比べ29%減る見通しが、読売新聞の調査で分かった。

 特に地方では確保できた医師が半減した大学病院も目立ち、大学から医師の派遣を受けている地域の病院では、医師不足から病棟の縮小や休診に追い込まれるところも出てきた。

 厚生労働省は2004年度、新人医師に2年間、内科、外科、救急など各科を回って、総合力を身につけさせる新しい臨床研修制度をスタートさせた。従来、新人医師の多くは出身大学に残ったが、新制度では、大学病院のほか、一般病院での研修を選ぶ医師も増え、新人医師の受け入れ先が流動化した。

 読売新聞は、全国80大学に対し、研修を終えた医師の確保見込み数などを尋ねるアンケート調査を実施。53大学(回答率66%)が回答した。

 都心の大学は新研修制度導入前と、ほぼ変わらない医師を確保できそうだが、地方では、大分大62%減、独協医大(栃木県)57%減、琉球大は53%減など、激減した大学が多い。

 診療科別では、小児科は弘前大、産婦人科は弘前大、京都府立医大、琉球大などでゼロとなる見込みだ。

 都心の一般病院の方が、患者が多いため、診療経験を積む機会が豊富で、給料が相対的に高いこともあって、地方の大学病院が敬遠される傾向が表れた。

 その結果、大学病院の医師不足から派遣医師が引き揚げられ、病棟の半数を閉鎖したり、産婦人科や小児科を休診せざるを得なくなったりする病院も出ている。

(以下略)

(2006年3月29日  読売新聞)