勿忘草 ( わすれなぐさ )

「一生感動一生青春」相田みつをさんのことばを生きる証として・・・

6434の風

2007-01-17 23:51:24 | Weblog
 娘は冬になると、手袋を取り出しては、ため息をつく。手袋の指先はすり切れ、手首周りも緩んでいる。それでも捨てるとは言わない。

 この手袋は娘の13歳の誕生日に家庭教師から贈られたものだ。
その日、宿題を忘れた娘は 「これではプレゼントは渡せないよ」 と叱られた。帰り際、彼は玄関でくるりと振り向き 「はい、お誕生日おめでとう」 と笑いながら小さな包みを渡した。ふくれっ面の娘の顔がぱっと喜びに変わったのは言うまでもない。

 それから数週間後の1月17日、神戸を激震が襲った。翌日、尼崎の実家に避難を決めた。めちゃくちゃになった室内で、とりあえずの着替えをまとめた。娘はそのときにあの手袋をつかんだ。

 その青年が下宿で亡くなったと聞いたのはその1ヵ月後。今にして思えば、倒壊したアパートの下敷きになっていた青年の 「連れて行って」 という叫びだったのだろう。

 毎年あの日、あの時刻に、娘は公園の慰霊碑に「ふるさと」のメロディーをバイオリンで届ける。 「忘れないよ」 という娘の言葉に、風になった青年はろうそくの炎を吹き消す。今年は13回忌。

神戸市東灘区 小山るみさん 

-朝日新聞「ひととき」から-

 今年の干支「亥」は、十二支の十二番目の干支。同じ干支の十二年前の今日1月17日、6,434人の命を奪った阪神淡路大震災は起きた。その命には6,434通りの歴史がある。そしてその命に関わった人の数だけ悲しみがある。

6434の命は 
6434の風になって
あの大きな空を 
吹きわたっているのだろうか
2007.01.17