映画で学んだことがつながる、快感がありましたねー。
「ハンナ・アーレント」73点★★★★
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1960年、ナチス戦犯のアドルフ・アイヒマンが
逮捕されたというニュースが世界を駆け巡る。
ニューヨーク在住のドイツ系ユダヤ人で
高名な哲学者である
ハンナ・アーレント(バルバラ・スコヴァ)は
アイヒマン裁判の傍聴を希望し、
そのレポートをニューヨーカー誌に書くことになる。
しかし、彼女が裁判で見たアイヒマンは
世間が想像する“凶暴な怪物”ではなく
平凡でつまらない小男だった――。
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最近「コンプライアンス―服従の心理―」で学んだ
ミルグラム実験のもとになった、
“アイヒマン裁判”で見識を唱えた女性哲学者の話。
※映画「コンプライアンス」については、拙著『“ツウ”が語る映画この一本 2』で
社会学者・辻泉さんが詳細に語ってくださっていますので、ぜひご参考に!(宣伝じゃないよ!ん?笑)
なので
「なるほど!この話なのか!」という
合点度合いが高かったです。
アイヒマン裁判というのは
1960年代初頭、
ユダヤ人を大量虐殺したナチス戦犯のアイヒマンという男を捕まえて、裁判にかけてみれば
これが実につまらない凡庸な男で
「上司(ヒトラーね)命令に従っただけ」というもの。
ゆえに
「上司や組織からの命令というだけで
本人の人格などに関係なく
人は思いもしない残虐な行為をしてしまうものなのだ」ということを
その後、実証する基になった裁判です。
で、
当時この見解を表したのが
この映画の主人公であるユダヤ人哲学者、ハンナ・アーレント。
しかし当時、彼女の見解が
「なに言うてんねん」と、まったく受け入れられなかったということを
本作は描いているんです。
まあ最初は想像以上に生真面目な雰囲気で、
どうしようと思った。
でも、次第にその誠実さと
テーマに即した真剣さに、夢中になりました。
ハンナ・アーレント自身が収容所で
つらい体験をしているんですが
そんな回想シーンなどを一切挟まずに、
主演女優バルバラ・スコヴァの真摯で思慮深い表情と眼差しだけで
映画を持たせているのが、すごい。
周囲の無理解に負けずに、自分の思考を止めない彼女の
仕事にかける熱意と責任感に打たれた。
「どんな極限下でも思考を失うことが、人類を破滅に追いやる」という
彼女のスピーチは、
まさに、いまの時代の人々――
我々日本人にも、突きつけられていると感じましたね。
★10/26(土)から岩波ホールで公開。
「ハンナ・アーレント」公式サイト