映画「ボヘミアン・ラプソディ」が大ヒット中です。先日はアカデミー賞の前哨戦とも言うべき、ゴールデン・グローブ賞において作品賞と主演男優賞の2冠も獲得し、その勢いは止まりません。映画のヒットだけではなく、サントラ盤やクイーンのCDも売れていますし、中古アナログレコードなど軒並み値上がりの上、店頭から姿を消すほど売れています。
僕が11月、封切り2日目にこの映画を観に行った時は、まだ客席はガラガラ。「こういう映画は早く見ておかないとすぐに打ち切りになるから、早く来ておいて良かった」・・・なんて感想を友人にもらしていました。しかし、その時、既にヒットの兆しはありました。館内のお客は、僕のようにリアルタイムでクイーンを聞いた年寄りばかりではなく、大学生と言うより、高校生にしか見えないような女の子たちが客席に目立っており、その光景にすごく違和感を持ちました。どうして、こんな若い子が観に来ているのだろうと。
そこからは口コミでどんどん観客を動員し、クイーンは今、ブームになっていると言っても過言ではありません。CD、レコード、DVDだけではなく、廃刊になって中古で数万円も出さないと入手できないような本が、続々と復刊していますし、これから発売になるものもあります。
クイーンは70年代から活躍を始め、80年代も売れたグループですが、それがなぜ今、またまた大ブームを巻き起こしているのでしょう?
実はクイーンのブームはリアルタイムでのブームの後、今回の「ボヘミアン・ラプソディ」によるブームが起きる以前にも何度かありました。91年にリード・ボーカルのフレディ・マーキュリーが亡くなり、グループが事実上活動停止になった時もそうでしたし、2004年に木村拓哉主演のドラマ「プライド」で、クイーンの楽曲が取り上げられた時も、「ボーン・トゥ・ラブ・ユー」が口火を切り、「ジュエルズ」というクイーンのベストがミリオン・ヒット、さらにゴールドディスク大賞も受賞しました。
「コンピュータゲーム1stジェネレーション以下の世代」がちょうど成人するか、その少し前あたりから、クイーンは再び売れ始めています。
コンピュータゲーム1stジェネレーション以下の世代(74年以降に生まれた世代)は、幼少期からこの機械的で正確なテンポ感に親しんでいます。全く普通の人たちでも音楽を聴くとき無意識のうちに体内でチ・チ・チ・チとクリック音が鳴っている。だから、クリックが希薄だった時代の音楽、例えば70年代のロックに驚き、新鮮に感じ、強く惹かれる若者層が出てくるのも、理に適っているのではないでしょうか?
僕は昔から洋楽が大好きでしたが、2000年を迎え音楽が、例えば、貧乏な欧米の若者たちがとにかくパーティで何時間でも流しっぱなしにするために生み出したラップミュージックなどが音楽シーンの主流になった時、クイーンだけではなく、もう70年代ロックなんて今の若い人には流行らないと考えていました。それが今、空前のヒットになっている。
邦楽でも昭和歌謡のような、歌詞に意味が込められていた奥深い音楽が、もう1度ヒットし、音楽が個人でイヤフォンから聴くものから、大勢でスピーカーから聴く時代に戻ってほしいと願っています。老若男女・大勢が一緒に音楽を聴き、時代を代表する音楽が生まれていく。それが温かい人間社会の復権につながると考えます。