ハノイ市民の憩いの場所、ホアンキエム湖から北に10分ほど歩くと、古民家の保存館に至る。
周囲は、旧市街の賑わいを呈するが、一歩この旧家に入ると、あたかも19世紀の中国風民家に住んでいるかのような錯覚に陥る。
入口には「HERITAGE HOUSE」と記され、館内を見通すと、そこはもう別世界だ。
室内は、当時の生活を彷彿とさせるように、居間、寝室、トイレなどが保存・公開されている。
ロビーから中庭を見ると、赤い布を掛けられた鳥籠がつるされていて、中には、何やら九官鳥のような大きな鳥が飼われていた。
中庭には、当時の農作業に使われたと思われる笊や蒸し器のようなものが置いてあった。
また、盆栽や観葉植物なども置かれていて、住人の目を慰めている。
これは、書斎の机と椅子。簡素だが、気品さえ感じられるしっかりした造りだ。
刺繍の作業台と完成間近かの刺繍。当時の街並みをあらわした絵柄だが、かなりモダンなデザインだ。
これは、2階のテラスの様子。夏場は、かなり湿気が多い土地柄ゆえか、こうしたオープンスペースがどうしても必要だったようだ。
これは、この保存館で定期的に演奏される「カー・チュー」の公演パンフレット。
「カー・チュー」は、ベトナム最古と言われる伝統芸能で、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている。
一種の雅楽のような楽曲で、弦楽器・ダンダイ(Dan Day)、打楽器・ファック(Phach)、太鼓・チョンチャウ(Trong Chau)などの伝統楽器の哀切感ある調べに、歌い手がベトナム古語の詩を情感豊かに歌い上げるという。今回、これを聴く機会には恵まれなかった。