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「アンドルー・ラング世界童話集」の第4巻『きいろの童話集』を読み終える。その中の「北方の竜」という童話が印象深かった。
あらすじの一部は以下の通り。訳を担当されたおおつかのりこ氏にはあらかじめ私の勝手な言い回しの失礼をお詫びします。
恐ろしい怪物が北方からやってきて各地を荒して人も獣も食べつくしていた。このままの状態でいけば、生きとし生けるものはこの世から姿を消すということで皆は恐れていた。その怪物は竜で雄牛の体に、蛙のような短い前足と二本の長い後ろ足をもち、蛇に似た長さ18メートルに及ぶ尾を持っていた。一つの所に数年留まり、辺りの生き物を食べつくしてから次の地に移るという習性があり、これは不幸中の幸いだった。石よりも鉄よりも固いうろこで全身がおおわれていて、この怪物をしとめるのはなかなか難しかった。
このあたりの王様は困って「とにかく怪物を退治したものには、たくさんのほうびをつかわす」というおふれをこぞって出した。ある者が竜の居ついた広大な森に火を放ったが、火などものともしないこの竜には無駄なことだった。
さて、この国の賢者の間には言い伝えがあり、それはソロモン王の刻印の入った指輪を持つ者が竜を倒すというものだった。その指輪には秘密の文句が刻まれていて、これを読み解くことのできる知恵者にのみ、竜を退治する方法が明かされる。けれども、その指輪のありかを知る者はいず、指輪の文句を解き明かせる魔術師や賢者がいるのかどうかさえ不明だった。
だが、ついに善良で勇気溢れる若者が登場して指輪探しの旅に出ることになった。この若者は数年かかって名高い東の魔術師に出会う。「人間の知恵などわずかなものじゃ。そなたを助けることはできぬ。だが、鳥の言葉が分かれば、鳥が指輪へ導いてくれるだろうて。幾日かここに留まるのなら、鳥の言葉が分かるよう、わしが手をかしてやろう。」とこの魔術師は申し出、若者はこれを有難く受け入れた。
魔術師は月夜の晩にひとりひそかに九種の薬草を積み、煎じて強い薬を作り、三日の間、日に9サジずつ若者に与えた。若者はこれで鳥の言葉が分かるようになった。魔術師はもしソロモンの指輪が見つかったなら、もどってくるようにという。指輪に刻まれた文句を読み解ける者は自分以外にはいないからと。
ここで話を飛ばすのをお許し願いたい。結論をいうと、この竜は若者に倒されたのだった。軍隊が束になってかかっても倒せなかった怪物をたった一人でしとめたこの若者は英雄として王様のお姫様と結婚することになった。数日のちには盛大な結婚式がとり行われ、宴は4週間も続いた。
ところが、国中が浮かれていたために、竜の巨体を埋めなければいけないことに、気づく者がいなかった。この間に竜の死骸が腐りだし、ひどい臭気に辺りにはだれも住むことができなくなり、そればかりか、国中に悪い空気が満ち満ちて、疫病がはやり、何百という人が亡くなった。
悪銭身につかずということわざ通り、ぬすんだ指輪は最後には王子に悪運をもたらしたと文中にあり、この後も話は続くのだが、今日はこの辺で。
最後に、印象深かった箇所について一言。「この間に竜の死骸が腐りだし、ひどい臭気に辺りにはだれも住むことができなくなり、そればかりか、国中に悪い空気が満ち満ちて、疫病がはやり、何百という人が亡くなった。」という部分に、毒性の強い物質が採取場一帯を汚染したとも思われ、今でいう公害のようなものが連想された。また、臭気がなくても、悪い空気が満ち満ちて誰も住むことができなくなると考えれば、福島第一原発の被災後の姿が思い起こされる。さらに「国中が浮かれていたために、竜の巨体を埋めなければいけないことに、気づく者がいなかった。」という部分には当座の目的を達成するも、後先を考えずにはしゃいでしまい、リスクを倍増させてしまう愚かしさを見てとることができる。昔から語り継がれた物語には、しばしば現代にも通じる生きるうえでの大切な戒めが秘められているように思う。
《きいろの童話集》