「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

BPDの自殺関連行動の自己統制モデル (1)

2013年08月29日 22時35分23秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 BPDの人は、 自分には価値がないという 深い感覚が込み上げて、

 感情にもてあそばれ、 失望と拒絶に耐えられなくなっています。

 彼らは それを自覚して受け入れるのが 極めて苦手なのです。

 自分自身の反応に対して 非常に批判的で、

 自己の 「無効化」 と 自己批判が生じます。

 認知的にも、 誤解されている, 誰も自分のことを気にかけてくれない,

 自分はどこか欠けている と感じています。

 彼らは 不快感を認識して 言語化する能力が未発達です。

 このような経験, 感情, 信念は、 自分が悪いという感覚に 通じていきます。

 自分の価値を認識してもらうため、 他者に強く頼ろうとします。

 感情の統制を欠いているので、 対人関係にすぐ失望して、

 低い自己評価への攻撃と 感じてしまいます。

 彼らは、 自分を動揺させた原因と 自分自身の両方に対して、

 制御されない怒りを感じて 半狂乱になります。

 自分が悪いという感情, 自分への怒り, 自己非難が、

 自殺や自傷行為につながっていくのです。

 自己統制モデルでは、

 自傷行為と自殺関連行動に ふたつのプラスの作用が あると考えられます。

(1) 自分に身体的な傷をつけること

(2) 自己、 特に感情を統制し、 心のバランスと 幸福の感覚を回復する

 患者は 耐えがたい感情, 思考を制御できないことに、 自己非難を伴っています。

 これは極めて惨めで、 例え数時間でも 永遠に終わらないように感じられます。

 この気持ちを変えるために 何かしなくてはならないという 強い欲求が高まり、

 自殺企図や自傷行為が生じるのです。

 それよって感情統制機能を回復し、 その後で気分が良くなります。

 従って、 自殺企図の後に入院しても 何の役にも立ちません。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
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自殺関連行動の伝統的モデル

2013年08月28日 20時52分50秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 メディアが描く 自殺に至るパターンは、 BPDの人に 当てはまるとは限りません。

 うつ病の人は 何らかのストレスや喪失体験のあと、

 絶望や孤立を経験し、 生きるに値しないと感じて、 自殺企図に走ります。

 その試みが失敗すると、 動揺するのが通例です。

 このような 伝統的な自殺行動のモデルは、 BPDの人には当てはまりません。

 BPDの人は多くの場合、 自殺企図と自傷のエピソードを 同様に語ります。

 自殺企図の後、 気分が良くなったと 感じる傾向があるので、

 自傷行為と同じく 感情統制機能があると考えられます。

 あるBPDの女性は、 大切な人に 強い怒りを感じると、

 罪悪感を覚え、 自己嫌悪が生じると言います。

 その状態から逃れるため、 自分の体に痛みを与えたり、 薬を過剰に服用したりし、

 辛い感情からの 解放感が得られました。

 彼女は、 自分の状況に対処するために 自分が何かをしたという 気持ちになり、

 「コントロールが戻った」 感覚を 経験したのです。

 その結果、 恐怖感や孤独感が減って、 死にたい気持ちが消えました。

 自殺企図の悪い影響は 残りませんでした。

 このように、 うつ病の自殺関連行動の伝統的モデルとは 明らかに異なります。

 BPDの人の自殺関連行動には 感情統制機能があるのです。

 BPDの人は 自殺を図った後に 気分が良くなるので、

 自殺企図によって 人の関心を引いたり 人を操作しているという、

 誤った結論を導く 恐れがあります。

 BPDの自殺関連行動には、

 そのリスクと管理方法を 判断するために、 別のモデルが必要です。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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自傷行為という体験

2013年08月26日 22時19分45秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 対人関係での喪失体験が、 それが現実でも想像でも、 自傷の引き金となります。

 その体験の解釈 (認知) において 自責や自己非難が生じ、

 統制が失われて、 自傷行為が起きます。

 激しい辛さが、 解離によって 感覚麻痺に陥りますが、

 辛さも感覚麻痺も 耐えがたいプレッシャーなので、

 自傷行為によって 解放感を感じたり、 感情のバランスを取り戻します。

 痛みを感じると 自傷行為をやめる人もいます。

 血を目にすると 悪い感情から解き放たれたと感じて、 自傷行為が止まる人もいます。

 自傷が 不快感を緩和すると言われますが、

 これは 自己懲罰による罪悪感の解放など 心理的要素と関係があります。

 ひとつの痛みが 別の痛みによって解消するという、 生理的メカニズムがあります。

 自傷行為によって エンドルフィンが生じ、 痛みを緩和するとも考えられています。

○ 認知と認知的要因

 自傷行為を行なう人は、 自傷行為に良い点があると 信じ込んでいますが、

 これは 「歪んだ認知」 です。

 彼らは、 感情的苦痛より 身体的苦痛なら耐えられると 思い込んでいます。

 ネガティブな感情を取り除くのは 自傷しかないと信じ、

 それで自分をコントロールできると 信じています。

 怒りのために 自傷行為する人にとっては、

 怒りを人に向けるのは 悪いことで、 自分を傷つけるほうが 良いことなのです。

 自分を罰したい人は、 自分が苦しんでしかるべきと 信じています。

○ 解離, 自傷行為, 痛みの経験

 自傷行為の最中に 痛みを感じない人は、

 うつ, 不安, 衝動性, 心的外傷, 性的虐待など、

 障害が重いと考えられます。

 無痛感覚は、 神経感覚的要因と心理的要因の 両方に関係があるともされます。

○ 生物学的要因と神経認知的要因

 自殺企図者は セロトニン機能が低下し、

 衝動性と攻撃性が高まることが 知られています。

 また、 ストレスに対する 神経内分泌系の過剰反応によって 自傷行為が起こり、

 コルチゾンの分泌が高まっています。

 自傷行為をする人の脳脊髄液の中では、 脳内麻薬物質の濃度が変化し、

 痛みの調整に 重大な障害が起きているとうかがえます。

 以上のことから、 全ての自傷行為に 生物学的基盤があると言えるでしょう。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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自傷行為の 理由とプラスの作用

2013年08月23日 22時41分17秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 一般に、 自傷行為は

 人の関心を集めるため, 人を操作するためにすると 思われています。

 しかし 自傷行為は隠されることがしばしばで、

 患者は自傷行為を 深く恥じていることがよくあります。

 自傷行為を図る前には、 患者はほとんど孤立しています。

 自傷行為の意図と その影響は区別すべきです。

 患者は感情に圧倒され、 人に与える影響を 気付いていないことも多いのです。

 けれども結果的に 人の注目が集まると、 元々 感情の統制が目的だったのに、

 得られる関心が望ましくなり、 自傷行為がやめられなくなることは あり得ます。

 以下は、 患者から報告される 自傷行為のプラスの作用です。

・ 感情統制

  極度の感情の緊張がほぐれて 気分が良くなるように感じられます。

・ 注意をそらすこと

  精神的苦痛を紛らわすために 行なわれることがあります。

  患者は 自己陶酔に類似した体験として 自傷行為に没頭します。

・ 自己懲罰

  激しい羞恥心, 後悔, 自分が疎外されているという、

  耐えがたい状態からの救いになるのです。

・ 精神的苦しみの具体的な確認

  目に見える証拠もないのに、 自分が恐ろしく感じているのは 信じがたいことです。

  傷痕やあざは 自分の精神状態を 具体的に証明するものになります。

・ 感情を制御すること

  患者は自傷をすると、 でき事や感情を 制御できると感じます。

  他者の行動や でき事から生じる 苦痛を制御しようとします。

・ 感覚麻痺と離人感の緩和

  この働きを 「現実回避」 と呼びます。

  BPDの人は、 感情的に過剰な負担を抱くと、

  感覚麻痺や離人感の状態に 陥るかもしれません。

  自傷行為はそれを緩和させてくれる 数少ない行為です。

・ 怒りのはけ口

  自分を傷つけることで、 怒りの感情を行動に移すのは、

  他人に向けて怒るより 安全で、 罪悪感が生じにくいと感じられます。


 自傷行為のプラスの面として 次のものがあります。

 感情的な辛さを 具体的な辛さに代える (59%), 自分を罰する (49%),

 不安と絶望感を和らげる (39%), 感情を制御できると感じる (22%),

 怒りを表出する (22%), 感覚麻痺や離人感の緩和 (20%),

 人に助けを求める (17%), 嫌な記憶を消し去る (15%)

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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自傷行為の背景と定義

2013年08月23日 22時40分18秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 自傷行為には2種類あります。

 ひとつは 実際に死のうとする 意図をもって行なわれるもの、

 もうひとつは 自分にダメージを与えても 死ぬ意図がないものです。

・ 自殺企図

 故意の自己破壊的行動で、

 少なくとも部分的に 死を意図してなされるものと 定義されます。

 しかし 個人の主観的意図を知るのは 難しいことです。

 事後の報告は、 再解釈や 行動の結果の影響を受けている 可能性があり、

 自傷した時点の精神状態を 表現していない公算があります。

 自傷行為の理由は様々で、 しかも自殺の意図が曖昧なので

 不確かなことが多くなります。

 また、 患者の意図の捉え方が 歪んでいることもあります。

・ 自傷行為

 自殺の意思のない 意図的な自己破壊行動と定義されます。

 BPDに極めて特徴的なものです。

 不安定になった感情を 改善しようと企てられたもので、

 BPDの人は それをはっきりと自覚しています。

・ 自殺関連行動

 自殺の意図のあるなしに拘らず、

 結果的に死に至らなかった いかなる自傷行為も含むものと 定義されます。

 自傷行為および あらゆる自殺企図が この範疇に入ります。

○ 問題の頻度と重要性

 BPDの人の75%が 自傷行為を行ない、

 50%近い人が 少なくとも1回の 深刻な自殺企図をしていると 推定されます。

 さらに BPDの入院患者の80%が 自傷行為を示します。

 自殺企図と自傷行為は、 当人の中では別物であり、

 意図と方法が 明らかに異なっています。

 自傷行為と自殺企図の 両方を行なうBPDの人は、

 自分の致命率を 低く捉える傾向があります。

 自殺の意図が曖昧でも、 致命率が低いわけではありません。

 薬物の過剰服用は 致命率が低いと思われがちですが、

 死ぬ意図が 乏しいとは限りません。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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自殺関連行動と自傷行為

2013年08月22日 21時12分28秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 BPDの自傷行為には 矛盾した逆説的な性質があります。

 自傷行為は 肉体的・精神的にも 並外れた苦しみを引き起こす一方、

 苦しみを和らげるために行なわれ、 実際 そのように体験されることが多いのです。

 肉体的な苦痛は、 精神的苦痛より まだ耐えやすいと言います。

 また 身体的な傷は目に見え、 精神的苦しみの具体的な証拠となります。

 患者は  「身体を傷つければ、 本当に自分を殺さなくてもすむ」  とも考えます。

 臨床家は入院させなければと考えますが、

 この行動が当人に 生き続ける「許可」 を与えてるとしたら、

 入院は不必要で 逆効果になりかねません。

 自殺企図の場合もそうです。

 このような誤った判断や誤解は、 自殺可能性に対する 過小評価と過剰反応という、

 BPDの自傷行為の もうひとつの逆説的側面に関わるものです。

 BPDの人は 自殺念慮を抱きながら、

 自殺を意図しない自傷行為, 自殺の脅し, 致命的でない自殺企図を

 行なうことがしばしばあります。

 周囲がそれを  「オオカミ少年の訴え」 と 見なすようになることもあります。

 そして 真の自殺の危険性を、 過小評価もしくは 無視するようになってしまいます。

 自傷によって 周囲の関心を集めようとしているという、 誤解が生じるのです。

 自殺関連行動は 多くの精神障害で起こりますが、

 致命的でない自傷行為が 些細なきっかけで繰り返されるのは、

 ほぼBPDだけのものです。

 そのため臨床家のなかには BPDの治療を嫌がる人もいますが、 残念な状況です。

 BPDの治療は いかにストレスが多くても、

 やりがいのある 実りの多い経験になります。

 患者は 慢性的な自殺念慮を振り払い、

 自傷行為をやめることができるようになるのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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BPDへの精神療法の効果

2013年08月15日 21時56分34秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 精神分析的精神療法を受けたBPD患者は、 標準的治療を受けた 人たちと比べて、

 うつ症状, 対人関係機能, 自殺企図と自殺行為の回数, 入院回数が

 有意義に改善したという 研究結果があります。

 BPDに対する 応急処置はないけれど、 長期間 精神力動的精神療法を続けると、

 大いに改善する可能性があると 結論付けられています。

 DBT (弁証法的行動療法) を 1年間受けた患者では、

 自殺関連行動と入院日数が 少なくなりました。

 また 同じ治療者の下に 長く留まっていたことや、

 薬物使用を減らす効果も 明らかになりました。

○ 精神療法のまとめ

 BPDは 特別のアプローチが必要な 精神障害です。

 充分な期間 適切な治療を受けることで、 大多数の患者が 確かに回復すると、

 臨床的にも実証研究からも 裏付けられています。

 古典的な精神分析の 初期の試みは成功しませんでしたが、

 それを修正した治療法は 多くの患者に有効です。

 精神分析理論に基づく 精神力動的精神療法では、

 意識されない思考, 感情, 行動のパターンを 患者が認識することが援助されます。

 認知行動療法では 技能訓練を通して、

 思考と行動の 破壊的なパターンの 認識と修正が行なわれます。

 全ての精神療法において、

 患者と治療者との治療同盟は、 成功に欠かすことができません。

 第一に優先すべきは、 患者が自分を傷つけないよう 安全を確保することです。

 薬物療法やその他のプログラムが 並行して必要なこともあります。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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認知行動療法 (2) 

2013年08月13日 21時14分54秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
○ BPDの認知図式療法

 発達早期に形成される 適応不全をもたらす 認知図式の概念では、

 それが幼少期に端を発し、 長期にわたって 広く浸透したテーマであり、

 個人の行動, 思考, 感情, 他者との関係を既定し、

 適応不全をもたらすものとします。

 この認知図式は 幼少期には有効でしたが、

 青年期になって 否定的な感情やもたらすだけになっても、

 認知を支配し続けます。

 認知図式療法では、 患者の思考の歪みを特定し、

 問題を繰り返しす考え方を 見直します。

 BPD患者に見られる 認知図式には、

 「見捨てられた子供」 「怒っている衝動的な子供」

 「懲罰的な親」 「冷淡な保護者」 「健康な大人」 が 明らかにされました。

 このうち 「健康な大人」 の様式を できるだけ強めていきます。

 面接の中で 患者の様々な認知様式を 見て取り、 適切な対策を学びます。

 例えば、  「見捨てられた子供」 の様式で、

 幼少期に満たされなかった 安全, ケアを受けること,

 自律性, 自己表現への欲求を 満たすように努めます。

 治療者は 共感と慈しみを通して、 患者の再養育を目指します。

 誘導されたイメージ, 心理教育, 自己主張訓練, ロールプレイなどの

 認知行動療法の技法が用いられます。

○ BPDの STEPPS集団治療プログラム

 感情の信頼性と問題解決のための 訓練システム

 (STEPPS : Systems Training for Emotional

 Predictability and Problem Solving) には、

 ふたつの段階があります。

 20週間の基本的技能の集団療法と、

 1年間にわたる 毎月2回の集団プログラムです。

 後者は、 目標設定, 信頼することと挑戦すること, 怒りへの対処,

 衝動性のコントロール, 対人関係行動, 台本を書くこと, 自己主張訓練,

 あなたの人生の旅路, 認知図式の再検討から 構成されます。

 STEPPSは、

 BPD患者が激しい感情を 統制する能力に問題がある という仮説に基づいています。

 第1に、 変化が可能であることが 伝えられます。

 第2に、 感情マネジメント訓練, 認知図式と 引き金になる状況を 認識する技能,

 更に それへの反応の訓練が 行なわれます。

 第3には、 生活上の問題に対応するため、

 行動マネジメント訓練を中心とする 目標設定, リラクゼーション,

 虐待的行動の回避などの 技能を習得していきます。

 家族や その他の重要な人々の 参加も求められます。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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認知行動療法 (1)

2013年08月12日 22時22分04秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 認知行動療法では、 認識できる行動と思考に 焦点が当てられます。

 パーソナリティ障害は、 生まれながらの敏感さや 早期の社会的学習,

 時には 外傷的なでき事の結果、

 認知や思考の障害から 非適応的反応や歪んだ信念が 生じて発生します。

 固定化した 非適応的な思考の枠組みがあり、

 障害された認知-対人関係が 繰り返されます。

 このようなパターンは自動的になり、 当人は自覚しにくくなっています。

 行動は 環境からの条件付けによって 強化されると考えられます。

 不適応行動も学習されたもので、

 患者は学習の中で 問題を取り戻していくことによって 回復していきます。

 社会技能訓練, 自己主張訓練, 系統的脱感作療法,

 リラクゼーション訓練などがあります。

 認知行動療法は 行動と思考の 破壊的パターンを特定して、 修正していきます。

 治療者が より指示的な介入をすることで、 治療期間が短くなります。

○ 弁証法的行動療法 (DBT) 

 DBTは、 自殺の素振りや自殺企図に 効果的です。

 命の危険となる 行動を減らし、

 治療の妨げになる行動, 生活を損なう行動を 修正します。

 BPDは主に、 生物学的な敏感さと、

 感情的に受け入れられなかった 早期の環境との 相互関係による、

 感情統制の欠陥から 生じると考えられます。

 DBTでは、 患者の変化を促す一方で、

 患者の現在のあり方をも 受け入れなければなりません。

 患者を肯定すると同時に、 不適応的な思考パターンを修正し、

 新たな対処方法を教えていくのです。

 DBTは 次の8つの想定から 治療が決定されます。

(1) 患者は患者なりに 最善を尽くしている

(2) 患者は 改善したいと望んでいる

(3) 患者は一生懸命努力し、 回復の動機付けを強めなければならない

(4) 患者は 問題を解決しなければならない

(5) 自殺の危険性がある BPDの人の命は、 今の生き方では持ちこたえられない

(6) 患者は新しい行動を 身に付けなければならない

(7) 患者は 治療に失敗することができない

(8) 治療者にも支えが必要である

 患者は 週1回の個人精神療法と 週1回の集団技能訓練に、 1年間参加します。

 個人精神療法はプログラムの中心で、 治療者と電話で連絡することもできます。

 集団技能訓練は、

 マインドフルネス (気付き。 瞬間ごとの自分に 気付いていること) ,

 効果的な対人関係, 苦難を耐えること, 感情統制の問題への対応が、

 目指されます。

 患者が 新しい反応のレパートリーを 身に付け、

 それを用いていけるように 援助します。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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支持的精神療法, TFP

2013年08月10日 20時56分11秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
○ 精神分析に基づいた支持的精神療法

 これは 同一性の問題に焦点を当てています。

 患者の行動と思考過程は、

 非常にもろい自己感覚に 対処しようとするためだと考えます。

 患者が 「分裂」 を統合できるようにします。

 患者が最悪の時でも、 治療者が患者に 温かさや好意を 示していくことが必要です。

 患者が 自己感覚の変化を認識し、 同一性を経験することを促し、

 支持することも重要です。

 患者は、 否認したい部分も含め、

 自分自身のあらゆる部分の 価値を認めていくでしょう。

○ 転移に焦点を当てた精神療法 (TFP)

 患者と治療者が共同で、 治療の条件の契約と 構造を作り上げ、 それを維持します。

 BPDの衝動的な自己破壊行動, 混沌とした対人関係, 歪曲された知覚,

 断片化した同一性は、 精神の分裂のせいだと 考えられています。

 患者の中では、 相手のイメージと自分のイメージの 組みが、

 様々な感情のパターンと 関連しており、 それが統合されることができません。

 好ましいイメージが 忌ま忌ましいイメージに損なわれ、 破壊されるのを防ぐために、

 内的世界は無意識に分裂し、 断片と化しています。

 自己の部分同士が、 互いに排除しあったり、 否認しあったりすることが、

 その場限りの行動や 認知, 感情の原因と考えられます。

 TFPでは、 患者が治療関係で混乱した場合、

 相手と自分のイメージの組みを 特定します。

 今ここで起こっていることを 話し合い、 理解する共同作業を続けます。

 患者のイメージに働きかけ、 それに伴う苦痛を 扱うことによって、

 部分同士を統合していくようにします。

 安全な治療関係の中で、 患者の心の理解し、 変化をもたらしていきます。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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BPD治療の理論的モデル

2013年08月09日 22時43分13秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
・ 対象関係論

 患者と他者との関わりを、

 患者の最も早期の 経験や対人関係から 理解する理論です。

 強い影響力のある人 (対象) との 関係において、

 それに対応する 自分のイメージが形成されます。

 発達過程で生じる 対象関係の障害が、 問題を引き起こすと考えられます。

 子供にとって 人間関係が 「悪い」 ものとされ、

 適応不全が生じ、 有害な行動となるのです。

 対象関係論の治療モデルは、

 自己と他者の 病的なイメージを改善することによって、 回復を図っていきます。

・ 自己心理学

 患者の中には、

 他人から望ましい反応が 得られるかどうかで、 大きく左右されてしまう人がいます。

 心のバランスを保つために、 過剰な承認と確認を 必要とします。

 人から充分な 関心を受けるためには 完璧でなくてはならない,

 人のために行動しなくてはならないと 感じることがあります。

 治療の中では、 患者が治療者に認めてもらおうと、

 様々なふるまいを見せる  「鏡転移」 という形で現れます。

 治療者は 患者がそこから自由になれるように、 共同作業を進めます。

 患者の自己同一性を育むために、 共感が大切な役割を果たします。

・ 自我心理学

 自我心理学のモデルでは、

 心理的プレッシャーに対する 無意識の防衛機制が議論されています。

 例えば、 辛い経験や思考が 意識から無意識へと押し出される  「抑圧」 です。

 BPDの特徴のひとつに、

 「分裂」 (スプリッティング) という 防衛機制があります。

 感情的な混乱をもたらす 曖昧さや矛盾に 耐えられない人は、

 白か黒といった 極端な二分思考で 世界を捉え、

 完全に良いか悪いかの間で 揺れ動きます。

 境界性障害の根底には、

 自己や他者の 肯定的なイメージを破壊しようとする 衝動が存在します。

 その結果、 自分の精神を分裂させることで、

 悪いイメージから良いイメージを 守ろうとするので、

 自己概念が砕け散り、 同一性の問題が生じるのです。

 理想化と中傷が 入れ替わるパターンは、 治療にとって困難な問題になります。

 相反する気持ちや曖昧さに 耐えられるように,

 そして 内的な世界を統合できるように、

 このパターンを 自覚できるよう援助していくのが 治療の課題です。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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外来精神療法, 精神力動的精神療法と精神分析

2013年08月05日 20時53分01秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
外来精神療法

 治療者と治療同盟を築くのは 根本的な目標です。

 支持的なスタンスは、 患者に治療参加を促し、 治療を継続するために必要です。

 治療関係は、 患者がどのような問題を 抱えているかを教える,

 患者の自己評価を高める, 不安に対処することを援助する 場となります。

精神力動的精神療法と精神分析

 精神力動的/精神分析的アプローチでは、

 意識的・無意識的なパターンに 焦点が当てられます。

 転移に取り組んだり、 治療関係そのものを 対人関係のモデルに役立てたりします。

 BPD患者は 長椅子に横たわる方法が 合う人もいれば、 困難な人もいます。

 表出的要素と支持的要素を 組み合わせて行ないます。

 解釈を通して 無意識の葛藤, 思考, 感情を明らかにしていく (表出的な介入)

 のが適切な場合もあれば、

 患者の対応能力を高めていく 支持的アプローチが好ましい場合もあります。

 無意識についての話し合いは 侵襲的なため、

 中には急激に パーソナリティの脆さを 露呈させる人もいます。

 そこでは 支持的で共感的なコミュニケーションによって、

 治療同盟を築いていくのが効果的でしょう。

 患者が表出的な介入に 耐えられるようになるまで、

 相当の期間がかかるかもしれません。

 個々の状態に応じて、 表出的介入と支持的介入を 行ったり来たりしながら

 柔軟に対応することが求められます。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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BPDの精神療法

2013年07月13日 22時10分31秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 1950~60年代の 古典的な精神分析は、

 BPDの多くの患者に 効果がなく、 害をなすこともありました。

 BPDの患者は 分析の治療に 最初から耐えられないことが多く、

 見捨てられたと感じてしまいます。

 対話 (言葉) による治療は、 混乱した行動に 対応しきれませんでした。

 しかし 精神分析の理論的・技術的な 革新と修正によって、

 精神分析と精神力動的精神療法は、

 現在 BPD治療の 選択肢のひとつとなっています。

 70年代以降 多くの治療法が開発され、 認知行動療法もBPDに適用されています。

 BPDの治療で 第1に優先すべきことは、 自傷他害を回避することです。

 個々の問題ごとに、 患者に適切な治療のレベルを 設定することも推奨されます。

 第2の長期的目標は、 非建設的で有害な生活のあり方を、

 より柔軟な思考や行動パターンに 置き換えていくことです。

 BPD治療では特に、 治療者と患者の 治療同盟は治療の根本です。

 患者の多くは、 自分の周りの人に対してだけでなく、

 世界そのものにも 信頼を失っています。

 そのため治療同盟を築くのは しばしば困難です。

 治療を始める際には、 患者と治療者の 相性のよさがとても大切です。

 最初に数回面接をして、 快適に話せるか, 治療を受け入れられるか,

 治療者に充分な能力があるかなどを 検討することが勧められます。

 また 集団技能訓練が行なわれることもありますが、

 患者に合っているか 検討しておくべきです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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BPDの要因

2013年07月11日 21時05分27秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
○ 性差

 DSM-Ⅳ-TRによると、 BPDの男女比は 1:3とされています。

 診断の偏りの可能性か、 男女の生物的・ 社会的要因の違いの 可能性があります。

 性差別のために、 女性患者のほうに BPDの誤診が多いとしたら、

 診断的偏りが生じることになります。

 怒り以外のBPD診断基準が、 若干女性に特徴的と見なされてしまいますが、

 男女の罹患率の違いを 充分説明できていません。

 罹患率に性差があるとすると、 生物的・ 社会的要因の結果でしょう。

 遺伝的影響による傾向

 (感情的であること, 衝動性の強さ, ストレスに対する弱さ) は、

 女性において頻繁に見られます。

 性的虐待は、 女性が男性より 10倍多くあります。

 育てられ方の違いによって、 ストレスに対して

 男の子は外向き・ 行動的に、 女の子は内向き・ 感情的になるようになるのです。

○ 生まれと育ち

 BPDの確定診断が 一致する確率は、

 一卵性双生児では35%ですが、 二卵性双生児では7%です。

 感情的であることや衝動性も 遺伝します。

 不安, 感情不安定, 認知的統制不全, 同一性障害, 不安定な愛着なども、

 かなりの遺伝性が認められます。

 これらから、 BPDは 遺伝的影響が強いことが窺えます。

 幼少期の不遇な経験 (養育放棄, 過剰なコントロール) も、

 BPDを含むパーソナリティ障害に 関係があるとされます。

 しかしこれらは BPDだけに認められることではありません。

 幼少期の外傷的体験も BPD特有ではなく、

 虐待された体験のある成人の 80%は 何の精神障害も発症していないのです。

 遺伝的素質が環境的要因と 相互に関係していると考えられます。

 脆弱性がある人は、 ストレスに対して BPDを発症しやすくなります。

 また、 素質的特性によって ますます環境的ストレスに 晒されることもあります。

 衝動性や感情不安定の気質があると、 その子は虐待されたりし、

 衝動や感情の障害を生じる 可能性が高まるのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 から

2013年07月08日 22時11分24秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 2006年に星和書店から発刊された、

 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 より 要約・抜粋したものを、

 本日から 紹介していきたいと思います。

 J・G・ガンダーソンと P・D・ホフマンによる編纂で、

 「BPD家族会」 でもお世話になっている 林直樹先生,

 および 佐藤美奈子さんが訳されています。

       * * * * *

 境界性パーソナリティ障害の核心は、 対人関係の障害, 感情・情緒の統制不全,

 行動の統御不全 または衝動性という、 3つの基本障害からなっています。

 DSM-Ⅳの診断基準の他にも 特徴があります。

 例えば、 人から何を期待されているか 分からないときに

 退行する傾向 (子供じみた行動や期待を 示す傾向) です。

 また、 愛着関係を 極めて不安定なものと感じており、 現実の人間だけでなく、

 人間を連想させるもの (ぬいぐるみなどの移行対象) にも しがみつきます。

○ 何についての境界か? 

 BPDは 非定型の (典型的ではない) 感情障害ではないか

 という議論がありました。

 BPDに感情障害が 合併することはありますが、 感情障害だけでは、

 BPDの見捨てられ恐怖, 特殊なタイプの対人関係, 衝動性を説明できません。

 BPDの要因として 幼少期の虐待や、

 PTSDの合併に 関心が寄せられたこともあります。

 BPDとPTSDの 共通性は明らかになっていますが、

 BPDの精神病理と機能障害は、

 PTSDの一種として理解するのは 不可能だと考えられます。

 BPDが 他の精神障害との 境界に位置づけられるのではなく、

 独立した精神障害なら、 「境界性」 という名称は もはや有効ではありません。

 最もよく提唱されるのが、 「感情統制不全障害」 「感情統制障害」 です。

 感情の不安定性が BPDの中心的な障害である という考えです。

 この障害に、 感情不安定性と衝動コントロール障害の 両方があるという考えでは、

 「感情/衝動統制 (不全) 障害」 が 提案されています。

 しかし BPDの基本的な部分が 把握されていないため、

 名称を決める 科学的基盤がありません。

 BPDという名称は すぐには変わることはないでしょう。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
 
 2006年に星和書店から発刊された、

 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 より 要約・抜粋したものを、

 本日から 紹介していきたいと思います。

 J・G・ガンダーソンと P・D・ホフマンによる編纂で、

 「BPD家族会」 でもお世話になっている 林直樹先生,

 および 佐藤美奈子さんが訳されています。

       * * * * *

 境界性パーソナリティ障害の核心は、 対人関係の障害, 感情・情緒の統制不全,

 行動の統御不全 または衝動性という、 3つの基本障害からなっています。

 DSM-Ⅳの診断基準の他にも 特徴があります。

 例えば、 人から何を期待されているか 分からないときに

 退行する傾向 (子供じみた行動や期待を 示す傾向) です。

 また、 愛着関係を 極めて不安定なものと感じており、 現実の人間だけでなく、

 人間を連想させるもの (ぬいぐるみなどの移行対象) にも しがみつきます。

○ 何についての境界か? 

 BPDは 非定型の (典型的ではない) 感情障害ではないか

 という議論がありました。

 BPDに感情障害が 合併することはありますが、 感情障害だけでは、

 BPDの見捨てられ恐怖, 特殊なタイプの対人関係, 衝動性を説明できません。

 BPDの要因として 幼少期の虐待や、

 PTSDの合併に 関心が寄せられたこともあります。

 BPDとPTSDの 共通性は明らかになっていますが、

 BPDの精神病理と機能障害は、

 PTSDの一種として理解するのは 不可能だと考えられます。

 BPDが 他の精神障害との 境界に位置づけられるのではなく、

 独立した精神障害なら、 「境界性」 という名称は もはや有効ではありません。

 最もよく提唱されるのが、 「感情統制不全障害」 「感情統制障害」 です。

 感情の不安定性が BPDの中心的な障害である という考えです。

 この障害に、 感情不安定性と衝動コントロール障害の 両方があるという考えでは、

 「感情/衝動統制 (不全) 障害」 が 提案されています。

 しかし BPDの基本的な部分が 把握されていないため、

 名称を決める 科学的基盤がありません。

 BPDという名称は すぐには変わることはないでしょう。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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