「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

予後と、これからの研究の方向性 (2)

2008年07月07日 21時06分21秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54989981.html からの続き)
 
・「生まれ」 と「育ち」 の境界線

 BPDも 遺伝的要素があるのは、ほぼ確かだと言われます。

 複数の遺伝子が BPDに関係していて、

 深刻な環境のストレスによって 発症する思われます。

 例えば、「高報酬依存」 (誉められたいという強い願望) や

 「危険性回避の低さ」 (危険を犯し続ける) という 生まれつきの特徴は、

 特定の染色体に関係しており、多くのBPDの人の行動に 影響しています。

 気分,攻撃性,衝動性といった 遺伝的な不安定さも、

 BPDの発症に 結びつくかも知れません。

 人格的特徴は 環境によって形成されると、広く認識されています。

 早期の見捨てられ体験や 性的虐待が、BPDの発症に 関係していると思われます。

 フラストレーションや、人間関係・心の拠り所の欠如も、

 生まれつきの弱さと重なったとき、BPDを生み出すでしょう。

 将来、気質的な脆弱さを示す 遺伝的マーカーが見つかれば、

 BPD発症の前に 予防することが可能になるかもしれません。

 家や学校で 注意することよって、不幸を防ぐことができるようになるのです。
 

・治療モデルの構想

 理想的な治療施設には、次のような条件が必要です。

1.患者一人一人の ニーズに合わせた、継続的で個別的な 治療が施される。

  入院,部分入院,外来施設などがある。

2.治療者は訓練を受け、経験豊富で 意欲を持っている。

3.個人療法,集団療法,家族療法がそろっている。

4.絵画・芸術療法,音楽療法,ダンス療法,サイコドラマ,運動・栄養の相談など。

5.新しい薬物療法が可能で、精神療法と組み合わされる。

6.専門家間で 定期的なミーティングを設け、協力体制が整っている。

7.スタッフの研修とスーパーヴィジョンが 継続的に行なわれる。

  研修や情報交換があり、テクニックを向上させる。

8.患者のための 研究活動が行なわれ、雑誌や本が刊行される。

9.BPDの人のサポートグループが 地域社会で育てられる。

  患者と家族,パートナーの教育がなされる。

10.早期治療の経済効果を認識し、社会的な協力体制を取る。

11.精神医療,BPDに対する 社会の理解を広める。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より〕

(以上)
 
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予後と、これからの研究の方向性 (1)

2008年07月04日 20時27分33秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
 欧米でBPDの予後は、以前よりずっと 期待が持たれています。

 40代までには、治療の有無に関わらず、BPDの人は改善していきます。

 もちろん治療は その過程を早くします。

 B群のパーソナリティ障害 (BPD,自己愛性,演技性,反社会性) は、

 A群 (エキセントリックなグループ) やC群 (不安なグループ) の

 パーソナリティ障害より、改善する傾向があります。

・短期治療の成績

 最初の1年間で 症状の著しい改善は あまりなく、

 この間に ドロップアウトしてしまう人が 少なくありません。

 2年間で 目に見える改善があっても、BPD的な言動は残ります。

 重度の機能障害と 激しい衝動性は、短期間の治療では 改善が見られにくいものです。

・長期治療の成績

 入院治療を受けたBPD患者は、その後の治療がなくても、

 10年後には 66%が中程度の回復をしています。

 約40%の人が、BPDの診断基準を満たさなくなります。

 通常、仕事の上でも 安定することが多い一方、

 人間関係や家族に 満足できるのは少ないようです。

・治療の役割

 様々な形態を組み合わせた 積極的な治療を行なうと、寛解率は7倍にもなります。

 定期的な治療を受けた患者の 50%以上が、

 治療開始15ヶ月後には 完全に回復したと言います。

 未治療の患者は、50%が回復するのに 10年半以上かかりました。

 衝動性は 一番早く消失し、次に 認知のゆがみと対人関係が 改善されました。

 気分の不安定さは より慢性的で、完全に改善するまでに 長い期間が必要でした。

・ジェンダー格差

 女性は結婚,子育てなど、人生の 様々なできごとに対して、

 気分が落ち込んだり 押しつぶされそうになりやすいと言われます。

 女性は 恋愛に慰めを求めることが 良くあります。

 その関係が悪化すると、症状も悪化してしまいます。

 一方 男性は、法に触れる 問題を起こしたり、物質乱用の傾向があります。

 女性に比べて、仕事に拠り所を求め、

 AA (アルコール依存症の治療プログラム) のような 組織に属することも、

 改善に繋がります。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/55030697.html

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 
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治療方法 (7) (SET/UP)(2)

2008年07月02日 21時33分46秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54935234.html からの続き)

 支援,共感,真実 (SET) は、どれも同じ比率で 表現されるべきです。

 真実が 支援や共感に勝ると、歪んだ愛の鞭になり、

 逆に真実がなくて 支援と共感だけだと、馴れ合いになってしまいます。

 BPDの人に 気持ちが伝わらなければ、支援のメッセージを繰り返すべきです。

 でも 水掛け論になってはいけません。

 そういう時は、BPDの人の不信感を 受け止めた上で、共感の言葉を送ってみます。

「あなたは今まで 辛い経験をしてきたから、

 人の誠意を信じることは 難しいかもしれないけれど」 などと。

 BPDの人が 「私の気持ちなんか分かってない」 と言ったら、

 BPDの人の痛みや苦しみを 受け止めていると伝えましょう。

 波風を立てまいと、BPDの人の要求に 同意してしまうと、

 BPDの人の責任転化を 後押ししてしまいます。

 BPDの人の認知を 更に歪めないよう、

 真実に直面し、限界を守りながら、お互いの責任を担いましょう。
 

 SETは 基本的な枠組みに過ぎません。

 個々人の性格や状況に 合わせていけば良いものです。

 建設的なコミュニケーションを保ちつつ、感情をコントロールするための 骨組みです。

 腹が立ったら、支援的で共感的な言葉で、

 フラストレーションのバランスを取りましょう。

 失敗しながら、次に何が必要かを 考えていけばいいのです。

 理解と根気強さが コミュニケーションの源です。

 これらを理解していけば、前向きで、腫れ物に触るような振る舞いは 避けられます。

 粘り強くやっていくことが 必要不可欠です。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 
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治療方法 (6) (SET/UP)(1)

2008年06月30日 20時37分00秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54891882.html からの続き)

 コミュニケーションの 「SET」 「UP」 システムを 紹介しています。

 「SET」 とは、

 Support (支援),Empathy (共感),Truth (真実) です。

 BPDの人と コミュニケーションを取るには、この3つの全てが必要です。

 「UP」 は、

 Understand (理解) と Perseverance (忍耐) で、

 BPDの人と周囲の人の 両方が目指すものです。
 

・支援,共感,真実

 まず  「支援」は、BPDの人に対して、

 「私」 を主語にした 「I (アイ) メッセージ」 で 伝えるようにします。

 例えば、「私はあなたのことが 気になっています」 「私はあなたの力になりたい」

 などのように。

 次に 「共感」 を伝えるときは、BPDの人の苦痛を 認めて受け入れる、

 「あなた」(BPDの人) を 主語にした表現をします。

 「あなたはこんなに 辛く感じているんですね」 のようにです。

 共感は、BPDの人が どのように感じたかであり、

 周囲がどう感じるか ではありません。

 同情 (「私はあなたがかわいそう」) でもなく、

 同一視 (「私も同じ経験をしたから分かる」) でもありません。

 同情は苛立ちを挑発し、

 同一視は 「そんな簡単に分かるわけがない」 という 怒りを引き起こします。

 支援と共感が伝わったとき、コミュニケーションは うまく続いていきます。

 3つ目の 「真実」 は、BPDの人が 問題を解決するために どうしたいのか、

 説明責任を表しています。

 支援と共感が、「私」 「あなた」 の 主観的な表現なのに対し、

 真実は 客観的にどうであるかということです。

 どんなに周りが 支援し共感しても、

 最後はBPDの人が 自分に責任を持たなければなりません。

 真実は、咎めることがないよう、中立で冷静に 表現することが肝要です。

「あなたのために 私は○○ができます。 ××はできません。

 あなたはどうしますか?」

 実践的な問題解決に 最も重要なことですが、

 BPDの人には 一番難しい作業なのです。

 責任転嫁して紛らわすのではなく、

 自分が責任を負うことによって 「分裂」 に向き合い、

 被害者感情に溺れる気持ちを 克服しなければならないからです。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54964092.html

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 
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治療方法 (5) (コミュニケーション技法)

2008年06月27日 20時51分02秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54866086.html からの続き)

 BPDの人と コミュニケーションするときの、一般的なアプローチを挙げてみます。

・自分自身の境界を維持する

 BPDの人は、二人の世界に没頭する 誘惑に駆られますが、

 お互いがそれぞれ 別個の存在であり続けることが 必須です。

 BPDの人に、自分自身の興味と才能を 追い求めるよう勧めましょう。

・責任を取りすぎない

 BPDの人が苦しんでいるとき、かたわらの人は 責任を感じるかもしれません。

 BPDの人を変えようとしたり、保護しようとしたりすることが、

 しばしば共依存と言われる 罠なのです。

・安全を確保する

 全ての人の安全を 最優先するべきです。

 もしBPDの人に 自傷・他害の恐れがある場合は、

 家を出る,警察を呼ぶ手段を 実行するということを、

 冷静かつ穏やかに 伝えなければなりません。

 道理を説いても無駄で、危険な行動に 対処することの方が大事です。

・矛盾を明らかにする

 BPDの人から 矛盾した要求を突きつけられ、

 全く “勝ち目のない” 状態に 追い込まれることがあります。

 理不尽な要求に対して、BPDの人に ボールを打ち返すことで、

 問題が解決することがあります。

 例えば 相手の矛盾を指し示し、その混乱をどうすべきかと 尋ねてみます。

 矛盾を解決する 責任を持たせるのです。

 または、どちらに転んでも恨まれる ( “してもダメ、しなくてもダメ ”)

 という予測を 示した上で、相手のために 自分が正しいと思うことを 決行します。

・予想できることを準備する

 次にどんなことが起こるか 予測できるようになれば、

 不適切な反応を 避けることができます。

 BPDの人の 不適切な言動について、こちらが予想できることを 穏やかに話します。

 BPDの人は 自分の言動が とんでもないものだと気付いても、

 理解や予想が可能であることに 心づもりができます。

 または 張り合う気持ちから、予測とは反対の行動を 取るかもしれません。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54935234.html

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 
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治療方法 (4) (弁証法的行動療法)

2008年06月25日 21時18分28秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54837215.html からの続き)

 弁証法的行動療法 (DBT) は 認知行動療法のひとつで、

 BPDに対する治療として 最も系統的な研究がなされています。

 この治療は、誤った考え方の癖 (認知) が 不適切な行動を招き、

 心理的な苦悩を招くという 仮説に立っています。

 感情のコントロール技術を学び、治療意欲を高めるために、

 週1回の 個人療法と集団療法を受けます。

 学んだ技術を 個々の状況で応用するため、電話相談も勧められます。

 治療には 4段階のステージがあります。

 ステージ1は、行動をコントロールするための スキルを伸ばします。

 ステージ2では、過去のトラウマに注目し、それを乗り越える手助けをします。

 ステージ3は、自尊心について取り組みます。

 ステージ4の目的は、一人でいても幸福と 感じられるようにすることです。

 
 DBTは 他の支持的療法に比べて、治療に取り組みやすく、

 自傷行為や入院が少なくすむ という結果が出てきます。

 物質依存や過食症の治療にも、期待ができるようになってきました。

 
 認知行動療法の修正版では、生活の中で 他者の存在を重んじています。

 このプログラムは 「STEPPS」 と呼ばれます。

(Systems Training Emotional Predictability and Problem-Solving)

 制御できない激しい感情に 重点を置いています。

 家族,友人,恋人,医療者など、BPD患者を取り巻く 交流関係を重視し、

 グループ教育が行なわれます。

 患者と周囲の人に、BPDに関する 情報を提供し、

 不適切な行動を変えるための 技術的トレーニングを行ないます。

 病気について知ってもらい、患者の役に立つための 方法を学んでもらうためです。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54891882.html
 
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治療方法 (3) (精神分析的療法)

2008年06月23日 19時48分13秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54779892.html からの続き)

 BPDの治療の根本は 精神療法で、薬物療法を補助とします。

 精神療法には、精神分析的 (精神力動的) 療法と

 弁証法的行動療法 (DBT) が、効果があるとされています。

 週1回の 個人療法と集団療法、それを 少なくとも1年間続けます。

 どんな組み合わせの 治療がいいかは、ケースバイケースです。

 ただし、安全を維持すること,強い治療関係を築くこと,

 衝動的な行動を自制して、思慮深く考えるよう 導くことが求められます。
 

○精神力動的 精神療法

 治療者のサポートを得ながら、患者自身が 自己洞察する方法です。

 無意識の不適切な言動を 認知して、それを意識的に修正し、

 辛い感情に 耐えることを学び、衝動的行動を 避けることが目標です。

 治療者は、患者が問題に苦悶する 時間を与え、おおむね 受け身の態度を取ります。

 患者は 自分を見つめて理解し、自分を信用して 受容できるようになります。

 治療者は 励ましやアドバイスをしながら、

 徐々に 受け身的態度から 能動的になっていきます。

 患者の自尊心が高まり、感情に価値があるのだと 確認し、

 対応能力が強まっていけば ゴールです。

 この治療を 1年間受けた結果、BPDの基準を 満たさなくなった患者は

 3割に達したという、オーストラリアの研究があります。

 75%の人が改善し、2年後には 95%の人が改善したと 報告されています。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54866086.html

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 
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治療方法 (2) (治療者の適性)

2008年06月19日 17時42分33秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54755202.html からの続き)

・毅然とした態度

 患者に共感を示すときにも、毅然とした態度が重要です。

 BPDの人の要求に 全て応えようとしても不可能だし、

 非現実的な期待を 膨らませてしまいます。

 断固として 一線を画する必要があります。

 BPDの人は、治療者が休暇を取ることに 失望し、罪悪感を植えつけようとします。

 しかし 誰にも休暇は必要ですし、自分の楽しみを 犠牲にするのは不健全です。

 リフレッシュすれば、次に起こる激変にも 対応できるでしょう。

 BPDの人も、ストレスフルな状況に 向き合う必要性や、

 自分に対する責任を 学んでいくでしょう。
 

・治療者としての適性

 治療者は 様々な難しい問題に取り組む、技術,経験,情熱が必要です。

 BPDの人を 受容する消極的な関わりより、

 積極的な関わりを持つ方が 成功する傾向があります。

 治療の基本は、激しい感情の揺れを 少しでも落ち着かせ、バランスを取ることです。

 専門家でないと、BPD患者の矛盾した感情を どう受け止めていいのか分かりません。

 卓越した知性の証は、

 ふたつの相反する考え方を 同時に受け入れることだ、と言われます。

 治療者は 患者のあるがままの姿を受容し、他方で 変化を促さなければなりません。

 DBTにおける 基本的なパラドックスです。

 患者を無条件に認めながら、あなたの認知は歪んでいると 言わなければなりません。

 患者自身が責任を引き受けるよう 促す一方で、

 患者の自己憐憫や責任転嫁を 理解しなくてはいけません。

 相手にイライラさせられても、相手を受け入れて 支えることを、

 患者自身にもするよう 示さなければならないのです。

 共感性が高く、賢明で、確信を持った専門家と 繋がっているんだという感覚を、

 BPDの人に持ってもらうことが、治療者の資質として 一番大切です。

 患者が主治医を 好きでなければならず、カリスマ性も必要です。

 多くの治療者は BPDの治療を敬遠します。

 そのために 正確な診断がされなかったり、診断が遅れたりして、

 治療に行き詰まってしまいます。

 それは双方にとって 不幸なことです。

 他の治療者の協力を得られる、オープンさと体制が必要でしょう。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54837215.html
 
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治療方法 (1) (治療者の資質)

2008年06月17日 21時52分13秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
 BPDの人に対応する 専門家が持つべき資質は、

 以下のようなことがあります。

 これらは 通常の対人関係にも 当てはまります。

・一貫性

 BPDの人の人間関係は、信頼の欠如と裏切りで 彩られてきました。

 行動や話し方の 一貫している態度が、

 彼らに安定感を与え、信頼を育む上で 大切です。

・正直

 誠実であることも、信頼を維持するために 必要です。

 BPDの人は 搾取されてきた過去があるので、

 正直で正しいことをする人と 接することによって、

 人間や世界は 信頼できるという希望を 持つようになります。

・約束

 BPDの人は 見捨てられることを恐れているので、

 関係を続けていくと 宣言する必要があります。

 BPDの人は 白か黒かの考え方をするため、

 相手が自分に 傷つけられたり怒ったりしても、

 関係を維持していこうとするのが 理解しにくいからです。

・柔軟性と寛大さ

 BPDの人は、自分の同一性や感情に 自信がないことが多いので、

 人に方向づけをしてほしいと 求めます。

 しかし コントロールされたい気持ちは、相手に取り込まれる恐怖と 表裏一体で、

 裏目に出ると 相手は怒りの対象になってしまいます。

 柔軟で寛大な態度が 人間関係を健全なものにします。

・見通し

 BPDの人は すぐ自暴自棄になってしまうので、

 巻き込まれないよう 見通しを持っておくことは重要です。

 忍耐強く、堂々とし、機を見計らったユーモアがあれば、

 BPDの人から よい反応を引き出せるでしょう。

・敬意と称賛

 BPDの人が 自分の痛みに直面し、一歩を踏み出そうとしていることに、

 敬意と称賛を示します。

 それが強いつながりを 生むでしょう。

・共感

 BPDの人の 突然の変化は、他人には奇異に映ります。

 自傷行為や妄想,解離などの背後に 何があるのか、

 理解して共感を示し、気持ちを通わせることが 欠かせません。

 BPDの人が 自分の言動を理解し、

 逸脱しないよう サポートすることで、関係が育まれます。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54779892.html
 
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自殺的行動と自傷行為 (6) (弁証法的行動療法)

2008年06月16日 21時39分44秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
(http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/53994177.html  からの続き)

 弁証法的行動療法 (DBT) は、

 BPDの 自殺行為や自傷行為を 減らすために開発されました。

 ワシントン大学の マーシャ・リネハンが創始者です。

 歪んだ思考を訂正して、不適切な行動を変化させるという、

 認知行動療法の形を取ります。

 目的は 現在の気分や行動を 変えることであって、

 過去を振り返って 意識下の洞察をすることは 重要ではありません。

 そこが、精神分析的精神療法と異なる点です。

 「白か黒か」 の思考に直面し、そこから脱却して、

 「白と黒」 の状態を目指します。

 「 or 」 ではなく 「&」 であり、

 相反するものを 共に受容するという、逆説や矛盾を強調します。

 今の自分自身を 受け入れると同時に、将来に向け 自分を変えていくという、

 弁証法的な矛盾に 焦点を当てるのです。

 曖昧さに耐えられない BPDの人にとって、それは欲求不満を招くでしょう。

 自己受容は、重要な努力目標です。
 

 DBTは 次の4つの要素で 構成されます。

1.集団療法

  ソーシャルスキルを向上させます。

2.個人療法

  動機付けを維持し、対処法を補強します。

3.電話相談

  治療以外の場での 技術の応用をします。

4.チームコンサルテーション

  治療メンバーのサポートをします。

 リネハンは、治療者の持つべき特性について、こう言っています。

「 患者の今ある能力を 理解し、適応行動や自己コントロール力を 強化し、

 BPD患者が自分で対処できるときには 手助けをしない。」

 患者を問題に 直面させる際には、温かさと厳しさの バランスを保ち、

 毅然とした態度と ユーモアが大切です。

 DBTが最優先するのは、自傷行為を防ぐことです。

 第二には、治療を継続させることです。

 それらが達成されたあとで、生活の質の向上を 目指していきます。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕

〔参考記事: http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45269689.html 〕
 
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現実認識のゆがみ -- 妄想と解離 (2)

2008年06月03日 21時16分47秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54529668.html からの続き)

 BPDと解離の関係について、

 遺伝子が関与しているかもしれない という研究もされています。

 特定の染色体が、BPDの解離現象に 強い関連があると言われます。

 また、解離を起こしている人の 脳内の代謝変化を調べると、

 外的なできごとによって 情緒反応をきたしている部分に、

 異常な活性化が起きていることが 明らかになりました。

 特に前頭野の 異常な反応は、解離状態のBPDの人が 自傷するとき

 痛みを感じないことの 説明になるかもしれません。

 解離症状は、体内のエンドルフィン (モルヒネに似た働きをする) に

 関連するという 仮説があります。

 重度のストレスがあるとき、痛みや不安を減少させる 鎮静物質の分泌が促されます。
 

 BPDの 急性の精神病様症状は、統合失調症や双極性障害,薬物中毒にも似ています。

 しかし 治療方法は異なるので、正確な診断が重要です。

 精神療法は BPDの治療の中心ですが、他の疾病に施されることは 余りありません。

 統合失調症や双極性障害は 慢性的で、脳内の変化による 疾患と見なされており、

 薬物療法と行動療法が 適すると考えられています。

 抗精神病薬は BPDの現実認識のゆがみを 軽減します。

 不安とうつにも 効果があります。
 

○BPDの精神病症状との付き合い方

 BPDの人が 非現実感や妄想を経験しているとき、論理的な会話は役立ちません。

 その人を落ち着かせるよう、優しく語りかけることが 初期の最善の方法です。

 見捨てられることの恐怖は、多くの場合 精神病様症状を突然引き起こしますが、

 静かな心地よい環境で、親しく信頼できる人に 守られることが最適です。

 ナイフなどの危険物は 取り除きます。

 一人のときは 家族や友人の 助けを借りましょう。

 医療スタッフの援助が 必要なこともあります。

 これらの症状は 一過性であることが多いため、徐々に、または 突然に消失します。

 穏やかで安全な 環境が整えば、すぐに現実感を 取り戻すことができます。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 
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現実認識のゆがみ -- 妄想と解離 (1)

2008年06月02日 21時42分37秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
 非現実的な思考への退行が BPDに見られることが、昔から報告されていました。

 妄想観念も 目立った症状です。

 BPDの解離は しばしばストレスによって生じます。

 精神が 肉体から離れる感じがし、夢の中にいるようだといいます。

 それは突然現れ、突然解決します。

 精神病様症状は思いがけないだけに、人を驚かせます。

 あとになって BPDの人が正常に戻ると、周りの人は 

 そのできごとが 現実だったのかどうか、自分の感覚を 疑ってしまうほどです。

 心子にも このような症状が現れました。

 心子に 初めて解離症状が起きて、不意に 死人のような無表情になり

 動かなくなってしまったとき、僕は不気味な感触に 捕らわれたものです。

 その時は 解離のことも よく知りませんでした。

 他に 精神病様症状には、猜疑心,妄想,錯覚 (現実に対して知覚が歪む),

 幻覚 (実際にないものが見える),混乱した思考と会話,非現実感などがあります。

 BPDの人は 自分の周囲や、自分自身も本物ではないと 感じることがあります。

 突然起きる これらの症状は 通常短期間で、

 見捨てられ感や 他のストレスによって生じます。

 解離性同一性障害や 物質乱用,うつ病と 併発することが多いものです。

 解離は うつなどでも生じますが、BPDや女性に より出現しやすいと言われます。

 解離現象は 「分裂」 している状態であり、

 辛い体験を 直接受けないように、意識から切り離す必要性から 生じるものです。

 異なった状況に適応するために、自分の人格の異なった要素を 呼び出すことを、

 内面への分裂であると 言う人もいます。

 BPDの解離は、多重人格と言われる 解離性同一性障害 (DID) とは違って、

 分裂した個々の人格は それぞれ他の人格の言動を 記憶しています。

 心子も、広義のDIDだったと 主治医から解釈されましたが、

 各人格の意識が どこかで繋がっているため、

 お互いの体験を 共有しているということでした。

 BPDとDIDはの共通点は、

 分裂という症状があること,しばしば子供時代の トラウマがあることです。

 それ故、このふたつの障害には 密接な関係があるとされています。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54546095.html

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 
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怒り (3) (怒りへの対処)

2008年05月31日 21時20分41秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54483529.html からの続き)

 BPDの人は 怒る必要があるのだということを、理解するのは大切です。

 怒りは 形を変えた失望かもしれませんし、うつに対処する方法かもしれません。

 暴力的でない怒りは パートナーとして受け入れ、吸収することが重要です。

 しばらくすれば 怒りは自然に消えていき、

 その根底にある問題について 話し合うことができるようになるかもしれません。

 激しい怒りは、恐れや痛みを 外に向けた表現であるのが 一般的です。

 怒っているほうが、恐れているより楽なのです。

 過去の虐待,親の不在,愛情の喪失などの 痛みは、

 闘うことによって 和らげられます。

 BPDの人の怒りは、心の傷に反応して、または 避けようとしているものなのです。

 恐れと痛みを 常に抱えているBPDの人は、

 表面上の理由はなくても、いつ爆発するか分かりません。

 BPDの人が 激怒するときというのは、まさに自分が 見捨てられるのではないか、

 窒息させられるのではないかという、最も恐ろしい予見を 感じたときなのです。

 BPDの人の怒りに 対処するには、コミュニケーションが 何よりも重要ですが、

 それは非常に繊細で バランスが求められ、練習も必要です。

 一方では、BPDの人に サポートと共感を示し、

 自制心を 積み重ねなければなりませんが、

 他方では、不合理な怒りは 受け入れられないということを、

 相手に知ってもらわなければなりません。

 怒っても受け入れられるのだ と思われると、

 BPDの怒りを 増幅させる結果になってしまいます。

 パートナーにも限界があり、それを超えて 受容しようとすれば、

 こちらも破綻して 共倒れになってしまいます。

 「してもダメ、しなくてもダメ」 という時には、

 その場から 離れるしかありません。

 しかしそれは 永遠の別れではなく、また再び 一緒にやっていくための小休止です。

 時間を置くことによって 怒りは治まり、

 落ち着いたときを 過ごすことができるでしょう。

 相手との境界を はっきりさせておくこと (限界設定) は、

 ずっと共に生きていくための 知恵なのです。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 
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怒り (2) (怒りの底にあるもの)

2008年05月30日 22時21分09秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54469496.html からの続き)

 怒りは フラストレーションから起こります。

 些細なことで 愛する人に対する 落胆が続いて、

 最後には憎悪が 沸き起こってきてしまいます。

 そうなる前に 先制攻撃で、BPDの人は 怒りをあらわにします。

 あざけりや 激しい敵意の裏には、期待に反した 失望があるのです。

 また怒りは、人を喜ばせる行動に カモフラージュされている 場合もあります。

 なけなしの財産を 人のために 無差別に使ってしまったり、

 行きずりのセックスを したりします。

 BPDの人は 怒りを覆い隠すことによって、怒りを免れようとするのです。

 しかしそれは、互いに満たされることない 欲求不満を募らせるだけになります。
 

 幼児虐待を受けてきた BPDの人は、

 ひどい仕打ちを受けるのは 当然だという感覚を抱きます。

 そのため 過去のシナリオを 再現しようとしますが、

 虐待を挑発するときに、怒りが薄められるのかもしれません。

 これは 「反復強迫」 と 言われる現象です。

 過去の経験を 再構築して、「今度こそはうまくやろう」 という 試みだといいます。

 BPDの人にとって こうした挑発は、パートナーが腹を立てる 状況を作り、

 それによって 関係を支配すると 感じることができます。

 激怒し、次に後悔して 自責の念に駆られ、

 最後にはパートナーに 許しを乞うことを繰り返します。

 こうして、支配権を手にするのです。

 BPDの人の 傷つきやすい恐怖感は、傲慢な激昂に逆転します。

 それによって、自分をコントロールする感覚を 持てるという人もいます。

 幼児虐待は、愛情がレイプに変わりうる,見捨てられる恐怖が 隣り合わせにある、

 予測できない おぞましい経験です。

 BPDの人の多くは、虐待を思い出して 自分自身を責めます。

 この歪んだ認知が 罪悪感や落ち込みを招きますが、

 それは コントロールできるという感覚を 取り戻すのに役立つのです。

 BPDの人の 忌まわしい体験は、

 暴力の犠牲者にもなるし、自分を罰する 加害者になることもできます。

 こうした選択肢を与えられると、

 BPDの人は 人生を支配できるという 自己像にしがみつくことになります。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54498083.html

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 
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怒り (1)

2008年05月29日 22時29分30秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
 BPDの人の怒りは、他の怒りとは異なって 特徴的で、

 感情の自然発火とでも言うべき、突発的で 予測できないものです。

 誰かに焚きつけられるのではなく、自分で自分に 火を点けてしまうのです。

 怒りは常に存在しており、深層に隠れたまま 横たわっているか、

 見捨てられる恐れによって 抑えられていたりします。

 後者の場合、怒りは内部に溜まって 自分自身に向けられ、

 自分を破壊するような行動に 形を変えてしまいます。

 うつ状態のBPDの人では、怒りはそれほど激しくない 傾向があります。

 うつが怒りを減少させているのか、または、

 うつを防ぐために 怒りを表している可能性もあります。

 怒りは BPDの症状の中で、最も長期化するものだといいます。

 一番変化させにくい 症状のひとつでもあります。

 ある研究では、2年間の年月で、自殺行動は 54%減ったのに対し、

 激しい怒りの減少は 7%だったそうです。

 また怒りは、BPDの他のDSM診断基準と 絡み合っています

 気分の不安定さは、怒りを含んでいます。

 破壊的な衝動性と 自殺・自傷行為は、しばしば 憎しみや怒りを伴います。

 怒りと欲求不満が 共に出現する場合、

 見捨てられ感や空虚感を避けるため、BPDの人は 必死の試みをします。

 怒りと失望感は、理想化された人が こき下ろされる時の、

 不安定な感情に見られます。

 怒りは抗しがたいほど激しく、現実の解釈が 歪められてしまうほどです。

 怒りの原因は、幼少時の自然な欲求が 満たされなかったために、

 そのフラストレーションが 大人になって 攻撃性に変じるのだと言われます。

 原因の最たるものは 身体的・性的虐待でしょう。

 BPDの人が 自分自身を守るための、無意識の防衛本能が 怒りなのです。

 生物学的には感情は、本能的な働きをする 大脳辺縁系に深く関わっています。

 これに対して 前頭前皮質は理性的な抑制をしますが、

 BPDの人では この部分に異常があることがあります。

 攻撃性と抑うつ状態には、SRI (セロトニン再取り込み阻害薬) が功を奏します。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54483529.html

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 
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