津波の被災地では、 自衛隊や警察などが 直後から人命救助に取り組みましたが、
懸命に探しても 見つかるのは遺体ばかりという、 かつてない経験でした。
「生きている人もいるはずだ」
自ら鼓舞しても、 人命救助の任務は、 無数の遺体の収容に 変わっていました。
抱き合ったままの 母子の遺体を見て、 自分の家族の姿に重なり、
辛い思いを抑えられなくなった 隊員も少なくありません。
「遺体の夢ばかり見る。 自分を見失いそう」
「食事がのどを通らない」
隊員からの 悩みの訴えが急増しました。
「早く救助できていたら」
「自分は無力だ」
と 自責の念にとらわれる人もいます。
そんな隊員に、 安置所に来た僧侶は、
「あなたのお陰で ご家族は遺体を拝むことができる。
大切な仕事をしてくれて ありがとう」
と声をかけました。
僧侶の読経の声で、 張りつめた空気が緩み、 心が落ち着いたといいます。
読経は、 亡き人を通して 感謝の心を教わる 時間だということです。
「個人の頑張りで 何とかなるものではなかった」
「あなただけが弱いのではない」
と伝えることが大切です。
この大きな喪失は、 一人で受け止めきれるものではありません。
残された者が、 手を取り合って 受け止めていくしかないでしょう。
〔 読売新聞より 〕