「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

今年も神宮外苑・ 銀杏並木

2009年11月30日 20時37分21秒 | 心子、もろもろ
 
 先日、 神宮外苑の銀杏並木に 行ってきました。

 木によって 黄葉の差があり、 まだ緑がかった 葉もありましたが、

 ちょうど良い 見頃だったと思います。

 中には 深緑の木もあって 驚きましたが、 緑の木は 奥の列だったので、

 表から見た並木は 見事な黄葉でした。

 丸いドーム屋根の絵画館を 向こう正面に臨み、

 並び立つ 黄金の銀杏並木に 見とれてきた次第です。

 平日にも拘らず かなりの人波でにぎわっていました。

 昼時だったので、 レストランの前は 長蛇の行列。

 この2~3年で 露店が倍加し、 今年は新しい敷地に 相当な数の出店がありました。

 外国料理の屋台も 増えましたね。

 こんなことも 人出を呼んでいるのでしょうか。

 携帯をかざして 写真を撮る人たちの姿も、 今は風物詩となりましたね。

 心子と 銀杏を見た頃には なかった風景です。

 彩りの良い落ち葉を 何枚か拾ってきて、

 遺影の前に供え、 あとは 本のしおりにします。

 これも恒例になりました。

 今年も 心子の想い出に 浸ったひとときでした。
 
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親に振り回された人に多い -- 依存性パーソナリティ

2009年11月29日 20時20分35秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 依存性パーソナリティから 境界性パーソナリティ障害になった人は、

 愛情が乏しく、 不安定な環境で育っていることが 多く見られます。

 虐待を繰り返している 場合もあります。

 子供は本音を言わず 相手に合わせ、

 自分の将来は 突然理不尽に変わるものだという 無力感を、 身に付けさせられます。

 自分が主体的に 生きていくのではなく、

 保護してくれそうな人に 盲目的に従い、 過剰に尽くしてしまいます。

 そうした無理を 重ねているうち、 次第に心に変調をきたし、 不安定になります。

 親の呪縛から逃れて、 外の世界で 自分が受け入れられたとき、

 味わったことのない 自由と解放感を 覚えることもあります。

 でも 自分で自分を支え、 コントロールすることには 慣れていないので、

 誰かに頼ろうとし、 危険に行き当たります。

 このタイプの人が 回復するには、

 安定して 保護者としての能力が高い 伴侶と出会うことが 最も幸運です。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 心子の中の主観的事実は、

 親は家業が忙しくて 余り構ってもらえなかった というものです。

 心子にとっては、 愛情が乏しい家庭だった ということになるでしょう。

 また 心子の父親は、

 いつ 命に関わる発作が 起きるか分からない 病気を抱えており、

 独りで逝くことを恐れて、 心子と一緒に死ぬことを 求めていたといいます。

 これは、 親に振り回されていたと 言えるのではないでしょうか。

(客観的事実はそうでなかったとしても、 心子にとっては そのような家庭でした。)

 でも心子は 父に躾けられて、

 幼いときから 何でも独りでするような 子になっていました。

 父親に好かれたくて 頑張ることはしても、

 顔色をうかがって ものが言えないような 依存的ではなかったでしょう。

 17才で家を出て、 自立的な生活をしていたといいます。

(それは 母親から離れるためでもありましたが。)

 恋人に対しては依存的でも、 以前は主体的に 自分をコントロールしていたので、

 心子の元の性質は 依存性ではなかったのだろうと思われます。
 
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依存性が強いタイプ -- 献身と背信を併せ持つ

2009年11月28日 22時01分41秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 いつも 誰かを頼らずにはいられず、

 人に尽くしすぎて 利用されてしまうタイプを、 依存性パーソナリティといいます。

 自分の本心よりも 相手の顔色ばかり見て、 相手に合わせてしまいます。

 そのため騙されやすく、 利用されている相手に 自分から尻尾を振ってしまいます。

 誰からも好かれたいと思い、 嫌な奴だと 思われないために、

 何も言えない人間に なってしまうのです。

 相手の話を聞くと、 何かしてあげなければと 思ってしまいます。

 自分は無能なので、 相手にすがらなくては 生きていけないと思い込んでいます。

 元来 献身的な性格ですが、 境界性パーソナリティ障害に陥ると、

 抑えていたものがはじけて、 不安定で衝動的な 傾向が強まります。

 きっかけは、 さんざん尽くしてきた相手に 裏切られたという体験が 典型的です。

 そうすると、 誰彼となく愛情を求めたり、

 些細なことで仲違いをすることが 頻繁になります。

 信頼し尽くしていた相手を、 突如 見捨てたり裏切ったりします。

 依存性パーソナリティから境界性パーソナリティ障害が 発症するタイプは、

 最も頻度が高く、 境界性パーソナリティ障害の 中核グループだと言えるでしょう。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 心子は僕に対しては 依存が強く、

 すがらなくては生きていけないと 思っていましたが、

 他の人に対して そういうことはありませんでした。

 僕と付き合うようになるまで、 仕事面でも優秀で 自立して生きていました。

 誰からも好かれたいという 八方美人的なところはなく、

 相手が誰でも 言うべきことは言うという、 確固としたものを持っていました

 そのために 自分が不利になっても 少しも構わず、

 依存性とは正反対の 性向だったと言えるかもしれません。

 でも 僕に対して、 信頼し尽くしていたのに、

 些細なことで突然 見捨てて去っていくことを 繰り返していました。

 また、 悩んでいる人の 話を聞くと、

 自分がどんなに辛くても 何とかしてあげようとしていました。

 ただ これは 相手に好かれるためというより、

 自分が誰より 苦しみを知っているために、

 相手の苦しみを放っておけないという 心理だったのではないかと思います。
 
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強迫性の強いタイプ -- 妥協できない優等生

2009年11月28日 08時09分32秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 生真面目で潔癖で、 妥協できない性格は、 強迫性パーソナリティと呼ばれます。

 努力家で 滅多に弱音を吐かず、 親が安心するような 優等生です。

 自分に厳しく、 完璧を求めすぎ、 それができないと焦ってしまいます。

 このタイプの人は、 きちんとした両親に 厳しく育てられています。

 子供は 良い子になることを 求められすぎて、 親に支配されています。

 全て 親から与えられた価値観で 生きてきたのです。

 こうした子が 思春期や青年期を迎えたとき、

 与えられたものに 違和感を覚え始めます。

 それは 自分自身を確立しようとする 営みなのですが、

 親にはそれが 自分たちの期待を裏切るように 見えてしまいます。

 本人は 今までやってきたことに 疑問を感じつつも、

 新たに自分を 築き直す自信もありません。

 このタイプの人が 境界性パーソナリティ障害をきたす場合、

 勤勉な努力家だった子供が、 急に投げやりな 怠け者になり、

 悪いことに手を染めたり、 親を失望させることを し始めます。

 摂食障害を 伴うことがありますが、

 完全主義や 人の評価を気にする 傾向が、 しばしば影響しています。

 別人のように 性格が逆転してしまったように 見えますが、

 積もり積もった無理が 爆発してしまったのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 心子の父は 厳しくて支配的だったようですが、 心子は普段は、

 怠け者だったり 悪事を働いたりすることは、 全くありませんでした。

 頑張りすぎるほど 頑張り屋であり、 決して 妥協というものをしませんでした。

 しかし 一旦落ち込むと、 引きこもって 何もできなくなってしまったり、

 全ては無駄だと 投げ出してしまったりします。

 摂食障害もありましたが、

 父親から与えられた 完全主義的な価値観が 影響していたのでしょうか。

 BPD発症以降、 性格が逆転した ということではないようですが、

 父親から厳格に 躾けられた故の、

 潔癖で優等生の 側面はあったのだろうと思います。

 ただ 母親は心子に 厳しくしなかったので、

 典型的なタイプとは 言えないかもしれません。
 
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ベースにある性格によって 出方が変わる

2009年11月26日 21時16分23秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 境界性パーソナリティ障害と 一口に言っても、

 ベースにある 性格や背景によって、 その症状の現れ方は 様々です。

 対応の仕方も異なります。

 ベースにある性格によって 幾つかのタイプに分け、

 それぞれの特徴や背景などを 述べていきます。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 境界性パーソナリティ障害は、 人によって 様々なタイプ, 症状があります。

 それは 元々の性質による違いも 基本にあると考えれば、

 実に自然で 納得がいきます。

 BPDを発症しやすい 生まれつきの気質があるとしても、

 後天的な要因も 少なくないわけですから、

 異なる資質を持った人が 環境のために発症すれば、

 色々なタイプの症状が 現れるでしょう。

 今日から、

 何種類かの素地の人が BPDを発症する場合の 特徴を書いていきますが、

 それを検討することで、 心子が元々 どんな性向を持っていたか、

 類推できるかもしれません。

 心子は 子供のときの話も よくしましたが、 それは彼女の 主観的事実だったり、

 意識的・無意識的な フィクションだった部分もあるでしょう。

 客観的には どんな子供だったか、 推測するのも 興味深いかもしれません。
 
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仕事や趣味を 優先する親

2009年11月25日 22時49分29秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 現代は、 自分の仕事や趣味に 多くのエネルギーを費やす 親が増え、

 子育ては 絶対的に重要というより、 ひとつの選択肢になってきました。

 親は 様々な代替品で 子供の欲求を満たすようになり、

 子供は愛されたという 実感に乏しくなってしまいます。

 親は自分も 一人の人間として、 自分の自己愛を追求しようとします。

 また、 子供が親の  「作品」 になることもあります。

 子供は 親の期待や願望を 実現させるため、

 自分の本心を 抑えることにもなります。

 青年期になって、 親に主体性を侵害されていたことに 怒りを覚えると同時に、

 進むべき方向を 失ってしまいます。

 社会が自己愛的になり、 思いやりを失い、 他人の傷に 無関心な人が増えることは、

 社会全体が 不認証環境を呈することになるのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 心子の両親が 家業に忙しかったというのは、 前に書いた通りです。

 父親は 工場をたたんだ後は、 好きだった 麻雀荘を開いたといいますが、

 それは自分の 趣味だったといえるのでしょうか。

 父親は 心子を自分の  「作品」 にしようとしていたことは、

 相当に言えるでしょう。

 心子は 父親の価値観に従って、

 完全な良い子である 自分を、 形成してきてしまったのだと思います。

 その父親が頓死し、 怒る対象さえなく、 自らの方向を 失ってしまったでしょう。

 心子はよく、 世の中の薄情さを 嘆いていたものです。

 きれいごとが通るわけはないと 悲観し、

 自分の存在価値を 見いだせなくなってしまうのです。
 
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過保護すぎる環境

2009年11月24日 20時21分16秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 少子化によって、 過度に満たされた環境で 育つ子が増えています。

 そのため 苦しみに耐える 力が低下し、

 感情や対人関係の コントロールがうまくいきません。

 忍耐力は 比較的幼いうちに 作られるもので、

 その時期に 過保護に育てられると、 脆弱さを露呈することになります。

 さらに 技術の進歩によって、

 小さな子でも、 暑ければ エアコンのスイッチを入れます。

 環境を自分に合わせるのが 当たり前になると、

 余計に我慢が 利かなくなってしまいます。

 メールやネットに慣れると、 気が短くなる 人がいます。

 操作可能な環境は、 人を子供にする方向に 働きやすいのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 心子は父親には 厳しく育てられましたが、

 母親はむしろ 過保護気味だったのかもしれません。

(ただし本人は、 母親から愛情を 与えられなかったと感じています。)

 心子は 僕や母親などに対して、

 言動のコントロールができなかったのは 言うまでもないことです。

 しかし一方で、 勉強やリハビリなど、 刻苦勉励をものともしませんでした。

 夏休みの1ヶ月間、 遠方で 超過密スケジュールの 心理学セミナーに皆勤し、

 試験も全科目 優で合格しました。

 怪我をした後の リハビリでも、

 筋肉がなくて 普段は筋トレなど できないはずなのに、

 腹筋や背筋などの運動を、 僕でも音を上げるほど 頑張っていました。

 心子はそれまで、

 「もっと頑張ればよかった」 という後悔を したことがないと言います。

 父親に認められ 愛されるために、

 子供の頃から馬車馬のように 頑張ってきてしまったのかもしれません。
 
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アノミー化する社会と 父親機能の不在

2009年11月23日 20時45分32秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 社会全体の規範が緩み、 行動や考え方が 自由になるほど、

 このタイプの人は、 逆に空虚感を抱き、 支えを見いだしにくくなります。

 それには 父親機能の弱体化が 関係しています。

 権威や不動の価値 というものが失われ、

 社会がアノミー化 (無規範・無規則状態) します。

 それは、 元々 脆弱性を抱えた人を、

 境界性パーソナリティ障害へと助長しやすくなります。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 心子の父親は、 心子を厳格に育てました。

 心子にとって、 父親の規範は 絶対的だったのかもしれません。

 大人になってからも、 心子は正義やモラルを 非常に重要視しました。

 それを守るため 自分が不利になったり、 犠牲になることを 少しも気にしないほど。

 義に反する人間には、 徹底的に 怒りをあらわにしたものです。

 例えば、 心子と一緒に

 「犯罪被害者支援の会」 設立のシンポジウムに 出席したときのこと。

 会場には 犯罪被害者も参加しており、 報道陣も詰めかけていました。

 主催者は被害者保護のため、

 マスコミが会場で 被害者に取材しないよう、 予めアナウンスしました。

 ところが 心子はある記者に、 インタビューを申し込まれたのです。

(どうして心子が 犯罪被害者と思われたのか、

 それも奇妙というか、 さもありなんと言うか。)

 記者は、 会場でなく建物の外で、

 カメラは足元だけを 映すと言いましたが、 心子は激怒したわけです。

 記者に名刺を強要し、 所属と上司の名前などを 問い詰め、

 こっぴどく 記者をつるし上げました。

 僕は見ていて、 記者の方が 気の毒になるくらいでした。

 心子は主催者にも この出来事を報告し、

 ルールを徹底させるよう 申し出た次第です。

(他に こんなエピソードもありました。

http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/44740089.html )

 そういう規範や枠組みは、 心子は人一倍 しっかりしていましたが、

 ひとたび自分が崩れると、 そんなものはすっかり どこかへ行ってしまいます。

 自分を支える価値観は、 いとも簡単に 失われてしまうのです。
 
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忙しくなった母親

2009年11月22日 19時55分27秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 女性の社会進出や 離婚の増加と共に、 働く女性が多くなり、

 幼い子供と ゆっくり時間を過ごせない 状況が増えてきました。

 母親が仕事のために、 保育士が育児を代行し、 母親との 絆の形成にも響きます。

 それは 子供の安心感を脅かし、 情動的な弱さを 生む要因となります。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 心子自身は、 家業に忙しい母親から ほったらかしにされたと 言っていました。

 ところが 母親の話では、 心子の足の障害が 治ってからは、

 過保護と言えるかもしれないくらい、 何かと構ったといいます。

 でも 生まれてから 一番最初の1年間に、 独りで 寝かされたままだった環境は、

 愛情を感じられない心を 作ってしまったかもしれません。

 それは その後になってからは、 決して 取り返すことができないものでしょう。

 愛情を感じられたか 感じられなかったかは、 結局その子供の 心の中の問題です。

 主観的に 愛情を得られなかったと 信じている子は、

 悲運な育ち方を してしまうでしょう。

 加えて、 昨今の不況による ワーキングプアー。

 シングルマザーは 生活のために、 長時間 働かなければなりません。

 生活の不安定さは、 心の不安定さにも 影響するかもしれません。

 国の政治までもが、 BPDが増える 片棒を担いでいるのでしょうか。
 
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密室化した家族 -- 個人レベルを超えたところに 原因がある

2009年11月21日 21時01分46秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 近年、 境界性パーソナリティ障害が 急増している理由は

 個々のレベルを超えた、 社会的レベルの要因がないと 説明できません。

 今日から いくつか挙げていきましょう。

 まず、 核家族や少子化, 地域社会の崩壊による、 家庭の細分化や 密室化です。

 各人が個室で ばらばらに生活するようになっています。

 祖父母や近所の人など、 多様な立場の人が 子供たちを取り囲む 状況と比べると、

 家庭は 非常に単純化しました。

 そのため 社会体験が貧弱になり、 対人関係の質も 単純化されました。

 そうした中で 親子関係のみが濃密になり、 逃げ場のないものになってしまいます。

 親が子供を支配しやすい 状況が生まれ、

 悪影響をまともに こうむるようになってしまったのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 心子の両親は共働きで 工場を経営していました。

 仕事が忙しく、 心子の足の障害の せいもあり、

 幼い心子を 充分に世話してやれなかったのだろうと思います。

 ただ 昨日の日記に書いたように、

 職人たちがいたので 複数の人間と接する 機会はあったのではないかと思われます。

 また 心子の住まいは下町で、 当時も地域社会は 生きていたのではないでしょうか。
 

 心子は僕に、 自分は乳母に育てられた と言っていましたが、

 それは彼女の 無意識の心的事実, または、

 意識的か無意識的かはともかく 演技性のものだったかもしれません。
 
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幼い頃の 過酷な体験が 要因となる

2009年11月20日 19時20分50秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 身体的, 性的虐待を受けると、

 境界性パーソナリティ障害を 発症する頻度が高くなります。

 離別体験や、 事故・事件の被害者となること,

 過酷な逆境体験も、 深い傷となり、 発症の原因となることがあります。

 情動システムが育っていく 最も大切な時期に、 外傷的な体験が起きると、

 傷つきやすさと情動コントロール不全が 併存することになります。

 ネガティブな体験の影響が、 人に対して 安心感が持てなかったり、

 対人関係で傷つきやすくなる 要因となり得ます。

 逆に、 元々 対人関係の不安定さや 傷つきやすさを持っている人は、

 ネガティブな体験ばかりが 心に残ってしまうという 側面もあり、

 悪循環を形作ってしまいます。

 一方、 明白な外傷体験がない 境界性パーソナリティ障害も、

 多くあることが分かってきました。

 外傷体験は ひとつの要因にすぎません。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 何回か書いてきたように、 心子は産後の 足の障害のため、

 親に抱かれずに 1年間独りで寝かされていたことが、

 根本的な外傷体験に なっていると思います。

 ネグレクトも虐待です。

 ただ 母親の話によると、 自宅は工場で、 何人かの職人を 雇っていましたが、

 昼休みになると 職人たちが心子をあやしたり、

 全く構われなかったという 状況ではなかったようです。

 それでも、 最も 親とのスキンシップが 必要な時期に、

 それが充分に 与えられなかったことは、

 この世に存在していいという 基本的な安心感が 損なわれてしまったでしょう。

 心子の 生まれつきの脳の気質は 分かりませんが、

 母親も激したときなど 心子にそっくりだといい、

 父親も 極端な人物だったようですから、

 遺伝的な要因も あっただろうと思われます。
 
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遺伝的要因は どのくらいか

2009年11月19日 22時07分41秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 遺伝的要因と環境的要因の 比重を調べるため、 双生児研究が行なわれてきました。

 異なった環境で育った 7組の一卵性双生児と、

 同じ環境で育った 18組の二卵性双生児で、

 境界性パーソナリティ障害の発症が 二人の間で 一致するかどうかを調べました。

 すると 一致が見られたのは、 二卵性双生児の2組だけでした。

 これは、 遺伝的要因よりも環境的要因が 重要であることを示しています。

 一方、 別の双生児研究では、

 境界性パーソナリティ障害の遺伝率は、 5~6割だと推定されています。

 ただ、 遺伝的な要因は 数十年単位で 大きく変わるものではなく、

 近年の境界性パーソナリティ障害の急増を 説明できません。

 すると、 遺伝的要因以外の 原因が考えられます。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 心子には ひとつ違いの兄がいました。

(この兄も、 心子が旅立った2年後、 心筋梗塞で急逝してしまいました。

 父親と同じ病でした。)

 母親は、 心子が一人で 何でもできる子だと 思っていた一方で、

 兄には何かと 世話を焼きました。

 逆に父親は、 跡継ぎとしての 兄の才覚に見切りをつけ、

 手ひどい暴力を振るいました。

(鼻血が しぶきのように飛び散ったと、 実際に兄の口からも 僕は聞きました。)

 心子の家族は皆 何かしら心の問題を 抱えていましたが、

 その中で兄は 一番まともだったといいます。

 父からの虐待も BPDには繋がりませんでした。

 心子と兄は、 遺伝的にも生育的にも 異なっていたわけで、

 ふたりの性質は 大きく隔たっていました。

 でも結果的に、 ほぼ同じ命の長さに なってしまったというのは、

 何という 運命のいたずらでしょうか。
 
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育った環境の 影響は大きい

2009年11月18日 20時25分54秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 中核症状のひとつである、 情動のコントロールが できないということも、

 養育環境の問題と 結びついています。

 幼い子は、 空腹や痛み、 寂しさや恐さを感じたとき、

 泣いたりぐずったりして 親に助けを求めます。

 親は状況に応じて 慰めたり、 我慢するように言ったりして、 対処してくれます。

 子供は次第に、 自分の感情を コントロールする術を 学んでいきます。

 ところが 子供の欲求に対して、 無視したり罰したり、

 叱りつけたりばかりすると、 子供は感情を コントロールできないばかりか、

 情動が起きると たちまち燃え上がるという パターンを身に付けてしまいます。

 逆に、 親が子供を 過剰に満たしすぎるのも、

 忍耐力や ストレスに対応する力を 付けられなくなります。

 近年の研究では、 境界性パーソナリティ障害の人は、

 母親よりも父親に 拒絶されたと感じている人が 多いという結果が出ました。

 境界性パーソナリティ障害の増加は、

 父親の権威が 低下したことと関係があると 考える人もいます。

 それは 枠組みの低下をもたらすのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 心子の母親は、 心子を放っておいても 大丈夫な子だと思い、

 手をかけなかったと 心子は話していました。

(しかし 母親の話では、

 産後の足の障害のために 心子を抱けなかったことを 悔いて、

 障害が治ってからは、 それまでのことを取り返すように、

 何かと世話をしたといいます。)

 逆に父親は 心子を厳格に育てました。
 

 昨今、 子供に 適切な愛情を与えられない 親が増えていることは、

 BPDの増加と 無関係ではないでしょう。

 現代は、 父親や母親の 役割をはじめ、世の中の伝統的な 価値観の枠が揺らぎ、

 確固とした人格の形成が しにくくなっています。

 境界性パーソナリティ障害は、

 ボーダーレス時代の 象徴的な心の障害だと 言えるでしょう。

 彼らは 社会の枠組みの 境界線上におり、

 一触即発の雲行きで 彷徨しているのです。
 
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優等生の子供は危ない

2009年11月17日 20時13分51秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 境界性パーソナリティ障害の人が 育った家庭では、

 子供の欠点を責めたり、 否定したりしていることが 多いと言われます。

 本人の自信や尊厳を 奪ってしまう環境を、  「不認証環境」 と呼びます。

 一見して 横暴で気まぐれな 親の場合もありますし、

 逆に 極めて折り目正しく、 学歴や教養が 高い場合もあります。

 どちらも 親によって支配され、

 子供の気持ちが くみ取られないという点で 共通しています。

 親が与えた 否定的な評価は、 無意識に子供の中に 刷り込まれます。

 その子はいつのまにか  「失敗者」 の烙印を押されてしまいます。

 親の価値観に合った  「よい子」でも、 いつか 本当の自分を見つけようとし、

 親の価値観に則ってきたものが 壁にぶつかったとき、

 もっと大きな打撃を こうむることになります。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 心子の父親は、 心子の素質を見込んで、

 幼いときから 英語や礼儀作法、 社会の表と裏を 教え込みました。

 心子を 学校へはあまり行かせず、 家や実地で 教えましたが、

 学校のテストは 百点でなければ 目の前で破り捨てたといいます。

 父親を愛していた心子は、 父の愛情を得るため、

 完全なよい子である自分を 無意識に作り出したのでしょう。

 常に100%でなければ 父に褒められない,

 自分の存在意義が 見つけられないゆえに、 馬車馬のように頑張ってしまいます。

 でもそれは、 そもそもの 自然な自分ではありません。

 “仮の自分” を作り出して 一時を切り抜けたとしても、

 いつしか 何らかの問題にぶつかったとき、

 意識下に抑圧していた 矛盾が噴出してくるのです。
 
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母親離れが うまくできない

2009年11月16日 21時32分26秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 通常 幼児は、 乳離れする 1才半から3才頃にかけて、

 徐々に 母親から離れていきます。 (分離-個体化期)

 この時期に、

 充分な愛情を与えてくれる 母親の姿が 心の中に 取り込まれると同時に、

 現実の母親が 少しずつ 手を引いていくことによって、

 心の中に  「自己対象」 が育まれていきます。

 自己対象とは、 本人の自己愛を 照らし返して、

 支えてくれる 心の中の 守り神のようなものです。

 自己対象が育ってくると、 現実の母親がいなくても、

 自分を支えられるようになります。

 境界性パーソナリティ障害の 病理の基本は、 母子分離が うまく成し遂げられず、

 自己対象が作れなかったことだ と考えられています。

 必要な時期に、 不安定な愛情しか 与えられなかったり、

 過剰に保護されすぎたりすると、 子供の中に しっかりした自己対象が育たず、

 自分の中に  「抱き抱えるもの」 がない

 空虚な感じを 持つようになってしまうのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 

 子供は、 親の温かい眼差しを 確かめながら、 一歩一歩 親から離れていきます。

 けれども このとき、 親の愛情が感じられないと、

 子供は見捨てられたと 感じてしまいます。

 逆に 子供を手放したくない親は、 子供の成長を 素直に喜べません。

 そのため 子供も自立するのが 良いことだと思えず、

 離れていくと 見捨てられると感じてしまいます。

 無理にいい子を演じたり、 本来の自分のあり方を 見失ってしまいます。

 いずれの場合でも、 子供は独り立ちできず、

 自分で自分を 支えることができません。

 見捨てられるのを恐れ、

 誰かに依存しなければ 生きていけなくなってしまうのです。
 
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