「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

家族のストレスと負担を減らす

2013年10月14日 20時34分10秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

 家族療法の第1の目的は、

 BPDの人の症状を軽減し、 能力を向上させることですが、

 家族のストレスと負担の軽減が 目標にされるものもあります。

 それは 家族サポートプログラム, 家族教育プログラムと呼ばれ、

 専門家による家族心理教育とは異なります。

 患者の家族自身である、 教育を受けたボランティアによって 指導されることが多く、

 医療施設ではなく、 地域社会に基盤があります。

 治療ではなく 草の根的なものであり、 最小の費用で参加できます。

 「家族から家族へ」 と呼ばれる 家族教育もあります。

 教育と共感的理解を通して、

 家族が感じる偏見 (スティグマ), 孤独, 絶望を減らすことが目的です。

 正式な家族心理教育とは異なりますが、

 家族が患者に 不愉快や心配を感じることが 軽減されます。

○ 家族の関与のまとめ

・ 治療プログラムを選択するときは、

  治療法の有効性についての 情報を得ることが重要です。

・ 家族心理教育は、 家族の強さを増すことに 重点を置き、

  患者の問題を 家族の責任と考えることはありません。

・ DBT家族療法は、 家族内のコミュニケーション技能を築き、

  家族内の相互作用を 改善させるアプローチです。

・ 家族サポートプログラム, 家族教育プログラムは、

 ボランティアの家族がリーダーとなって、

 問題解決と自助の技能や 情報を提供し、 相互サポートを促します。

 BPD家族の負担を 減らす効果があります。


● 訳者 (林直樹) あとがき

 本書では、 従来ないがしろにされがちだった 家族へのサポートを強調している。

 専門家が、 BPDの原因は 養育環境や家族関係だという 偏った考えに毒されて、

 家族のサポートは不充分だった。

 さらに本書は、 家族が 治療チームのメンバーとなってもらうべきだと 示している。

 わが国 (日本) では 家族への支援は 貧弱な段階にあり、 今後の課題は大きい。

 しかし、 家族同士がサポートし合う活動が 大きな役割を果たしうることに、

 大いに励まされる。

 本書は 米国の状況の記述だが、 わが国でも 有用性が高いと考えられる。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(以上)
 
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現在の家族療法

2013年10月13日 20時48分16秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

 家族のお互いの関係の 改善を目指す療法は、 家族にとって有効です。

 多くの家族療法は、 患者の個人療法を促進したり、 効果を増強するものです。

 DBT (弁証法的行動療法) 家族療法は、

 家族内の技能の確立と、 家族同士のコミュニケーションの向上に 焦点を当てます。

 個々の家族, 複数家族, 若い患者の親のグループ,

 患者のパートナーのグループなどの 様式があります。

 DBTでは家族は 以下の課題を学びます。

(1) BPDがどのように発症するか、 それに家族が どのように関わっているか

(2) ストレスに対処するために 患者が学ぶ技能

(3) 認知, 感情, 言葉の問題を どのように修正するか

(4) 家族の相互作用の問題を 修正する

(5) 効果的なコミュニケーション

(6) 家族関係と家族の活動を できる限り楽しむ

 感情の信頼性と問題解決のための 訓練システム (STEPPS) も

 開発されました。

 この治療法に 家族は不可欠であり、 治療を促進する技能を 学ぶことで、

 ネガティブな気分と衝動的な行動を 減少させます。

○ 家族の関係と機能の改善

 家族療法は何十種類もあります。

 システム論的家族療法, 行動療法 (または認知行動療法),

 夫婦療法などと呼ばれます。

 数回の短期間のものから、 1年以上の長期間のものまでありますが、

 家族全員が出席するのが一般的です。

 問題を話し合う技能を用いること,

 問題行動の動機・ 意味・ 機能を 明らかにすること,

 家族関係の長所を活性化することなどに、 焦点が当てられます。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
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家族心理教育

2013年10月12日 20時43分59秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

 統合失調症の治療では、

 家族心理教育を受けると、 患者の再発が40%低下しました。

 BPDの心理教育では、 BPDの情報が不足しており、

 対処する技能を発達させずに 情報だけ得ると バランスが取れなくなるため、

 家族の負担感やストレスが 深刻になることがあります。

 弁証法的行動療法 〔*注〕 に基づいた 家族の心理教育的アプローチが開発され、

 DBT-家族技能トレーニング (DBT-FST) と呼ばれます。

(参照: http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/63665164.html )

〔*注: DBT。

 リネハンが開発した BPDの治療法で、 認知行動療法の技法を組み合わせている。

 (認知行動療法は、 患者の思考, 感情, 行動に焦点を当てて、

 問題を解決することを目指す。)

 DBTは 感情をコントロールし、 衝動性を抑制し、

 自己破壊的な行動を回避するための 具体的なスキルを教える。〕
 
 DBT-FSTには

 複数家族の集団療法と、 個々の家族の治療の 両方が行なわれます。

 治療目標はふたつです。

(1) 患者が個人療法で学んだ行動を、 さらに強化する方法を 家族が学び、

 個人療法の成果を高める

(2) 家族全員の家庭環境を向上させる

 DBT-FSTでは、 BPDの特徴や起源の教育をし、

 家族の理解と共感を促します。

 プログラムの参加者は、 互いに相手の 感情や経験を認め (有効化し) 合って、

 否定的な反応を減らし、 効果的なコミュニケーションを学びます。


 BPDの患者に対しては、 自己学習療法があります。

 専門家との相談と組み合わせて、 自己学習のテキストを用いて 進めます。

 自分で本を読むより 効果があり、 治療を避ける人にとって 有用なことがあります。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
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治療への家族の関与

2013年10月11日 22時22分21秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 治療に家族が関与することは、 患者にとっても家族にとっても 有益なものです。

〔*注: ここに紹介する治療は、 アメリカの一部で行なわれているものです。〕

 (1) 基本的に患者を援助しながら、

 家族の人間関係や 家族機能の改善も 目的としている治療法,

 (2) 家族の苦痛と負担を減らし、

 家族の相互の支援を 強化するための集団プログラムが、

 役に立ちます。

 治療法は 少なくともふたつに分類できます。

 家族心理教育と、 家族療法です。

 前者は、 病気の情報と対処技能を 提供するプログラムで、

 患者の機能を向上させ、 家族の負担を減らすことを 目指す治療です。

 後者は、 一般に 家族全員を対象とする治療で、

 家族内の対人関係と 相互作用を改善することを 目指します。

 家族心理教育のプログラムは、

 患者の個人療法 (精神療法や薬物療法) を 補うものです。

 家族の苦痛を軽減して、 家族の患者へのサポートを 強化することが期待されます。

 家族療法には、 個人療法を補ったり 強化するためのものもあり、

 成果を上げています。

○ 家族心理教育

 統合失調症の家族心理教育では、

 家族が 患者の障害について正確な情報と 支援システムを手にし、

 他の家族の成功と失敗から 学ぶことができたときに、 患者は最もよく回復しました。

 家族心理教育プログラムは、 専門家が複数家族を指導する 集団療法です。

 家庭内の機能不全に焦点を当てる 伝統的な家族療法とは異なり、

 家族の強さと 回復力を増すことが目指され、

 患者の問題を 家族のせいにすることは行なわれません。

 家族が 敵意や怒りなど 否定的な感情を強く表すと、

 患者は精神症状を再発しやすくなります。

 家族心理教育によって 感情を表すパターンを変えると、

 患者と家族に 非常に有益な結果がもたらされます。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
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家族のサポート体制を整える (3)

2013年10月08日 20時25分57秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

○ DBT-家族技能トレーニングモデル

 患者の感情や経験の 意味を認める 「有効化」 は、

 相手をなだめることではなく、 耳を傾けて理解することです。

 多くの親は、 「もし私が この病気を引き起こしたのなら、

 私はそれを 一掃することができる」 という 不可思議な願望を持っています。

 しかし 家族にとって重要なのは、

 BPDは家族の責任ではなく、 家族にはBPDの状態を 治すことができない

 という現実を受け入れることです。

 「無効化」 は、 相手の見方を否認, 軽視することで、

 相手の苦しみを過小評価することが 最も有害です。

 相手が 別の見方をしていることを認め、

 その上で、 互いの一致している事柄を 探すのは難しくありません。

 無効化の環境が 病気を生み出すのではなく、

 自分の話を聞いてもらえなかったり、 理解されないことが、

 患者のパニックと怒りを 強めるのです。

 BPDの人は、 恐怖を呼び起こす 断片化された内的世界と闘っています。

 彼らの厄介な行動は、 安心感を得ようとする 試みでもあります。

 家族のサポート体制は、 型, 境界を与えることで、 世界の断片化に対抗します。

 家族は 自分たちの欲求を満たす 権利を尊重し、

 他の人の権利も尊重されるべきという 認識を患者に促します。

 それは 混沌とした内的世界の周りに、 安全な境界を引くことになります。

 家族がBPDについて学び、 家族同士で経験を共有し、 患者支援を行なうことで、

 自分たちだけでなく、 BPDの人たちや 他の家族たちの助けとなるのです。

○ 家族のサポート体制のまとめ

 BPDを発症しやすい 遺伝的傾向があるのが 明らかなのにも拘らず、

 専門家の間で 家族に障害の責任があるという 考えが消えません。

 それは 治療が失敗するだけでなく、 患者と家族を傷つけます。

 家族が病気を引き起こしたのではないのだから、

 家族はそれを治せないと 受け入れる必要があります。

 家族は、 BPDの人を拒否することなく、

 感情的な混乱に 巻き込まれないよう抵抗し、 関係を再構築することができます。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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家族のサポート体制を整える (2)

2013年10月07日 20時53分44秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

○ 病気に抵抗すること

 家族の怒り, 批判, 拒絶は、

 患者のコントロール不能な世界を ますます崩壊させます。

 家族が要求を拒否すると、 BPD患者は感情的に爆発します。

 家族の課題は、 敵意を示したり 自分の身を守ることではなく、

 困難な要求に従わないまま、 患者の感情を理解することです。

 挑発的な態度を前にして 冷静さを保ちながら、

 拒絶せずに 境界を維持することを目指します。

 精神疾患の患者は 親を否定的に、 両価的に表現します。

 親が自分に どれほど満足または不満を 与えるかに集中し、

 親も欲求を持つと捉えていません。

 患者は 強い愛着を持てば持つほど、

 相手が完璧でなく 自分を失望させたと言って、 一層激しく攻撃するのです。

 かつては全能だった親が 自分を救えないと、

 パーソナリティが脆弱な人は 恐怖と怒りが引き起こされ、

 自我の境界が ぼろぼろに崩壊するのです。

○ 関係を再建する

 虐待的な言葉に対しては、 冷静な反応で和らげます。

 不当な非難の根底にある、 見捨てられ恐怖を理解しましょう。

 抗議したくなる気持ちに耐え、

 「いつも あなたのためにいてあげるよ」  と保証してあげることは、

 根底にある恐怖に 適切に応えるものです。

 そして、  「あなたにも 私のためにいてほしい。

 私たちはお互いに心配しているし、 必要としているから」 と言うことで、

 個人として対等の関係を 再確認できます。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
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家族のサポート体制を整える (1)

2013年10月06日 22時49分06秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 家族のサポート体制を作るために、 家族は、

 問題を認識すること (recognizing),

 病気に抵抗すること (resisting),

 関係を再建すること (reconstructing)という、

 3つのRを学びます。

 第1段階は、

 目的のある行動と、 病気のためにコントロールしがたい行動を 区別することです。

 第2段階は、 感情統制不全と不合理な行動に 巻き込まれないよう抵抗することです。

 それは、

 患者に必要なことと 家族に必要なことを区別する 境界を定めることを意味します。

 見守るだけにすべきか、 行動を起こす必要があるかを 決定することでもあります。

 第3段階は、 愛する人との 有意義な関係を再建することです。

○ 問題を認識すること

 自分を犠牲者だと感じているのは、 BPDの当人であると 認識する必要があります。

 彼らは 人が自分を理解してくれないため、 犠牲となっていると感じているのです。

 けれども彼ら自身は、 自分が他者に及ぼす影響を 認めることができません。

 BPDの人は、 自分が家族に依存して 仕事ができないせいで、

 家族が経済的負担に 苦しんでいると知ると、 後悔します。

 BPD患者は見方が相違しているため コミュニケーションが困難であり、

 そのため家族は 無効化する環境を作り出します。

 家族は、 無効化によって 相手の見方を つまらないものと思ってしまいますが、

 無効化はコントロールできることができます。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
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家族の経験

2013年10月03日 21時46分51秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 BPD家族が経験するのは、 次のようなことがあります。

 誤診や症状の過小評価, 不確かな複数の診断・ 合併精神障害, 不適切な薬物療法,

 専門家の矛盾したメッセージ, 患者による病気の否認・ 治療拒否,

 彼らの未熟な行動への対応, 家庭内での対立, 患者と同居するか別居するか,

 予後と将来の心配。

 家族の回想による調査では、 親は 多くの苦しみを味わってきており、

 状況の改善は想像もしていません。

 家族が求めるのは、 気休めの回答ではなく、

 同じ家族との出会いで 癒されることです。

 患者の感情や経験を 無効化する (意味のないものとする) 養育環境を

 家族が知ることで、 家族は 行動を修正する指針を与えられます。

 BPDの人は、 感情的な関わりすぎに対して 肯定的に反応するようです。

 強い感心や過保護が、 自分を確認してくれるものと感じられると 考えられています。

 BPDの人は、 他の精神障害の人より 高い機能を示します。

 無気力, 無快感という陰性症状は 通常ありません。

 自殺のそぶりが 耐えがたい絶望から生じているとすると、

 家族は それによって生じる痛みを 理解しやすいかもしれません。

 BPDの人は、 不安定な感情と 操作的な行動のゆえに、

 脳内物質ではなく 性格に原因があると 見なされてしまいます。

 彼らが 他の点ではうまく機能しながら、

 人とのやり取りでは 一貫性のなさを露呈するとき、

 病気と見なすのは 非常に難しいことです。

 それでも BPDの人の家族は、

 異常な行動を 病気のためだとすることで、 許すことができるでしょう。

 家族の立場を困難にしているのは、

 患者が自分の行動を 説明する責任があるのかないのか 迷うこと,

 取るべき態度が分からないこと, 予想できない問題行動が 周期的に起こることです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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原因究明で誰かを非難しない

2013年10月02日 21時52分08秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 この種の説明モデルの 危険のひとつは、 犠牲者を非難することです。

 実際に性的虐待は、

 犠牲者の不注意や愛情欲求によって 引き起こされるものではありません。

 生物学的に BPDを発症する傾向を持った人は、

 ストレスや非難・ 罰に対して 過敏です。

 扱いづらい子に対して 親は非難や罰が頻繁となり、

 のちに 虐待として思い出されると考えられます。

 多くの家族は、 我が子が何故こうなったのか 理解できません。

 BPDが 虐待的な親の存在に 関係するという説と、

 親の不在に関係するという 説との間には、 明らかに食い違いがあります。

 虐待をするような人なら、 子供のために自ら 家族療法を受けたりはしません。

 患者を心配し、 治療に協力的な これらの親は、

 戸惑い, 怒り, 罪悪感の中で 揺れ動くのです。

 正しい原因の理解が、 治療の基礎になるものです。

 養育に問題を求める 理解は、 原因についての専門家の態度に 影響を及ぼします。

 BPD患者には 障害の生物学的基礎があり、

 うまく噛み合っていない家族関係と 組み合わさり、 障害を発生させます。

 家族関係だけが障害を引き起こすという 根拠は全く存在しません。

 BPDの原因は 養育の問題にあると 臨床家が考えていると、

 家族との協力関係に 大きな問題が生じます。

 症状改善に失敗し、 家族や、 家族と患者の関係を 傷つけるでしょう。

 家族に批判的な臨床家から、 家族に伝えられる ダブルバインドのメッセージは、

 疾患を悪化させます。

 家族を助けようとする裏側で、 家族に対して 暗黙のうちに非難が行なわれ、

 しかも その矛盾が否認されるのです。

 対等の関係を強化し、 過干渉と罪悪感が 軽減されなくてはなりません。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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家族とBPDに関する研究 (2)

2013年10月01日 20時39分59秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

○ さらなる説明モデル

 研究論文では、

 幼少期の虐待, 養育放棄, 見捨てられた経験を 重視していますが、

 その大半は 患者自身の記憶による 報告に基づいています。

 それに従うと、 BPDの人の親は

 他の親より 多くの虐待をしていることになります。

 さらに、 虐待への対処機制として解離や、

 ストレスへの過敏さが 生じると考えられます。

 ところが、 BPDの遺伝的素質の存在が 認められています。

 BPDの素質を持つ人が、 通常の養育環境や 罰に対して 例外的に敏感で、

 その結果、 虐待されたという極端な記憶を 持つようになったのかもしれません。

 この傾向を持つ人が 扱いづらい子供であり、

 親が消耗して、 わが子に八つ当たりするのかもしれません。

 子供は 生まれながらにして、

 扱いやすい子, 扱いづらい子, 人を受け入れにくい子の、

 3つの範疇に分かれるとされます。

 扱いづらい子は、 過敏で、

 他の子と異なる 生物学的特性を持っており、 親と頻繁に争いが生じます。

 境界性・ 自己愛性パーソナリティ障害の 素地のある子は、

 他者を操作する能力はもちろん、 非常に欲求が強く、 自己中心的であり、

 人並みはずれた 感受性と反応性を 持っていると言われます。

 自己報告による研究では、

 BPDの人は 養育者に充分な絆を 感じていないといいます。

 BPDの特徴によって、 不安定な愛着と 親の養育が足りないという認識が、

 幼少期の不幸な体験から 説明できないほど強くなることが、 明らかにされました。

 BPD患者の親が、 実際に思いやりがなかったのか、

 それとも 生物学的要因によって、 BPDの人が 親との絆を築きにくかったのか、

 判断するのは困難です。

 彼らの親のほうは 疎外を感じていないと報告されています。

 BPD患者は 他の患者と比べ、

 人との交流で 誤解や誤った記憶を 生じやすいことが明らかにされました。

 破壊的な性的関係に 巻き込まれやすく、

 愛情を求めて 不適切な性的関係や 満たし得ない期待に走り、

 裏切られたと感じるのです。

 これらの記憶が、 性的に虐待されたという 確信を導くのでしょう。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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家族とBPDに関する研究 (1)

2013年09月30日 21時00分47秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
○ 幼少期の虐待と養育放棄についての スティグマ (偏見)

 BPDに関する多くの研究が、

 BPDの引き金として 幼少期の虐待に注目しています。

 幼少期の心的外傷を 病因と想定し、 養育の問題と結びつけてしまっています。

 けれども 原因を明確にすることは、

 適切な治療, 家族・ 患者・ 専門家の協力関係,

 患者の怒り・ 家族の混乱と罪悪感の 軽減のために、 極めて重要です。

 性的虐待は、 BPDの大きな引き金のひとつと 見なされています。

 しかし、 何らかの虐待を受けたと言う 人々の大半は、

 BPDのような 精神障害を発症していません。

 幼少期の性的虐待は、 成人のうつ病のほうに 強い関連があります。

 BPDは その他のパーソナリティ障害よりも、

 養育者からの精神的虐待, 身体的虐待を報告することが 優位に多いものの、

 精神的虐待については そうでないことが明らかにされました。

 精神的虐待が生みの親から ということは稀です。

 親への記憶が 否定的な場合、

 それは、 親が虐待者から守ってくれなかった 不満の可能性が大きいでしょう。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
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家族の外傷体験から 家族のサポート体制へ

2013年09月29日 20時14分51秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 BPDの研究では、

 概して 病因 -- 障害を生じさせた でき事や対人関係 -- に

 焦点が当てられてきました。

 家族の困難については ごくわずかな情報しかありません。

 家族の負担は数多くあります。

 家庭生活の混乱, 刑事的問題に費やされる 時間とエネルギー,

 経済的負担, 家族の犠牲, 外の世界との関係が 損なわれること,

 愛する人の苦しみに 共感する苦しみ、 などです。

 家族は、 怒りをぶつけられること, 言葉による虐待や身体的虐待,

 治療の拒否といった困難に 取り組まなければなりません。

 専門家の冷たい視線, 治療の不充分さが 問題を増大させます。

 問題の解決には 組織と患者支援活動が必要です。

 BPDの人の家族会は 重要な第一歩です。

 家族の心的外傷の治療は 必要ですが、

 家族の心理教育, 情報の提供, サポートが最も効果的です。

 家族は以下のようなことを 知る必要があります。

 BPDの病因や症状, 生物学的・ 心理学的基盤, 薬剤,

 障害が顕在化するサインを どのように認識するか。

 適切なコミュニケーション, 行動のマネジメント, 問題解決策などの基本。

 家族自身の怒り・ 罪悪感・ 不安・ 欲求不満は 正常な反応であること,

 愛する人の混乱を コントロールできること。

 どうしたら限界を設定し、 自分自身の権利を尊重できるか、 などです。

 家族は、 悲しみと希望を 他の人々と共有し、 支えられることによって、

 彼ら自身が 愛する人をサポートすることができるのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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家族の経験についての考察 (3)

2013年09月26日 20時54分34秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

○ 私たち自身が変わる

 楽観的で、 同時に現実的でいるのは、

 BPDの人に 要求されていることでもあります。

 患者にも家族にも、

 感情や考え方のパターンを 観察しながら、 内面的な変化が求められます。

 失敗を繰り返す患者を見守るには、 強い信念が必要となります。

 失敗は故意ではなく、 未熟さのためだと捉えれば、 幸せを探す動機となるでしょう。

 BPDの人は、 苦しみを癒す技能が 不足しているのです。

 自分自身の面倒を見ることができないなら、 他の誰の面倒も見ることできません。

 家族は、 BPDの人のために 快適な家庭環境を作る努力をし、

 自分たちの精神的健康を 維持しなければなりません。

○ 有効な治療を見つける

 精神医療サービスでは、 患者を助けるための 精神的援助が家族に行なわれます。

 将来は、 統合失調症や自閉症と同様に、

 BPDの原因と治療の研究が さらに広がるでしょう。

 恐らくいつの日か、 BPDの正確な診断, 効果的な治療,

 家族や友人へのサポートが 可能になるでしょう。

 BPDの診断には それに先立つでき事があります。

 家族への援助が 大きな違いが生じるのは この時です。

 家族の外傷的経験を癒してくれる サポートが得られたとき、

 家族は 治療チームの重要な一員となれるのです。

○ 自分自身の人生を生きる

 何もかも失われてしまったように 思われる時でも、

 希望は生き続けることができます。

 自分の人生を犠牲にしがちですが、 自分自身を大切にすることが重要です。

 あなたのお子さんが 病気になろうと 自ら選択したのではないのと同様に、

 あなたがこの病気を 引き起こしたのではないのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
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家族の経験についての考察 (2)

2013年09月25日 20時25分26秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

○ 虐待のスティグマ (偏見) への対応

 BPDへの偏見で、 家族や医療スタッフとの関わりが 歪められることがあります。

 論文や資料には、

 BPDの人に 虐待が行なわれてきたという 仮説が紹介されています。

 それは、 家族の心構えに 強い影響を残します。

 自分が虐待を行なっていないなら、

 他の家族が虐待したのではないかと 疑いの目を向けてしまうでしょう。

 自分と治療者の関係にも 変化を及ぼします。

 治療者が自分を どう見ているか悩むのは、 非常に辛いものです。

 偏見のために 批判的な視線にさらされると、

 家族の孤独と重圧は 計り知れないほど大きくなります。

 疑いという 忌まわしい雰囲気の中で、

 BPDの人の支えになるのは 難しくなります。

○ 家庭環境の中でBPDに対処する

 BPDの人は時々、

 とてもしっかりしていて、 素晴らしい能力を持っているように 感じられるため、

 家族は 当人に何を期待できるのか、 判断に迷うことがあります。

 でも、 自分がもろい患者にとって、 家族が統一して関わることは とても大切です。

 家族は、 課題の優先順位を設定し、 緊急連絡の方法などを 知っておくべきです。

 限界設定をすること, 必要なことを正直に明言するのは、

 考える以上に難しいですが、

 支持的なことと甘やかすことの違いを 理解することが必要です。

 喧嘩して最後通牒を渡すより、

 冷静なときに 必要なことを説明するほうがずっと 容易です。

 決断を下すときは、 全員が それに参加することが必要です。

 家族は、 批判に対して 反応しないことが重要です。

 感情をエスカレートさせず、 注意深く話を聞くことです。

 大きな問題を見いだして、 それに小さなステップで対応するのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
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家族の経験についての考察 (1)

2013年09月24日 20時56分37秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
○ 慢性疾患としてのBPD

 家族が直面する問題は、 患者の年令や 同居しているかどうかで左右されます。

 親が医療費を負担している場合、 親も治療の情報を 入手できるでしょう。

 患者が自宅から離れていると、 家族のサポートを得るのは 非常に難しくなります。

 同居していても、 患者が 適切なサポートを受けているかどうか 知るのは課題です。

 家族にとって重要なのは、

 精神的・財政的な問題を 話し合う場を求めていくことです。

 家族が機能不全で 親が原因だと、 治療者が見なしている場合、

 家族が患者の支えになるのは 二重の意味で難しいでしょう。

○ 適切な治療者を見つける

 家族が BPD以外の問題を抱えていると、

 家族の機能を維持するのは 非常に困難です。

 うつ病や摂食障害などの 合併精神障害を抱え、 BPDに取り組んでいないなら、

 患者の変化は いっそう難しくなります。

 最も重要なのは、 信頼のおける治療者を 見つけることです。

 患者にとって大切な人が 協力できるなら、 もっと効果的です。

 治療者は、 家族が罪悪感を抱いて 自責的にならないよう 援助すべきです。

 しばしば親は、 BPDの責任が自分にあるなら、

 自分が障害を治せると 感じるかもしれません。

 複数の要因が組み合わさって BPDは発症するので、

 精神療法, サポート, 薬物療法の 組み合わせが必要でしょう。

 高度な技能や思いやりをもって 治療に取り組むべきです。

○ 入院治療について 知っておくべきこと

 BPDの症状は、 外来患者の約10%、 精神科入院患者の20%に認められます。

 施設の方針は、 必ずしも 家族に好意的ではありませんし、

 閉鎖病棟に慣れるのに 相当苦労するでしょう。

 家族は、 患者との関係が問題視されていると 感じるかもしれません。

 病院生活を経験していくことで、

 スタッフにどう話しかけたらいいのか, いつ医師に会えるか,

 ソーシャルワーカーの部屋はどこかなど、 家族は学べるでしょう。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
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