「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

治療方法 (6) (SET/UP)(1)

2008年06月30日 20時37分00秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54891882.html からの続き)

 コミュニケーションの 「SET」 「UP」 システムを 紹介しています。

 「SET」 とは、

 Support (支援),Empathy (共感),Truth (真実) です。

 BPDの人と コミュニケーションを取るには、この3つの全てが必要です。

 「UP」 は、

 Understand (理解) と Perseverance (忍耐) で、

 BPDの人と周囲の人の 両方が目指すものです。
 

・支援,共感,真実

 まず  「支援」は、BPDの人に対して、

 「私」 を主語にした 「I (アイ) メッセージ」 で 伝えるようにします。

 例えば、「私はあなたのことが 気になっています」 「私はあなたの力になりたい」

 などのように。

 次に 「共感」 を伝えるときは、BPDの人の苦痛を 認めて受け入れる、

 「あなた」(BPDの人) を 主語にした表現をします。

 「あなたはこんなに 辛く感じているんですね」 のようにです。

 共感は、BPDの人が どのように感じたかであり、

 周囲がどう感じるか ではありません。

 同情 (「私はあなたがかわいそう」) でもなく、

 同一視 (「私も同じ経験をしたから分かる」) でもありません。

 同情は苛立ちを挑発し、

 同一視は 「そんな簡単に分かるわけがない」 という 怒りを引き起こします。

 支援と共感が伝わったとき、コミュニケーションは うまく続いていきます。

 3つ目の 「真実」 は、BPDの人が 問題を解決するために どうしたいのか、

 説明責任を表しています。

 支援と共感が、「私」 「あなた」 の 主観的な表現なのに対し、

 真実は 客観的にどうであるかということです。

 どんなに周りが 支援し共感しても、

 最後はBPDの人が 自分に責任を持たなければなりません。

 真実は、咎めることがないよう、中立で冷静に 表現することが肝要です。

「あなたのために 私は○○ができます。 ××はできません。

 あなたはどうしますか?」

 実践的な問題解決に 最も重要なことですが、

 BPDの人には 一番難しい作業なのです。

 責任転嫁して紛らわすのではなく、

 自分が責任を負うことによって 「分裂」 に向き合い、

 被害者感情に溺れる気持ちを 克服しなければならないからです。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54964092.html

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 

治療方法 (5) (コミュニケーション技法)

2008年06月27日 20時51分02秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54866086.html からの続き)

 BPDの人と コミュニケーションするときの、一般的なアプローチを挙げてみます。

・自分自身の境界を維持する

 BPDの人は、二人の世界に没頭する 誘惑に駆られますが、

 お互いがそれぞれ 別個の存在であり続けることが 必須です。

 BPDの人に、自分自身の興味と才能を 追い求めるよう勧めましょう。

・責任を取りすぎない

 BPDの人が苦しんでいるとき、かたわらの人は 責任を感じるかもしれません。

 BPDの人を変えようとしたり、保護しようとしたりすることが、

 しばしば共依存と言われる 罠なのです。

・安全を確保する

 全ての人の安全を 最優先するべきです。

 もしBPDの人に 自傷・他害の恐れがある場合は、

 家を出る,警察を呼ぶ手段を 実行するということを、

 冷静かつ穏やかに 伝えなければなりません。

 道理を説いても無駄で、危険な行動に 対処することの方が大事です。

・矛盾を明らかにする

 BPDの人から 矛盾した要求を突きつけられ、

 全く “勝ち目のない” 状態に 追い込まれることがあります。

 理不尽な要求に対して、BPDの人に ボールを打ち返すことで、

 問題が解決することがあります。

 例えば 相手の矛盾を指し示し、その混乱をどうすべきかと 尋ねてみます。

 矛盾を解決する 責任を持たせるのです。

 または、どちらに転んでも恨まれる ( “してもダメ、しなくてもダメ ”)

 という予測を 示した上で、相手のために 自分が正しいと思うことを 決行します。

・予想できることを準備する

 次にどんなことが起こるか 予測できるようになれば、

 不適切な反応を 避けることができます。

 BPDの人の 不適切な言動について、こちらが予想できることを 穏やかに話します。

 BPDの人は 自分の言動が とんでもないものだと気付いても、

 理解や予想が可能であることに 心づもりができます。

 または 張り合う気持ちから、予測とは反対の行動を 取るかもしれません。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54935234.html

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 

治療方法 (4) (弁証法的行動療法)

2008年06月25日 21時18分28秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54837215.html からの続き)

 弁証法的行動療法 (DBT) は 認知行動療法のひとつで、

 BPDに対する治療として 最も系統的な研究がなされています。

 この治療は、誤った考え方の癖 (認知) が 不適切な行動を招き、

 心理的な苦悩を招くという 仮説に立っています。

 感情のコントロール技術を学び、治療意欲を高めるために、

 週1回の 個人療法と集団療法を受けます。

 学んだ技術を 個々の状況で応用するため、電話相談も勧められます。

 治療には 4段階のステージがあります。

 ステージ1は、行動をコントロールするための スキルを伸ばします。

 ステージ2では、過去のトラウマに注目し、それを乗り越える手助けをします。

 ステージ3は、自尊心について取り組みます。

 ステージ4の目的は、一人でいても幸福と 感じられるようにすることです。

 
 DBTは 他の支持的療法に比べて、治療に取り組みやすく、

 自傷行為や入院が少なくすむ という結果が出てきます。

 物質依存や過食症の治療にも、期待ができるようになってきました。

 
 認知行動療法の修正版では、生活の中で 他者の存在を重んじています。

 このプログラムは 「STEPPS」 と呼ばれます。

(Systems Training Emotional Predictability and Problem-Solving)

 制御できない激しい感情に 重点を置いています。

 家族,友人,恋人,医療者など、BPD患者を取り巻く 交流関係を重視し、

 グループ教育が行なわれます。

 患者と周囲の人に、BPDに関する 情報を提供し、

 不適切な行動を変えるための 技術的トレーニングを行ないます。

 病気について知ってもらい、患者の役に立つための 方法を学んでもらうためです。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54891882.html
 

治療方法 (3) (精神分析的療法)

2008年06月23日 19時48分13秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54779892.html からの続き)

 BPDの治療の根本は 精神療法で、薬物療法を補助とします。

 精神療法には、精神分析的 (精神力動的) 療法と

 弁証法的行動療法 (DBT) が、効果があるとされています。

 週1回の 個人療法と集団療法、それを 少なくとも1年間続けます。

 どんな組み合わせの 治療がいいかは、ケースバイケースです。

 ただし、安全を維持すること,強い治療関係を築くこと,

 衝動的な行動を自制して、思慮深く考えるよう 導くことが求められます。
 

○精神力動的 精神療法

 治療者のサポートを得ながら、患者自身が 自己洞察する方法です。

 無意識の不適切な言動を 認知して、それを意識的に修正し、

 辛い感情に 耐えることを学び、衝動的行動を 避けることが目標です。

 治療者は、患者が問題に苦悶する 時間を与え、おおむね 受け身の態度を取ります。

 患者は 自分を見つめて理解し、自分を信用して 受容できるようになります。

 治療者は 励ましやアドバイスをしながら、

 徐々に 受け身的態度から 能動的になっていきます。

 患者の自尊心が高まり、感情に価値があるのだと 確認し、

 対応能力が強まっていけば ゴールです。

 この治療を 1年間受けた結果、BPDの基準を 満たさなくなった患者は

 3割に達したという、オーストラリアの研究があります。

 75%の人が改善し、2年後には 95%の人が改善したと 報告されています。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54866086.html

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕
 

治療方法 (2) (治療者の適性)

2008年06月19日 17時42分33秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54755202.html からの続き)

・毅然とした態度

 患者に共感を示すときにも、毅然とした態度が重要です。

 BPDの人の要求に 全て応えようとしても不可能だし、

 非現実的な期待を 膨らませてしまいます。

 断固として 一線を画する必要があります。

 BPDの人は、治療者が休暇を取ることに 失望し、罪悪感を植えつけようとします。

 しかし 誰にも休暇は必要ですし、自分の楽しみを 犠牲にするのは不健全です。

 リフレッシュすれば、次に起こる激変にも 対応できるでしょう。

 BPDの人も、ストレスフルな状況に 向き合う必要性や、

 自分に対する責任を 学んでいくでしょう。
 

・治療者としての適性

 治療者は 様々な難しい問題に取り組む、技術,経験,情熱が必要です。

 BPDの人を 受容する消極的な関わりより、

 積極的な関わりを持つ方が 成功する傾向があります。

 治療の基本は、激しい感情の揺れを 少しでも落ち着かせ、バランスを取ることです。

 専門家でないと、BPD患者の矛盾した感情を どう受け止めていいのか分かりません。

 卓越した知性の証は、

 ふたつの相反する考え方を 同時に受け入れることだ、と言われます。

 治療者は 患者のあるがままの姿を受容し、他方で 変化を促さなければなりません。

 DBTにおける 基本的なパラドックスです。

 患者を無条件に認めながら、あなたの認知は歪んでいると 言わなければなりません。

 患者自身が責任を引き受けるよう 促す一方で、

 患者の自己憐憫や責任転嫁を 理解しなくてはいけません。

 相手にイライラさせられても、相手を受け入れて 支えることを、

 患者自身にもするよう 示さなければならないのです。

 共感性が高く、賢明で、確信を持った専門家と 繋がっているんだという感覚を、

 BPDの人に持ってもらうことが、治療者の資質として 一番大切です。

 患者が主治医を 好きでなければならず、カリスマ性も必要です。

 多くの治療者は BPDの治療を敬遠します。

 そのために 正確な診断がされなかったり、診断が遅れたりして、

 治療に行き詰まってしまいます。

 それは双方にとって 不幸なことです。

 他の治療者の協力を得られる、オープンさと体制が必要でしょう。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54837215.html
 

治療方法 (1) (治療者の資質)

2008年06月17日 21時52分13秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
 BPDの人に対応する 専門家が持つべき資質は、

 以下のようなことがあります。

 これらは 通常の対人関係にも 当てはまります。

・一貫性

 BPDの人の人間関係は、信頼の欠如と裏切りで 彩られてきました。

 行動や話し方の 一貫している態度が、

 彼らに安定感を与え、信頼を育む上で 大切です。

・正直

 誠実であることも、信頼を維持するために 必要です。

 BPDの人は 搾取されてきた過去があるので、

 正直で正しいことをする人と 接することによって、

 人間や世界は 信頼できるという希望を 持つようになります。

・約束

 BPDの人は 見捨てられることを恐れているので、

 関係を続けていくと 宣言する必要があります。

 BPDの人は 白か黒かの考え方をするため、

 相手が自分に 傷つけられたり怒ったりしても、

 関係を維持していこうとするのが 理解しにくいからです。

・柔軟性と寛大さ

 BPDの人は、自分の同一性や感情に 自信がないことが多いので、

 人に方向づけをしてほしいと 求めます。

 しかし コントロールされたい気持ちは、相手に取り込まれる恐怖と 表裏一体で、

 裏目に出ると 相手は怒りの対象になってしまいます。

 柔軟で寛大な態度が 人間関係を健全なものにします。

・見通し

 BPDの人は すぐ自暴自棄になってしまうので、

 巻き込まれないよう 見通しを持っておくことは重要です。

 忍耐強く、堂々とし、機を見計らったユーモアがあれば、

 BPDの人から よい反応を引き出せるでしょう。

・敬意と称賛

 BPDの人が 自分の痛みに直面し、一歩を踏み出そうとしていることに、

 敬意と称賛を示します。

 それが強いつながりを 生むでしょう。

・共感

 BPDの人の 突然の変化は、他人には奇異に映ります。

 自傷行為や妄想,解離などの背後に 何があるのか、

 理解して共感を示し、気持ちを通わせることが 欠かせません。

 BPDの人が 自分の言動を理解し、

 逸脱しないよう サポートすることで、関係が育まれます。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54779892.html
 

自殺的行動と自傷行為 (6) (弁証法的行動療法)

2008年06月16日 21時39分44秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
(http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/53994177.html  からの続き)

 弁証法的行動療法 (DBT) は、

 BPDの 自殺行為や自傷行為を 減らすために開発されました。

 ワシントン大学の マーシャ・リネハンが創始者です。

 歪んだ思考を訂正して、不適切な行動を変化させるという、

 認知行動療法の形を取ります。

 目的は 現在の気分や行動を 変えることであって、

 過去を振り返って 意識下の洞察をすることは 重要ではありません。

 そこが、精神分析的精神療法と異なる点です。

 「白か黒か」 の思考に直面し、そこから脱却して、

 「白と黒」 の状態を目指します。

 「 or 」 ではなく 「&」 であり、

 相反するものを 共に受容するという、逆説や矛盾を強調します。

 今の自分自身を 受け入れると同時に、将来に向け 自分を変えていくという、

 弁証法的な矛盾に 焦点を当てるのです。

 曖昧さに耐えられない BPDの人にとって、それは欲求不満を招くでしょう。

 自己受容は、重要な努力目標です。
 

 DBTは 次の4つの要素で 構成されます。

1.集団療法

  ソーシャルスキルを向上させます。

2.個人療法

  動機付けを維持し、対処法を補強します。

3.電話相談

  治療以外の場での 技術の応用をします。

4.チームコンサルテーション

  治療メンバーのサポートをします。

 リネハンは、治療者の持つべき特性について、こう言っています。

「 患者の今ある能力を 理解し、適応行動や自己コントロール力を 強化し、

 BPD患者が自分で対処できるときには 手助けをしない。」

 患者を問題に 直面させる際には、温かさと厳しさの バランスを保ち、

 毅然とした態度と ユーモアが大切です。

 DBTが最優先するのは、自傷行為を防ぐことです。

 第二には、治療を継続させることです。

 それらが達成されたあとで、生活の質の向上を 目指していきます。

〔 「BPDを生きる七つの物語」 (星和書店) より 〕

〔参考記事: http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45269689.html 〕
 

体感治安悪化

2008年06月13日 21時17分41秒 | 死刑制度と癒し
 
 秋葉原で無差別殺人事件が 起きてしまいましたが、

 治安は本当に悪くなっているのか、6月10日の朝日新聞からの記事です。

 殺人,強盗,放火,強姦で逮捕された 「凶悪犯」 は、

 2000年は7488人でしたが、06年は6459人に減っています。

 ところが 04年の調査では、61%の人が 「治安が悪い」 と感じ、

 75.5%が 「過去より治安が悪くなった」 と 答えています。

 実際は 悪くなったとは言えないのに、

 体感治安が悪化しているのは 何故でしょうか? 

 通り魔的な事件が 頻発していることが、ひとつの要因と 指摘されています。

 犯罪と無関係だった人間が 突然、

 面識のない 不特定多数の人たちに 狂気の刃を向ける。

 自分もいつどこで 被害に遭うか分からない、という恐れでしょう。

 共同体の崩壊と 人間関係の希薄化が、漠然とした不安を 招くとも言います。

 犯行動機が明らかでない 事件が増えていることも、

 社会に不安を与える という意見もあります。

 動機不詳の凶悪犯は、00年の103人から、03年には140人に 急増しました。

 また、凶悪事件を大々的に取り上げる、ワイドショーやネットなど

 メディアの影響力などもあるだろうと、個人的には思います。

 しかし それでもまだ、他の国に比べれば 日本は安全だといいます。

 殺人事件の認知件数自体は、戦後混乱期を頂点にして 現在まで減り続けており、

 約3分の1になっているのです。

 ところで 12日の記事にも書いたように、終身刑を設けている 多くの国は、

 仮釈放を認めており、実質的に 日本の無期懲役と同じです。

 一方、昨日の記事のように、

 日本の無期懲役は 仮釈放のない絶対的終身刑に 近寄っています。

 死刑,終身刑,無期懲役刑を 考えるに当たって、

 このような事実を きちんと踏まえておく 必要があるでしょう。

 国民が量刑も決める 裁判員制度では、

 感情やムードに流されない 理知的な判断が 求められると思います。
 

無期懲役の重罰傾向

2008年06月12日 21時16分10秒 | 死刑制度と癒し
 
 読売新聞にも、無期懲役囚に関する 記事が出ていました。
(6月1日)

 昨年は無期懲役囚が、新たに89人 入所して、

 戦後最多の1670人に なったということです。

 それに対して、仮釈放はわずか3人のみ。

 厳罰を求める世論や、仮釈放者の再犯を恐れる 社会不安が背景にあると見られ、

 終身刑創設の議論にも 影響を与えそうだといいます。

 無期懲役囚は 1998年に968人でしたが、昨年はそれが 7割以上の増加です。

 戦後混乱期に 1279人まで増えた後、

 84年に713人まで 減少していたのに比べ、急増しているのが分かります。

 新たに入所する 無期懲役囚の数も、90年代は 年間20~40人でしたが、

 03年には100人を超え、昨年は89人。

 一方、仮釈放は 98年に18人だったのに、その後は平均して 年9.5人、

 昨年は3人にまで 落ち込みました。

 仮釈放までの平均期間も、20年ほど前は 15年程度でしたが、’98年は約20年、

 その後 次第に長くなり、昨年は 31年10ヶ月まで延びました。

 今年4月時点での 入所期間を見ると、

 40年以上の受刑者が24人、55年以上も1人います。

 ’06年、仮釈放中に 事件を起こした元受刑者 (有期刑・無期刑を含む) は、

 殺人4人,強盗13人,傷害25人に上りました。

 厳罰化や再犯防止のために 仮釈放が認められにくくなり、

 事実上の終身刑化が 進んでいるといいます。

 死刑と無期懲役の間の ギャップが大きすぎるという批判が 常にありますが、

 現実にはその溝は 埋められきているようです。

 9日の日記に書いた 坂本敏夫氏の、

 運営面の改善は すでに行なわれているということですね。
 

終身刑 是か非か (3) (終身刑反対,死刑廃止)

2008年06月11日 21時47分23秒 | 死刑制度と癒し
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54654240.html からの続き)

 3人目は、死刑廃止の番組などを 手がけてきた、映画監督・坂上香氏です。

 坂上氏の TV番組や映画,著作は 僕もいくつか見ており、影響も受けました。

 坂上氏は、米国の終身刑囚を取材した 映画 「ライファーズ」 で、

 更生の可能性がないという 烙印を押された受刑者でも、

 変わることができるという 事実を伝えました。

 また、「アミティ」 という 受刑者更生プログラムで、

 受刑者を自分の罪に 徹底的に向き合わせることを 紹介しています。

(参考記事 http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/30977301.html )

 アミティを体験した 受刑者の言葉があります。

「 釈放されるかどうかが 問題なのではない。

 たとえ 刑務所から出られなくても、自らの牢獄から 自分を解放することはできる」

 刑務所の 中でも外でも、変わるチャンスがあれば 人は変われると、

 坂上氏は訴えます。

 だが、だからこそ、社会に戻れる可能性を 絶つ刑罰には、

 死刑であれ終身刑であれ、賛成できないのだと。

 僕は 終身刑を死刑の代替刑として 考えていましたが、

 この主唱には インパクトがありました。

 終身刑があれば 死刑は減るのではないか という人の気持ちに 共感しながらも、

 期待はできないと 語ります。

 アメリカの幾つかの州で 終身刑が導入されましたが、

 死刑も終身刑も ともに増えただけで、死刑廃止には向かわなかったそうです。

(ただ、死刑を廃止して 終身刑を導入すれば、

 どういう結果になるか 分からないのではないでしょうか。)

 なお、欧米の終身刑の多くは、仮釈放の可能性があるということです。

 翻って 日本の仮釈放は、例えば ’07年では、

 1670人の無期受刑者のうち 3人だけで、

 日本の無期懲役が 軽いと思われるのは 誤解だと指摘しています。

 日本の刑務所は 労役が中心で、受刑者に 「なぜ罪を犯したのか」 という

 問題に向き合わせる機会は ほとんどありません。

 人間として 変わる機会がないまま 刑務所を出所した人は、

 罰せられたことへの 復讐心に満たされ、暴力の連鎖が 繰り返されるのだと言います。

 いま議論すべきは、罪を犯した人が いずれ社会に戻ってくる 前提で、

 彼らが変わるために 刑務所の中と外で、何をしたらいいか ということだと、

 坂上氏は強調しています。

〔 朝日新聞 (6月8日) より 〕
 

終身刑 是か非か (2) (終身刑賛成,死刑廃止)

2008年06月10日 21時40分22秒 | 死刑制度と癒し
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54638823.html からの続き)

 今日は、死刑廃止の運動をしてきた 大学教授・菊田幸一氏の意見です。

 菊田氏は、死刑に替わる 受け皿として、終身刑導入を主張してきました。

 当初は、仮釈放のない終身刑は 死刑と同じく残虐であり、

 重罰化に加担するもので 死刑廃止に逆行すると批判され、

 終身刑を口にするのも 難しい雰囲気だったそうです。

 今も 死刑廃止論者の間では、終身刑反対意見が 根強いといいます。

 ところが、被害者感情を重視して 重罰化傾向が高まり、死刑執行数も増えてきました。

 また、裁判で無期懲役を 言い渡す際に、「仮釈放には慎重に」 と注文をつけ、

 死刑と無期の落差を 埋めようとする判決も 出てきました。

 裁判員制度を前にして、終身刑導入を求める声も 聞くようになりました。

 死刑存廃を考える 橋渡しの意味で、具体的に議論が されるようになったことを

 菊田氏は評価しています。

 死刑制度を支持する 8割の世論があるので、終身刑には仮釈放をもうけず、

 厳しい刑として 理解を得るべきと言っています。

 
 終身刑が残酷な刑か ということに対して、ある死刑囚の言葉を 紹介しています。

「死刑囚が 精神を病むのは、いつ処刑されるか 分からない状況に 置かれるためだ。

 3畳一間に 死ぬまで閉じ込められていても、死刑執行がないと分かっていれば、

 その中の生活も また人生だ。」

 終身刑は受刑者の処遇を困難にする という意見に対しては、

 米国での調査の結果を 伝えています。

 長期より短期の 受刑者の方が、出所の可能性があるだけに むしろ、

 強い不満を抱いたり 激しく権利を主張したりし、処遇が難しい 傾向があったと。

 また、過去の死刑確定囚 100人以上を調べたところ、

 終身刑があれば死 刑判決にならなかったと 推定される事例が、

 2割あったといいます。

 少なくとも死刑判決が 減るのは確かだと、菊田氏は述べます。

 昨日の記事の坂本氏は、従来なら 無期懲役になっていた人に

 終身刑が言い渡されるだけで、死刑判決は減らず、重罰化になると 予想しています。

 しかし 菊田氏の見解のほうが、若干 実証的かもしれせん。

 ニュージャージー州では、死刑と終身刑が 併存していましたが、

 死刑が長年 執行されず、ついに死刑が 廃止されたそうです。

 菊田氏は、そういう段階を 踏んでいくためにも、

 受け皿としての終身刑を 訴えています。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54670087.html

〔 朝日新聞 (6月8日) より 〕
 

終身刑 是か非か (1) (終身刑反対,死刑存置)

2008年06月09日 22時05分01秒 | 死刑制度と癒し
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54576590.html からの続き)

 朝日新聞で 終身刑法案の記事を受けて、終身刑是非の 特集が載りました。
(6月8日)

 3人の論者が 意見を述べており、それぞれの立場は、

 「終身刑反対,死刑存置」 「終身刑賛成,死刑廃止」 「終身刑反対,死刑廃止」

 と3様です。

 まずは、作家で元刑務官の 坂本敏夫氏、「終身刑反対,死刑存置」 の立場です。

 坂本氏は27年間、刑務官として 受刑者の処遇に当たってきました。

 その経験から 坂本氏は、終身刑の受刑者は 処遇が困難になるだろうと主張します。

 ただし、氏自身は 終身刑の受刑者に 接したことがないので、

 終身刑に対しては 想像による考えになります。

 死刑囚は 拘置所の独房に収容されますが、

 刑務官は 「殺さず、狂わさず」 を心がけ、

 刑の執行までに 贖罪の気持ちを抱かせようとします。

 その労力や精神的負担は、一般受刑者の 50人分以上になるだろうと言います。

 無期懲役の受刑者は、法的には10年で 仮釈放の申請ができるので

(実際に仮釈放されるまでの 平均期間は約30年)、

 「10年後」 を信じて 真面目に過ごします。

 しかし終身刑受刑者は その希望がなく、これ以上悪くならないのだから

 懲罰は恐れず、他の受刑者を 喧嘩に巻き込んだりするかもしれない と言います。

 けれども、「これ以上悪くならない」 というのは、

 死刑囚も 同じではないでしょうか?

 上記の理屈だと、死刑囚も 他の受刑者を巻き込む ということになります。

 実際の死刑囚の多くは、死に直面することで 命や罪の重さを認識し、

 改心の道を 歩み始めます。

 終身刑では その立ち直りの機会が失われると、坂本氏は述べています。

 しかし 終身刑囚も、死ぬまで何十年もの間、

 苦しんだり恨んだりしたまま 生きていくのは、耐えられないのではないでしょうか。

 死刑囚が 死の恐怖を克服するため 改悛していくように、

 終身刑囚も 自分の心の平安を求めて、罰を受け入れようと、

 自分の罪を見つめる努力を し始めるのではないかと、僕には思えます。

 
 死刑と無期懲役の 中間の刑罰として 終身刑を求める意見に対して、

 坂本氏は、仮釈放を認める条件を 厳しくするという 運用面の改善で、

 対応できると言っています。

 死刑廃止のステップとしての 終身刑創設意見に対しても、

 国民の多数が 死刑を支持しているなかで 死刑は減らず、むしろ、

 今までなら無期懲役になっていた人に 終身刑が言い渡されるだけだろう と言います。

 また 経済面から言っても、受刑者一人には 年間50万ほどの費用がかかり、

 高齢になれば医療費も増える と指摘しています。

 そこまでの 労力や税金を投じて、新たな刑を設けるべきなのかと。

 坂本氏は、死刑制度は存続しつつ、

 心底改悛した者には 恩赦で刑の執行を停止する などしながら、

 現状の改善をする方が先だと 提唱しています。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54654240.html
 

「奇跡のシンフォニー」

2008年06月07日 21時07分59秒 | 映画
 
 生まれながらに 音の才能を持っている少年 エヴァン (11才)。

 親の顔も知らず、施設で育てられましたが、必ず両親に会えると 信じています。

 孤児院を抜け出して 母親を探しに行く子の映画 「この道は母へとつづく」 と、

 盲学校で 音楽の才能を見いだす少年の映画 「ミルコのひかり」を、

 合わせたような話です。

( 「この道は母へとつづく」 http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/51068187.html
  「ミルコのひかり」 http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/50799705.html )

 エヴァンの母ライラは チェリスト,父ルイスは ロックのギタリストで、

 エヴァンはその素質を 受け継いでいたのです。

 11年前、ライラとルイスは 巡り合わせの一夜を過ごしましたが、

 ライラの父親によって 引き裂かれました。

 エヴァンを身ごもっていた ライラは、臨月に交通事故で 手術を受け、

 そのとき父親が 無断でエヴァンを施設に渡して、

 ライラには 子供は駄目だったと 告げていたのです。

 今では ライラもルイスも 音楽から離れ、ばらばらに過ごしています。

 ある日 エヴァンは、両親に会うため 施設を出て行きます。

 初めての都会の喧騒、エヴァンの天性の耳は、そこにも音楽を聴き取ります。

 楽器の演奏などしたこともない エヴァンですが、

 初めて触ったギターを 独特な流儀で “鳴らし”、注目を集めます。

 基本的な和音を教わっただけで パイプオルガンを弾き、

 天分を見いだされて 音楽院に入学。

 エヴァンは 紛れもない神童でした。

 知らない人間が見たら 落書きにしか見えない、現代音楽のような楽譜を

 ノートに書きなぐり、狂想曲 (ラブソディー) を作曲します。

 沢山の人に 曲を聞いてもらえば、きっと両親に伝わる。

 そして ラストのコンサートシーンに、物語は紡がれていくのです。

 主役のフレディ・ハイモアが、目に見えない 音楽の世界を、

 子供とは思えないような 豊かな表情で表現しています。

 親を求める エヴァンの心、我が子を思う ライラの愛情、ライラを追うルイス、

 それぞれの思いと行動が、互いに誘い合うように 絡んでいきます。

 まさに 現代のおとぎ話。

 映画全体が ひとつの交響曲のようでもあり、

 音と映像が相まって 絶妙の情感をかもし出し、目が潤みっぱなしの 2時間でした。
 

「終身刑」 法案

2008年06月05日 20時55分12秒 | 死刑制度と癒し
 
 裁判員制度を前にして、超党派で

 「終身刑」 を創設する 法案が進められているようです。

(本日付け朝日新聞)

 一般市民である裁判員に 死刑の判断をさせられるのか、

 ということが 議論のスタートだったそうです。

 しかし、終身刑賛成・反対,死刑賛成・反対という 様々な立場の議員がおり、

 考えはそれぞれ かなり異なっています。

 「市民が苦しまない制度を」 という 考えもあれば、

 「市民が一時の感情から 死刑を科してはならない」 という 意見もあります。

 もともと 終身刑の議員立法は、死刑執行停止などと合わせて 目指していたもので、

 死刑賛成派にとっては タブー視されがちだった といいます。

 しかし 死刑執行数の増加、光市母子殺害事件の死刑判決など、

 死刑の傾向が強まって、動きが変わったそうです。

 裁判員制度が始まって 死刑判決が増えることを危惧し、

 死刑存廃は議論は 置いておいて、とにかく 終身刑だけを検討しようと、

 超党派の会合が 開かれました。

 死刑論議が出てきたら辞める という議員もいるし、

 死刑廃止に向けて 何もできないよりは、少しでも前に進みたい

 という思惑の議員もいます。

 死刑廃止運動に 関わってきた人は、終身刑によって 死刑判決を減らし、

 死刑存廃の議論そのものに 繋げたいと考えています。

 しかし、終身刑が創設されて 死刑が存続されれば、

 ただ 重い刑罰を増やすだけの 結果になりかねない 危険性もはらんでいます。

 現在の日本では、無期懲役と死刑のギャップが 余りにも大きすぎることが、

 常に指摘されています。

 無期懲役は、10年を過ぎれば 仮釈放の申請ができますが、

 実際に仮釈放が認められる 平均の期間は、30年以上だといいます。

 それに対し終身刑は 仮釈放の希望がなく、生涯 牢獄に閉じ込められるわけで、

 死刑よりも残酷ではないか という意見もあります。

 でも 収入や住居などのない人が、捕まるために 犯罪を繰り返すケースも

 あるわけですから、刑務所は それほど居心地が悪いのだろうか という気もします。

 どちらにしても 議論をする人間は、

 自分で終身刑を 経験することはできないわけですから、

 海外の終身刑受刑者を 対象にした研究は できないものかと思います。

 僕としては、終身刑の導入は 急務だと思っています。

 それを契機にして、死刑存廃についても 議論が高まっていくことを

 願う次第ではあります。
 

弁証法的行動療法

2008年06月05日 15時01分06秒 | BPDの治療について
〔http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/48490642.html から転載〕

 「パーソナリティ障害がわかる本」に 人格障害の治療として、

 境界性パーソナリティ障害の 治療を中心に 述べられています。

 その中で、最も有効な 療法のひとつとして

 注目されているのが 「 弁証法的行動療法 (DBT) 」 です。

 弁証法的行動療法 (DBT) では、

 完璧な愛情か 完全な絶望かという ボーダーの人の 二分化された見方を、

 弁証法的に乗り越えていく、思考や行動を 身に付けていくのです。
 

 DBTの 中核的な戦略として、 「有効化」 と 「問題解決」 があります。

 一般にボーダーの人は 自己評価が低いため、

 自分のやったことは 悪いことだ,価値がない,意味がないものだという、

 「無効化」 をしてしまいます。

 それに対して 「有効化」 は、ボーダーの人の 行動や感情の中にある、

 プラスの側面や 意味を見出し、ポジティブな価値を 認めることです。

 適切な言動では ないかもしれないが、現状への適応として、

 本人にとっては意義がある と理解するのです

 全てを丸ごと受け止める 受容ではなく、部分的な肯定です。

 それは、全か無かの 二分化した思考を 是正していくことになります。

 自分の愚行の中にも 一分の理があった と知ることで、

 全面的な否定に 陥ることを免れるのです。

 
 受容的な 「有効化」 に対して、「問題解決」 は 変化を求めるスキルです。

 支持的なアプローチと、自分を変えるアプローチの

 バランスを取ることが、DBTの要となります。

 変化を助ける 4つの技法があります。

(1)不測の事態への対処

(2)行動スキルトレーニング

(3)暴露に基づく技法

(4)認知の修正

 特に、自殺企図のコントロールに関する 「不測の事態への対処」 について、

 学習理論による強化と、消去の作業を 徹底して続けることが、

 長期的な問題行動の 改善につながります。

 自殺行動によって 相手を操作しようとする人に対して、それに応えてしまうと、

 短期的には良くても、長期的には 事態をさらに 悪化させてしまうからです。

[ 参考記事: http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/45269689.html ]