「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

家族とBPDに関する研究 (1)

2013年09月30日 21時00分47秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
○ 幼少期の虐待と養育放棄についての スティグマ (偏見)

 BPDに関する多くの研究が、

 BPDの引き金として 幼少期の虐待に注目しています。

 幼少期の心的外傷を 病因と想定し、 養育の問題と結びつけてしまっています。

 けれども 原因を明確にすることは、

 適切な治療, 家族・ 患者・ 専門家の協力関係,

 患者の怒り・ 家族の混乱と罪悪感の 軽減のために、 極めて重要です。

 性的虐待は、 BPDの大きな引き金のひとつと 見なされています。

 しかし、 何らかの虐待を受けたと言う 人々の大半は、

 BPDのような 精神障害を発症していません。

 幼少期の性的虐待は、 成人のうつ病のほうに 強い関連があります。

 BPDは その他のパーソナリティ障害よりも、

 養育者からの精神的虐待, 身体的虐待を報告することが 優位に多いものの、

 精神的虐待については そうでないことが明らかにされました。

 精神的虐待が生みの親から ということは稀です。

 親への記憶が 否定的な場合、

 それは、 親が虐待者から守ってくれなかった 不満の可能性が大きいでしょう。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家族の外傷体験から 家族のサポート体制へ

2013年09月29日 20時14分51秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 BPDの研究では、

 概して 病因 -- 障害を生じさせた でき事や対人関係 -- に

 焦点が当てられてきました。

 家族の困難については ごくわずかな情報しかありません。

 家族の負担は数多くあります。

 家庭生活の混乱, 刑事的問題に費やされる 時間とエネルギー,

 経済的負担, 家族の犠牲, 外の世界との関係が 損なわれること,

 愛する人の苦しみに 共感する苦しみ、 などです。

 家族は、 怒りをぶつけられること, 言葉による虐待や身体的虐待,

 治療の拒否といった困難に 取り組まなければなりません。

 専門家の冷たい視線, 治療の不充分さが 問題を増大させます。

 問題の解決には 組織と患者支援活動が必要です。

 BPDの人の家族会は 重要な第一歩です。

 家族の心的外傷の治療は 必要ですが、

 家族の心理教育, 情報の提供, サポートが最も効果的です。

 家族は以下のようなことを 知る必要があります。

 BPDの病因や症状, 生物学的・ 心理学的基盤, 薬剤,

 障害が顕在化するサインを どのように認識するか。

 適切なコミュニケーション, 行動のマネジメント, 問題解決策などの基本。

 家族自身の怒り・ 罪悪感・ 不安・ 欲求不満は 正常な反応であること,

 愛する人の混乱を コントロールできること。

 どうしたら限界を設定し、 自分自身の権利を尊重できるか、 などです。

 家族は、 悲しみと希望を 他の人々と共有し、 支えられることによって、

 彼ら自身が 愛する人をサポートすることができるのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家族の経験についての考察 (3)

2013年09月26日 20時54分34秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

○ 私たち自身が変わる

 楽観的で、 同時に現実的でいるのは、

 BPDの人に 要求されていることでもあります。

 患者にも家族にも、

 感情や考え方のパターンを 観察しながら、 内面的な変化が求められます。

 失敗を繰り返す患者を見守るには、 強い信念が必要となります。

 失敗は故意ではなく、 未熟さのためだと捉えれば、 幸せを探す動機となるでしょう。

 BPDの人は、 苦しみを癒す技能が 不足しているのです。

 自分自身の面倒を見ることができないなら、 他の誰の面倒も見ることできません。

 家族は、 BPDの人のために 快適な家庭環境を作る努力をし、

 自分たちの精神的健康を 維持しなければなりません。

○ 有効な治療を見つける

 精神医療サービスでは、 患者を助けるための 精神的援助が家族に行なわれます。

 将来は、 統合失調症や自閉症と同様に、

 BPDの原因と治療の研究が さらに広がるでしょう。

 恐らくいつの日か、 BPDの正確な診断, 効果的な治療,

 家族や友人へのサポートが 可能になるでしょう。

 BPDの診断には それに先立つでき事があります。

 家族への援助が 大きな違いが生じるのは この時です。

 家族の外傷的経験を癒してくれる サポートが得られたとき、

 家族は 治療チームの重要な一員となれるのです。

○ 自分自身の人生を生きる

 何もかも失われてしまったように 思われる時でも、

 希望は生き続けることができます。

 自分の人生を犠牲にしがちですが、 自分自身を大切にすることが重要です。

 あなたのお子さんが 病気になろうと 自ら選択したのではないのと同様に、

 あなたがこの病気を 引き起こしたのではないのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家族の経験についての考察 (2)

2013年09月25日 20時25分26秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

○ 虐待のスティグマ (偏見) への対応

 BPDへの偏見で、 家族や医療スタッフとの関わりが 歪められることがあります。

 論文や資料には、

 BPDの人に 虐待が行なわれてきたという 仮説が紹介されています。

 それは、 家族の心構えに 強い影響を残します。

 自分が虐待を行なっていないなら、

 他の家族が虐待したのではないかと 疑いの目を向けてしまうでしょう。

 自分と治療者の関係にも 変化を及ぼします。

 治療者が自分を どう見ているか悩むのは、 非常に辛いものです。

 偏見のために 批判的な視線にさらされると、

 家族の孤独と重圧は 計り知れないほど大きくなります。

 疑いという 忌まわしい雰囲気の中で、

 BPDの人の支えになるのは 難しくなります。

○ 家庭環境の中でBPDに対処する

 BPDの人は時々、

 とてもしっかりしていて、 素晴らしい能力を持っているように 感じられるため、

 家族は 当人に何を期待できるのか、 判断に迷うことがあります。

 でも、 自分がもろい患者にとって、 家族が統一して関わることは とても大切です。

 家族は、 課題の優先順位を設定し、 緊急連絡の方法などを 知っておくべきです。

 限界設定をすること, 必要なことを正直に明言するのは、

 考える以上に難しいですが、

 支持的なことと甘やかすことの違いを 理解することが必要です。

 喧嘩して最後通牒を渡すより、

 冷静なときに 必要なことを説明するほうがずっと 容易です。

 決断を下すときは、 全員が それに参加することが必要です。

 家族は、 批判に対して 反応しないことが重要です。

 感情をエスカレートさせず、 注意深く話を聞くことです。

 大きな問題を見いだして、 それに小さなステップで対応するのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家族の経験についての考察 (1)

2013年09月24日 20時56分37秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
○ 慢性疾患としてのBPD

 家族が直面する問題は、 患者の年令や 同居しているかどうかで左右されます。

 親が医療費を負担している場合、 親も治療の情報を 入手できるでしょう。

 患者が自宅から離れていると、 家族のサポートを得るのは 非常に難しくなります。

 同居していても、 患者が 適切なサポートを受けているかどうか 知るのは課題です。

 家族にとって重要なのは、

 精神的・財政的な問題を 話し合う場を求めていくことです。

 家族が機能不全で 親が原因だと、 治療者が見なしている場合、

 家族が患者の支えになるのは 二重の意味で難しいでしょう。

○ 適切な治療者を見つける

 家族が BPD以外の問題を抱えていると、

 家族の機能を維持するのは 非常に困難です。

 うつ病や摂食障害などの 合併精神障害を抱え、 BPDに取り組んでいないなら、

 患者の変化は いっそう難しくなります。

 最も重要なのは、 信頼のおける治療者を 見つけることです。

 患者にとって大切な人が 協力できるなら、 もっと効果的です。

 治療者は、 家族が罪悪感を抱いて 自責的にならないよう 援助すべきです。

 しばしば親は、 BPDの責任が自分にあるなら、

 自分が障害を治せると 感じるかもしれません。

 複数の要因が組み合わさって BPDは発症するので、

 精神療法, サポート, 薬物療法の 組み合わせが必要でしょう。

 高度な技能や思いやりをもって 治療に取り組むべきです。

○ 入院治療について 知っておくべきこと

 BPDの症状は、 外来患者の約10%、 精神科入院患者の20%に認められます。

 施設の方針は、 必ずしも 家族に好意的ではありませんし、

 閉鎖病棟に慣れるのに 相当苦労するでしょう。

 家族は、 患者との関係が問題視されていると 感じるかもしれません。

 病院生活を経験していくことで、

 スタッフにどう話しかけたらいいのか, いつ医師に会えるか,

 ソーシャルワーカーの部屋はどこかなど、 家族は学べるでしょう。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家族の視点 -- ある母親の経験 (2)

2013年09月22日 20時53分48秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

 私たちは、 遺伝子の問題なのか、 子供のときの環境が原因なのか、

 自分たちを責めました。

 親戚から偏見も経験しました。

 私たちは 現状を誰にも話したくなくて、 社交的な場に顔を出すのを避け、

 親戚との関係は ギクシャクしたものになりました。

 多くの臨床家が、 私たちの話に耳を傾けてくれず、 治療困難であり、

 家族の過干渉だとして、 見離されたことを 思い知らされました。

 精神疾患の支援団体までもが、 BPDに ほとんど関心を持っておらず、

 私たちの声を 抑圧しようとさえしたのです。

 私たちは、 多くの治療者, デイケアに 援助を求め続け、

 5回の入院のあと エネルギーと望みは消えてしまいました。

 ある日、 娘は大量の薬を服用して 救命救急質に運ばれ、

 四肢を拘束されて、 様々なチューブが取り付けられていたのです。

 私は 弁証法的行動療法 (DBT) を知らされました。

 週に1度、 複数の家族による 集団療法に参加しました。

 安全な状況の中で、 しっかり嘆くことによって 自分を責めるのをやめること,

 深く悲しむことによって 罪悪感の重荷を下ろすこと,

 偏見の苦しみから逃れることに 取り組んで、 大いに助けられました。

 教えの多くは、 BPDの人から学んだものです。

 どうすれば 押しつけがましくなく支持できるか,

 どんな場合なら 罪悪感を抱く必要がないか,

 偏見や差別に対して 娘をどのように助けていったらいいのか、 などです。

 私たちは、 娘が自ら責任を持って 回復できるよう、

 援助するチームの 一員になったのです。

 それは長く、 辛い取り組みでした。

 娘はもう一度 働くようになって 大学を修了したいと強く望み、

 一歩一歩目標へ向かっています。

 彼女には 再び友だちもでき、 リーダーとして見られています。

 私たちのもとに、 かつての娘が戻ってきたのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

家族の視点 -- ある母親の経験 (1)

2013年09月21日 21時09分26秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 学校の先生は、 発達上の問題についての知識は ごくわずかです。

 成長すれば治るという 神話が広がっています。

 BPDへの関心は深まりつつありますが、 実際に話をする人は誰もいません。

 ある種の秘密であるかのようです。

 BPDに苦しむ家族の 物語を紹介しましょう。

                   *

 娘は美しく、 すらりとした女性に成長しました。

 成績優秀で、 絵の才能がありました。

 しかし 彼女は自分のことを よそ者と捉えていました。

 彼女は自分の状態や、 何が起こっているのか、

 何の手がかりもないと 感じていました。

 私にはそれが なかなか理解できませんでした。

 BPDと診断されのは 20代の初めでしたが、

 それまで理解しがたかった症状に 説明ができるようになって、 安心しました。

 彼女は 摂食障害や過食症の症状を 示していましたが、

 自分の食生活について 嘘をつき、 標準体重スレスレに留めていたので、

 医師や私は まんまと騙されていました。

 薬物とアルコールの問題も生じました。

 にも拘らず、 娘は名門大学に入学しました。

 私は、 すでに病気が彼女を 蝕んでいることに思い至りませんでした。

 彼女が絵をやめてしまった時、 良くないことが起きていると気付くべきでしたが、

 勉強のために時間が必要と 彼女が言い張ったので、 安心してしまったのです。

 2年生になったとき、 娘は大学をやめて 自宅に帰ってきましたが、

 身長1m68, 体重39㎏でした。

 娘は助けを求めるのを ためらっていました。

 私と夫は、 良くないことに気付いていましたが、 なおも否認していたのです。

 優秀な娘が、 ごく普通の活動に対応できず、 自己破壊的な行動に走るなんて、

 どうしてあり得るでしょう? 

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

当事者の体験記 (その2) -- BPDと手を繋げるようになりましょう (3)

2013年09月20日 21時05分18秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

 第3の要因は、 場当たり的な行動を防止する 具体的な手段です。

 私はデイケアプログラムに参加しました。

 セラピストと、 必死に奮闘している仲間たちは、

 私を理解してくれ、 私は徐々に変わり始めました。

 弁証法的行動療法では、 自分の心に焦点を当てる 方法を教えられました。

 そして、 否定的な感情も、 肯定的な感情も

 受け入れられると理解できるようになりました。

 不信感の認識の仕方, 衝動的に行動しないための技能,

 人と関わる方法を 教えてもらいました。

 苦痛を和らげるための その場しのぎの行動は、

 健康的な行動に 置き換えられるようなりました。

 それには 練習を重ねる必要があります。

 容易ではありませんが、 充分 努力のしがいのあることでした。

 第4の要素は、 家族の愛と支援です。

 あなたを信じてくれる 人の大切さは、 どれほど強調しても足りません。

 家族のいなかったら、 私は今日 ここにいることさえできなかったでしょう。

 夫が諦めないお陰で、 BPDとともに 生きていけるようになったのです。

 現在、 私は 幸せと悲しみの両方を 安全に感じられるようになりました。

 感情的になっても 耐えることができ、 衝動を感じても 行動する前に考えます。

 自分の敏感さを恐れませんし、 いつ助けを求めていいか 分かります。

 「分裂」 することも それほど多くありません。

 自分の心の中を どのように表現したらいいか 学び続けています。

 問題の引き金に向き合うため、 自分にかける 優しい言葉を書き留めたり、

 混乱した感情を 言葉で表現するために、 日記を持ち歩いています。

 人生には 良いことも悪いことも 両方あることを知っていますが、

 安全に対処していけます。

 この数年、 私は仕事に復帰し、 心理学の修士号を取りました。

 精神病の人とその家族に、 弁証法的行動療法と対処技能を教え始めました。

 混乱を感じながらも、 私は毎日 自分にこう言っています。

 「BPDと手をつなぐのよ。  恐れちゃだめ!」

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

当事者の体験記 (その2) -- BPDと手を繋げるようになりましょう (2)

2013年09月19日 21時27分59秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

 とうとう私は BPDと診断されました。

 自己コントロールが失われる、 それは恐ろしいことでした。

 私はこれまで 何もかもちゃんとコントロールして、 よくやってきたんじゃないの?

 しかし 最も大切なのは、 私がBPDということではなく、

 私が現在、 健康で幸せな生活, 喜びと悲しみ,

 穏やかな時と辛い時に 満たされた生活を送っているということです。

 4つの要因のお陰で、 私はBPDとともに 生きていけるようになったと思います。

 第1の重要な要因は、 自分の考え方を 進んで変えていこうとする姿勢です。

 私は診断されてから2~3年かかり、 その間はほとんど進歩しませんでした。

 新しい方法で世界と向かうことを 不快に感じ、 耐えようとしませんでした。

 内面から変わらなければいけないと気付いたとき、 私の回復は始まりました。

 第2の要因は、 患者を支持し、 情報を提供してくれる 医療チームの存在です。

 個人療法は、 プライバシーが守られた環境で、

 自分の体験を 安心して吟味することができます。

 集団療法は、 自分と同じように苦しんでいる 仲間の支持や、

 自分の所属を得ることができます。

 対人関係を学び、 感情や欲求を 言葉で表現する練習もできます。

 私は 自分に対して批判的でしたが、 先生は安心できる環境を作り、

 共感的に 私の考えを変えようとしてくれました。

 私は頻繁に嘘をついたため、 自分がついた嘘を 忘れてしまうほどでした。

 私の行動を理解し、 次の予防戦略を 長時間考えました。

 自分が自分との関係を築き、 自分が何者なのか 明らかにしようとしていたのです。

 私は、 自分の課題をこなすことを 求められました。

 自分の選択とその結末の 関係を学ぶのは、 一貫した支持が非常に重要です。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

当事者の体験記 (その2) -- BPDと手を繋げるようになりましょう (1)

2013年09月18日 22時16分54秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 私の問題は かなり早い時期に始まりました。

 11歳の時に、 母と揉めていたことを覚えています。

 母は酷く怒っており、

 私は 自分の内側の世界に逃げ込むと、 ふたつに 「分裂」 しました。

 自分の身体から 内的な自分を取り出し、 箱の中に入れるのを想像しました。

 私は 「消えて」、 自分の好きなときに 戻ってこられましたし、

 その時の記憶を 持つ必要もありませんでした。

 現実は、 精神疾患なんて言葉が 許されない世界でした。

 高校生の時、

 私は 二人の人間がいるように  「分裂」 する練習をして過ごしました。

 別々の世界に出入りして 精神的な漂流をしていました。

 独りぼっちでいることが恐くてたまらず、

 その場しのぎの 薬, アルコール, 自傷行為, 自殺企図に走りました。

 成長するにつれて私は、 愛らしく、 人に受け入れられる

 見せかけの姿を装うことが できるようになりました。

 大学卒業後、 働きに出て結婚しました。

 子供を持つようになり、

 26年を経た現在でも、 夫と私は お互い深く愛し、 尊敬し合っています。

 自己同一性がないために発生する 問題を抱えていましたが、

 いつでも 「分裂」 することができました。

 母が亡くなると、 またしても私は 疑い深くなり、 自殺の思いに捕らわれ、

 向こう見ずな衝動に 走るようになりました。

 虚しさや恐れ, 自己嫌悪に耐えられず、 しばしば解離状態に陥りました。

 もし家族が 私について本当に知ってしまったら、

 彼らは私を見捨てるだろうと 考えていました。

 でも私の家族は、 私が苦しんでいることを知っていました。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

当事者の体験記 (その1) -- 「同一性に対する疑問」 (2)

2013年09月17日 20時20分09秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

 私はいつも、 変化したのは私以外の人だと 想像したものでした。

 まるで夢の中で、 誰かがその人でないように 意地悪くひねくれたと感じるみたいに、

 周りの人に対する 自分の気持ちが 分からなくなることがよくありました。

 友だちとして付き合いたい人や、 傷つけたくない人から、 離れることを決めかねて

 ぐずぐずしていることがよくありました。

 しかし、 その人たちの所へ戻ったことは 一度もありませんでした。

 一緒に働いていた人のことも 恐れました。

 体調が悪くて、 電話するのが 恐ろしくてできない時は、 大量に薬を飲みました。

 全てから逃げてしまうほうが 楽だったのです。

 かつては 無鉄砲で図々しかったのですが、

 尻込みして怯え、 内部が破裂しそうでした。

 26歳の時、 転移に焦点を当てた 精神療法を始めました。

 するとすぐに 自殺企図をしなくなりました。

 私の中に 生きたいと思う部分があり、

 治療を台無しにしないためには どうしたらいいのか、 自分でも分かったのです。

 先生は、 私の最も強烈で、 最も混乱した感情にも 耐えてくださいました。

 それらの感情は、 以前は何らかの 危険な行動化をしていたのですが、

 転移の中で 詳しく探求できたのです。

 治療はセラピストにとって、

 知性と理解の両方を必要とし、 単なる知的な経験ではなく、

 患者の激しい感情の世界に 溺れることなく、

 それにさらされることを必要とする 感情的な経験でもあるといいます。

 治療を初めて8年、 理性を失わせる激しい怒りは、 普通の怒りになりました。

 圧倒的で強烈な欲求不満は、 単なる欲求不満になりました。

 幸せを死に物狂いに求めて 何も思いつかない空虚感を、 ほとんど思い出せません。

 私はそれまで、 風変わり もしくは創造的であるということと、

 正気ではないということの 違いを分からない恐ろしさから、

 しばらくの間 何もかも放っておいたのです。

 今は 風変わりでも気にしません。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

当事者の体験記 (その1) -- 「同一性に対する疑問」 (1)

2013年09月16日 22時45分21秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 私がBPDと診断されたのは 22歳のときです。

 数々の症状を包み込んでくれる 名前の付いた入れ物があるというのは、

 安心させてくれることだと感じました。

 私に同一性の感覚を 与えてくれたのです。

 死を望んでいるというより 癇癪といったほうがいい自殺企図,

 温かく にぎやかな群衆の中にいても 自分を封鎖してしまう 漫然とした空虚感、

 これらが全て この障害の一部だと 明らかになったのです。

 私がすることは 全て度を越していました。

 食べきれないほど多くのトリュフを 食べることができないなら、

 トリュフは一切いらない、 と言うようなものです。

 私は自分が何者であるか、 何を望んでいるのか、

 回復したいために 長く生きたいと望んでいるのかも 分かりませんでした。

 治療の先に 全く光のないトンネルを 進んでいくような、

 限りない曖昧さや 不確かさに対して、

 私は物を蹴ったり 引き裂いたりしたくなりました。

 私の中には 生きたいと望む 不完全な薄い層がありましたが、

 それとは別の強力な声が 高波のように頭を満たし、

 急いで薬を飲みなさいと言って、 ホテルの部屋へと急がせました。

 同一性障害は、 BPDの子供に認められるが、 神経症の子供には存在しない

 と言われ、 子供の時からBPDだったと 認識せざるを得ませんでした。

 私は年1回の割合で 自分の呼び名を変えていました。

 他の子のお弁当を盗んで、 嘘をついて 信じてもらえないと分かっていながら、

 嘘をつき通せば 私は大丈夫だと考え、

 嘘に包まれて保護されているように 感じたことを覚えています。

 あれは 本当の私ではありませんでした。

 私はひょうきんで、 多くの突飛なことを思いつき、 向こう見ずでした。

 「私を見て。

  私がした楽しいことを聞いてちょうだい」 と よく言ったものです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

境界性パーソナリティ障害の長期経過

2013年09月15日 20時08分04秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 BPDの人の長期的な転帰や、 どの人が改善するのか、 またはしないのかについて、

 ほとんど分かっていません。

 統合失調症や双極性障害は、 長期経過を検証した研究が 多数ありますが、

 BPDの経過を追った研究は ごくわずかです。

 後方視的 (回顧的) 研究 〔*注1〕 では、

 BPDの経過が 非常に変化しやすいことが分かりました。

〔*注1: 診療記録によって 対象患者を特定し、

 現在の時点から 過去を振り返って、 その診断に関係する事項を 調べていく研究〕

 患者によっては 職場や社会的状況で うまく機能できますが、

 苦しみの続く人もいます。

 3%から10%の人が 自殺によって亡くなっています。

 前方視的研究 〔*注2〕 は ふたつ行なわれています。

〔*注2: 時間の経過とともに、 被験者の集団を 観察していく研究〕

 マクリーン病院成人発達研究では、 BPDの症状の改善は 一般的に見られものの、

 感情症状は衝動性と比べると 軽減のスピードが緩やかでした。

 一方、 パーソナリティ障害経過共同研究では、

 BPD患者で比較的早く 改善が訪れていることが分かりました。

 1年後の追跡調査で、

 患者の半数以上が BPDの診断基準を満たさなくなっていました。

 これらの研究からは、

 BPDの人とその家族にとって、 従来より肯定的な見通しが 明らかになっています。

 研究が重ねられれば、 改善の要因が明らかにされ、

 回復の新たな希望が 見えてくるでしょう。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

衝動的な行動症状に対する薬物療法

2013年09月11日 21時16分19秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 BPDの衝動的な行動症状には、 自他や物に対する 衝動的な攻撃が含まれ、

 自殺関連行動の 主な危険要因です。

 浪費, むちゃ食い, 薬物使用, 性行為に現れることもあります。

 軽はずみな判断をするといった 認知的側面に影響があるかもしれません。

〈SSRI抗うつ薬〉

 衝動的行動に対する治療の 第一選択となる薬です。

 効果が不充分な場合には、 MAOI抗うつ薬, 気分調整薬が検討されます。

 暴力など 性急な効果が必要な場合には、

 期限を限って 低用量の抗精神病薬の筋肉注射が 必要かもしれません。

〈気分調整薬〉

 炭酸リチウムは、 投与量が多すぎると 重大な副作用を 引き起こす恐れがあり、

 過量服用が致命的となりかねません。

 定期的な血液検査で 血中濃度をモニターする必要があります。

 カルバマゼピンは、

 感情統制不全と行動面の症状の 両方に用いられる 抗けいれん薬です。

 ディバルプレックスは、 不安定な気分と 攻撃的行動に対して有効です。

 共に 定期的な血液検査が必要です。

○ 薬物療法の継続期間

 認知-知覚的症状に対する 低用量の抗精神病薬は、

 短期的使用 (数週間~数ヶ月) が現実的でしょう。

 感情統制不全と衝動的行動の 治療の場合、

 患者がストレスに うまく対処できるようになるまで、 薬を続ける必要があります。

○ 結び

 BPDの薬物療法は 試みの段階です。

 混乱した対人関係を 治療するものではありませんが、

 精神療法の効果を増す 治療法です。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

感情統制不全に対する薬物療法 (2)

2013年09月10日 19時53分11秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

〈モノアミン酸化酵素阻害薬 (MAOI) 抗うつ薬〉

 MAOI抗うつ薬は、 感情統制不全に対する 効果が実証されていますが、

 使用には危険が伴います。

 チラミンを含む食物を 多く取ると、 血圧上昇を引き起こします。

 鼻づまりの薬や、 幾つかの降圧薬,

 鎮静剤 (メペリジン) も服用できなくなります。

 不法なドラッグは 特に危険です。

 服用中に避けるべき 食物と薬を よく理解していることが不可欠です。

 MAOI抗うつ薬は 過剰に服用すると 極めて有害ですが、

 SSRI抗うつ薬が効かない場合に 考慮すべきです。

 非定型の抑うつ症状には 極めて有効なことが多いのです。

〈抗不安薬〉

 アルプラゾラム, クロナゼパムなどの薬剤は、

 BPDの急性・ 慢性の不安に しばしば用いられます。

 これらはベンゾジアピン系薬剤であり、

 乱用されがちで、 依存する可能性があります。

 突然使用を中止すると、

 けいれん発作などの 離脱症状 (禁断症状) が生じる恐れがあります。

 アルプラゾラムは、 自己破壊的行動や 他人への暴力といった、

 重大な脱抑制行動が認められます。

 クロナゼパムは、 重症患者の興奮や攻撃性に 有効であるという報告があります。

〈気分調整薬〉

 感情統制不全と衝動的行動の 両方に使用されます。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする