もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

ベネズエラ内戦へ~第2章

2019年03月29日 | 軍事

 ロシアがベネズエラのマドゥロ政権維持のため、100人規模の軍事顧問団を派遣したことが報じられた。

 軍事顧問団は、一般的に「軍事援助の一環として被援助国の軍隊の訓練や育成に従事する」と解されているが、軍事顧問団が持ち込む戦術思想は派遣国の兵器体系で組み立てられたものであるため、必然的に新式兵器・装備の供与・貸与に進む前段階と捉えられている。かってのキューバ危機は、革命を指導したソ連の軍事顧問団の戦術思想に従って対空ミサイルが供与され、さらには米本土を攻撃できる中距離戦術ミサイルが持ち込まれようとしたことに端を発している。ベトナム戦争やシリア内戦についても、紛争初期段階で大国から派遣された軍事顧問団が直接的な軍事介入の引き金となって、紛争の拡大と泥沼化を引き起こしたものと解される。冒頭に顧問団の派遣は軍事援助の一環と書いたが、それ以上に軍事介入さえも辞さないという大国の意思表示とみるべきで、ロシアがベネズエラに持つ権益保護とアメリカへの橋頭堡維持に本気であることを示したものであると考える。ロシアはトランプ大統領が示したINF(中距離戦術核全廃条約)破棄通告を好機と捉え、失敗に終わったキューバ危機を再現してカリブ海の覇権とアメリカの牽制という2兎を狙った行動と観るのが妥当であろう。現在アメリカは、ベネズエラに対して経済制裁、グアイド暫定大統領支持表明、民間レベルの人道支援という行動に留まっているが、ロシアの軍事顧問団の派遣に対してトランプ大統領が「ロシアをベネズエラから去らせるために全ての選択肢が可能」と表明したことから、民兵組織への武器供与は確実に行われるであろうし、経済締め付け強化やロシアからの武器搬入阻止のための海上封鎖等に発展というキューバ危機の再来すら予想される。ベネズエラ情勢は、政情不安~軍事援助~軍事介入~内戦(代理戦争)という見慣れた図式を辿ろうとしており、現在は第2章の状態であろうと思うが、国連安保理に拒否権を持つ2国の直接的な確執・代理戦争であれば、国連の調停や影響力の行使は期待できない。シリアを含む中東情勢については、ゴラン高原の領有支持とエルサレムの首都認知という手段でイスラエルを薬籠中に入れて均衡を図ることで良しとしたトランプ政権も、カリブ海に刺さった「喉元の骨」は許容できないもので、先のコメントも舌戦以上の過激な対応さえも辞さない決意と観るのが正確ではないだろうか。

 以上のシナリオは常識的な見方であるが、大統領選挙に絡む捜査が終了して「シロ」と判定されたもののの、トランプ大統領には「拭いきれない対ロ疑惑」が現在も燻っている。このことから、漫画的ではあるが『ロシアが軍事顧問団を派遣してアメリカを脅迫~アメリカが強硬手段をとる~ロシアが顧問団を撤収して痛み分けの情勢を作る~トランプ大統領はロシア疑惑を払拭・再選』というような密約シナリオも考えておかなければならない。いずれにせよ、ベネズエラを巡る米ロの駆け引きは、世界平和時計の針を進めることは間違いのないことだろう。