11月10日に掃海艇「うくしま」が機関室火災の後に転覆・沈没した。
自分も約3年間掃海艇に乗艦したことがあるので、機関室火災~乗員1名行方不明~転覆・沈没と云う痛ましい事態に驚くとともに、行方不明となっている乗員(33歳)に心からの哀悼を奉げる。
事故の詳細や原因については、後日発表されると思うので軽々なことは書けないが、沈没に至る一般的な経緯(私見)を書いてみたい。
艦艇に限らず船には復元力があり、特に艦艇にあっては風や波の影響力を考慮しない静的復元力に限って言えば、90度(横倒し状態)以上でも艦は転覆しない設計となっている。艦艇の就役後に私物や需品を重心よりも上に搭載しても復元範囲が90度を下回ることは無い。では何故に「うくしま」が沈没したかと云えば、波浪に伴う自由水の移動によるものであるように思う。報道写真に依れば、僚艦が横付けして消火活動や電力供給などの支援を行っているようであるが、うくしまは既に喫水も下がり10度ほど傾いている。これは多量の消火水が機関室に溜まっていることを意味し、その消火水が自由水となって動的復元力を低下させているように思える。
掃海艇が電力を失った場合、搭載しているガソリンポンプは消火活動に手一杯で、消火水の排除を消火活動と並行して行うことは不可能である。恐らくであるが「うくしま」でも、電力を喪失したため電動の消火海水ポンプは使えずに、ガソリンポンプで消火活動をしていたものであろうし、横付けした僚艦も延焼中(火元)の機械室から消火水を排除すること等できなかったと思われる。
自分も、機関を任された魚雷艇では機械室火災、掃海艇では機械室のボヤと主機(10ZC)焼損、護衛艦では発電機(MI)焼損、と散々な実績であるが、逆に考えれば「事故は常に・頻繁に起こる」と云えると思う。それでも定年まで機関の現場に留まることができたのは、僥倖であり運が良かっただけと今は思っている。
近代的なシステムでも事故は起き、すぐさまに責任の所在を追及する魔女狩りが始まるが、うくしまの乗員諸氏、就中機関長を始めとする機関科員諸氏においては、落ち込むよりも今回の機関室火災~転覆・沈没を教訓として以後の任務に邁進して欲しいと願っている。
プロ野球の世界でも、完全試合を成し遂げた投手が、自分の投球術よりも運の要素が大きいとしている。