もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

音響測定艦「あき」就役に際して

2021年03月05日 | 自衛隊

 海上自衛隊の音響測定艦((AOS)「ひびき型」3番艦「あき」の就役が報じられた。

 音響測定艦は主として「曳航式パッシブソーナ装置」によって潜没潜水艦の音響特性(音紋)を収集する艦で、攻撃兵器は装備されていないために戦闘には供し得ない。音響情報は対潜戦には欠かせないものであるが、音響測定艦の行動は特定の海域を遊弋して水中音をひたすら聴音するという地味なものであり、必然的に行動は長期間に及ぶ。そのために3000㌧の艦艇でありながら40名の乗員で運行が可能なように遠隔化・自動化が取り入れられ、機関室無人化も図られている。長期耐洋のための居住設備も考慮されており、公表されたところではトレーニングルームや自習室、野菜栽培器が設置され、トレーニングルームなどの照明には太陽光自動集光・伝送装置(ひまわり)も装備されている。また、パッシブソーナの安定運用のために「ひびき型」船体は双胴構造であるために、3000㌧の艦でありながらヘリコプタ甲板を持っており、海自保有機としては最大重量の掃海ヘリ(MH-53E)の発着艦が可能となっている。
 音響測定艦は長期に亘って行動することから、2017年以降に海自艦艇として稀有のクルー制(乗員を固定せずにクルーが交代して運用))がとられており、「あき」の就役によって3隻・4クルー体制となるとされている。
 アメリカも20数隻の音響測定艦を保有しているが、海軍籍ではなくMSC(軍事海上輸送司令部)所属で退役軍人を中心として運用されている。
 おそらく中国でも同種の艦艇で同様の活動をしているものと思われるが、中國潜水艦にとっては日米の音響測定艦の活動は目障りな存在であることは間違いのないようで、これらを「ヒツジ(平和)の皮をかぶったオオカミ(戦争)」と呼んでいるらしい。

 音響測定艦が収集した潜水艦の音紋は、それ自体では情報としての価値は低く、音紋の発生源(潜水艦名)が特定された時に情報の価値は飛躍的に高まる。折に触れて本ブログで、事故潜水艦の艦名や所在を公表することは利敵行為としてきたのは、潜水艦の情報を公開することは中国に採取した音紋の発生源を労せずに与えることことを込めていたためである。
 さらに中・小型輸送艦の建造に関して「日本版MSC」設立を提唱したが、民間船よりは危険性が高く、軍人(自衛官)と同等の秘密を保持するためにも、OB自衛官を中心とした組織を持つ必要があるとしたことによっている。


エビデンスは今

2021年03月04日 | コロナ

 昨年の今頃、盛んに使用されて脚光を浴びていた「エビデンス」は今どうしているのだろうか。

 エビデンスは「証拠、科学的根拠、証明、検証結果」と訳されているが、武漢ウィルスに対する最初の緊急事態宣言の発令と解除に際しては、各界・各層で使用されて流行語大賞に選ばれても可笑しくない勢いであったが、この頃ではトンと耳にしない。
 コロナウィルス感染症である「中東呼吸器症候群(MERS)」、「重症急性呼吸器症候群(SARS)」を経験したとはいえ、ウィルスの特性・感染力・感染方法も定かでない新種感染症対策にエビデンスなど存在しないであろうことは、医学・公衆衛生・統計学に無知な自分でも分り切ったことであったが、「エビデンス」なる言葉は、施策反対の論拠としては為政者の「グーの音」も封ずる魔力を持っていたし、対策を躊躇する側にも論拠として使用できると云う、将に魔法の言葉であったように思う。
 国民にエビデンスに基づく要請など必要としない中国は、強権による汚染地域の完全封鎖で感染局限に成功したし、北朝鮮は国境を封鎖して鎖国することで1名の感染者も出していない(笑)。
 1カ月を目安として発令された今回の緊急事態宣であるが、東京、神奈川、千葉の1都3県では当初期限の3月7日から2週間程度延長される気配が濃厚である。例によって賛否が割れているが、科学的根拠は曖昧ながら人が群れなければ・人がうろつかなければ感染者は確実に減ることを経験的に知った今では、延長に対して殊更エビデンスを求める人もいない。
 現代のエビデンスは数字で示されることが多いために、数字の魔力が独り歩きすることも珍しくないようで、高血圧の基準値が130と云われると129では安心し131では脳梗塞を心配する人もでてくるし、世論調査で内閣支持率が下がったと野党が快哉を叫んだものの、よくよく見れば内閣支持率低下分は野党支持に流れたものではなく支持政党なしの増加である構図はおなじみである。
 数字は科学技術の進歩には必要不可欠なものであろうが、実生活では参考的な指標程度に捉えるのが正しいように思える。

 ワクチン保管用の冷凍庫が故障して1,000回分のワクチンが廃棄された事象があった。故障の原因は所謂「たこ足配線」という単純なものであったが、数字と統計を基に巧緻に練り上げられたであろう接種計画であっても、蟻の一穴で修正・変更を余儀なくされるため、ワクチン接種事業に過大な期待と幻想を抱かないようにと示された一時でもあるように思う。
 古人は「50歩百歩」として数字を重視する愚を戒めたが、エビデンスそれも数字を過大に評価する現代にあっては、7万円と2万円の接待額の多寡で罪科の軽重を決定するが、いかがなものであろうか。


アフガン情勢を考える

2021年03月03日 | 歴史

 5月1日の外国駐部隊(米軍)の撤退期限を目前にしているアフガニスタンでの戦闘が拡大しているらしい。

 アフガンの停戦と駐留軍の撤退はアメリカ政府とタリバンの間で合意されたもので、アフガニスタン政府が参加していないこともあって当初から実効性は危ぶまれていたが、危惧されたような経過を辿っているように思える。さらにはトランプ政権が昨年末に行った一部撤退をタリバンは勝利と捉えていることに加え、アルカイダ勢力の回復やシリア・トルコを追われたイスラム国(IS)勢力も浸透しており、アフガンの混迷は一層深まった感が強い。
 イスラム(シーア派)原理主義者の活動を長期的に見ると、1960年代以降に石油資源が世界経済の死命を握っていることに気付いた中東産油国が競ってイスラム色を薄めた急激な近代化政策を採ったことが出発点であると考えている。富の集積は必然的には格差を生むとともに、近代化=欧風化はイスラム回帰の念を一層掻き立てる結果となり、イスラム勢力は1980年代には資本主義(自由主義)と共産主義の2極に次ぐ第3極の勢力となった。言い換えれば、資本主義(キリスト教)、共産主義(無宗教)、イスラム教の宗教対立であり、近代まであらゆる紛争解決の有効な武器であった経済や大砲では根本的な解決は不可能であるように思っている。また、イスラム勢力が世界を混乱させる原因は、教義解釈に起因する宗派対立が顕著であり、もしアフガニスタンがイスラム教国となっても宗派対立はより尖鋭化して内戦状態となることは確実で、その様相はキリスト教徒とイスラム教徒の主導権争いに端を発したレバノン内戦など足元にも及ばない凄惨な様相を見せるであろうことは確実であるように思える。
 多神教の日本で、更には無宗教の自分には想像できないものであるが、他の宗教を悪とする唯一神への強固な信仰は、国家、政体、国民の全てを破壊しても守り抜かなければならないものであるのだろう。
 米軍の撤退に合わせて完全撤退するとしていたNATOも「適当な時期までアフガンを離れない」としているために、アメリカ軍の撤退も先送りされ、短期間にアフガンが安定するのは絶望的であるように思えるが、気がかりはウイグル自治区でアフガンと国境を接している中国が表立って活動していないことである。国内への飛び火防止を考えれば、中国はアフガンの完全イスラム化は絶対に阻止したいことのようにも思えるが、アメリカとタリバンが共倒れして漁夫の利を得ることを期待しての沈黙であるかも知れない。

 日本にもタリバンやアルカイダを支援する組織や個人がいるともされるが、日本には他国のテロ活動を支援した際に処罰される「共謀罪」がないことから、テロ組織の頭脳や後方支援担当者にとっては将に天国であるともされている。


3.1節と文大統領演説

2021年03月02日 | 韓国

 韓国の「3.1節」恒例の大統領演説が報じられた。

 「3.1節」は日本統治時代の1919(大正8)年に起きた独立運動を祝う祝日で、韓国憲法の前文にも「3.1運動で成立した大韓民国臨時政府・・」と記述されているので現政体の原点と位置づけされているようである。
 3.1運動の詳細は前にも勉強したことこともあって省略するが、記念式典と大統領演説は、独立宣言が読み上げられたソウル中心部のタプコル公園(実際には仁寺洞の泰和館に変更)で行われるのが恒例となっている。
 今回の文大統領演説は、前年よりも反日色の弱まったもので文政権の日韓関係修復のサインかと報じられているが、素人目には依然として「(被害者である)韓国は何もしない。日韓関係修復は(加害者である)日本の努力次第」を繰り返しているようにしか思えない。
 文大統領が意に反して反日色を弱めざるを得なかったのは、アメリカの外交政策の変化が大きく関与していると思っている。
 トランプ政権は、二国間条約に基づく米軍事力行使を重視していたために日米・米韓それぞれの軍事同盟が維持されれば十分で、日韓関係の破綻や修復には興味がなく唯一口をはさんだのは「アメリカの情報収集に影響」する日韓GSOMIAが危殆に瀕した時のみであった。
 一方、バイデン政権は多国間主義を鮮明にして、東アジア安定のためには日米韓の連携・協調が重要とのスタンスを取っているために、日韓関係の修復を双方に働きかけるのは当然であるように思う。さらには、財団設立による慰安婦問題解決の取り組みをオバマ政権が評価したこともあって、韓国の手のひら返しが現在の混乱の元と分析するのも十分に考えられるとともに、国連決議に反する戦略物資の対北横流し疑惑(疑惑以上)もあって、一部の報道ではあるが「韓国には多くを与えるべきではない」という意見がバイデン政権内では囁かれているともされる。

 日米の双方から自由陣営に留まることを疑問視される文大統領であるが、残りの任期が1年となった韓国大統領としては異例ともいえる30%台後半の支持率を得ている。しかしながら1丁目1番地として掲げた南北統一の道順も北朝鮮から手酷い回答を受け、頼みとした米朝会談仲介も米朝から梯子を外されて結局はピエロの役割しか果たせなかった。内圧を反らすために煽った反日は制御不能にまで成長してしまい、日本に1歩でも歩み寄れば政権維持すら危うい事態を招きかねないようにも思える。
 公約した経済回復も成果を挙げていないようで、外部から見れば文政権は韓国に「失われた5年間」、「中国に屈服させられた出発点」しかもたらさないように思えるのだが。