最近ではめったに手紙やはがきが来なくなったが、先日、手紙にまつわるうれしい出来事があった。
視覚障害者のために朗読をする「音訳」を始めてから10年になる。ある日、気力が続かなくなったという理由で、先輩の音訳仲間が退会するらしいと聞いた。私は即座に「もったいないなあ」と思った。彼女の音訳は声が澄んでいて聞きやすく、ひそかに目標にしていたのだ。
なんとか考え直してほしい、まだ年度末の例会に間に合う。何度も電話の受話器を取ったが、自分の思いをうまく伝えられる自信がなく、かけることができなかった。それでもやっぱり正直なこの気持ちを伝えたい。手紙を書くことにした。
後日、「読み終えたと同時に泣いていました。あなたの気持ちがとてもうれしかった」という彼女からの返事を読んで、私も胸がいっぱいになった。思いが伝わったことと、彼女が音訳をやっていて本当によかったと言ってくれたことが、とてもうれしかった。
この可愛いウサギの絵はがきは私の宝物になった。最近では礼状を書いたり、お礼の電話もしないで携帯メールで済ませていた。手書きの文字には不思議な力が宿っているのだと思う。これからは使い分けをしなくては。
今まで友人からもらった手紙を読み返してみた。文章から穏やかな日々を過ごしている様子が浮かんでくる。早速、手紙で近況を知らせよう。
毎日新聞 2011年4月16日 中部朝刊