県内初となる知的障害者の県代表サッカーチームが誕生した。全国大会への出場権獲得を目指し、5月15日に大分市で開かれる九州地区予選会に臨む。指導者は、鹿児島から「もうひとつのW杯」に出場する選手を育てたいと夢を描く。
「前、前」「声出して!」。9日、鹿児島市郡元1丁目の鹿児島大付属中グラウンド。緑色のそろいのビブスを身につけ、知的障害者の選手11人がボールを追いかけて走り回った。中学校との練習試合だ。
主なメンバーは13~21歳の知的障害者の男性約30人。知的障害者サッカー競技九州ブロック地区予選会に出場するため、昨年11月から毎月2回ほどの練習をこなしてきた。
「健常者と何ら変わらない」と、チームを発足させたNPO法人「スポーツライフかごしま」の白石明史さん(45)。違うのは全員が知的障害者であることを示す療育手帳を持っていることと、試合時間が20分ハーフ、選手交代は何人でも可能とルールが少し異なるだけだ。監督を務める元ヴォルカ鹿児島の西真一さん(38)は「障害があるからと特別なことはせず、普通にほめ、普通に怒ります」と話す。作戦や指示も大抵のことは理解できるという。
「もうひとつのW杯」とは4年に一度開かれる知的障害者のサッカー世界大会の通称だ。白石さんが「この大会に出場する選手を育てたい」と思ったのが、チームづくりのきっかけだ。
昨年5月に県内で初めて開いた知的障害者のフットサル大会に出場した養護学校に声をかけるなどして選手を集めた。養護学校に部活動はなく、本格的なサッカー経験者はいない。最初はシュートやドリブルなど基礎練習から始めた。
主将を務める会社員の大田直人さん(21)は「障害者がみんなで一つの目標に向かって何かするということはあまりなかった。サッカーで交友関係が広がったし、チームの雰囲気はよくなっている」と話す。
9日の練習後に試合の登録メンバー20人のうち17人が発表された。FWとしてメンバー入りが決まった大田さんは「練習に付き合ってくれるバックの人たち、ベンチから声をかけてくれる人たちのためにもチャレンジャー精神で頑張りたい」と意気込む。
各県選抜チームが集まる九州地区予選会で優勝すれば、10月に開かれる全国大会に出場できる。「まずは1勝」。選手たちの思いは、九州制覇、全国出場、そして世界へと広がっている。

練習試合でボールを追いかける選手たち=鹿児島市郡元1丁目
朝日新聞