みやけ・たく:2005年に東京医科大学、2012年に同大学眼科大学院卒業。現在は東京医科大学病院/永田眼科に非常勤眼科医として勤務する傍ら、トータルヘルスケアを手掛けるGift Handsの代表を務める。病院等へのiPad導入のコンサルテーション、視覚障害者向けセミナー、産業医活動などに取り組む。Webサイトはhttp://www.gifthands.jp/。
目にどんな症状があるか、なぜ手術が必要か。限られた診療時間の中で明快に説明するには、図が便利。だが、眼科の患者に細かな図は見にくい。
眼科医としてジレンマに悩んでいた三宅氏は、試みにiPadを使ってみた。2本指でさっと図を拡大し、要点を説明する。患者からは感動の声が相次いだ。見える自信が持てたこと、手術の意義が理解できたことで、治療への意欲が高まるのが分かった。
iPad 2でカメラが搭載され、有用性をさらに確信した。「医療では救えない、病院に来ない人たちの役に立ちたい」と、思い切って勤務先を退職。視覚障害者のための施設を回り、話を聞いて歩いた。そして「眼科医には絶対に気付かないニーズに出会った」。
例えば、ある弱視(ロービジョン)の人は「ご飯を見たい」と言う。「目隠しして食事をすると味が分かりにくい。人は“記憶を食べている”のだ」と改めて認識した。食べ物がはっきり見えなければ、味わうことも難しいのだ。
フレキシブルアームとiPadを組み合わせた「卓上拡大器」。机の上に置いたものを拡大して見られる
眼科の専門知識に加え、iPadやアプリにも精通する三宅氏。こうしたニーズがつかめれば、本領を発揮する。「単体では無理でも、複数組み合わせれば、ほとんどのことはできる」との考えの下、さまざまなアイデアを生み出している。例えば、iPadとフレキシブルアームで、卓上拡大器の出来上がり。iPad標準の音声読み上げ機能をOCRアプリと組み合わせれば、紙文書の読み上げもできる。使えるアプリが豊富にあるのは、iPadの強みだ。
視覚障害者や医療従事者に向けたセミナーを開催。iPadのさまざまな活用法を紹介している
だが、それ以上に大切なのは「iPadが視覚補助の専門器具ではない」ことだという。「従来の補助具はおしゃれじゃない。iPadほど広く普及した機器は、人前で使うのに抵抗感がない」。加齢による視力低下など、目のトラブルは誰にも起こり得る。三宅氏の目指す“使いたくなる”視覚補助具の重要性は、これからさらに増すはずだ。
Webサイトで情報を発信。「医療を楽しむ」「見る、読む」など、用途別に使えるアプリの紹介もしている
PC Online -2012年8月27日