障害者の受ける介護サービスは65歳(一部の人は40歳)を境に原則、障害者総合支援法に基づくサービスから、介護保険のサービスに切り替わる。障害者総合支援法は、原則、65歳以上の障害者に介護保険の適用を優先すると定めているからだ。これに異議を唱える人たちがいる。
愛知県一宮市の舟橋一男さん(65)は六十五歳を迎えた一月、障害者向けのサービスを利用できなくなった。
舟橋さんは脳性まひと、その二次障害のため、自力で立ち上がるのも困難。身体障害者手帳は一級で、支援の必要度を表す区分は6段階中5と重い。主に妻の介護を受け、月に二回の通院時だけ移動支援のサービスを使ってきた。
通院を助けるサービスは、障害者向け、介護保険どちらにもある。舟橋さんにも誕生日前に市から案内があり、要介護認定を受けた。手続き後、舟橋さんは負担が重くなると知ったという。
障害者サービスの自己負担額は、利用者の世帯所得で決まる。舟橋さんの負担はゼロだったが、介護保険は原則一割負担。「今は妻が元気だからいいが、将来はより多くのサービスが必要になる。不安だ」という。
負担の増加は一割負担にとどまらない。制度の違いで、公的なサービスを受けられる時間が減り、カバーされない時間は、一時間二千円の自費介護を受けることに。通院は平均二時間、月二回で、一時間半は自費介護になる。一カ月七千円ほどの負担増という。
「十分な説明もなく手続きをさせられた。処分は不当」と舟橋さんは主張。市は「法律に基づき対応した。十分説明したと認識している」と平行線だ。舟橋さんは障害者サービスの支給を打ち切る決定の取り消しを求め、審査請求しているが、結論は出ていない。
岡山市の浅田達雄さん(65)は十九日、六十五歳を理由に同市が障害者サービスを打ち切ったのは憲法の平等原則に反するとして、それ以前と同じように障害者サービスを支給することなどを求める訴えを岡山地裁に起こした。
浅田さんは一人暮らし。脳性まひで腕と足に重い障害があり、入浴や移動で月約二百五十時間の重度訪問介護を無料で受けてきた。
同市は、六十五歳になったら有料の介護保険サービスを最大限使うよう浅田さんに勧め、不足分を無料の障害者向けサービスで補うとした。浅田さんは、介護サービス費として月一万五千円の自己負担が生じるため「生活が破綻しかねない」と手続きを見送っていた。
誕生日を迎えた二月、市はサービスを全面的に停止。浅田さんは、支援者のカンパでヘルパーを雇うなどして約二カ月をしのいだが、支援は十分でなく尿路感染症で入院するなど健康も害した。このまま続けるのは無理と判断し、三月に介護保険の手続きをし、介護保険と障害者のサービスを使っている。
十九日の会見で浅田さんは「ここで頑張らないと、障害者自立支援法訴訟で低所得者の負担がなくなったことが無駄になる。六十五歳で従来のサービスが使えないのは年齢による差別」と訴えた。
総合支援法の前身、障害者自立支援法をめぐっては、原則一割負担などが憲法の定める生存権を侵すとして二〇〇八年から全国で訴訟が起きた。一〇年、負担の見直しや新法制定などで国と和解。同じようなサービスでも介護保険とは負担が大きく異なる矛盾が生じている。合意文書作成に際し、原告側は介護保険優先原則の廃止を提案したが、総合支援法には反映されていない。
障害者サービスを打ち切る愛知県一宮市の決定の取り消しを求め、審査請求をしている舟橋一男さん(左)と妻の瑞枝さん=同市の自宅で
中日新聞-2013年9月26日
愛知県一宮市の舟橋一男さん(65)は六十五歳を迎えた一月、障害者向けのサービスを利用できなくなった。
舟橋さんは脳性まひと、その二次障害のため、自力で立ち上がるのも困難。身体障害者手帳は一級で、支援の必要度を表す区分は6段階中5と重い。主に妻の介護を受け、月に二回の通院時だけ移動支援のサービスを使ってきた。
通院を助けるサービスは、障害者向け、介護保険どちらにもある。舟橋さんにも誕生日前に市から案内があり、要介護認定を受けた。手続き後、舟橋さんは負担が重くなると知ったという。
障害者サービスの自己負担額は、利用者の世帯所得で決まる。舟橋さんの負担はゼロだったが、介護保険は原則一割負担。「今は妻が元気だからいいが、将来はより多くのサービスが必要になる。不安だ」という。
負担の増加は一割負担にとどまらない。制度の違いで、公的なサービスを受けられる時間が減り、カバーされない時間は、一時間二千円の自費介護を受けることに。通院は平均二時間、月二回で、一時間半は自費介護になる。一カ月七千円ほどの負担増という。
「十分な説明もなく手続きをさせられた。処分は不当」と舟橋さんは主張。市は「法律に基づき対応した。十分説明したと認識している」と平行線だ。舟橋さんは障害者サービスの支給を打ち切る決定の取り消しを求め、審査請求しているが、結論は出ていない。
岡山市の浅田達雄さん(65)は十九日、六十五歳を理由に同市が障害者サービスを打ち切ったのは憲法の平等原則に反するとして、それ以前と同じように障害者サービスを支給することなどを求める訴えを岡山地裁に起こした。
浅田さんは一人暮らし。脳性まひで腕と足に重い障害があり、入浴や移動で月約二百五十時間の重度訪問介護を無料で受けてきた。
同市は、六十五歳になったら有料の介護保険サービスを最大限使うよう浅田さんに勧め、不足分を無料の障害者向けサービスで補うとした。浅田さんは、介護サービス費として月一万五千円の自己負担が生じるため「生活が破綻しかねない」と手続きを見送っていた。
誕生日を迎えた二月、市はサービスを全面的に停止。浅田さんは、支援者のカンパでヘルパーを雇うなどして約二カ月をしのいだが、支援は十分でなく尿路感染症で入院するなど健康も害した。このまま続けるのは無理と判断し、三月に介護保険の手続きをし、介護保険と障害者のサービスを使っている。
十九日の会見で浅田さんは「ここで頑張らないと、障害者自立支援法訴訟で低所得者の負担がなくなったことが無駄になる。六十五歳で従来のサービスが使えないのは年齢による差別」と訴えた。
総合支援法の前身、障害者自立支援法をめぐっては、原則一割負担などが憲法の定める生存権を侵すとして二〇〇八年から全国で訴訟が起きた。一〇年、負担の見直しや新法制定などで国と和解。同じようなサービスでも介護保険とは負担が大きく異なる矛盾が生じている。合意文書作成に際し、原告側は介護保険優先原則の廃止を提案したが、総合支援法には反映されていない。
障害者サービスを打ち切る愛知県一宮市の決定の取り消しを求め、審査請求をしている舟橋一男さん(左)と妻の瑞枝さん=同市の自宅で
中日新聞-2013年9月26日