マグロもタイも同じ味……?
マグロ、鯛、サーモン…さあ何を食べよう。
回転寿司屋などで皿をとるときは、近づいてくる皿から一番おいしそうなものを見分けようとしますよね。それは視覚で食べたい魚を判断していることになります。実際に目で見て、魚の味を味わってはじめて、「鯛は美味しい」「やっぱりマグロだね」という満足感を得るのです。
では視覚を遮断し、目隠しをした状態で寿司や刺身を食べるという実験をしてみるとどうなると思いますか?
その結果は驚くべきものでした。なんと、多くの人が、すべての魚を同じ味に感じたというのです。まさか、タイなどの白身魚とマグロの赤身が同じだなんて!?
実は、この実験で出されたのは、脂の部分を取り除く、特殊な処理を施した魚。魚の脂は、味を決定づける超重要部分です。だから、視覚を遮断され、脂を取り除いた刺身を食べて比べると、いつも食べ慣れ、味が分かっているはずのサーモン、マグロ、アジなどの味が、まったく分からなくなってしまったのです。
ソムリエが白ワインと赤ワインを間違える!?
驚くことに、ワインソムリエが、白ワインと赤ワインの区別がつかないことがあるといわれます。全く味が違うはずの両ワインですが、この場合でも視覚が重要な要素となっているというのです。
ワイン製造の学部・研究で有名なカリフォルニア大学デービス校で、目隠しをしてテイスティングする実験を行ったところ、赤ワインと白ワインを間違える被験者が続出しました。
銘柄によって香りも違うはずですが、視野が遮られた状態だと、白ワインと赤ワインの区別もつかず、人間がいかに視覚に頼って生活しているかが分かります。
この錯覚を利用したアトラクションも出てきました。暗闇のなかを視覚障害者のガイドとともに歩くエンタテインメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」です。このコースでは、最後に暗闇のなかでドリンクを呑まなければなりません。参加者は何を飲んでいるか正確に当てることができるでしょうか。
「赤ワイン」を出されてガイドに「白ワインかもしれませんよ」といわれば、にわかに判断がつかなくなるでしょう。
なおこの話は、「味音痴」にもワインソムリエが務まるというわけではありません(笑)。
「橋が揺れるドキドキ」を「相手への好意」と勘違いする脳
さらに発展させ、感覚を司る脳の領域に目を向けてみましょう。
味、見た目、匂いを司る脳の感覚野には優先順位があります。人により若干異なりますが、おおむね(1)「触覚」(2)「聴覚」(3)「視覚」(4)「臭覚」(5)「味覚」の順番になります。
このことは「優先順位の高い感覚を活用しているときは、下位感覚を活用できない(活用しにくい)」ということにつながります。なるほど、魚にせよ、ワインにせよ、視覚を遮られた状態の味覚が誤った判断をしたこともうなづけますね。
一方、脳には自身の行動や外部の情報を手がかりに、自身の感情を理解するという特徴もあります。たとえば「吊り橋効果」と呼ばれるもの。ゆらゆら揺れる吊り橋を渡ることで起きる「ドキドキ」をその場にいた異性が魅力的なためにドキドキしているのだと、心(脳)が勘違いする現象です。自分自身がいちばんよく知っており確立しているはずの自己。実は外的要因によって立つ「自分」なのかもしれません。
心はいまだ解明されていない不思議でいっぱい。心理学にアプローチし、その不思議解明にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
本記事は「マイナビ進学U17」から提供を受けております。
2015/08/06 マイナビニュース