歯磨きと歯周病予防など口腔ケアの両方ができる。最大の特徴は抗菌成分や香料といった原料の全てが天然由来であることだ。これによって飲み込んでも消化されるので、腹痛を起こすこともないという。幼児や高齢者に安心して使えるため、使用者だけでなく介護をする人の負担軽減にもつながる良品だ。
透明なジェル状タイプ(容量75グラム)と、液体スプレー(30ミリリットル)の2種類があり、ほかに登山者らに好評を得ているコンパクト型も設定している。価格はいずれも1000円(税抜き、以下同)。発売は2013年7月で、今年7月までの1年間は前年比で約5倍の1億円弱を売り上げた。海外からも注目されており、今秋からドイツ、スウェーデンなど欧州5カ国で発売予定だ。
事業運営もユニークで障害者の就労支援スキームを導入している。その仕組みはトライフ(横浜市中区)が障害者に650円で商品を供給、卸売りや小売りによって250~350円が障害者の収入になる。すでに全販売数量の半分ほどがこのスキームに乗り、障害者の雇用を促進している。こうした社会性の高い事業方式も評価され、国内のベンチャー企業顕彰で権威のある「ジャパンベンチャーアワード」の15年表彰では最優秀の経済産業大臣賞に輝いた。
トライフは代表取締役の手島大輔(45歳)と取締役の永利浩平(44歳)の2人だけで運営するベンチャーだ。2人の出会いは11年春。オーラルピースの主成分である抗菌剤「ネオナイシン」の原型成分の量産技術を九州大学などとの産学協同で開発した永利が、事業化を手島にもちかけたのだった。
ネオナイシンは、おからなどに住む乳酸菌が作る成分に梅エキスを配合した抗菌剤で、今年になって国内特許が成立した。永利がかつて在籍した乳業会社時代に研究に着手、02年からほぼ10年がかりで開発した。ただし、事業化への道は決して平たんでなかった。そこで、永利は大手商社やコンサルティング会社を経てオーガニック化粧品などを手掛けていたトライフの手島に「この人となら道が拓けるはず」と、アプローチしたのだった。
もっとも、直ちに手島が口腔ケアへの展開を着想したわけではなかった。転機となったのは、手島が重篤な父親の介護で、歯磨きやうがいが、いかに大変かを実感したことだった。こうして永利が開発したシーズが口腔ケアというニーズに結びついた。
ただ、その時点では歯周病菌への効果が弱かったため、手島は更なる開発を要請。永利は梅エキスの配合で、ネオナイシンの完成に辿り着いた。高齢者の死因では唾液や胃液などが肺に流れ込んで発生する「誤えん性肺炎」が上位を占めるが、ネオナイシンはその肺炎を起こす細菌への抗菌力も確認されている。
永利は最初の就職先であった化学メーカーで、洗剤などの原料の一部に薬品を使うことに疑問を抱き、化学薬品を一切含まないネオナイシンの開発へと傾斜していった。
手島と出会うことで、苦節十余年の開発が報われた。このビジネスに障害者支援の要素を入れた手島の志は高く、「世界にオーラルピースを普及させるグローバルカンパニー」が目標だ。永利も「自分たちの技術が世の中のためになる。それが一番嬉しい」と、これからの二人三脚の歩みに夢を膨らませている。
永利 浩平(Kohei Nagatoshi)
株式会社トライフ取締役
1971年生まれ。95年に北海道大学農学部を卒業し、東京の化学メーカーに入社。2000年に福岡県の化粧品メーカーにUターン就職。02年同県の乳業会社に転じてネオナイシンにつながる研究開発に着手。12年から現職。趣味のバスケットボールは愛好家チームでプレーし、子どもたちの指導も。
Wedge2015年9月号より