認知症高齢者など判断能力が十分でない人の財産管理などを行う成年後見人が、被後見人の財産を着服する事件が後を絶たない。

 最近は親族だけでなく、弁護士や司法書士が後見人になるケースが増えている。ところが、こうした専門職の不正が目立つ。

 弱い立場にあるお年寄りらの大切な財産を食い物にすることは許されない。特に成年後見制度の一翼を担うべき専門職の不正は、制度の根幹を揺るがしかねない。

 政府・与党は後見人の権限拡大や制度の利用促進に向け、関連法案を今国会に提出する方針だ。

 だが、こうした現状を踏まえれば不正防止のためのチェック体制を強化せざるを得ない。効果的な対策を盛り込むべきだ。

 成年後見人による着服などの不正は、2011年の33億4千万円から昨年は56億7千万円と過去最悪となった。

 見過ごせないのは専門職による不正だ。昨年は5億6千万円と全体の1割を占めた。

 後見人は本人や親族、市町村長の申し立てに基づき、家庭裁判所が選任する。家裁は後見人が提出する財産目録と報告書などから、業務が適正かどうかを判断する。

 だが、定期報告を怠ったり報告書を改ざんしたりする後見人もおり、不正を把握するのは難しい。

 最高裁は不正防止のため、財産を信託銀行に預け、家裁の許可なしには引き出せない「後見制度支援信託」の制度を導入している。

 また、東京家裁は、後見人として一定額以上の財産を預かる弁護士に、別の弁護士を後見監督人に選任する運用を独自に始めた。

 関係者からは「弁護士が信用されていない」との反発もあるという。だが、実際に弁護士の不正がある以上、当然の対応だ。

 司法書士や行政書士も後見人の指導、監督の役割を担う全国組織を設け、不正防止に取り組んでいる。信頼回復に努めてほしい。

 チェック機能を強化するには、家裁の裁判官や調査官の増員も必要だ。市役所など行政が後見人を監督する立場に加わることも検討の余地があるだろう。

 成年後見利用者は昨年末で18万4千人。将来はさらに増える見込みで、後見人不足が懸念される。

 こうした事態を見据え、一定の研修を受けた市民が後見業務を行う「市民後見人」の養成に取り組む自治体が道内でも増えている。

 高齢者や障害者が安心して暮らすためにも、信頼できる後見人を各地で育成することが急務だ。

08/16    北海道新聞