格差是正に向けて、ようやく踏み出した一歩ではある。
厚生労働省の専門家検討会は、障害年金の地域差を解消するため、精神・知的・発達障害の判定に客観的な指標を盛り込む新たなガイドラインをまとめた。
障害基礎年金の不支給判定の割合は2010~12年度平均で、最高が大分県の24.4%、最低は栃木県の4.0%で6.1倍の開きがあった。鹿児島県は13.8%だった。
これまで不支給だった人などには再申請を認める方針で、無年金・低年金者の救済が期待できる。
その一方で、全体に審査が厳しくなる懸念もある。緩やかだった地域では、支給打ち切りや減額となる人が出るかもしれない。
新たに切り捨てられる人を生むようなことがあってはならない。障害の特性に応じた丁寧な審査を行ってほしい。
障害年金のうち、多くの人が受け取る障害基礎年金は、日本年金機構が各都道府県の医師(認定医)に審査を委託している。
現行の判定基準は「日常生活が著しい制限を受ける」など抽象的なため、地域間で判定にばらつきがあることが指摘されていた。
国が不服申し立てを受けた審理件数は14年度約6500件で、10年間で3.5倍に増えている。不公平な制度に納得できない人が多いことの表れといえよう。
新たなガイドラインでは、主治医が提出する診断書に生活能力に関する7項目4段階評価などを導入し、障害等級判定の目安にする。最終的には、生活環境や就労状況も考慮して判定を出す。
しかし、「主治医でも、障害者が普段どんな生活をしているかは知らない」という声もある。
指標を機械的に運用すれば、「生きづらさ」など、障害の特性に伴う多様な生活上の困難が反映されない恐れもある。
日弁連は、障害者本人や家族らから、生活実態についての情報を集めて判断するよう求めている。
判定が実情を反映しているのかどうか、定期的な検証や情報開示が不可欠だ。
約3000万人が受け取る老齢年金に比べ、障害年金の受給者は200万人程度だ。国民の認知度が低いこともあり、国は制度に矛盾や不備があることを認識しながら、長年見直しを後回しにしてきた。
検討会が今回議論したのは精神・知的・発達障害だけで、厚労省の調査では神経の障害などでも判定の地域差がうかがえる。
是正策は緒に就いたばかりだ。厚労省と日本年金機構には、さらなる改革が求められる。
( 8/16 付 ) 南日本新聞