川口市の民間福祉事業所で「行動援護」の支援を受けている10代の重度知的障害児3人に対し、市がサービスを受ける際に必要な受給者証を更新しないままになっていることが22日までに、関係者への取材で分かった。行動援護は自傷、異食などを伴う重度障害者が日常生活を送る上で不可欠な支援。事業所は現在、受給者証の提示がなくても無償でサービスを継続している。
行動援護は判断能力が低く行動に著しい困難を伴う障害者に対し、危険回避のため日常生活の補助、外出支援などを行うサービス。専門知識のある支援員が1対1で行動を共にするため手厚い支援が受けられる。3人の障害児は2008年から今年にかけて、市が行う福祉サービスの介護給付として行動援護を利用している。
受給者証は市町村が発行し、毎年更新が必要。市町村は指定事業者や利用者が提出する利用計画書に基づき、必要なサービスを評価し認定する。3人の受給者証はそれぞれ今年1~5月で期限切れになっているが、その後は市から行動援護の認定を受けられず、継続発行されていない。通常ならばサービスが受けられない状態が続いている。
3人が通う事業所や保護者によると、市は3人の行動援護を認定しない理由として(1)外出のための支援なので建物の中では利用できない(2)行動援護はいずれなくなる(3)子どもには行動援護は使えない(4)通年かつ長期の利用になるため行動援護は使えない―などと説明。障害の状態に応じた明確な説明はなかったという。
川口市障害福祉課の伊藤雅章課長は取材に対し、(2)と(3)については「職員が事実でない説明をしたとは考えられない」と否定。個別の件には触れずに一般論として「行動援護はあくまで外出準備も含めた外出を支援をするためのサービス。基本的に事業所内での利用は難しい」と述べた。
一方、厚労省障害福祉課は、行動援護について「外出先の室内でもサービスは認めている。外出支援に限ったものではない。通年かつ長期も、利用者の状態に応じて市町村が必要と判断すれば可能」と指摘。受給者証が発行されていない現状には「通常では考えられない。児童の状態がこれまでと同じなのに今年から認定しなくなったのであれば、相応の理由を保護者にきちんと説明するべき」と話した。
3人のうち自閉症を伴う重度知的障害の10代女児は危険を認知できず、突然道路に飛び出したり、かみそりを口に入れたりするという。女児は1月末まで市発行の受給者証を使い、下校後に同事業所でサービスを受けていた。母親は「いつ危険な状態になるか分からない命。行政の人に分かってもらえないのが悔しい」と嘆く。
同事業所代表の男性は「受給者証は障害者にとって人権そのもの。命を守るために一日でも空白ができてはいけない」と強調。市の対応について「障害児に対するネグレクト」と憤りを示し、早期発行を求めている。
■個別案件と考える/国立重度知的障害者総合施設「のぞみの園」事業企画局研究部研究課(群馬県)の志賀利一部長の話
行動援護は単に外出(移動)を支援するサービスではない。行動障害の著しい人の現在や将来を考えて利用計画を立案していくことが前提であり、事業所による居宅サービス計画が重要になる。個別の案件として当事者、事業所、市町村間で、最も良い福祉サービスの組み合わせを考えていくべきだ。
行動援護とは
行動に著しい困難を有する知的障害や精神障害のある方が、行動する際に生じ得る危険を回避するために必要な援護、外出時における移動中の介護、排せつ、食事等の介護のほか、行動する際に必要な援助を行います。
障害の特性を理解した専門のヘルパーがこれらのサービスを行い、知的障害や精神障害のある方の社会参加と地域生活を支援します。
埼玉新聞 8月23日(日)