清水建設は、日本IBM東京基礎研究所の技術協力を受けて、視覚障害者向けの音声ナビゲーションシステムを開発した。スマートフォン向けのアプリケーション(アプリ)を通してサービスを提供するもので、「手すりに沿って20m進む」といった音声案内で利用者を目的地まで誘導する。
屋内と屋外の区別なく利用できるのが特徴で、視覚障害者の歩行補助だけでなく、高齢者や外国人旅行者向けの案内に使うことも想定する。清水建設は、同社技術研究所内に常設体験施設を開設。同施設での実証を重ね、早ければ2018年に実用化したい考えだ。
新開発のアプリは、清水建設の空間情報データベースの技術と、日本IBMの位置測定や音声対話の技術を統合したものだ。利用者の現在位置の特定には、スマートフォンに搭載されている加速度センサーやGPS(全地球測位システム)、ビーコン(電磁波を発信して移動体の位置を調べるための通信設備)などの情報を利用する。この位置情報と空間情報データベース(地図データ)を照合して利用者を案内する。空間情報データベースには、屋内外の構造物の緯度や経度、階段の位置や段数、手すりの位置や長さなどの情報が蓄積されている。
■周りの音が聞こえるヘッドフォンを使用
利用者は、スマートフォンを装着するためのベルトを腰回りに着用する。また、音声ガイダンスだけでなく周囲の音も聞き取れるように、ヘッドフォンは耳をふさがない骨伝導イヤホンを使用する。側頭部にヘッドホンのようにして押し付けると、骨を伝わって音声が聞こえる仕組みだ。
アプリを操作するときは、最初に音声で目的地を伝える。アプリ側で最適な移動経路を割り出したうえで「直進3mで階段を上り2階に行きます」「階段はまっすぐで34段、途中に踊り場が1カ所あります」など必要な情報を音声で利用者に伝える。また、利用者の属性に合わせた対応も可能で、例えば歩行困難者には、できる限り階段や段差のない移動経路を示すこともできる。
清水建設は、新システムを実用化した後、大規模物販施設や医療施設、駅や空港などに展開を図る考えだ。その際、空間情報データベースの整備が不可欠になる。屋外のデータ整備については、国土交通省が2015年7月に公開した「歩行者移動支援に関するデータサイト」などのデータを活用。また、屋内の情報整備については、データ整備によってユーザーの行動経路を把握でき、効果的なサービスを提供できるメリットを訴求することで、施設運営者の協力を得たいという。
(日経アーキテクチュア 小谷宏志) [ケンプラッツ 2015年8月7日掲載]