パラ五輪出場懸け19日からイタリアへ
来年のリオデジャネイロ・パラリンピックから正式種目となる「パラカヌー(障害者カヌー)」で、高知県須崎市出身の四国学院大学3年生、崎山翼さん(21)=香川県善通寺市=が、8月19日からイタリア・ミラノで開かれる世界選手権大会に高知県初の日本代表選手として出場する。リオデジャネイロ・パラリンピックの出場権を得るための戦い。世界トップ選手の壁は厚いが「諦めず、最後までこぎ切る」と思いを込めて臨む。
9日午前。水面穏やかな須崎市の浦ノ内湾で、崎山さんは新調したパドルの感触を確かめていた。
「肘を伸ばして肩を入れて。そう、良くなった」。パラカヌー世界選手権日本チームの横川彰一コーチ(55)=高岡郡四万十町の興津小学校教頭=が、並走するボート上から指導する。崎山さんの艇が、一かきごとにぐーっと前に進む。
パラカヌーは200メートルの直線コースのタイムで争う。選手は障害の程度で3クラスに分けられる。崎山さんは生まれながら「二分脊椎」という障害で膝から下を動かせず、感覚もない。3月末に香川県で開かれた国内選考会では、「胴体と腕を使ってこぐことができる」TAクラスに出場した。
車いすを使えば日常生活は問題ない。しかし大学にはカヌー部がなく、艇の運搬などサポートが必要な水上練習の機会は、この半年間でも帰省時など、わずか数回しかなかったという。
崎山さんは海に面した須崎市野見で生まれ育った。地元の南小中学校を卒業し、須崎高校へ進学。「自分にもできるスポーツを」とカヌー部に入った。
競技用のカヌーは長さ約5メートル。幅は約40センチと細く、乗るのは「綱渡りみたいな感覚」(横川コーチ)で、転覆しないようバランスを取るのは健常者でも難しい。崎山さんは「乗れないのは腹が立つ」とずぶぬれになりながら特訓し、1カ月ほどで乗りこなせるようになった。「昔から『特別』が嫌なんです」
部活では仲間と練習に打ち込み、4人乗りの種目でインターハイにも出場した。
大学進学後は勉強やサークル活動に精を出し、スポーツから離れていた。転機は今年2月。パラカヌー日本チームの鳥畑博嗣監督=北海道=が崎山さんに会いに来たのだ。
「(カヌーを)やってくれないかって言われて」。高校時代、健常者に交じって練習し、インターハイも経験したことが注目されたという。
学業との両立や資金面などを考え、10日間ほど悩んだ後に挑戦を決めた。3月の選考会では男子全体で4位に入り、日本代表の男女7人の中に入った。
現在のタイムは1分20秒ほど。1分を軽く切るトップ選手たちとの実力差はまだまだ大きい。ただ、初めて経験する世界大会の先に、5年後の東京パラリンピックを思い描いている。
「就職活動も控えているし、今はまだ、どこまでできるか分からないです。でも、始めたからには『東京』を目指したい」
目の前に広がる海は、限りなく広い。
2015年08月11日 高知新聞