障害者が農業の担い手となる「農福連携」が広がっている。農林水産省や厚生労働省、地方自治体が旗振り役となり、主に知的・精神障害者を対象に高齢化・後継者不足に悩む農業に参加してもらう取り組みだ。障害者の就労機会を農業分野で増やし自立を手助けするのも狙い。生産から食品加工、流通販売まで手掛ける「6次産業化」を進め、障害者の力を幅広く活用する社会福祉法人や農事組合法人が増えている。
九州本島南端にある鹿児島県南大隅町の「花の木農場」。操作の複雑な農機を乗りこなし、茶葉を摘み取っているのは障害者だ。東京ドーム5個分(約23ヘクタール)の敷地に、茶畑や豚舎、パン工房などが配置され、100人近くの障害者が健常者とほぼ同レベルの作業をこなしている。
社会福祉法人「白鳩会」が1970年代から農地の一部を取得し、事業を拡大してきた。現在は農場のほかに鹿児島市などにソーセージ、ジェラートなどの販売店やレストランを展開。障害者に支払っている賃金は多い人で月11万円台で、平均をとっても障害者の全国平均を約2割上回る。白鳩会の中村隆重理事長は「経営を常に意識し農業の大規模化を進めることが、障害者の賃金引き上げなど社会福祉事業を支えることにもつながる」と語る。
こうした「農福連携農場」は各地で相次ぎ開設されている。農水省が障害者の就労訓練や雇用などを目的とした農場の整備にかかる費用の一部を補助する制度を設けるなど、国や地方自治体が支援策を強化しているのも背景だ。
農福連携の先駆け的存在の花の木農場は、福祉への関心は低いが農業に携わりたかったという健常者の若者たちの受け皿にもなっている。こうした若者たちは、障害者との交流を通し、福祉の業務にも関心を高めるようになったという。農福連携に詳しいJA共済総合研究所の浜田健司氏は「農場経営も障害者もそれぞれ自立ができれば、地域経済の担い手が増えることも望める」と話している。
2015/8/23 日本経済新聞