ゴエモンのつぶやき

日頃思ったこと、世の中の矛盾を語ろう(*^_^*)

「障害者の声聞く社会に」 衆院委が出席拒否、ALSの岡部さん

2016年05月24日 03時46分29秒 | 障害者の自立

 今月初旬の衆院厚生労働委員会に参考人として招かれながら、障害を理由に一転して出席を拒まれた筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の岡部宏生(ひろき)さん(58)が本紙のインタビューに応じ、「障害者の意見を広く聞く国会、ひいては社会になってほしい」と訴えた。発言の機会が一方的に奪われたことに憤ると同時に、障害者差別の撤廃に向けた契機になることに期待感も示した。岡部さんは二十三日午後、参院厚労委に参考人として出席する。

 岡部さんは日本ALS協会副会長。人工呼吸器を付けており、会話にはヘルパーの介助が必要。衆院厚労委から障害者総合支援法改正案に関する今月十日の審議で意見表明するよう要請されたが、与野党の調整が折り合わず、健常者の協会幹部が代わりに出席した。

 岡部さんは「私のコミュニケーション方法も含めて(参考人招致で)見てもらうことを望んだが、取り消しになった時はショックだった」と振り返った。与野党から出席拒否の理由として「質疑に時間がかかる」「体調が悪化する」などの声が出たことには「工夫があれば発言できるし、会議のために札幌に日帰りで行くこともある」と反論。障害に関する与野党の認識不足を批判し「驚きや怒り、悲しみを感じた」と述べた。

 「衆院厚労委に出席がかなわなかったことはALS患者だけではなく、障害者全体にかかわる問題だ」と指摘。四月に施行された障害者差別解消法が障害者への差別を禁じ、合理的な配慮を周囲に求めていることに触れ「法の精神を具体的な方法論に表すような国会、ひいては社会になってほしい」と望んだ。

 出席拒否を巡っては、岡部さんを参考人に推薦していた民進党は、与党が招致を認める条件として児童福祉法改正案の審議入りを求め、岡部さんを政治的な駆け引きの材料にしたと非難。自民党はこれを認めず、民進党が招致を取り下げたと反論した。

 患者や支援団体などから批判が相次ぎ、渡辺博道・衆院厚労委員長(自民)は岡部さんと面会して謝罪。衆参両院議長も岡部さんと面談し、参院厚労委の参考人招致につながった。

 <筋萎縮性側索硬化症(ALS)>全身の運動神経が侵されて筋肉が縮み、次第に動かなくなる難病。進行すると呼吸も難しくなる。脳の機能や目を動かす筋肉、視覚や聴覚に異常は生じにくい。原因は不明で、今のところ根本的な治療法はない。10万人に1~2人の割合で発症する。2014年末の国内の患者数は約9900人。

 <障害者差別解消法>2013年6月に成立し、今年4月に施行された。国の機関、地方自治体、民間事業者に対し、不当な差別的対応を禁止した上で、合理的な配慮(その場で可能な配慮)を義務付けている。行政機関には法的に義務付ける一方、民間は一律に対応できないとして努力義務にしている。

2016年5月23日   中日新聞


障害者歯科の広がり期待 豊橋に待望の診療所開設 

2016年05月24日 03時42分18秒 | 障害者の自立

 心身に障害があり、一般歯科での治療が難しい人のための「障害者歯科診療所」の運営が4月、豊橋市保健所内で始まった。週1回の開設で利用者はまだ少ないが、行き場に困っていた患者らには念願の施設。地域の障害者歯科の拠点として、適切なケアの裾野を広げていくことも求められる。

■「天の助けのよう」

 重度の自閉症の男性(33)。母親(61)や歯科衛生士に導かれ、事故防止のベルトの付いた診療台に横になる。笑気ガスを吸って緊張を和らげ、「記念写真だよ」と携帯型エックス線装置で寝たまま撮影。明るい声掛けが続く中、歯科医師が奥歯二本を手際良く抜いていった。

 「四月が来るのを待っていました」と母親。介助しても歯磨きや口ゆすぎがままならず、虫歯が悪化。夫が亡くなり、名古屋市内の大学病院に通えなくなっていた。

 治療を怖がり、対応が難しい発達障害、知的障害者には、音やにおい、診療の雰囲気に少しずつ慣れてもらうなど障害の特徴を踏まえた配慮が必要だ。

 工夫して受け入れる歯科もあるが、時間や人手が掛かり、専門的に対応するのは豊橋市に三、四軒。診療所には、数カ所を転院し「天の助けのような感じで来た」という患者の家族や、専門診療所のない田原市、浜松市から通う親子もいる。

■18歳以上に対応

 「こんな大きな街になぜないのか」。診療所を主導する日本障害者歯科学会認定医の森篤志さん(49)は十年ほど前、豊橋市で開業して疑問を抱いた。市歯科医師会が福祉施設を巡回検診し、治療会を年一回開いていたが、その場で治せるのは簡単な虫歯だけ。歯がボロボロになっている人も少なくなかった。

 二〇一〇年、市の療育支援拠点「こども発達センター」ができる際、市歯科医師会が働き掛け、市の委託で障害児専門の歯科診療室を設けた。延べ患者数は一〇年度の三百四人から、一五年度の八百三人に激増。センターで診られない十八歳以上に対応する施設として市と協議を重ね、実現したのが今回の診療所だった。

■地域でケア

 診療所は、市内の多くの歯科が休みの木曜午後に開く。地域の歯科医師ら十二人が輪番で対応。認定医でない医師も歯科医師会の講習を受講し、診療経験を積みながら取得を目指している。森さんは「診療所を拠点に、少しずつでも対応できる歯科医院が増えれば」と話す。県歯科医師会も〇七年から、講習を開くなど障害者治療の協力医を増やす取り組みを進めている。

 重度心身障害のある息子を持つ豊橋障害者(児)団体連合協議会の山下徹会長(54)は「最終的には地域で治療を受け、暮らせることが大事。診療所で大きな治療を終えたら、再発予防も含めて近所で診てもらえるようになれば」と話し、診療所を拠点に障害者の歯の健康を守る輪が広がることを期待する。

 <豊橋市障害者歯科診療所>豊橋市が設置し、年約4000万円で市歯科医師会が指定管理を担う。東三河地域では豊川、蒲郡市に続き3カ所目。診療台3台で1日最大18人を受け入れ可能。4月は延べ13人が訪れた。県内では県歯科医師会と連携する障害者治療施設が東三河を含め12カ所ある。

2016年5月23日   中日新聞


障害者差別解消法、社会に求められる“合理的配慮”とは?

2016年05月24日 03時19分01秒 | 障害者の自立

障害を理由にした不当な差別を禁止し、当事者からの要望には負担が重すぎない範囲で“合理的配慮”が求められる「障害者差別解消法」が4月から施行された。 “合理的配慮”とは何なのか?これから社会が考えるべきことは。差別禁止部会の骨子策定に委員として参画した大野更紗氏と、教育現場における障害者への合理的配慮を研究・実践する東大先端研准教授・近藤武夫氏が解説する。2016年04月04日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22「障害者差別解消法が施行。“合理的配慮”には『建設的対話』が必要」より抄録。(構成/大谷佳名)

  荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 「元気そうですね」

 荻上 ゲストをご紹介いたします。政府の障害者政策委員会差別禁止部会で委員を務められた、大野更紗さんです。よろしくお願いします。

 大野 よろしくお願いします。

 荻上 そして東京大学先端科学技術研究センター准教授の近藤武夫さんです。よろしくお願いいたします。

 近藤 よろしくお願いします。

 荻上 近藤さんは普段どのようなご研究をされているのですか。

 近藤 主に教育の現場で、障害のある当事者の方がどのようなツールやシステムを使って参画していけるのか、実証に基づいたさまざまな調査研究を行っております。何が「合理的配慮」に適用されるのかはケースバイケースで、この障害にはこの配慮、という答えがあるわけではありません。

 それを差別解消法が施行される以前にさまざまな現場で試してみて、結果としてどのような問題が起こるのか、本当にその配慮ができないことなのか、あるいはコストの面、システム面の問題など、子どもたちと一緒に多角的な検証を行っています。

 荻上 以前、この番組でも発達障害のある児童がタブレットPCを使うことにより授業に参加できるケースをご紹介しました。そうした事例について、どういったソフトがあれば参加できるのか、導入にはどれくらいお金がかかるのかなど、一つ一つ研究されているんですね。

 近藤 はい。タブレットPCを用いた学習支援を行う「魔法のプロジェクト」を運営されている方々や、東大先端研の中邑賢龍先生とは同じチームで研究を行ってきた経緯があります。

 荻上 なるほど。大野さんは難病当事者になって何年目ですか?

 大野 発症してから7年経過しました。

 荻上 大野さんはどういった症状でしたでしょうか。

 大野 「自己免疫疾患」と呼ばれる、人間の自己免疫のシステムが不調をきたすことで発症する病気です。

 荻上 移動の場合は杖をついたり、電動車椅子も利用されていますよね。難病の影響で、歩行が難しくなるという障害もでているということですか。

 大野 そうですね。難病の方は一人一人症状が異なり、疾患も5,000〜6,000ほどと種類が多いので、個別ニーズが無数にあります。難病の方に共通の生活困難性は、傍目から見て困難な病気であると分かりにくい、あるいは特殊な医療ニーズに関連する事項でお困りになられる方が多くいらっしゃいます。

 また症状が良くなったり(寛解)悪くなったり(再燃・増悪)を短期間のうちに繰り返すという特徴もあります。患者さんのインタビュー調査などにおける共通の傾向は、皆さん人前に出るときはお薬を飲んでその日のために調整をされていたり、職場に出るために家ではずっと休んで過ごしたり、インフォーマルな部分で人知れず頑張ってらっしゃる。

 ですから、外出して人前に出たときは「元気そうですね」と声をかけられる。でも自宅ではベッドに倒れ込んでいたり、あるいは特殊な医療へのアクセスに日常の時間を費やしたり、一人で孤独に疾患に関連する辛い思いを経験する。難病の方には、社会には伝えづらいニーズを持っている方が多いです。

 荻上 さきほどからTwitterでも「大野さんの声を聞いて元気そうでよかった」というコメントが来ていますが、大野さんもその時によって体調が大きく変わることもありますよね。

 大野 最近、1日6回くらい「元気そうですね」とお声をかけて頂いた事がありました。

 荻上 1日に6回も!

 大野 みなさん「難病」と聞くと寝たきりで指一本動かせないというような状態を思い浮かべるのかもしれません。人前に出て、例えばこうしてラジオで話しているというだけでも、随分元気そうだという印象が持たれるようです。

 専門的で特殊な医療に常時アクセスをして、あるいは一部ケアの社会制度を使って、なんとか日常生活を維持していくことと、実際に社会参画をしていく、就労していくことの間には、大きなグラデーションがあります。その間で患者さんは社会生活上の障壁に直面して苦慮される。だからこそ、合理的配慮は難病の患者さんにとって味方になり得るツールだと思っています。

差別禁止アプローチと合理的配慮

 荻上 そうですね。ではさっそく、この障害者差別解消法とはどのような法律なのでしょうか?

 近藤 非常に重要なポイントとなるのは、障害のある人の不当な差別的取り扱いを禁止しているという点です。「解消」という言葉を使っていますが、基本的には障害者差別を禁止するという法律になっています。

 荻上 もともと議論されているときには「禁止法」となっていましたよね。

 近藤 はい。基本的に、この法律でとられているアプローチは、国際的に「差別禁止アプローチ」といわれているものです。障害だけに限らず、とくにアメリカでは歴史的に外国人差別、宗教差別など、さまざまな差別禁止アプローチがとられてきました。

 また、年齢差別もあります。アメリカでは履歴書に年齢を書きませんし、人種差別も禁止しているので写真も貼りません。その職業に対して能力が見合っているかだけで判断します。そうした差別禁止の大きな流れが背景にあります。

 そしてもう一つ、今回の法律で特徴的なのは、「合理的配慮」という考え方を導入したことです。よく「公平性」「平等性」が大事だといわれますよね。たとえば教室で平等に学びましょうというと、みんな同じ紙と鉛筆を使って勉強することをイメージしてしまいます。しかし、紙が見えない視覚障害の人がいたら、紙を使うという平等な取り扱いが壁になってしまう。鉛筆を持てない肢体不自由の人がきたら、鉛筆を使うことが壁になってしまう。

 本当に平等にしなければならないのは、みんなが授業に参加して学べる機会を得ることなのです。ただ、そのための手段である取り扱いの部分が細く取り沙汰されたり、それで平等・不平等と言われてしまうことがある。ですから、障害を理由として必要になった個別に異なる取り扱いは、合理的な範囲であれば認めてしまいましょうと。それが合理的配慮といわれます。

 荻上 形式的に、30人子供がいるから鉛筆を30本用意したら平等だ、というのではなく、そのうちの一人にiPadや点字ライターを与えても、授業に参加できるという結果が平等であればよいということですね。

 近藤 それがあと何年後かには当たり前のことになって、保障しなければならないものの本質をみんなで共有できるようになればいいと思っています。

 荻上 合理的配慮の対義語となる言葉もいくつかあると思います。一つは、単に「無配慮」ですよね。視覚障害の人が一人いるのに、全員に鉛筆と紙だけ渡して、「はい、みんな同じでしょ」というのは一見平等かのように見えてしまいますが、無配慮にあたります。

 一方で、「非合理的な配慮」というのも考えられます。無茶な配慮はさすがに求めていないということは、この法律の一つの本質だと思います。そこで伺います。合理的か否かという線引きはどう考えればよいのでしょうか。

 近藤 基本的に何が合理的なのかは定められていません。合理的配慮という言葉が最も古くから使われているのはアメリカですが、もとの言葉は「リーズナブル・アコモデーション」です。リーズナブルは筋が通っている、アコモデーションは便宜をはかる、変更する、調整することを意味します。

 たとえば視覚障害者に点字の資料を渡したとして、アメリカ人の方に「これって合理的配慮だよね」と聞くと、きっと彼らは「ケースバイケースかな」と答えます。彼らがよく使うのは「It depends.(時と場合による)」という言い回しです。つまり、視覚障害者=点字が合理的、ということには当事者の自己決定が欠けています。

 荻上 点字の読めない視覚障害の方や、手話がわからない聴覚障害の方はたくさんいるわけですからね。

 近藤 その通りです。ベースになるのは、リーズナブルだとみんなが感じたことが合理的配慮になるということです。ですから、障害のある当事者の側が「自分はこれが合理的だと思うが、どうだろうか」と言って、それを提供する側も筋が通っていると納得した時が、いわゆる合理的配慮が成立した時と言えるわけです。

 荻上 その配慮が当事者のニーズと合うかどうか、コミュニケーションをしっかり成立させるためにも重要な概念になるわけですね。

 僕も大野さんと出会いたてのころに、車椅子を勝手に押そうとして止められたことがあるのを覚えています。大野さんの使っている車椅子は自分で操縦ができるタイプの電動車椅子なのですが、段差があったので押した方がいいのかなと思い、断りなしに後ろに立って持とうとしたら「押さなくていいんですよ」と断られたんです。

僕の中では、車椅子の方は段差に困るだろうからサポートをしてあげなきゃという勝手な配慮があったのですが、電動車椅子だから少し助走をつければ小さな段差は超えられるし、それを後ろからぐーんと押されてしまうと、かえって危険になってしまうこともあるんですよね。当事者性が重要になることを学んだ、一つのケースだったと思います。

まずは自分のニーズを伝える

 荻上 この障害者差別解消法、大野さんも策定の過程に参画されていたと思います。この法律に求められているものは何だとお感じになっていますか。

 大野 この法律では「差別」は法的概念として捉えられています。差別解消法が規定する差別には、現時点では大きく分けて二つの段階があります。第一段階目は、障害を理由とした不当な差別的取り扱いの禁止です。たとえば、精神障害者だからこのお店には入ってはいけませんとか、知的障害だからこのアパートには入居できませんといった、不当な差別的取り扱いをすることを、国や地方公共団体、および全ての事業者に対して禁止しています。

 第二段階目は、合理的配慮の提供です。この法律では、個別のニーズにあった合理的配慮を提供しないことは差別に該当すると定義しています。アメリカでADA法が成立した1990年代以降、障害領域の差別禁止アプローチの法整備が国際的に展開される中で、理論的発展を遂げてきた新しい概念を適用した画期的な法律と言っていいと思います。

 荻上 今回、合理的配慮について国や地方自治体などの公的機関に対しては法的に義務付け、民間企業に対しては努力義務となります。ただし、民間企業の場合でも政府から報告を求められても従わない場合や、虚偽の報告を行った場合には過料=罰金が科されるとされています。

 合理的配慮とは、サポートをしないで放置しておくことも本人のアクセス権限を奪っているという気づきをもたらしてくれる概念なのですね。

 今日はさまざまな当事者の方からいろいろな質問が来ております。

 「私は発達障害の診断を受けて、障害者枠での就労を目指しています。障害者差別解消法の話は就労支援施設で聞きましたが、合理的配慮の意味がよく分かりませんでした。法律の施行を受けて、精神障害や発達障害の人にはどのような影響があるのでしょうか。」

 近藤 日本では発達障害に対してすごく特徴的な理解をされていて、発達障害=コミュニケーションが苦手、感覚が少し過敏、と言われたりします。文科省が平成24年に行った調査では教室の6.5%は発達障害の人がいるとされていますが、そのうちコミュニケーションが苦手あるいは感覚が機敏な方は1%ほどに止まります。

 実際に比率として多いのは学習障害と言われる障害です。読んだり書いたり計算することが苦手という特徴があります。あるいは、ADHDという注意の障害です。注意を集中し続けることが苦手だったり、逆に集中し過ぎてしまって「過集中」と言われる状態になり、他の作業に移ることが苦手で、ものすごく疲れきってしまう障害です。つまり、たんに発達障害を背景としてもどのような困難があるのかはかなり多様です。

 私は「DO-IT Japan」という、障害のある小中高大学生を全国から集めて支援の提供を行うプロジェクトをやっています。昨年では、「アウトリーチプログラム」という情報提供を行うプログラムに600人ほどの参加者があり、その中で一番多かったのは発達障害の子どもたちでした。そして600人のうち250人くらいは「書字の困難さがある」と言っていました。

 よくよく聞いてみると、診断としては広汎性発達障害とか、自閉症スペクトラムという名前を持っていると。ただ、肢体不自由はないけど、鉛筆で字を書くのが難しいという方がすごく多かったんです。そうした人たちは鉛筆で字を書くことには機能的な制限があるので、まずは「タブレットなど別のツールを使うことを合理的配慮として認めてもらいたい」と学校側に働きかけていく。そこから、本当に合理的配慮として認められるかどうかという議論はスタートするのだと思います。

荻上 鉛筆を握れないからといって勉強ができないわけではない。他の手段を使えばできる場合には、そこを合理的配慮でつなげていく議論になるわけですね。

 ただ、同じ発達障害という病名でも、鉛筆は握ることができるが雑音の処理が苦手という児童もいます。その場合には、イヤーマフなどのノイズをキャンセルする道具を使って登校することを認めてくれと主張します。そうすると、周りから「なんでヘッドホンで音楽を聴いているんだ」と言われるかもしれないけど、それは誤解なんだと説明さえすれば、あとは特に配慮はいらない場合もあるなど、人によって様々です。

 同じ障害名の人でも、人によってもさまざまな困難さがあるので、その人の特徴にあわせて配慮をするのが合理的配慮というわけですよね。

 近藤 そうです。たとえば今のメールの場合は就労に関することなので、該当する法律としては、4月に施行される「改正障害者雇用促進法」があります。これも障害者差別解消法と同じく、国連の権利条約に基づいて作られたものです。この法律に基づいて職場に直接、対応を求めて行かれる必要が出てくるかなと思います。

 荻上 今のメール、大野さんはいかがお感じになりますか。

 大野 私は今、大学院で難病に関する医療社会学の研究をしています。大学から合理的配慮の提供を受けなければ、研究を進めていくことができない場面がたくさんあります。そのときに私自身も大学のさまざまな部署、一つ一つの担当の方々に具体的な配慮を求めて、交渉していく必要があるんです。

 荻上 たとえばどのような配慮が必要ですか?

 大野 大学図書館を例に挙げてみます。書架が高くて車椅子では届かない、書架の間が狭くて車椅子が通れないような場合には、閲覧したい資料をリストにしてお渡しし、職員の方に取ってきていただくという個別対応のルールを設けています。複写等、身体に障害がある人には使いづらい機器については、資料の種類(書籍か、雑誌かなど)や貸借の形態によって、個別にルールを策定していただいています。まずは本人が、「自分にはこういうニーズがあります」と機関側に開示・提示していくことが必要です。

 今、大学のバリアフリーマップを大学の機関側の方々が作成して下さっているのですが、作成作業に参加しています。支援側の方々が勝手に作るのではなくて、一緒に大学の中を細かく見て歩いて、車椅子での通行が危険な段差がどこにあるのか、坂道の斜度はどうか、全ての教室への動線は確保できるか、トイレやリフトは実際に使用できる状態なのか、地道に確認しました。

 学内のピクトやマークは、ロービジョン(弱視)の学生さんに実際に見て頂いて、判別のしやすい色や形に変えています。車いすでも動線が確保しやすいように、自動ドアの設置を改修計画に入れて頂いて段階的に増やしています。大学の改修工事がある時は大学の機関側の方と工事中の現場にお邪魔して、設計担当の方にお会いしたりもしました。お互い歩み寄って一緒に行動して、初めてその場に必要な配慮は具体的に何なのかがわかることが多いですね。

 荻上 「こんな障害があるので何とかしてほしい」と言われたときに、そんなのは対応できないと拒否モードで応じるのではなくて、何をすべきなのか一緒に考えていこうと方向づけてくれたのが、今回の法律になるわけですね。

 その先でどういったゴールにたどり着くのかは職場や学校のキャパシティーにもよりますが、たとえば図書館を改造することはできないけど、人が取ってくるように対応しましょうとか、本棚を少し動かして間隔を空けましょうとか、可能な対応を考えていくのがこの法律の趣旨だということですね。

 大野 当事者の方がたった一人で大学機関側全体と交渉するのはハードルが高いと思います。ただ、この法律ができたことによって、法的な裏付けが確立しました。実際に後押しになっているなと実感しています。

 みんなに等しい機会を保証すること

 荻上 今日は当事者の方からもたくさんメールをいただいております。

 「身体障害者(脳性麻痺と四肢麻痺)の26歳男性です。企業就労などの合理的配慮はどの程度のものを想定されているのでしょうか。たとえばトイレ介助などの配慮も含むと考えてよろしいのでしょうか。」

 近藤 これはすごく重要なポイントです。職場でのトイレ介助の場合はヘルパーがいりますよね。障害者総合支援法という法律があり、日常生活でヘルパーをつけることは認められているのですが、たとえば学校に通う、企業に就労する場合となると、基本的には、その法律のカバー範囲ではなくなってしまうのです。

 とくに議論となるのは、大学のケースです。通常の義務教育あるいは高校教育の過程では、なんとか県の教育委員会や自治体がお金を出してヘルパーをつけてくれる事例もちらほら出てきています。しかし、大学の職員が食事介助やトイレ介助をすることに関しては積み上げがあまりありません。

 中には、独自でそうした支援を提供している大学もあります。あるいは自治体が支援の幅を広げてくれて、大学に通うときもお金を出して介助者をつけてくれるケースもあります。しかし、ほとんどの大学や通常の企業においては、積極的にお金を出して食事介助やトイレ介助に取り組むような事例はまだまだ少ないのが現実です。

 荻上 仕事の種類にもよりますよね。土木作業の仕事で工事現場などに通う方なのか、特定の同じ事務所に通い続ける方なのか、訪問業務いろいろ場所に移動する方なのか。また、必要となるトイレのキャパシティーによっても、また違ってきますよね。

 そうした中で、「トイレ介助等も合理的配慮に含まれるのか」については、それが大前提とまでは結論づけられないが、議論の余地はあると当然考えられるわけですか。

 近藤 そう思います。合理的配慮とは、みんなに等しい機会を保証すること(イコール・オポチュニティ)、障害があろうがなかろうが、人間なら誰でもその機会に参加できるということ(イコール・アクセス)を認めた上で、調整をして障害がある人も参加できるような環境に変えていくということです。

 たとえば、アメリカで面白い事例があります。ニューヨーク州のある大学の学長にお話を伺ったのですが、その大学では聴覚障害のある学生が2000人います。その人たちは他の学生と一緒に学んでいるので、手話通訳のスタッフをフルタイムで200人雇っており、週の半分、授業に入ってずっと手話通訳をさせているのだそうです。

 では残りの週の半分、スタッフは何をしているのかと聞いたら、そこは工学系の大学でしたので、最先端の工学知識を手話で通訳するために手話の勉強をしていると。それでフルタイムで雇っているというわけです。それを聞いて、私は「それって合理的配慮を大きく超えた『配慮』ですよね」と言いました。

 すると、その学長は「その理解はおかしい」と。合理的配慮が果たさなければならないのはイコール・アクセスなのだ、と言うのです。「私たちは聴覚障害がある学生も、ろうの学生も、通常の学生も、みんなが教育機会を等しく受けることを保証したい。だから、私たちがやっているのは特別な支援ではなく、合理的配慮なのだ」と。

 荻上 それによって多くの手話通訳者の方の雇用が生まれているし、スキルを身につけてキャリアアップに繋がる効果もありますよね。

 近藤 合理的配慮とは、その場を共有する人たちの間での合意形成なので、トイレ介助を加重な負担だと思われるところも当然あると思います。職務の内容や、賃金にもよりますよね。こういうことは言いたくないですが、職場ではその人の生産性やアウトカムと天秤にかけられるケースも当然あると思います。どこまでが合理的配慮かは本当にケースバイケースなので、本人がどう求めていくかという点はかなり大きいと思います。

 荻上 そうですね。大野さんいかがですか。

 大野 日本の現状だと、障害者差別解消法が施行されて運用に入っても、企業側の認識が高まらないと最初から諦めてしまっていたり、困難性を抱えているのに機関側に伝えられないという当事者の方が圧倒的大多数なのではないかと思います。しかし、この法律ではニーズの発現者は本人、とはっきり規定していますから、ご本人が勇気を持って機関側に伝えていくことも大事だと思います。

 先日、熊本の震災で、神経難病の女性が震災関連死で亡くなりました。疾患の影響で通常の避難所で過ごすことは難しいため、体調不良にもかかわらず車中泊をお続けになっていました。福祉避難所等の情報を知らずに、本来要援護者である患者さんがこのような形で亡くなられてしまいました。難病の方は手帳を保持していなかったり、差別をおそれて疾患を隠して生活していたり、普段から社会サービスに十分に包摂されていないケースがあることを念頭に置いておく必要もあります。

 困っているけど、上手く説明できないときは?

 荻上 リスナーから、こんなメールがきています。

 「私は精神障害者保険福祉手帳3級をもつ30歳の男性です。今は大学で授業補助員のアルバイトをしています。相談したいのは、障害者は合理的配慮について会社側とどのように交渉すればよいのかということです。合理的配慮の情報を集めていますが、会社側がどう対応するのかという情報がほとんどです。今度、就職する際には会社ともっと上手く交渉したいと思っています。」

 大野 合理的配慮の提供義務は機関側にあるので、確かに本人の対応に関するガイドラインのようなものは現状では見当たらないかもしれませんね。私が2013年に今の大学院の博士前期過程に入ったときは施行前でしたが、入学試験の段階から必要な合理的配慮に関して願書に文章を入れて、事前にお伝えしておきました。その後、個別に連絡をとって「願書提出の際に文章でお伝えしたのですが、配慮提供についてご検討いただけますか」と相談して回答を待つという形をとりました。大学側はご検討下さいました。

 入学試験の面談の際も、配慮提供の条件について簡単な確認がありました。スーパーバイザーの先生のご尽力があり、支援体制の構築について研究科の先生方は皆さんご理解深く、先生方が応援して下さったことも大きいと思います。機関側の組織において、人的なリソースや担当協力者をご本人が見つけやすい仕組みを作ることも、今後は重要な課題となるでしょう。

 交渉の方法は場面に応じて人それぞれと思いますが、障害者差別解消法が背景にあるということも伝えながら、文書などで具体的に連絡をとりあっていく形になると思います。

 荻上 まずは伝えていくことが大事だということですね。近藤さんはいかがお感じになりますか。

 近藤 とくに障害の種類によっては、スティグマ(社会的な偏見の烙印)のように、それを伝えることで自分が排除されてしまうと恐れている方もいらっしゃると思います。ですから、本当に求めていいのかどうかで迷う方は大変多いでしょう。

 ただ、改正雇用促進法では当事者から申し出があればちゃんと話を聞かないといけないと定めていますし、障害者差別解消法においても、啓発はしないといけないと言っています。ですから、今後は管理職向けの講習なども開かれていくと思います。

 また、実は改正雇用促進法のなかで求めていることはもう一つあります。それは、当事者側が自分の困っていることを言えない場合もありますよね。あるいは、自分のニーズをうまく言えない。もしそれが、「こう調整してもらえると自分はこんなことができるのですが、検討してもらえますか」と言えれば、企業側はイエス・ノーで言えばいいので楽ですよね。しかし、ただ「困っているんです」と言ってくることもあるし、見るからに困っているんだけど本人が言ってこない場合もあるわけです。

 荻上 自覚症状が難しい発達障害当事者のケースであるとか、それを言語化することが難しい知的障害の方ですとか、いろいろな方がいらっしゃいますよね。

 近藤 そうです。ですから、そうした場合には「建設的対話」を働きかけることが求められます。つまり、本人側がはっきりと伝えられないときに、管理職のサイドが「困っているようだけど、何かできることはあるだろうか」と対話を働きかける。それを建設的対話といいます。

 ただ、それを始められるのは、障害がある人を排除するようなレベルではなく、むしろ障害がある人と一緒に働いたり、ともに暮らしていくことをウェルカムしていく態度が根付いたときなのだと思います。これは、卵が先か鶏が先かという話ですが。

 荻上 このメールの方も、今は個人として企業側に交渉していくことが前提となっていますが、これから社会が変わっていけば、ある程度企業側も情報を得やすい状況になるかもしれないですよね。

 たとえばSNSやインターネット上で、当事者の方が「発達障害あるある困ったことリスト」のようなものを公開したり、「自分が該当する困っていることはこれで、こうすれば解決される」と簡単に説明できるような道具が共有されていけば、より交渉もしやすくなるかもしれません。法律が動きだすにつれて、説明のしやすい環境が整っていく面もあることは強調したいと思います。

 近藤 そうですね。それともう一つあるのは、やはり当時者サイドも実際に配慮を受けて環境を調整された経験がないと、この配慮が自分に合っていたと分からないですよね。それが分からない状態で、当事者だけ説明する責任があるというのはアンフェアだなと思います。

 大学までの間にいろいろ経験しておくことも重要だと思いますが、配慮されて良かったと思える経験を積まないと、それを比較することができないと、なかなか自己決定はできないですよね。そういう経験が増えるような社会にしておくべきだと思います。

限りあるリソースの中で

 荻上 こんなメールもきています。

 「車椅子ユーザーです。毎日、自宅の目の前にある駅から電車で通学しています。ところが、昨年4月から早朝と夜間は無人駅になり、その時間帯は駅で乗車・降車ができません。乗車・降車の際、車掌さんなどにスロープを出してもらえないかと聞きましたが、『車両から離れたら安全確保ができない。一つ前の有人駅で降りてください。』と言われました。事業者側の顧問弁護士は、これは差別解消法に反していないというのですが、どうなのでしょうか。」

 近藤 かなり難しい問題ですよね。ただ、求めていくことはおかしいことではないので、対話を続けていくしかないと思います。日本の法律というのは調停が何重にも入る仕組みになっているので、いろいろなところに相談して、上手くいかなかったら次の段階で調停をお願いする。とくに前例が少ないケースでは、自分から対話を積極的にやっていき、フロンティアになることがどうしても必要になってくると思います。

 荻上 おそらく、このメールの方は自宅の近くの駅を利用したいという明確なニーズがあるわけですよね。それを、いきなり一つ前の有人駅で降りてくださいというのは乱暴なような気もします。別の方法で段階的なやり口を検討することはできそうですよね。

 たとえば、民間の方に車両から離れたところでの移動の介助をお願いするなどして、車掌さんはスロープを手渡すだけで良いという形にするとか。介助をする人も切符代は無料で駅の中に入れるようにしたり、乗車する時と降車する時とで別の人が分担して介助をするなど、さまざまな構想の余地はあると思います。

 近藤 そう思います。合理的配慮とは、どこかの部分で柔軟な調整をしなければならないので、とにかく建設的対話を働きかけてみるしかないんですよね。

 荻上 その間の道筋をもう少し探る余地がありそうですよね。それを探るのが合理的配慮なので、探らずにいきなり隣の駅まで自力で行けというのは差別解消法の理念に反する気がします。ただ、それが違法なのかと言えば、明確にはそうとは言えないと。

 近藤 そうですね。何が違法かという最終的な決着は裁判所の規範的な事例が示していくことですが、対話をすることは法の趣旨として勧めているものなので、それは引き続き行って良いことだと思います。

 荻上 車椅子ユーザーの大野さんはどうお感じになりましたか。

 大野 とくに地方の調査に行くときに感じることですが、高齢化が進行して自治体の人口が減少しているような地域では、一般の人々に対する社会サービスの質自体が低下している場合があるということです。当事者の方がより発現しにくいような環境が生じていると考えられます。

 荻上 限りあるリソースのなかで、どうすれば当事者がより生きやすくなるのでしょうか。

 大野 合理的配慮の提供は、新しいテクノロジーによって解決を促進していくという方向性もあります。例えば発達障害の方への提供の際にiPadを教育現場に導入するなど、コストをなるべくかけずに合理的な調整をしていく方法もあると思います。コストはある程度かかるけれど、一旦の調整がご本人以外の多くの方々の便宜を図る結果となる場合もあります。

 東京都内の地下鉄などでは、無人でも使用できるスロープ付きの自動ホームドアを設置している場所もありますね。このような施設はご本人だけでなく、その他の大勢の高齢者の方々やベビーカーユーザーの方々の使いやすい一般的な形態として維持することが可能です。

 荻上 そうですね。最新の福祉機器を紹介している「国際福祉機器展」などに行くと、キャタピラー型の車椅子や、一段くらいの段差だと自力で乗り越えることができる車椅子なども展示されています。そうしたものが当たり前になれば、ゆくゆくはスロープは不要だという状況になるかもしれない。ただ、今は明日の通勤・通学で困っているので、おそらく駅と交渉するだけでなく、市役所や地域のNPO団体と交渉して介助を手伝ってもらうとか、やり口はいろいろあると思います。

 近藤 大学の支援なども全く同じで、合理的配慮だから自分たちだけでやらなきゃいけないと考え始めると、必ず袋小路になります。保証しなければならないのは、その人が今やりたいと思っていることです。そのためには柔軟に、使えるリソースは何でも使っていくべきです。

 荻上 なるほど。リスナーからのメールをご紹介します。

 「私が感じるのは、見た目には障害者と分からない、学習障害に対する差別です。学習障害者は他人とのコミュニケーションも普通にできるので、社会的に認識がほとんどないのが現状。福祉の面からも学習障害者は事実上、障害として認められていない、言わば障害者として抜け落ちている存在です。

 就職をしたくても単に能力がないと判断され、また国からも障害者としても認められていないので、障害者手帳も交付されない、支援も全く受けられないのが長年に渡って続いています。ですから、学習障害者についてもっと理解をしてもらい、国と社会から障害者として認めてもらいたい。差別や偏見もなくなって支援もしてほしいと思います。」

 そして、もう1通ご紹介します。

 「脳性麻痺と内部障害のある障害者です。大学で教員をしています。どんな社会になって欲しいかと言えば、言いたいことはいくつかあります。それなりの年数を生きてきて感じるのは、障害のある人が社会を変える、変えられる存在になれる社会にしたいということです。

 どうしても社会では障害のある人は福祉サービスを受けるひと、支えられる人といった受け身のイメージで見られがちで、自分も周囲の目を過剰に意識して、目立ちすぎないようにこっそり生活をしてきました。幼少期から障害のある人はない人とは異なる空間、特別支援学校・特別支援学級で教育を受けることが多く、健常者と障害者の関わりに大きな壁ができてしまっています。

 合理的配慮を円滑に行うには幼少期からの相互の関わりを増やすことが必要だと思います。そうすれば、障害がある人ももっと社会に積極的に関わり、変革者になれるのではないでしょうか。」

 合理的配慮をしてあげるように学びましょうと言うだけではなく、今までの「障害」の枠組みや関わり方の関係性そのものを見直していく機会にしてほしいというメールが二つ続きました。

 近藤 今回の法改正で日本は初めて合理的配慮というアプローチに入るので、やはり必要になってくるのは障害のある当事者がしっかり声をあげていくことだと思います。そして、障害があることを歓迎して一緒に過ごしていくことが当たり前になるような社会を強く願っています。

 大野 昨年にアメリカへ調査に行ったとき、差別解消法の産みの親でもあるADA法(1990 年成立)が成立してちょうど25周年でした。あちこちで25周年をお祝いするパレードが行われていて、合理的配慮の提供は既に一般的な規範として社会に定着していました。日本でもきっと、そうなると思います。

 荻上 今後いろいろなケースが出てくると思いますので、「この場合の合理的配慮はどうなんだろう」と語り合う場を大切にしていきたいですよね。

2016.05.23  シノドス


ALS岡部副会長、きょう参院委出席 障害者の声が届く国会

2016年05月24日 03時13分34秒 | 障害者の自立

 今月初旬の衆院厚生労働委員会に参考人として招かれながら、障害を理由に一転して出席を拒まれた筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の岡部宏生(ひろき)さん(58)が本紙のインタビューに応じ、「障害者の意見を広く聞く国会、ひいては社会になってほしい」と訴えた。発言の機会が一方的に奪われたことに憤ると同時に、今回の一件が障害者への差別撤廃に向けた契機になることに期待感も示した。岡部さんは二十三日午後、参院厚労委員会に参考人として出席する。

 岡部さんは、患者らでつくる日本ALS協会の副会長。人工呼吸器を付けており、会話にはヘルパーの介助がいる。衆院厚労委員会から障害者総合支援法改正案に関する今月十日の審議で意見を表明するよう要請されたが、与野党の調整が折り合わず、健常者の協会幹部が代わりに出席した。

 岡部さんは「私のコミュニケーション方法も含めて(参考人招致で)見てもらうことを望んだが、取り消しになった時はショックだった」と振り返った。与野党から出席拒否の理由として「質疑に時間がかかる」「体調が悪化する」などとする声が出たことに対しては「工夫があれば発言できるし、会議のために札幌の会議に日帰りで行くこともある」と反論。障害に関する与野党の認識不足を批判し、「驚きや怒り、悲しみを感じた」と述べた。

 さらに「世界に誇れる福祉制度を持つ日本の衆院厚労委に出席がかなわなかったことはALS患者だけではなく、障害者全体にかかわる問題だ」と指摘。四月に施行された障害者差別解消法が障害者への差別を禁じ、合理的な配慮を周囲に求めていることに触れ「差別解消法の精神を具体的な方法論に表すような国会、ひいては社会になってほしい」と望んだ。

 出席拒否を巡っては、岡部さんを参考人に推薦していた民進党は、与党が招致を認める条件として児童福祉法改正案の審議入りを求め、岡部さんを政治的な駆け引きの材料にしたと非難。自民党はこれを認めず、民進党が招致を取り下げたと反論していた。

 患者や支援団体などから批判が相次ぎ、渡辺博道・衆院厚労委員長(自民)は岡部さんと面会して謝罪。衆参両院議長も岡部さんと面談して要望を聞き、参院厚労委の参考人招致決定につながった。

◆<取材を終えて>1字ずつ文字盤で応答 所要2時間余り

 難病のALSを患う日本ALS協会副会長の岡部宏生さんへのインタビューは通訳となるヘルパーを介して行った。記者の質問を聞いた岡部さんは、目や口の微妙な動きで言葉をヘルパーに一文字ずつ伝える。ヘルパーが文章にし、回答を代読した。一問のやりとりに最長で十分程度の時間がかかることもあったが、本人と向き合ってこそ、伝わってくる意思を感じた。

 今回の取材は、岡部さんが神戸出張から東京に帰った二十日夜に行った。事前に質問内容を伝えた方がいいか確認したが、「必要ない」と返事があり、特別な準備はせずに臨んだ。岡部さんには「予断を持たずに来てほしい」との思いがあったのかもしれない。

 岡部さんは十年ほど前にALSを発症し、現在はベッドで寝たままの状態。会話する際には、五十音が書かれた文字盤の文字を目の動きで示し、ヘルパーが一文字ずつメモして文章に仕上げる。岡部さんが口の形で母音を指定し、「あ段」ならヘルパーが「あ、か、さ、た、な…」と順に読み上げ、岡部さんが目を閉じて文字を選ぶ方法もある。

 取材の冒頭では、カメラ撮影でフラッシュがまぶしすぎて、岡部さんが文字盤を読めなくなる失敗があり、不明を恥じた。やりとりに時間を要することに加え、岡部さんが途中で何回かたんの吸引を挟んだりするため、一時間ほどだと見込んだ取材時間は結局、二時間余りに及んだ。

 限られた時間でALS患者の真意を探る難しさも感じながら、岡部さんの考えに迫ろうと顔を注視した。岡部さんもヘルパーを見る時以外は、視線を向けてくれた。憤りを訴える時は目に力が入り、冗談にはほおを緩めた。こうした姿を多くの人が知り、病気や障害に対する理解が広がればいいと願う。 (我那覇圭)

 <筋萎縮性側索硬化症(ALS)> 全身の運動神経が侵されて筋肉が縮み、次第に動かなくなる難病。進行すると呼吸も難しくなる。脳の機能や目を動かす筋肉、視覚や聴覚に異常は生じにくい。原因不明で、今のところ根本的な治療法はない。10万人に1~2人の割合で発症する。2014年末の国内の患者数は約9900人。

 <障害者差別解消法> 2013年6月に成立し、今年4月に施行された。国の機関、地方自治体、民間事業者に対し、不当な差別的対応を禁止した上で、合理的な配慮(その場で可能な配慮)を義務づけている。行政機関には法的に義務付ける一方、民間は一律に対応できないとして努力義務にしている。

本紙のインタビューに対し、ヘルパーが持つ文字盤に視線を送って言葉を選ぶ日本ALS協会の岡部宏生副会長

(東京新聞)  2016年5月23日


視覚障害者を支え18年 高知システム開発がソフト4万本

2016年05月24日 03時07分03秒 | 障害者の自立

 パソコンを使う視覚障害者にとって、日常に欠かせないソフトがある。画面上の文字情報を音声に変えて伝える「PC―Talker(ピーシートーカー)」だ。高知市吉田町の「高知システム開発」が1998年に開発し、累計販売数は4万本が目前。目の不自由なユーザーからは「インターネットで買い物もできるようになり、自由が広がった。情報の壁が低くなった」との声が途切れない。

 高知県立盲学校(高知市大膳町)の職員室。理療科教員で全盲の永田征太郎さん(32)がパソコンを立ち上げ、ローマ字入力で「こうち」と打って変換キーを押すと、パソコンから女性の声が続いた。

 「最高の『高』、高い。知識の『知』、知る」

 パソコンは漢字一文字ずつ、音読みと訓読みで読み上げていく。そのソフト「ピーシートーカー」を永田さんは学生時代から使っている。

 「ネットの文章も読んでくれます。すごく便利です」
 高知システム開発は1984年、視覚障害者の要望を受け、日本初の音声ワープロ「AOK点字ワープロ」を開発した。それ以降、視覚障害者用のソフト開発を続ける。

 ピーシートーカーは1998年に販売を始めた。

 基本ソフト(OS)の「ウィンドウズ」に対応し、「パソコンがしゃべりだす」というイメージを形にした。OSが新しくなるとソフトを更新し、現行モデルは8代目。これまでにシリーズ累計で3万8千本余りを売り上げている。

   ■  ■

 永田さんの同僚、山下万希子さん(42)は20代後半で全盲となった。生徒に配るプリントの作成、他校の教員との情報交換、教育委員会とのメールでのやりとり…。どの場面でもピーシートーカーが欠かせない。

 「私たちにとって、音声がなければパソコンなんて、ただの箱。音声ソフトが入って、初めて使えるようになるんです」

 私生活でも役に立っているという。その第一はネット通販だ。

 「店へ買い物に行っても、商品の値段や場所を教えてもらう必要があります。店員さんが忙しそうなときは、声を掛けるのが申し訳なかった。ネットなら好きなときに好きな物を選べます。私たち自身が選択できることがうれしい」

   ■  ■

 視覚障害者は全国でおよそ32万人いるとされる。

 高知システム開発によると、ピーシートーカーは市場シェアの約8割を占める。高知システム開発は社長以下20人の小さな会社。電話とメールでのアフターサービスにも手を抜かない。

 営業担当の宇賀喜彦さん(58)は言う。

 「視覚障害者が、障害のない人と同じことが同じようにできるようになる。それが目標です。助けている、といった意識はありません。ユーザーが買ってくれるから給料が出て、要望があるから開発も進む。支え合って前に進みたい」

「PC―Talker」を使う永田征太郎さん。画面の文字情報を音声で聞く(高知市の高知県立盲学校)

2016.05.23  高知新聞