ゴルフ場も健常者も学べることばかりだ
右手だけでスイングする。左足だけで立ってスイングする。両目を閉じてボールを打つ。こうしたゴルフを想像できるだろうか。そうした条件下でゴルフを楽しんでいる方たちがいるのを想像できるだろうか。
「NPO法人ジャパン・ハンディキャップゴルフ協会」が、4月から前身団体を含めて創立10年目に入った。理事長から1冊の小冊子をいただいた。「ザ・挑戦」という冊子を読み、年のせいでもあるかもしれないが、目頭が熱くなった。下肢障害、上肢障害、聴覚障害、視覚障害……さまざまな身体障害を抱えている人たちが、ゴルフを楽しむ自分を語っている。
走ったりしなくていいスポーツ
同協会で理事を務める角谷利宗さん(68)にお会いした。自分では想像できない障害を持つ方の「ゴルフライフ」を聞かせてもらった。
角谷さんは51歳のときに脳卒中を患い、左半身が麻痺した。
「入院先でリハビリをしているときに、ゴルフが大好きで同じ左半身麻痺になった方に出会った。私も営業でつきあい程度のゴルフはやっていたんですけど『退院したらゴルフしよう』となりまして。こんな体でゴルフができるなんて思わなかった」と当時を振り返る。左足を支える装具をつけている。装具がないと「左足が内転して、つま先が下がった状態になる」と、自由はほぼ利かない。
その状態で練習場に行ってみた。練習場はいわば打席と時間、ボールを買うだけなので、制限はないという。「ただ、恥ずかしくて一番隅っこでやった。全然当たらない。私を誘った友人に連絡して教えてもらうことにした」という。右手だけでクラブを持つため、最初は女性用の短く軽いクラブを使った。そこからショートコースで「ゴルフ再デビュー」し、協会設立にも関わった。
「ゴルフは走ったり、跳ねたりしなくていい。障害者にとっては可能性の高いスポーツなんです」という。ただ、角谷さんがゴルフを始めた十数年前は、まだゴルフ場の理解が少なく「予約のときに説明すると断わられることも多かった」と振り返る。健常者の友人と一緒ならできたが「1人でもやりたいと思って、会員権を探した。入会条件なし、入会金50万円以下、車で1時間、カートがある、というのを自分の条件に探して、今はホームコースを持っています。初めてそのコースに行って姿を見せて『やらせてもらえますか』と聞いたら、しばらく見て『どうぞ』といわれましてね」と笑う。
協会では研修会や定例会の形でコンペを始め、使用できるゴルフ場も増えていった。今は年10回程度行っている。仲間も増えてきた。1回に100人弱集まる。「障害者でやっている方は全国で300~500人ぐらいいるのでは」という。仲間の中からプロゴルファーも誕生した。同協会の理事で幼少のころに右手首を切断して義手をしている小山田雅人さんが、2014年に日本プロゴルフ協会のティーチングプロB級の資格を取得している。
ゴルフはどうやってできるようになるのだろう。「結局は工夫なんです。健常者のスイング理論は当てはまらない。でも、止まっているボールをまっすぐ打つという目指すところは健常者と同じ。私の場合、左足は体を支えるだけで右足体重で打ちます。障害によってスイングのポイントは違う」という。角谷さんは年齢もあってレディースティーからプレーすることが多いというが、スコアは90台前半、80台で回ることもある。
障害を負ってもできることに気づくかどうか
内閣府の2015年障害者白書によると、全国の身体障害者は366万3000人。すべての方にゴルフが当てはまるわけではないだろう。先天性、後天性(事故や病気など)でも違う。「要は障害を負ってもゴルフができることに気づくかどうか、なんですね。もっとゴルフをする障害者が増えたらいいと思っています。特に若い人が入ってきてほしい。これは今のゴルフ業界と同じなのでは」と角谷さん。体験からも「周囲に誘ってくれる人がいればやりやすくなる」という。
ゴルフ場の対応はどうなのだろうか。全国で133コースを運営するPGMホールディングスに聞いたところ「障害者受け入れのマニュアルはありません。聴覚障害の方は危険もありますが。問題はプレーの進行だと思います。受け入れはゴルフ場ごとの判断になります」とのこと。
障害者はプレーが遅くなるのだろうか。角谷さんは「一番気にするのが進行です。研修会などでも障害の程度などによって組み合わせを考え、3人で回してもらうとか、迷惑を掛けないようにします」という。健常者でも遅い人はいるし、気にもかけない人がいることを考えれば、視覚障害はサポートが必要なので多少難しい面もあるが、進行第一とする障害者は問題ないだろう。健常者も見習いたい。
障害者の目で見たゴルフ場の課題は、今後のゴルフ業界の課題にも合致している。「カートを使え、できればフェアウエーに乗り入れられることと、高低差が少ないこと」がゴルフ場選びの条件という。これから多くなる高齢者にとっても同じ。「2015年問題(団塊世代の退職)」「2020年問題(団塊世代の高齢化)」など問題を抱えるゴルフ業界。
少しでもつなぎとめておくために、芝や土質、メンバーシップなどの問題もあるが、考えていかなければならないだろう。100万~200万円ぐらいするらしいが、車イスのゴルフカートも海外にはある。障害者に対応できるゴルフ場は、高齢化対策はもちろん、初心者対策にもなる。コースレイアウトは変えようがなくても、できることは見つかるはずだ。
角谷さんは最後にこんなことを話した。「パラリンピックに採用されたらいいのですが。障害者にとって大きな目標があれば、もっと人口は増えると思います。車イスバスケットとか格好いいですもんね」。2020年東京パラリンピックの実施競技は2015年末に決定して、ゴルフは入っていない。せっかく日本で行われる大会。デモンストレーションでもエキシビションでもいいから、何かの形で実施できないものだろうか。
協会では研修会や定例会の形でコンペを始め、使用できるゴルフ場も増えていった。今は年10回程度行っている。仲間も増えてきた。1回に100人弱集まる。「障害者でやっている方は全国で300~500人ぐらいいるのでは」という。仲間の中からプロゴルファーも誕生した。同協会の理事で幼少のころに右手首を切断して義手をしている小山田雅人さんが、2014年に日本プロゴルフ協会のティーチングプロB級の資格を取得している。
ゴルフはどうやってできるようになるのだろう。「結局は工夫なんです。健常者のスイング理論は当てはまらない。でも、止まっているボールをまっすぐ打つという目指すところは健常者と同じ。私の場合、左足は体を支えるだけで右足体重で打ちます。障害によってスイングのポイントは違う」という。角谷さんは年齢もあってレディースティーからプレーすることが多いというが、スコアは90台前半、80台で回ることもある。
障害を負ってもできることに気づくかどうか
内閣府の2015年障害者白書によると、全国の身体障害者は366万3000人。すべての方にゴルフが当てはまるわけではないだろう。先天性、後天性(事故や病気など)でも違う。「要は障害を負ってもゴルフができることに気づくかどうか、なんですね。もっとゴルフをする障害者が増えたらいいと思っています。特に若い人が入ってきてほしい。これは今のゴルフ業界と同じなのでは」と角谷さん。体験からも「周囲に誘ってくれる人がいればやりやすくなる」という。
ゴルフ場の対応はどうなのだろうか。全国で133コースを運営するPGMホールディングスに聞いたところ「障害者受け入れのマニュアルはありません。聴覚障害の方は危険もありますが。問題はプレーの進行だと思います。受け入れはゴルフ場ごとの判断になります」とのこと。
障害者はプレーが遅くなるのだろうか。角谷さんは「一番気にするのが進行です。研修会などでも障害の程度などによって組み合わせを考え、3人で回してもらうとか、迷惑を掛けないようにします」という。健常者でも遅い人はいるし、気にもかけない人がいることを考えれば、視覚障害はサポートが必要なので多少難しい面もあるが、進行第一とする障害者は問題ないだろう。健常者も見習いたい。
障害者の目で見たゴルフ場の課題は、今後のゴルフ業界の課題にも合致している。「カートを使え、できればフェアウエーに乗り入れられることと、高低差が少ないこと」がゴルフ場選びの条件という。これから多くなる高齢者にとっても同じ。「2015年問題(団塊世代の退職)」「2020年問題(団塊世代の高齢化)」など問題を抱えるゴルフ業界。
少しでもつなぎとめておくために、芝や土質、メンバーシップなどの問題もあるが、考えていかなければならないだろう。100万~200万円ぐらいするらしいが、車イスのゴルフカートも海外にはある。障害者に対応できるゴルフ場は、高齢化対策はもちろん、初心者対策にもなる。コースレイアウトは変えようがなくても、できることは見つかるはずだ。
角谷さんは最後にこんなことを話した。「パラリンピックに採用されたらいいのですが。障害者にとって大きな目標があれば、もっと人口は増えると思います。車イスバスケットとか格好いいですもんね」。2020年東京パラリンピックの実施競技は2015年末に決定して、ゴルフは入っていない。せっかく日本で行われる大会。デモンストレーションでもエキシビションでもいいから、何かの形で実施できないものだろうか。
右足体重で打つという、角谷利宗さんのスイング
2016年05月15日 東洋経済オンライン