職種の限られがちな障害者らがアニメの制作に挑戦している作業所が、京都にある。福祉工房P&P(京都市伏見区)。活躍の場を広げようと、今月にはギャラリーも開設。障害者の就労支援制度が改正されて10年となる今年、職種の開拓につながる取り組みとして注目を集めている。
丁寧な仕上げ
「テレビやネットで作品が流れると『本当に動いている』と思えてうれしい。エンドロールに名前が載ったときは感激した」。生まれつき脳性麻痺(まひ)を抱える熊谷真友子さん(25)は、家族に送迎してもらって、京都市内の自宅から通所している。
作業はすべてパソコン。専用ソフトを使い、データ化された原画の線を修正して色を塗っていく。「目は疲れるけれど、やりがいはある。こつこつ続けることが大事」と、充実した笑顔を見せた。
制作に携わるのは、身体障害者8人と知的障害者2人、精神障害者1人の計11人。30分アニメに必要な原画は約3千枚にのぼり、丁寧な仕上げとともに納期に間に合わせるスピードも要求されるという。
取引先も太鼓判
P&Pは平成12年、印刷業を営む作業所として設立された。印刷物の需要が低迷する中で、障害者の新たな職業を開拓できないかと、アニメ業界に参入したのが21年のことだった。
かつて漫画家を志していた所長の西村秀昭さん(60)が、知人のつてを頼って営業に回り、ゲームソフトや企業PRに使われるアニメの仕上げを受注できるようになった。
半年から1年の訓練を積めば「障害の種類を問わず、未経験者でもできるようになる」と西村さん。施設見学や通所希望の問い合わせは多いという。
取引先のスタジオ「アニメアール」(大阪市北区)の谷口守泰さん(73)は「障害者だからといって特別なことは何もない。仕上がりは上出来だし、作品を任せられる実力はある」と太鼓判を押す。
課題は工賃
18年に施行された旧障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)は、障害者に一般企業への就労を促すことが主眼の一つ。ただ、障害の程度が重いと、通所するだけでも一苦労とあって、最低賃金以上の給料がもらえる雇用契約を結ぶことは難しい。職種も限られるのが実情だ。
厚生労働省によると、雇用契約を結ばない「就労継続支援B型事業所」の平均工賃は月額1万4838円(26年度)。業務内容は多い順に清掃、袋詰め、手工芸品の制作-といった単純作業が中心という。
P&PもB型事業所。平日午前10時~午後4時の勤務に対し、利用者が受け取る工賃は1日800円。月20日働くと全国平均を上回る1万6千円になるが、さらに利益を上げて工賃に還元することが必要だ。
そこで今月には、ギャラリーを併設した新たな作業所を京都市内に開設。アニメに加え「アール・ブリュット」と呼ばれる障害者の芸術作品の展示販売に乗り出す。西村さんは「さまざまな職種を開拓するとともに、将来は一般の制作会社のような作業所にしたい」と話している。
【用語解説】障害者の就労支援制度
平成18年に施行された旧障害者自立支援法に伴い、以前の福祉工場や授産施設などは、就労移行支援▽就労継続支援A型▽同B型-の各事業所に分類された。このうちB型事業所は、重度の障害者の訓練を行う意味合いが強く、雇用契約を結ばない。厚生労働省によると、27年12月現在の事業所数は移行支援3127、A型3086、B型9866。
「福祉工房P&P」でアニメ制作に取り組む様子。全国でも珍しい作業所として注目される
2016.5.11 産経ニュース